【連載】Vol.096「Mike's Boogie Station=音楽にいつも感謝!=」

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映画「おかあさんの被爆ピアノ」主演・佐野史郎 & 監督・五藤利弘 インタビュー



五藤利弘・監督/脚本「おかあさんの被爆ピアノ」、佐野史郎/武藤十夢・主演の感動的であり、かつ史実をしっかりと教えてくれる映画が現在、全国順次公開中だ。昭和20年8月6日、広島で被爆したピアノは75年経った現在も元気に素晴らしい音色を奏でている。



広島で被爆ピアノを修理・調律して、地元は勿論全国へ自らそのピアノを運搬し設置を行いLIVEを見届け多くの人々に素晴らしい音色を届けている矢川光則さんの活動が描かれている。その矢川さん役にベテラン俳優で僕達音楽ファンにはミュージシャンとしても馴染み深い佐野史郎。寡黙だが心に沁みいる演技を披露してくれている。



そこにもう一人の主役、祖母の被爆ピアノ探しに翻弄する大学生の江口菜々子・役にAKB48の武藤十夢。本作が彼女にとって映画デビューだがとてもしっかりした演技でオーディアンスを魅了してくれている。



今号は音楽ファンにもぜひとも観ていただきたいお薦め映画「おかあさんの被爆ピアノ」の主演・佐野史郎&監督・五藤利弘、お二人のスペシャル・インタビューである(ちょっぴりネタバレになってしまったところもあるけど、そこはご容赦いただきたい)。

まずは佐野さんの登場だ!



Mike:「おかあさんの被爆ピアノ」とても素晴らしい作品です。戦争体験世代に育てられた僕らが今、声を大にして若い人々に伝承しなくてはならない歴史を見事に描いています。それはエルヴィス・プレスリー、そしてローリング・ストーンズに教えて貰ったチャック・ベリー、マディ・ウォーターズらの素晴らしさを若者にメッセージしていくアクションとも共通しているとも感じます。
Sano:まずこの作品の題材が“ピアノ”ということにいろいろ考えさせられました。江戸末期に日本に伝来し明治維新後の文明開化の中で日本人に浸透していったピアノ、ある意味西洋文明の象徴であるそのピアノが被爆。このことにとても矛盾を覚えるというか複雑な思いがあります。ピアノから奏でられる音楽はクラシックという西洋のものです。被害者側にとってこれは捩じれた構造ともいえるのです。考えてみれば日本はずっと捩じれ構造のまま突き進んできました。敗戦後、掌を返したようにジャズやロックンロールを享受。本来の日本的なものを取り戻したいとの想いと西洋文化の流入の葛藤は、現在も続いているような気がします。グローバリズム礼讃に取り込まれたかの如き表面的なジャパネスク賛美や、ヘイトに現れるような愛国精神の二極化には違和感を感じざるを得ません。被爆地に残された西洋音楽の象徴とも言えるピアノによって奏でられる曲は、けれどそうした側の問題を消し去り、どこのものでもない、ただ流れ出る今の音として平和へのメッセージとして届いて欲しい。本作の最初の第五福竜丸コンサート・シーンでは、伊福部昭の作品を登場させて欲しかったと個人的には思いました…。そしてアフリカやアイルランドの人々がアメリカでロックンロールを誕生させたという音楽史をふと思い浮かばせるのです。というのも本作のピアノは被爆したけど外国曲を演奏していて、それはおばあちゃんが脈々と祖先から受けとめてきた肉体であって、様々な文化、音楽を自分の体のものにしていこうとする切実な思いなのです。おばあちゃんだけでなく(菜々子の)お母さんにもそれはあったのです。これはまさにロックンロール誕生時の息吹にも通じるものがあると思うのです。そして菜々子はルーツ探しの旅に出るわけですけど、実はルーツなんてなかったというルイス・キャロル的な迷宮世界になっているところにも惹かれます。国にも家族にも個人にも歴史はあるけど、やはり大切なのは“今”なのだと。



