【レポート+インタビュー】J、バースデーライヴと限定シングルと次の約束「新たな扉が開いたような感覚がある」

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■Jが語る「50歳の誕生日、
■限定シングル、最後の赤坂BLITZ」

終演後、クールダウンのための時間を少しばかり経たのち、Jの楽屋を訪ねた。彼は晴れやかで清々しい表情をしていて、この日のステージ上が文字通りの灼熱状態だったことを認めた。周辺ではスタッフが搬出を急ぎ、閉館準備が進められている。さほど猶予はないが、時間が許す限り、50歳になったばかりの彼の第一声を拾わせてもらうとしよう。実のところ彼にとってこうしたバースデー・ライヴは恒例となっているわけだが、50歳になるというこの大きな節目の到来には、これまでの誕生日とはやはり何かしら感覚的な差異というのがあるのだろうか。

「いや、正直なところ、気が付けばこの年齢になった、という感覚に近くはあるんです。ただ、それなりにいろんなことを経てこないと辿り着けない年齢でもあると思うんですよ。そういう意味ではやっぱり、気が引き締まるような思いがあるというか」

この言葉から感じさせられるのは、彼がただ単に50歳になったということではなく、コレを続けながらこの年齢になった、ということの意味の大きさだ。しかもJは、ライヴ中のMCでも語っていたように、この先、若作りをしたり年齢に逆らおうとしたりしているわけではない。

「なんかね、そこについてはすごく自然に考えてるんです。当然、若さというのには美しい部分もあるし、それ自体がパワーだし、輝かしいものでもある。でも実際、そういう時代を経て自分はこの年齢になってきたわけだから、なんかこの年齢なりにいちばんカッコいいことをやれたらな、とすごく思うんです。自然にそこにたたずむようにしてその場に居られて、最高な音楽をやるということ──それをやってみたいというか、やれるんじゃないかという気がするんですよ。たとえば俳優さんとかも、だんだん年齢を重ねていくにしたがって円熟味を増していって、その年齢だからこそできる演技をしてたりするものじゃないですか。若い頃にはサマにならない役柄が似合うようになったりとかね。例えばジョージ・クルーニーもそうだし、ブラッド・ピットもそう。かつて若さを武器にしてきた時代のある世代が、いい感じで年齢を重ねてきていて、しかもリアリティがあるわけです。そういった年の取り方は、ミュージシャンにもできるんじゃないかと思うんですよね。いつまでも綺麗でいようとするというか、若い頃に抱えてた理想に忠実であろうとしなくてもいいと思うんですよ。ファッションもそうじゃないですか。若い子が着てカッコいいものと、オヤジが着てカッコいいものとはやっぱり違うわけで。そこで、ごく自然であれればいいと思うんです」

30歳になった時にも、40歳になった時にも、彼はそんなふうには感じていなかったのではないかという気がする。ただ、今、本気でやっていることをずっと続けてくためには、若い頃の自分と闘うかのように強引さを貫くことではなく、年齢とともに経験を重ねてきた世代なりの自然体で取り組むことが有効なのではないだろうか。実際、彼よりも10歳ほど年上の筆者もそんなふうに感じることがある。


それにしても、この記念すべき節目到来の日に向け、新曲を用意してきたというのは実に彼らしいといえる。ライヴの中盤で披露された「MY HEAVEN」は、この日、通販限定でリリースされている。カップリング収録されている「A Thousand Dreams」ともども、いかにも彼らしいと思える部分と、新しさが同居した楽曲だ。シンセ使いなどのあり方などにも、時代性というよりも忘れかけていた新鮮さが感じられる。

「今みたいなコロナ禍の状況になる前、具体的に言うと今年の初頭には、年間計画として、新しい音源というものを作り上げてきたいな、というのが当然あったんです。ただ、2月ぐらいからだんだんこういった状況になってきて、やはりいろんな物事がスタック(=停滞)してしまうところが出てきて、そうした状況を受け入れなきゃいけない部分というのもあった。でもなんか、よくよく考えてみると、音楽を作っていくこと、音楽を鳴らしていくことっていうのは、個人レベルで言うと止める必要のないことだし、止まることもないんじゃないか、というのがあって。そこで、具体的にいつアウトプットするのかというのはさておき、やっぱり今の自分というものを繋ぎ止めておきたい、書き留めておきたいみたいな気持ちがあったんですよね。で、結果的に5DAYSのライヴは中止になってしまったわけですけど、今回、その5DAYSの最後にあたる日に今の自分というものをみんなに聴いてもらえたなら、それは一本のストーリーとして成り立つんじゃないかな、と」

