【レポート】J、初の無観客配信ライヴ完全ドキュメント「成功例を積み重ねて進んでいかなきゃいけない」

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■<Online Late Show>開幕
■「Alright、待たせたな!」

状況が変わったのは、それから7分ほどが経過した頃のことだった。聴こえてきたのは、まもなくリリースから満1年を迎えるJの現時点での最新作『Limitless』の幕開けを飾っていた 「the Beginning」。モニター画面が、歓喜のメッセージでぎっしりと埋め尽くされていく。masasucks (G)、ごっちんことKazunori Mizoguchi (G)、masuo (Dr)が姿を見せ、各々のポジションに就く。今夜は通常のステージの様相とは異なり、スタジオのフロア内で4人が向き合うような配置になっている。そしてしばらくするとJが姿を見せ、ふたりのギタリストの中間地点、masuoと正面から向き合う位置に立つ。

「Alright、待たせたな! とことん楽しんでいきましょう!!」

最初に炸裂したのは「Now And Forever」だった。『Limitless』の冒頭と同じ流れだ。スタジオ内には爆音と言っていいレベルの轟音が鳴り響いているが、完璧なバランスで構築されたバンド・サウンドは、刺激的ではありながらも耳が痛くなるような感覚を伴うものではない。そして、その分厚い音の壁を突き破るようにJの歌声が聴こえてくる。ライヴさながらというよりは、ライヴそのものの空気だ。曲は、沈黙の時間を設けることなく「go crazy」へと雪崩れ込み、体感スピードを速めながら進んでいく。そして3曲目には早くも「PYROMANIA」が登場。あのイントロが爆裂した瞬間、画面に釘付けになったままライターに手を伸ばしたファンも少なくなかったはずだ。



僕が実際に居るのは、スタジオの一角、正確に言えばドラム・セットの真後ろから数メートルの位置で、ちょうどmasuoの背中越しにJと向き合う形になっている。客席サイドからステージを観るのとはまるで違う状況にあるのは事実なのだが、かといってリハーサルを見学しているかのような空気感ではない。やはりこれは、ライヴなのだ。煌々とした蛍光灯のような灯りではなく、ライヴそのままの照明効果がそこに伴っているのもそう感じられる一因だろうが、それ以上に、4人の演奏に込められた熱の高さが何よりもその場に渦巻く空気をライヴ然としたものにしている。

確かに、Jの歌唱に同調するオーディエンスの歌声、歓声、時には奇声めいたものまで入り混じるライヴ空間特有の野性的なノイズが欠けていることは否めない。が、興味深かったのは、そのぶん各楽器の鳴り方をクリアに掴むことができたことだ。スタジオならではの整った音響環境のなか、質の高い轟音ともいうべきサウンドで繰り広げられる演奏を味わいながら、たとえば双方のギタリストのプレイの振り分け、各楽器の噛み合い方の絶妙さ、つまり楽曲の構造が通常のライヴ以上に明快に聴き取れるように感じられたのだ。画面と向き合い、ヘッドフォンなどを使用しながら大音量で聴いていた視聴者のなかには、同じように感じた人たちも多かったのではないだろうか。

その場の空気をライヴ然としたものにしている要因のひとつに、冒頭の「Alright、待たせたな!」をはじめとするJの言葉があった。「半年ぶりのライヴ、とことん盛りあがっていってくれ!」「この世界中、全部燃やせ!」「一緒に歌ってくれるかい?」「全員で行くぞ!」――そうした彼の呼びかけは、まさしく通常のライヴの際と同じ声量と語気によるものだったし、まるで彼の目にはその模様を見守っているオーディエンスの姿が見えているかのようでもあった。

極上のサウンドと、まったく損なわれていないライヴ感。それが両立可能であることを証明できただけでもこの試みは充分に成功だったといえるはずだが、それをさらに盛り立てたのは、このスペシャルな機会ならではの、いくぶん意外性もはらんだ選曲だった。なにしろこの夜はそもそも、ファンクラブ会員限定の、客席にも濃い顔ぶれが集結した状態でのライヴが実施されるはずだったのだ。彼らの演奏する「CALL ME」(言うまでもなくBLOONDIEのカヴァーであり、1997年にリリースされた彼のデビュー・シングル「BURN OUT」にカップリング収録されていた楽曲である)を聴いたのはいつ以来だっただろう? 画面上にはこの曲に対する「やっと聴けた!」というコメントも流れていた。そして、「Twisted dreams」の狂気から、その場の空気の色まで一転させるかのような「alone」のディープな味わいへ。激しさ、熱さを失わぬまま豊かな緩急と大きなうねりを伴ったその演奏ぶりは、やはり通常のライヴと同様、時間が経つのを忘れさせるものだった。気が付けばJは「OK、今夜はどうもありがとう。最後の曲に、すべてを込めます!」とカメラ越しに告げ、「Feel Your Blaze」の灼熱へと観る者をいざなっていく。これまでに体感してきたライヴと同じ絶頂感が、そこにはあった。


4人がひとたび姿を消すと、画面上は拍手を意味する“8”という数字の連打と、アンコールを求める言葉で埋め尽くされた。そして数分後にその場に戻ってきたJがまず伝えたのは、最前線で闘い続けている医療従事者をはじめとする人たちへの心からの感謝の念だった。彼の言葉は、こんなふうに続いていった。

「まだ完全に元の日常には戻ってはいないんだけど、俺自身は音楽をやる人間として、少しでも……少しでも元に戻すために、音楽ってものを鳴らし続けるというか、その努力をしたいと思ってます。どうやったら音楽の灯を絶やさずにやっていけるのかというのを、俺たちなりの速度で……」

その言葉は、まさしく決意表明のように聞こえた。しかも彼は、朗報をひとつ用意していた。この<J LIVE STREAMING -Online Late Show->の第二回開催が急遽決定したのだという。帰りの時間を気にすることなく楽しめるこの機会が次に設けられるのは、7月16日。開演は今回と同様に午後9時だ。Jは冗談めかしながら「9時だよ!全員集合」などと言って笑い、「(次は)仲間を呼んで遊ぶのもいいよね」などと、セッションの可能性をほのめかしてもいた。7月16日の夜は、始まったばかりのこの試みが、さらなる発展を遂げる機会となるに違いない。

そうした言葉に続いて披露されたアンコールの1曲目は、まばゆい光に包まれながらの「Evoke the world」。続いて「みんなにこの曲をプレゼントします!」との言葉に導かれて始まったのは、まさかの「TONIGHT」。これは、次の夜の到来を約束する歌なのだと思う。そして最後の最後に披露されたのは「BURN OUT」だ。ライヴのたびに完全燃焼していながらも、その火種が消えてしまうことはなく、熱は途切れていくことがない。この曲の残響のなかでJは「また会いましょう。どうもありがとう!」と呼び掛けて、その場から姿を消した。時刻はすでに、午後10時45分を過ぎていた。

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