【インタビュー】21歳ラッパー・HITOMINの野心「いけるところまで」
■ビッグになりたい!
──HITOMINさんは以前Twitterで“私は自分で自分をラッパーともヒップホップともR & Bともレゲエともロックともクラシックともなんとも言ってない”とつぶやいていました。その精神が楽曲制作にもつながっていますか?
HITOMIN:洋服も音楽も、その時の気分で好きなものが変わるんですよ。“こういう面だけじゃなくてこういう面もあるんだよ”っていろんな自分を見せたいから、いろんなものを作ってます。まだ出してない曲にも、ほんとにいろんな曲調があるので、タイミングを見て出していきたいです。なんかもう、ジャンルどうのこうのとかめんどくさいし、全部音楽なんだから楽しめばいいじゃん!と思うんです(笑)。
──今年の3月にリリースした「BREAK DOWN」はそういうアティテュードが表れた楽曲ですよね。Tygaの「Girls Have Fun」をサンプリングしているので、HITOMINさんのアーティストとしての人生がリリックにもトラックにも表れている。
HITOMIN:やっぱりメインで出していくのは売れるような、みんなが共感できる曲にしていきたいんですけど、「BREAK DOWN」みたいな自分を出す系の曲もちょいちょいジャブで出していこうかなって。夢を実現させるためにいろいろ動いてる人を“なんかやってるよ、ハハ”ってバカにする人も多いじゃないですか。私もそういうことを言われてきたんです。悔しいけど当時の自分は何にもなってなかったし、中途半端だったから何も言えないなーってわかってて。でも今、まだまだだけど、ちょこっとは結果を出せてるから、“あんなこと言われたけど、第一目標達成したし!”と思って、ああいうリリックになりましたね。実際にあのリリックどおりに久しぶりの人からたくさん連絡が来ました(笑)。
──(笑)。自分以外の人間のリアクションは、やはり気にかかるところでしょうか。
HITOMIN:めっちゃ影響受けますね。表舞台に立つ人ってみんなけっこう強がるじゃないですか。でも人間だから気にしないようにしてても傷ついたりもするし、残る傷は残るし。確かになー……と自分が納得しちゃう言葉こそ傷ついたりする。的を射てない意見は聞かないですけど、そういうのはちゃんと飲み込んで直そうと努力します。言われっぱなしはムカつくし(笑)。
──ははは。ちゃんと傷ついてるけど、負けん気が強い(笑)。
HITOMIN:負けず嫌いなんです(笑)。気にしいだし傷つくことは傷つくけど、気にしてたら進めない! だから突き進んでいこう、みたいな。
──今年の5月にリリースした「Brand new day」で書いていることは、まさにその精神ですね。
HITOMIN:傷つくのはもうしょうがないですよね。“とりあえずやるしかないっしょ!”精神です。ファンの子から“どうやったらHITOMINみたいに強くなれますか?”って言われるんですけど、全然強くなくて。傷ついたあとどうするか──それだけというか。強くいられるようにすべてと戦って、少しずつ乗り越えてる。去年よりは少し、より強くなったかな?と思ってEPのタイトルも『STRONGER』にしました。それも全部、自分に言い聞かせる感じ(笑)。
──そうですね。HITOMINさんの楽曲からは、強さと同じくらい感傷性も感じるので。
HITOMIN:もともとは優しい性格してるんですよ!(笑) こんな感じだけど超ピュアだし。でもそういう部分を出すと大人に付け込まれるから(笑)、強く見せてバリア張ってます。人見知りなのも警戒心がすごく強いからで、“この人なにを考えてるんだろう?”とか“こんなふうに言ってるけど実際はこう思ってるんだろうな”とかすぐ考えちゃう。すっごい気にするし、心配性なんです。だから必死に踏ん張ってます。じゃなきゃやられるから。
▲HITOMIN/「Stronger」
──これまでにたくさんの修羅場をくぐってきたんでしょうね……。最新作となるEP『STRONGER』には恋愛の曲も多いですけど、どの曲の状況もかなりシビアで。
HITOMIN:あははは! ヤバいですよね!(笑) 恋愛の曲はどれも全部同じ人について書いてます。本当にどうしようもない子だったので、地元の人間関係のしがらみとか、いろんなトラブルに私も巻き込まれたし。強くなるしかなかったというか、その子の弱さに飲み込まれないように強くなったというか、最終的にはどっちが彼氏かわかんない感じになってました(笑)。
──(笑)。よく見捨てないで愛し続けられましたね。
HITOMIN:情です。それも私の悪いところなんですけど、どうしようもない人のことをほっとけないんですよね。友達相手でもそう。それでいいように使われたりするんです。その子との恋愛も、疲れてるし冷めてるはずなのに、ほっとけなかった。それを曲にしたら共感する人もいるんじゃないかな? と思って“これだ!”って。みんな、痛みのある曲を聴きたがるとも思うんです。日本ではネガティブな音楽が売れるんじゃないかって。
──傷ついたぶん、ただでは起きない逞しさ(笑)。先ほども少し話に出てきましたが“共感できる要素を入れる”というのは重要なんですね。
HITOMIN:『STRONGER』だと、「OMG」と「Wow」は売れる売れないとか考えず、自分の好きなことややりたいことを詰め込みました。英語をばんばん使って、需要とか全部フルシカト(笑)。ゆくゆくは共感性の高い売れ線のものとエゴのものは半々くらいにしたいんですよね。前は“売れたいのか、好きなことをやりたいのか、どっち?”とタイプさんに訊かれてもわかんなくて、ぶれぶれだったんです。でも今は“売れたい!”って言いきれるんです。ビッグになりたい。
──なぜその道を選択したのでしょう?