M :僕はこの映画で被爆ピアノのことを学びました。矢川さんは10年前に「海を渡る被爆ピアノ」を著していらっしゃいます。本作公開を機に多くの人に被爆ピアノのことを知ってもらいたいです。
S:矢川さんは平和への活動はしているけど、イデオロギーの人ではないと思います。ただ好きな音、良い音を出しているだけです。ちゃんと自分のオナカに落ちてくる音や言葉を探してる。この映画のテーマはここにあるのかもしれないと思います。たどたどしくてもいい、下手でもいい、嘘偽りのない音と体を求めて彷徨う映画が本作かもしれません…。



M:被爆ピアノを修理したり調律したりするシーンでは、匠としての姿、音楽を愛する気持ち、そして調律を終わった被爆ピアノの音色は決して他のピアノに負けずに頑張ってもらいたいという親心といったものがダイレクトに噴出していました。この辺りは勿論役者・佐野史郎でもあるのですが、そこはミュージシャン・佐野史郎だと僕は感じ入って観させてもらいました、I'm down!
S:魂にぐっとくる音楽を求めたいんです。僕はミュージシャンでもあるけど鍵盤は殆ど弾けない。ただ好きな音であればどんな楽器や唄でも耳を傾けのめり込む。俳優の仕事も声を出し、体を動かす。演じることも音楽と同じなのです。映画の中では実際の被爆ピアノを使用していました。本物の音の前で、嘘の音は出せないとの一心で現場に臨んでいました。



M:第五福竜丸コンサートにも大きな衝撃を受けまた。第五福竜丸のことは幼心にも何となく憶えています。現在コロナ禍でライヴがなかなか開催できないけど、音楽はやっぱりライヴ。FUJI ROCKにも出演した佐野さん。この映画では第五福竜丸コンサート、被爆ピアノ・コンサートがストーリーのハイライトにもなっています。ここで矢川さんはピアノをスタンバイしてMCしたりと温かく演奏者を見守ります。音楽フリークの佐野さんがあの演奏シーンをどう感じながら“役者”していましたか?
S:コンサート・シーンは平和運動というメッセージ色が強く出ています。ですが、正直に言うと僕自身は運動というものに警戒心を持っています。運動には正しいと思う絶対的な強い理念が見え隠れします。そうすると、それに反するものを排他して行きがちになるような気がするんです。それは怖い。原爆投下の正統性を唱える人たちの理念と通じてしまうような気がして。矢川さんは100年前のピアノが良い音を出す、そのことを探し求めているだけなのです。被爆したピアノにも生命がある、だから矢川さんはこの活動を続けていらっしゃる。僕はここに“共感”するのです。



M:AKB48の武藤十夢さんとの共演はいかがでした。
S:キャリアを積むにつれ若い俳優さんと年齢差が広がっていくことは仕方ないことだけど、これもまた、常に“今”。AKB48のメンバーの方とは初期から何度か共演させていただいていますし、親近感があります。「風は吹いている」をバンドでカバーもしてましたし。だから武藤十夢さんは姪っ子というか、なんだか親戚の女の子のような気持ちでいたかもしれないですね。



M:ラスト・シーンで菜々子は「悲愴」を演奏することが出来ません。被爆二世の母がヘルプ…。祖母のこと、広島のことをもっと知ることによって、ちゃんと演奏出来ると彼女は語ります。このジ・エンドの手法がこの映画を象徴しています。普通なら見事なパフォーマンスで観客から大拍手を貰ってシャンシャンかもしれないけど…。映画を観ている若者に、もっと広島、原爆、戦争の悲惨さを知ってもらいたいというメッセージが込められているのではないでしょうか。
S:そうです、未完なのです。菜々子はこれからも探し続けるのです。母親が抜けていた歴史(音)をやっとここで埋めようとしたのです。ここが大事なところです。エンディングではまさに三世代に亘って時空を超えてここに一つの楽曲が被爆ピアノで“演奏”されたのです。家族の音楽がここに表現されているのです。



M:最後に「おかあさんの被爆ピアノ」から感じて欲しいことをお願いします。
S:平和へのメッセージではあるのだけれど、漠然とした怒りや悲しみではなく、加害者、被害者を超えて何故原爆が投下されたのか、どうして戦争が起きたのかということをこの映画から探っていただけたらと思います。学校では殆ど教えてもらえない近代史、昭和史の“事実”“関係性”に触れ、これからのあり方を探っていければと。僕も俳優の仕事を通してこれからも学んでいければと思っています。

