【ライブレポート】20周年の矢井田 瞳が見せた、超絶グルーブと高揚感・多幸感

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2020年2月にリリースされた矢井田 瞳のミニアルバム『Keep Going』にも参加している高高-takataka-のふたりがオープニングアクトとしてスリリングなパフォーマンスを見せてくれた後、画面はヤイコが待つ別会場へ。ヤイコを含めたバンドメンバー5人が正五角形に陣取り、お互いがお互いの顔を見ることができるように皆、内側を向いてスタンバイしている。

その姿を見て最初は、今回のライブは無観客で客席がないため、全員が同じ方向を向く必要もないから、こうしたポジショニングとなったのだろうと考えていたが、それは浅薄な見方であった。真の目的はバンドアンサンブルの強化、グルーブを生むことの追求であることに間違いない。序盤からその意志は確実に音に溢れ出ていた。

オープニングは「I like」。単調…とまでは言わないけれど、耳に飛び込んでくるようなキャッチーなメロディを持つシングルチューンと比べれば、そこまで派手さはないナンバーではある。それ故に、だろうか。いかようにもリアレンジが効き、過去のライブでは上物を重ねたり、パーカッションを入れてリズムを厚めにしたりしたこともあったと記憶している。しかしながら、今回はギター、ベース、ドラムス、キーボードというシンプルな構成である。下手をするとスカスカに…なんて考えがチラリと頭の片隅をよぎりそうになった瞬間、そう思ったことが恥ずかしくなるような有無を言わせぬサウンドが4人から放たれた。


ギターが軽快なカッティングを繰り返す中、ベースとドラムは楽曲全体のの推進力を担い、エレピの音色がそこにポップさを加えていく。それぞれがそれぞれの責任において楽曲を形作る。そうかと思えば、間奏のユニゾンでは息を合わせてヘヴィなサウンドをガツンとかます。「I like」はバンドのアンサンブルを確認するうえで格好なナンバーであり、その意味では納得のオープニングであった。続く「Look Back Again」はヤイコの代表曲のひとつでもあるポップかつキャッチーなナンバー。文字通りのいわゆるつかみはOKで、バンドのドライブ感もグイグイと増していく。ぴょんぴょんと飛び跳ねる、まさしく縦乗りのヤイコの姿も印象的であった。

「贅沢な世界」からはヤイコがテレキャスターを抱えたことでギターサウンドがグッと厚みを増し、それと同時に西川進(G)のプレイが明らかに凶暴に変化していく。間奏やアウトロで見せた奔放なギターソロは筆舌に尽くし難い怒涛の攻め。ただただ素晴らしいの一言の西川であった。そのテンションに当てられるように、水野雅昭(Dr)のビートもどんどん研ぎ澄まされていき、サビではパンクロックのようなシャープさで8分音符を刻んでいく。

次の「Buzzstyle」においても、引き続きギターは素晴らしいままであったが、ヤイコの歌が始まるとギターは鳴りを潜めるというメリハリの効かせ方も心憎かった。ギターが鳴らない箇所は、松田“FIRE”卓己(B)のベースラインが楽曲の屋台骨を支えるという、さりげないリレーションシップも見事である。ここに限らず、FIREのプレイはどれもこれも素晴らしい。低音のうねりが楽曲に独特の躍動感を与えていたことは間違いない。この人は本当にいいベースを弾く。そして、アウトロでは西川とヤイコとが向かい合い、2人揃ってギターをかき鳴す。ここでの西川の超絶プレイもさることながら、ヤイコが見せた満面の笑みが何よりも雄弁に、このバンドのアンサンブル・このメンバーで生み出すグルーブが絶品であることを語っていたように思う。


MCを挟んで披露された「いつまでも続くブルー」は歌ものとも言うべきフォーキーなナンバーで、さすがにサウンドは派手さ抑えめといった様子であったが、こういう抑制されたアンサンブルを醸し出せるのも彼らが優れたミュージシャンである証左であろう。「一人ジェンガ」も同様で、サウンド全体の押しが強いものの、個性的なプレイは比較的鳴りを潜めていくのだろうか…と若干気を緩めると、間奏で「プログレかっ?」という迫力のユニゾンが飛び出す。ジャズマスターに持ち替えた西川はチョーキングでグイグイと攻めていく。まったくこのバンドは油断がならない。

以降、セットリストは「馬と人参」「i can fly」と続いていったが、ブルージーな「馬と人参」、ヤイコが十二弦を鳴らした「i can fly」と、矢井田 瞳の楽曲は実に幅広い。メロディもさることながら、サウンドが特定のジャンルに囚われている感じもない。それは彼女のアーティストとしての懐が深いと言い換えてもいいと思うが、そういうヤイコだからこそ、そのポテンシャルを引き出すには彼らのような優れたミュージシャンが必要であると感じたところである。

この日のハイライトが「Girl's Talk」であったことは疑いようもなかろう。ザクっとしたギターリフがカッコいいロックチューン。とりわけ西川進のギターはハードかつアグレッシブ、そしてワイルドに鳴り響き、彼のプレイの本領発揮の場だったと言っていい。バンドリーダーを務めた鶴谷崇(Key)がこの日のライブに先立ち、「西川進さんがいるので鬼に金棒」と語っていたのはこういうことだったのかと完全に腑に落ちた。FIREのベースも遠慮なく動き回って西川に絡んでいき、ロックバンドのグルーブを如何なく見せつけた。また、「Girl's Talk」はライブでの披露が超久し振りだったこともあって、コメント欄が一気に沸き立ったことも言うまでもない。

