【インタビュー】松本孝弘、ソロアルバム『Bluesman』完成「それでもまずは想うことが大事だよね」

ポスト

松本孝弘が9月2日、前ソロアルバム『enigma』から約4年ぶり、12作目のオリジナルアルバム『Bluesman』をリリースする。“Bluesman”というコンセプトは制作後半に固まったそうだが、“Japanese Bluesman”になりたいと思い続けてきたTAKならではのトーンは説得力に溢れ、一聴してTakだと分かるチョーキングやヴィブラートが感情のひだをなぞる。「今回のアルバムは全部“僕のブルーズ”なんです」と語るとおり、ギタリストとしての歩みが一音一音に投影されたような仕上がりだ。

◆松本孝弘 画像

収録された全13曲は実にバラエティーに富んだもの。“Bluesman”の名の下に、さまざまな音楽的要素が昇華され、ストリングスやホーン、二胡との有機的なセッションもアルバムに深みや躍動感をもたらした。とりわけ氷室京介との共演にはTAK自身「鳥肌が立った」と語ったほど。BARKSでは“STAY HOME”期間中の新たな試み、コロナ禍の過ごし方、アルバム『Bluesman』のサウンド&プレイ、スケール論、そして目指す場所についてじっくりと語ってもらった。なお、後日改めて、『Bluesman』レコーディング使用機材レポートをお届けする予定だ。こちらもお楽しみに。

   ◆   ◆   ◆

■好きだからコピーしたというだけでは
■自分のことをブルーズマンだなんて言えない

──“STAY HOME期間”は、B'zとして動画投稿でリスナーを楽しませてくれましたね。なかでも『“HOME” session』は貴重な映像で。

松本:ええ、こんなことでもない限り、なかなかああいうことをする機会はなかったですよね。


──その動画ではプライベートスタジオでの演奏シーンが公開されましたが、あのレスポールのゴールドトップはどういったモデルですか?

松本:たしか、1954年製か1956年製ですね。

──1954年製でしょうか。1956年製はノーピックガードのはずですから。

松本:うん、そうだね。ちょうど今、1956年製を家に置いてるんですけど、あれはピックガードがない。

──1954年製は『Bluesman』のレコーディングでも使用されていますが、最近入手されたものだそうですね?

松本:今回ゴールドトップは2本使っていて、1954年製と1955年製なんですが、どちらも昨年手に入れたんです。最近、バーブリッジのレスポールが好きでね。もともとは、B'zのライブでも使った“オックスブラッド”(Gibson Jeff Beck 1954 Les Paul Oxblood #10)が、僕にとって最初のバーブリッジのレスポールで、そこからですね。



──B'zのアルバム『NEW LOVE』のレコーディングでも多用されていましたね。B'z楽曲も披露されたギター演奏動画『Tak’s Guitar of the Day』ではオックスブラッドの演奏シーンを観ることができます。この動画はギターキッズには垂涎ものです。

松本:毎週1曲ずつこまめに撮影してきたんですが、だんだん宿題みたいになってきちゃって(笑)。

──7曲の演奏シーンですし(笑)。自粛期間中はそうした演奏動画でファンを楽しませてくれましたが、松本さん自身、外出自粛期間中はどのように過ごしていたんですか?

松本:日本でコロナウイルスの感染が拡大していたときには、もう今回のレコーディングは終わっていたんです。それから緊急事態宣言が出たわけですけど、その時期は、いつもよりギターを弾かなかったんですよね、なぜだかわからないですけど。『Tak’s Guitar of the Day』を録ったときぐらいしか弾いてなかったんじゃないかな。曲は書いてますけど。

──気持ちがノらないというか。

松本:やっぱりツアー<Tak Matsumoto Tour 2020 -Here Comes the Bluesman->の開催が延期になったことが残念ですよね。ギターは弾かなかったけど、ときどきレコードを聴いたりしてました。学生時代に聴いていたような、ディープ・パープル、レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイド、ヴァン・ヘイレン、AC/DCとか。

──昔と今とでは、聴いたときに違う感情が湧くものですか?

松本:そうなんでしょうね、きっと。あの頃の気持ちには戻れないから。でもやっぱり今聴いても、本当にいいと思うものはいいですよ。

──個人的には「Good News」あたりにディープ・パープルに通じる空気感を感じました。

松本:それを意識したわけではないですけど、まあルーツにはありますから、そういうものが出てくるんでしょうね。

──では、アルバム『Bluesman』ですが、どんな思いで作り上げたのでしょうか?

松本:最初からこのタイトルありきで創っていたわけではなくて、レコーディングが進んでいくなかで決まったタイトルなんです。僕自身のなかでは脈々とあるんですよね、“ジャパニーズ・ブルーズマンになりたい”っていう気持ちが。そこを目指してやってるところがあるので。みなさんがパッと想像するようなブルーズという音楽ジャンルとは違うように聴こえる曲も収録されていると思うんだけれども、僕のなかでは、今回のアルバムは全部“僕のブルーズ”なんですよね。

──それは1曲目の「BOOGIE WOOGIE AZB 10」から顕著で。ふた回し目の意表をつく音選びとハモりに、“これぞTak Matsumoto”というプレイが溢れていました。

松本:そういうふうに聴こえるなら、うれしいですね。

──松本さんにとって、ブルーズの魅力というのは?

松本:ジャンルとしてのブルーズも好きですし、例えばアメリカ南部の老婆がすごくチューニングの狂ったアコギで、自分の思いを弾き語ってる映像をテレビで観たことがあるんですけど、“こういうところにもともとのブルーズの起源があるんだろうな”って思ったりして。そういうのは勉強になるよね。僕ら世代は、そういう人たちが生んだブルーズに影響を受けたロックンロールや、あるいはもっと後に出てきたレッド・ツェッペリンやエリック・クラプトンを聴いたのが、ブルーズの最初ですからね。いろんなフィルターを通ってきた音楽から影響を受けている。

──はい。

松本:遡って、ロバート・ジョンソンやB.B.キングを聴いたりもしますが、それをそのまま自分が演っても彼らのようにはならないと思うんです。リアリティがないから。好きだからコピーしたというだけでは、自分のことを“ブルーズマンだ”なんて言えないですよね。だから僕は僕なりに、いろんな影響を消化したうえで、僕のなかから出てくるブルーズを聴いていただけたらと思いますね。

◆インタビュー【2】へ
この記事をポスト

この記事の関連情報