☆☆☆☆☆

そしてこの映画「おかあさんの被爆ピアノ」の監督、五藤利弘さんにも登場してもらおう。



Mike:先ずは監督が被爆ピアノをテーマにして映画を制作しようと思い立ったきっかけをお教えください。
Goto:知人から広島の被爆ピアノをテーマにしてドキュメンタリーを撮ってみてはどうかと勧められたんです。それが2009年の事でそのドキュメンタリーはTVで放映されました。実は被爆ピアノの存在はその時初めて知ったんです。TVでは何回かの再放送でこの話は終わりです。そこで何とか被爆ピアノを戦争を知らない若い世代へ伝えていきたいと思い、それには映画がしかないという考えが浮かんだんです。それからの道程は実に長かったです、10年かかりました。

M:この映画は戦争、原爆をテーマにしながらもこれまでにない手法で描かれ僕達はいろいろ考えさせられたんです。
G:「原爆の子」「黒い雨」「父と暮らせば」「はだしのゲン」といった映画は直接的に原爆を描いています。それはそれとして素晴らしいんですけど、現代の若者は残酷すぎて目を背けてしまいます。そこで僕はこの作品をいろんな方に観て欲しいという願いを込めて完成させました。年齢、思想、心情に関係なく観ていただいて、自分なりに感じて頂ければいいと思っています。



M:僕はピアノに頑張って欲しいという、何かエンターテインメント・タッチな展開もこの作品から感じました。
G:ありがとうございます。
M:パーキングで若者たち4人がピアノを弾かせて下さいというシーンは良かった!
G:実はあのシーン、ドキュメンタリーで実際に登場していたんです。映画では矢川さんが少し怒るという設定になっていますがあそこはフィクションですヨ(笑)。
M:五藤さん作品はいくつか観させていただいてるけど(『花蓮~かれん~』公開時には一緒にトーク・ライヴしましたネ)、監督なさったものは殆ど脚本も担当されていますね?



G:脚本は殆ど自分で書きます。チャップリンも自分で書いていたしウディ・アレン然り。映画作りたいということでこの世界に入ったのですが、先ず脚本家から始めたんです。別の脚本家が書いたもので監督すると自分の撮りたいテーマが薄れてしまうように思えたのです。

M:監督は戦争、広島、被爆をどう捉えていらっしゃるのでしょう。
G:被爆ピアノを知るまでは、ごくフツーに意識する程度でした。ドキュメンタリーを撮ってからは様々な角度から深く考え、平和ということをいつも念頭に置くようになりました。

M:広島被爆ピアノ管理所有者・矢川光則さんは実際どんな方ですか?
G:矢川さんはとっても人懐こいフツーのおじさん(笑)。人間的に素晴らしい方です!そんな矢川さんの調律師像を佐野史郎さんは撮影現場で彼ならではのキャラクターを発揮しながら見事に生み出していってくださいました。佐野さんのこれまでの作品と違います。彼の力を入れ込んだ演技、そして本作に対する熱情に感謝の気持ちで一杯です。



M:佐野さんにもお聞きしたんですが、ラスト・シーンはとても良かったですね!
G:ごく当たり前に綺麗な形でジ・エンドでは面白くありません。心に残る、明日があるんだという展開の中でこの作品をフィニッシュしたかったんです。

M:武藤十夢さんほか監督から見た出演者の方々について一言お願いします。
G:ハイ・
*武藤十夢(江口菜々子・役)



とても勘の良い方です、そして地頭が良い!こっちこう言いたいんだということを察してくれるんです。競争率の激しい気象予報士の資格を獲得したということです、相当の頑張り屋さんなんです。ピアノは高校以来弾いていなかったそうです。制作発表の時の“ブルグミューラーの練習曲”はたどたどしい演奏だったけど、撮影本番の時はとても綺麗に弾いてくれました。相当練習したんでしょうネ。作品中の菜々子・演奏シーンは基本、彼女本人の演奏なのです。