その「Girl's Talk」に続くのが「My Sweet Darlin'」とは何と豊かなセットリストであっただろうか。「Girl's Talk」でこれまで以上にグイグイと攻めてからのキラーチューンの登場だ。まさしく「殺す気かっ!」と言うべき曲の並びはほとんど反則技と言ってよく、イントロが鳴った瞬間、思わず息を飲んだ。「♪ダリダリ」に象徴されるこの楽曲のメロディの抜けの良さは改めて言うまでもないだろうが、それに呼応するかのように、水野の叩くスネアも活き活きと跳ねる。空気が高揚感と多幸感に包まれていく。このあとのMCでヤイコは「繋がってる感をすごく感じます」と語っていたが、自然と気持ちが前向きとなるようなそのバイブスは、モニターを通してでも間違いなくリスナーに伝わっていたであろう。


聴きどころ、見どころはまだまだ続く。ヤイコの故郷である大阪の街への思いを綴った新曲「ネオンの朝」。メジャーデビュー曲であり、彼女のシングルの中でも最もエッジが立ったナンバーと言える「B'coz I Love You」。ジャジーなピアノイントロのシャッフルナンバー「Not Still Over」。ソリッドなサウンドで疾走感あふれるロックチューン「アンダンテ」。このセクションでは、緩急もタイプも異なる楽曲を並べて、より深く、矢井田 瞳というアーティストのポテンシャルを見せつけていく。それは同時に、音数が少ないシンプルな構成の今回のバンド編成にあって、今回のバンドリーダー鶴谷の役割の重要性も浮き彫りにしたようにも思う。どんなタイプのサウンドも器用にこなす彼のようなミュージシャンが支えているからこそ、ヤイコの楽曲群はさらに輝きを増すことも確認できた。

緊急事態宣言下の自粛期間中は少なからず閉塞感を抱えて過ごしていたと語るヤイコ。「そんな中でも、とびきり明るくて前向きな曲を書きたいと思いました」という意志の元、新型コロナウイルスに立ち向かう全ての人たちを歌の力で応援する産経新聞社のプロジェクト『「#コロナの先で」希望のSTORY~歌のチカラ~』とコラボレーションによって生まれた曲が、次に演奏された「あなたのSTORY」だ。バンドサウンドはそれまでの派手なアンサンブルから一転、とてもシンプルなものとなり、メロディ自体もサビは2~3度聴いたらもう口ずさめてしまうのでなないかと思ってしまうほどのナンバーだが、だからこそ歌詞に込められた思いがダイレクトに伝わってくる。

そう、躍動感あるバンドサウンドで観客を熱くさせるのもアーティスト矢井田 瞳の本質であるならば、彼女自身が「あなたのSTORY」を紹介する際に「この曲を聴いて、どこかの誰かがちょっとでも、ほんのちょっとでも元気になってくれたらうれしいなって思います」と語ったように、楽曲に込められたメッセージをリスナーに届けていくこともまた彼女の本質である。「20年分の感謝を込めて、この曲を大切に歌いたいと思います」と言ったあとで演奏された「Life's like a love song」、そしてフィナーレに披露された「手と涙」では、そのもうひとつの本質を見出すことができた。共に2001年に発表された2ndアルバム『Candlize』収録曲で、今もライブ後半の定番としてファンに親しまれているナンバー。今回、「ココロと体を強く」(「Life's like a love song」)や、「道は長い/ゆっくり行こうよ」(「手と涙」)など、このご時勢だからこそ胸を打つフレーズが内包されており、図らずも彼女が歌詞に込めた想いに普遍性があることが示されたように思う。本人は「デビューした頃は20年も音楽できると思わなかった」と自嘲気味に話していたが、こうした歌詞を書けるアーティストであったからこそ、20年間、音楽シーンの第一線で活躍できたはずである。無観客生配信ライブ<矢井田 瞳 20th Anniversary『ヤイコの日』>は、そんな貫禄とも威厳とも呼ぶべき、20年選手のオーラを十分に体感することができたライブであった。


ちなみにこの日、最後のMCでヤイコ自身の口から、10月14日(水)に4年振りとなるオリジナルニューアルバムがリリースされることが発表された。新作のタイトルは『Sharing』。「分け合う」「共有する」という意味とのことである。なるほどと思う。新作がどんな内容に仕上がっているのか現時点では分からないけれど、このタイトルからは、今まで以上に彼女自身がリスナー、オーディエンスと想いを分かち合いたいと考えていると想像するに難くない。この日も「20年は通過点のひとつ」とヤイコは言い切り、ライブ自体も20年間の集大成というより、これまでの延長線上にあるようなものではあったように思う。この日、インターネットを通じて全国のファンに届けられたヤイコの想いは、今度はアルバムというスタイルで届けられるのだろう。新作『Sharing』も楽しみにしたい。

撮影◎スエヨシリョウタ
取材・文◎帆苅智之

<矢井田 瞳 20th Anniversary『ヤイコの日』無観客配信ライブ>

アーカイブ配信中
2020年8月23日(日)23:59まで
※チケットのご購入は8月23日21:00まで
◆チケット詳細(矢井田 瞳オフィシャルサイト)

矢井田 瞳11thアルバム『Sharing』(シェアリング)

2020年10月14日(水)リリース
「いつまでも続くブルー(Yaiko Band ver.)」(日本テレビ系「スッキリ」2019年9月度エンディングテーマ)、「ネオンの朝」(関西限定シングル)、「あなたのSTORY」(産経新聞社プロジェクト「#コロナの先で」希望のSTORY~歌のチカラ~ソング)他、収録
◆iTunesプレオーダー(ダウンロード予約注文)

<『Sharing』リリース記念イベント>

2020年10月31日(土)
※イベント詳細は後日オフィシャルHPにて発表
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