【インタビュー】グレゴリー・ポーター「フィジカルにはデジタルにない特別な何かがある」

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©Ami Sioux

現在、最も世界で成功しているジャズ・ヴォーカリスト/シンガー・ソングライター:グレゴリー・ポーターのニュー・アルバム『オール・ライズ』が8月28日に発売となった。当初4月リリース予定だった作品がようやく世に生を受けた形だ。

アルバムリリースに向け、先行シングル「リヴァイヴァル」が日本全国FM22局でパワープレイを獲得したこと/ラジオの役割/音楽の聴き方/音楽の成せるマジックなど、音楽にまつわる様々な思いを語ってもらった。


──日本ではラジオ全22局で「リヴァイヴァル」がパワープレイとなり、よく耳にしました。ご自身ではラジオを聴きますか?

グレゴリー・ポーター:実は新車を買ってね。1ヶ月くらい店にあって引き取ってきたばかりなんだ。まだCDも何もないので、今日も車の中でポップス系ラジオを聴いていたよ。普段からラジオはよく聴くんだ。TOP(40系)ラジオ、ポップス・ラジオ、カントリー・ラジオまでなんでも。日本で僕の曲が頑張ってたなんて、嬉しいことだね。

──音楽にとって、ラジオはどういう存在だと思いますか?

グレゴリー・ポーター:僕らが若い頃は、ラジオの力はもっと大きかったかもしれない。子供の頃は、ラジオをよく録音していたのを覚えているよ。4時間録音できるテープに番組を録音し、お気に入りの曲がかかるのを待って、何度も繰り返し聴いていたな。ラジオが好きなのは、ソーシャルな要素があるって点だ。

──ソーシャル?

グレゴリー・ポーター:僕は今40歳代半で、デジタルやダウンロード以前の音楽で育った人間だから、ラジオが持つソーシャル性…みんなが同じ時間に同じ音楽を聴いていたことがクールだな、って今も思うんだ。例えばショップとか、たまたま訪れた場所でラジオを耳にすると、その瞬間、その音楽世界に引き込まれる。懐かしさもあるのかもね。


──日本ではまだCDも売れますが、世界的には完全にデジタルですよね。あなた自身は普段どのように音楽を聴いていますか?

グレゴリー・ポーター:アナログだよ(笑)。さっきも『Kind Of Blue』をレコード盤で聴いていた。デジタルの装置も持っているけれど、やっぱりフィジカルにはデジタルにない特別な何かがある。断然CD・レコード派だね。さすがにテープでは聴かないけど、部屋には3,000~4,000枚のレコードがあるよ。

──アナログからデジタルへの移行やサブスクの普及は、あなたの音楽の作り方に影響を与えましたか?

グレゴリー・ポーター:ああ、もちろん感じ方が変わるからね。僕と音楽の関係…音楽をどう聴くかも、自分の中にある音楽をどう見つけるかも、意図的にゆっくりとさせているんだ。でも今は何もかもが早いだろ?作る側も早いし、受け取る側はフルなアルバムとして受け取らず、2~3曲選んで聴くだけってこともある。それでは「言いたいことのごく一部しか聴いてもらえない」ことになる。だからフィジカルの商品が好まれている日本のマーケットが好きなんだ。ドイツもそうだね。あとUKも。僕としては、何かを述べるからには全部を聞いてもらいたい。あえて、ゆっくりと、時間をかけて、ヴァイナルを届けるのがいいなと思うんだ。そういうのが好きだと言う人は、おそらく手でネジを巻くタイプの腕時計が好きなんだろうな(笑)。多分、フィルムを使うカメラなんかをまだ持ってたりして。僕みたいに料理をするのが好きだったりね。自分が「そういう人間だ」ってだけなんだけど(笑)。

──生のパフォーマンスを身近で体感したくても、今は難しい状況ですよね。再びライヴを楽しめる状況が戻るまで、私たちができるのはどういうことでしょうか。

グレゴリー・ポーター:そうだな…いや、でもYouTubeがあって良かった。というか、僕のことを今まで知らなかった人も、そのおかげで僕を見つけてくれてパフォーマンスを観てくれている。今回のことが起きたことで、僕にとってどれだけステージが大事だったか、そしてどれだけ僕がステージの虜だったかってことを改めて知ったからね。オーディエンスとのコミュニケーションはもちろん、世界を周りメッセージをシェアすることの素晴らしさ。もちろん、みんながお金を払って聴きに来てくれているのは音楽だよ。でも僕は音楽だけでなく、メッセージも伝えながら回っているんだと思う。愛のメッセージ、生きることへのメッセージ…そしてそれができないことが本当に寂しいし辛い。ライヴ・アルバムも何枚かあるしフルでライヴが体感できるYouTubeやビデオもあるので、ファンもそうやって楽しんでくれているようだよ。今、家でひとりでカメラに向かってウクレレで弾き語りしたり色々あるけど、やっぱりステージと客席…人と人とのコネクションに勝るものはないからね。今はもう、科学者たちがワクチンを見つけてくれるように祈るばかりさ。


──ソーシャル・ディスタンスを強いられる世の中ですが、心のディスタンスは詰めていけますよね?

グレゴリー・ポーター:もちろん。良かったなと思うのは、僕が作りたいレコードはもともとintimacy(親近感)のあるレコードだということなんだ。まるでリスナーのすぐ近くに立って、もしくは肩に寄りかかって、僕の声で歌いかける。そういうアルバムにしたかった。だって、人って誰も最初はそんな風にして音楽と出会うものだろ?スピーカーに寄っかかって、耳をくっつけて、そこから流れる音楽を聴いていた。ラジオ、レコード、テープ、CD…なんでもいい。大好きなアーティストが自分を表現しているのを聴き、まるでそのアーティストと同じ場所にいるような感覚になれたんだ。そんな風に、たとえその場にいなくてもパーソナルなつながりを持ち、エネルギーを行き交わせることは可能なんだと思う。

──素敵ですね。

グレゴリー・ポーター:かつてそのことを曲にしたことがあるんだよ。「Unintended Consequences(※「予期せぬ結果」という意味)」という曲でね、「あなたがあなたでいることで予期せぬ結果が生まれる」と歌ったんだ。そのとき僕がイメージしていたのは、ナット・キング・コールなんだ。彼が1960年にマイクの前に立ってレコードを吹き込んだ時、それから何年も経った1977年~78年…もう彼が死んだ後だけれど、ひとりの少年がそのレコードを聴き音楽から彼の姿を思い浮かべ、父親のような存在として想像力を膨らませていたことを、彼は果たして予想していただろうか。これこそ、音楽がなせるパワフルな業なんだ。音楽はまさに贈り物だよ。無駄にしてはいけないと思うね。



グレゴリー・ポーター『オール・ライズ』


2020年8月28日(金)世界同時発売
1.コンコード
2.ダッド・ゴーン・シング
3.リヴァイヴァル
4.イフ・ラヴ・イズ・オーヴァーレイテッド
5.フェイス・イン・ラヴ
6.マーチャンツ・オブ・パラダイス
7.コング・リスト・オブ・トラブルズ
8.ミスター・ホランド
9.モダン・デイ・アプレンティス
10.エヴリシング・ユー・タッチ・イズ・ゴールド
11.フェニックス
12.メリー・ゴー・ラウンド
13.リアル・トゥルース
14.ユー・キャン・ジョイン・マイ・バンド
15.サンキュー
https://jazz.lnk.to/GP_ARPR

◆グレゴリー・ポーター・レーベルサイト
◆グレゴリー・ポーター本国公式サイト
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