「このシングルはある意味、次への橋渡しになるようなものでもあると思うんです。これから先にまた自分が開け放っていく扉のひとつ目がこれ、というか。そういったイメージはすごくありますね。だから今回のジャケットのモチーフも“扉”になってるわけなんです。曲の作り方としては、自分自身でギターを弾いて、リフを作って、ビートを刻んで……という作り方をずっとしてきたので、最近はちょっと違ったやり方にも挑んでみてるというか。ひとつのキーワードとなるもの、たとえばサンプリングの音色ひとつをもとにして、そこに自分で肉付けしていったりとか。まあ、いわゆるSTAY HOME的な作り方ですよね(笑)、バンド然とした作り方ができにくい時分ならではの。ただ、そんななかでヒントになるものがたくさん転がってたというか。今までの自分というのは、やっぱりバンド・サウンドってものにひとつの答えを求めてたわけです。ただ、それについてはもう、いつでもどこでもできるというか、ある程度それなりの答えを得られることを自覚できてもいるわけなんで、新しいトライをすること、今までやってこなかったことをしてみるのもいいんじゃないか、というモードになっていて。しかもそれをやることによって、今まで自分が創ってきたものが壊れたりは絶対にしないはずだし、実際そういったトライをすることによって、またひとつ自分のなかで新たな扉が開いたような感覚があるんですよね」

まさしく「MY HEAVEN」のアートワーク自体がJの現在を象徴しているというわけだ。ところで今回の公演会場であるBLITZは、繰り返しになるが、彼にとってとても所縁深い場所のひとつだといえる。旧BLITZでの記憶も含め、いちばん鮮烈に刻み込まれているのは何かと尋ねてみたところ、やはりひとつだけに絞り込むことには無理があるようだった。

「実は今日、ここで自分がやってきたライヴの一覧というのを見たんですけど、そのひとつひとつを、不思議なくらいよく憶えてるんですよ。この日に何をやった、ということをね。それくらい毎回のライヴのインパクトが残ってるというか。なにしろ『PYROMANIA』のツアー、つまり1997年に始まった僕のソロの最初のツアーの初日を迎えたのも、かつての赤坂BLITZでのことだったし、そのツアー・ファイナルもここだったし。ファイナルの時はビリー・ダフィー(『PYROMANIA』に参加したTHE CULTのギタリスト)がわざわざ来てくれたり、楽屋に居たhide兄もアンコールで出てきてくれたりとか。そこから始まって、zilchや海外の猛者たちとの『FIRE WIRE』もあったし、その都度の自分のツアーもあったし、かつての5DAYSというのもあった。そこで自分が喉を飛ばす(=連夜の公演により喉を潰して声が出なくなる)という悔しい思いもしたし、あの時はホントにみんなに申し訳ないことをしたなと思う。なんかね、いろんなことを学んだ場所であり、いろんなドラマを見られた場所でもあるというか。この大都会のど真ん中でロックのそういうドラマが爆発してるのかって思うと、結構シュールじゃないですか(笑)。そういう意味でも好きな場所だったんですけどね」


新旧のBLITZは、彼にとってまさに、さまざまな経験と修練の場でもあった。そうした場所が失われてしまうのは残念なことではあるが、この日、何よりも嬉しかったのは、彼がステージ上でまたもや“次”の機会を約束してくれたことだ。それは、アンコール時のことだった。この9月に、アコースティック・ライヴを実施することが発表されたのだ。しかも配信ではなく、実際に会場で体感できるものとして。「あのJがアコースティックを?」という声も聞こえてきそうだが、実は彼にはD.F.F.(DESSERT FLAME FREQUENCY)というアコースティック形式での活動の場がある。これは今現在の世の状況に対応するために急造りで用意されたものではなく、あくまで彼の音楽表現に深みをもたらしていくためのものとして生まれた機会なのだ。そしてこの形態でのライヴ実施もまた、少しでも前に進んでいくため、然るべき日常を取り戻すための新たな一歩となるべきものなのだ。