*森口瑶子(菜々子の母親)



本作は母と娘の物語。そんな母親を森口さんは存在感あふれる演技で熱演してくださいました。

*宮川一朗太(菜々子の父親)



家族を陰で支えるお父さん。こういうお父さんだから娘が自由に生きる(行動)ことが出来るのです。

*小池澄子(菜々子の祖母)
孫がおばあちゃんにヘルメットをプレゼントして一緒にバイクに乗るというアマゾンのCMに出演なさってる。あのCMが気に入って小池さんを抜てきさせてもらいました。普段はシニア・モデルで映画出演は今回が初めてです。

*南壽あさ子(菜々子の祖母・回想)



透明性溢れる雰囲気をふんだんに感じさせるアーティスト!主題歌「時の環」も歌ってくれてます。

*中山佳子(菜々子の親友)
彼女はオーディションを受けて出演が決まったのです。目立ちすぎず、それでいて存在感がない訳でもありません。菜々子にピアノ・レッスンするちょっぴりお姉さんチックな役柄です。

*谷川賢作(第五福竜丸コンサート・ピアニスト)
広島で10年前から毎年8月に被爆ピアノを演奏しているミュージシャンです。この映画の音楽担当をお願いしました。詩人・谷川俊太郎の息子さんです。

M:そして「おかあさんの被爆ピアノ」は書籍化もされました。
G:より若い人にも“被爆ピアノ”を知ってもらいたいと児童小説として書き上げました。漢字には振り仮名がついていますよ。



M:「おかあさんの被爆ピアノ」、このタイトルがとても素敵です!!
G:菜々子のおかあさん、おかあさんのおかあさんつまり菜々子のおばあちゃん。本作はまさに親子三代の物語なのです。タイトル決定するまで僕はすっごく悩んだんです。最初はシンプルに“被爆ピアノ”でいこうと考えていました。周りから強すぎると反対にあい、紆余曲折を経て「おかあさんの被爆ピアノ」となったんです。
M:最後に監督から皆さんにメッセージをお願いします。
G:実際の被爆ピアノの音色で「おかあさんの被爆ピアノ」を制作しました。この音色、音、サウンドをしっかり心に留めて欲しいと思います。そして今回劇場公開出来なかった地域にも、フィルムを持って伺いたいとも思っています。これを機に今後は戦争をテーマにした映画にもチャレンジしたいと思っています。



【コンサート・シーンでの楽曲】(登場順)
提供:五藤利弘監督
■第五福龍丸コンサート
アヴェ・マリア シューベルト
原爆詩集 序 峠三吉
月光  ベートーヴェン
■龍禅寺三仏堂コンサート
私はピアノ(朗読詩) 飯島晶子
赤とんぼ 作詞・三木露風 作曲・山田耕筰
ゴンドラの唄 作詞・吉井勇 作曲・中山晋平
■原爆ドーム前コンサート
故郷 作詞・高野辰之 作曲・岡野貞一
しゃぼん玉 作詞・野口雨情 作曲・中山晋平
奏でる 作詞作曲・大島久美子
悲愴 第二楽章 ベートーヴェン

*Pic.by Kenji Oda(インタビュー写真)

■タイトル:『おかあさんの被爆ピアノ』
■公開表記:新宿K's cinemaほか全国順次公開中
■配給:新日本映画社
■コピーライト:© 2020映画「被爆ピアノ」製作委員会
■公式HP:hibakupiano.com

出演:佐野史郎 武藤十夢(AKB48) 森口瑤子 宮川一朗太 大桃美代子 南壽あさ子 ポセイドン・石川 谷川賢作 鎌滝えり
監督・脚本:五藤利弘
脚本協力:渡辺善則 黒沢久子
エグゼグティブ・プロデューサー:大橋節子 染谷明 牛山大
ゼネラルプロデューサー:城之内景子
プロデューサー:伍藤斗吾
協力プロデューサー:狩野善則 小林良二 小竹克昌
美術:部谷京子
主題歌:南壽あさ子
音楽:谷川賢作
制作プロダクション:OneScene
2020年/日本/DCP/カラー/ステレオ/111分/G

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