HITOMIN:どうせやるなら上を目指したい。“どうせ叶わない”と思ってた夢が叶ったし、注目を浴びるチャンスをもらったから、やるならやりきりたい。いけるところまでいきたい。漠然としてるんですけど、今はそんな感じです。だから『STRONGER』はキャッチーな、聴いてくれる人が気持ちや状況を重ねやすい曲がほとんどです。“こんな気持ちになったのは自分だけじゃないんだな”とか“HITOMINもこんなことがあったんだ”とか、ちょっとでもポジティブになってくれたらなと思って作りましたね。
──「もう大丈夫」は死別を恋愛の別れに例えた曲とのことですが。
HITOMIN:この21年間で死別を経験することが多くて。身内が事故で亡くなったり、おじいちゃんとおばあちゃんが会えないまま亡くなってしまったり、友達にもいろいろあったり、お父さんも末期の肺がんで闘病中で……たぶんそういう運命なんです。立て続けに死別が起こるからかなりへこんでて、そんななかで“自分を慰めて、ポジティブに持っていかなきゃ”と思って書いた歌詞なんです。でも死別がテーマだと共感性が低いし、メロディが綺麗でいろんな人が聴きやすい曲だとも思ったから、恋愛の別れに見えるように書きました。
──《もう今は辛くなんか無いよ 強がりじゃなくて》という強がりが胸を締め付けます。
HITOMIN:最初から最後までめちゃくちゃ強がってるのに“強がりじゃない”って言うのポイントですよね(笑)。死別はつらいけど、そういう痛みや弱さが出てくるから優しくなれている気がするし、人との関わり方とか自分のこととか、いろんなことを考える機会にもなる。つらい経験も曲にしてみると客観的に見られて消化されて、書いて歌うとすっきりします。仕事も趣味も全部音楽だから、ストレス解消も全部音楽なんですよね。あんまり人に自分のことを話したりできないタイプだから。
──音楽はそういうものも出せる場所ということですね。様々な経験を通していろんなことを考えることがHITOMINさん自身を助けてきたんだと思いますし、ジャンルにとらわれない活動は、いろんなジャンルの長所を生かしたアーティストになる可能性を持っているんじゃないかと思います。
HITOMIN:そういうアーティストになりたいですね。過ごしてきた環境や時間、生い立ちはヒップホップだと思うんですけど、音楽に関してはその枠にとらわれたくなくて。そのためにも、タイプさんに育ててもらってます。“今のHITOMINはこのビートでこういう曲を出さなきゃいけないよ”と言われて“えー!?”と思っても、タイプさんの言うことは全部正しいから納得するんです。
──すべては“ビッグになりたい”という気持ちから起こるもの。HITOMINさんは粛々と野望に向かって突き進んでいる最中ということですね。
HITOMIN:そうです。20代のうちにいけるところまでいきたいですね。フィメールラッパーと言われることは多いけど、HITOMINはHITOMIN。まだ先になるとは思うんですけど、自分とタイプの似た各国の子と一緒に曲やりたいし、市場を広げたい。自分は声が武器だからオートチューンをはずして声を生かした曲もやりたいし、表現の幅を広げたい。アットホームであったかい、タイプさんのレーベル・BTB ENTを残したい。ずっと音楽に携わっていきたいから、タイプさんがおじいちゃんになって車いすに乗るようになっても『最強のふたり』って映画みたいな感じでやっていきたいし(笑)。そのためにもビッグになりたい! 頑張ります!
取材・文◎沖さやこ
2nd EP「Stronger」
1.OMG
2.SAYONARA
3.Game
4.Crazy
5.Wow
6.もう大丈夫
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