「やっぱり世の中の日常、コンサートを取り巻く状況というのが、まだまだ自分たちが理想とする形には程遠い形ではあるわけじゃないですか。だからこそ、ちゃんと様子を見ながら、こういった試みも少しずつやっていきたいし、そうしながら元の姿に戻していくべきだと思うしね。同時にそこで“あっ、そういえば俺、アコースティック・ユニットをやってたじゃん?”と気付かされたというのもあったわけです。その形ならば、実際のお客さんが会場に、自分の目の前にいる状況で、今のルールに則った形でやれるんじゃないか、と。みんなで一緒に楽しめる、リアル・ライヴとしてね。そうやってひとつひとつ積み重ねていくことが、元通りの状況を取り戻すための成功例になればいいな、と思うんです」

約束の日は、9月12、13日の両日。そして約束の場所は、SHIBUYA PLEASURE PLEASURE。今、こうした次の機会の確約こそが何よりも求められているはずなのだ。50回目の誕生日に、Jは逆に、そんな極上のプレゼントを用意していてくれたというわけだ。

「こうして観てくれた人、触れてくれた人……みんなと約束することによって、なんか俺たちの音楽ってものが途切れないで進んでいくことになるというか、向かう先を照らしてくれる。そんな気がするんですよね。だからこそ自分が50歳になった今夜のライヴ、このBLITZでのラスト・ライヴのいちばん最後に、どうしても「BURN OUT」をやりたかったんです。1997年にソロ・デビューした時の曲を、50歳になった夜のいちばん最後にこの会場でやるってことの意味。それをみんなが感じてくれたらな、と思いながら演奏してました。音楽ってすごいな、と改めて自分でも感じながらね。こうやって繋がっていくものなんだな、と」

この熱が、この先途切れるようなことがあってはならない。いや、途切れることなどあるはずがない。何があろうと、常に“次”の約束が交わされ続けていく限り。

取材・文◎増田勇一
撮影◎田辺佳子

■配信ライヴ<J LIVE STREAMING AKASAKA BLITZ 5DAYS FINAL -THANK YOU TO ALL MOTHER FUCKERS->2020.8.12 マイナビBLITZ AKASAKA セットリスト

01. RECKLESS
02. break
03. PYROMANIA
04. A FIT
05. Resist bullet
06. Twisted dreams
07. GO with the Devil
08. MY HEAVEN
09. LIE-LIE-LIE
10. CHAMPAGNE GOLD SUPER MARKET
11. BUT YOU SAID I'M USELESS
12. Go Charge
13. NOWHERE
14. Gabriel
15. Feel Your Blaze
encore
en1. ACROSS THE NIGHT
en2. NEVER END
en3. TONIGHT
en4. BURN OUT

▼タイムシフト
視聴期間:8月23日(日)23:59まで
チケット購入・視聴ページ: https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327005752

■限定シングル「MY HEAVEN / A Thousand Dreams」

2020年8月12日(水)リリース
【初回生産限定商品】CTC1-40407 ¥1,300(税込)
01. MY HEAVEN
02. A Thousand Dreams
▼限定販売
受付開始:8月12日(水)正午12:00より
・J OFFICIAL ONLINE SHOP http://j-wumf.shop/
・mu-moショップ https://shop.mu-mo.net/a/list1/?artist_id=JXXXX

■<Dessert Flame Frequency 2020>

9月12日(土) 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
・1st:open15:15 / start16:00 ※F.C.Pyro会員限定
・2nd:open19:15 / start20:00 ※F.C.Pyro会員限定
9月13日(日) 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
・1st:open15:15 / start16:00 ※J MOBILE会員限定
・2nd:open19:15 / start20:00 ※F.C.Pyro会員限定
▼チケット
¥5,800 (税込・ドリンク別)
【F.C.Pyro受付】
受付期間:8月12日(水)22:00~8月23日(日)23:59
http://fancube.jp/fcpyro/
【J MOBILE受付】
受付期間:8月13日(木)12:00~8月19日(水)23:59
http://www.j-wumf.jp


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