【コラム】THE BLUE HEARTS、結成35周年特番放送前に振り返る“衝撃”と“影響力”

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THE BLUE HEARTSの結成35周年を記念した特集番組『THE BLUE HEARTS 結成35周年 WOWOWスペシャル』が、10月から12月まで3ヵ月にわたって放送される。8つの番組より構成される同特番は、ライブ映像作品やミュージックビデオ集など過去に発表された関連作品7本と、彼らの楽曲がテーマとなった映画が放送される予定だ。

◆THE BLUE HEARTS 画像

10月20日に放送されるのは3番組。日比谷野外音楽堂と日本武道館公演の模様を収録した『ザ・ブルーハーツライブ 1987.7.4 日比谷野音 1988.2.12 日本武道館』、バンドの歴史が網羅された『ブルーハーツが聴こえない HISTORY OF THE BLUE HEARTS』、初期の代表曲4曲の映像とデビュー1作⽬のビデオをまとめた『ブルーハーツのビデオ VIDEO CLIP 1987-1989+幻のビデオ復刻版』となる。

これら特番に加えて、10⽉21⽇には35周年を記念した2枚組ベストアルバム『ALL TIME MEMORIALS II』および、25周年時に完全初回生産限定盤として販売された『ALL TIME SINGLES ~SUPER PREMIUM BEST~』のリニューアル盤がリリースされることも決定しているなど、THE BLUE HEARTS結成35周年を記念したアイテムも続々。当時のシーンにおよぼした衝撃は凄まじく、影響力の大きさは今現在も果てしない。THE BLUE HEARTSとはいったいなんだったのか。今あらためて、その魅力を検証したい。

   ◆   ◆   ◆

まるで閃光に撃ち抜かれたようだった。彼らの音を初めて浴びた瞬間のことだ。きっと、日本中にそんな少年少女たちが続出したはずである。

何もかもがまっすぐだった。ビートが全身に突き刺さってきた。甲本ヒロトの声が、言葉が、眼光が、ストレートに迫ってきた。そんな彼は真上にジャンプしていた。しかも真島昌利のギターも、そんな強さをさらにあおるように、まっすぐに鳴っていたのだ。

1980年代の日本のロックシーンにもパンクの興奮は渦巻いていた。しかしインディーズ界隈が隆盛を極めようとする頃、THE BLUE HEARTSはその中でも完全に異なる衝撃を伴って姿を現したのだ。特に驚いたのが、パンクサウンドに乗せられる言葉の感覚である。

“聞こえてほしいあなたにも ガンバレ!” (「人にやさしく」) ──ガンバレって……これは応援歌なのか? パンクって誰かを応援していいようなもんだったのか?

“ドブネズミみたいに美しくなりたい 写真には写らない美しさがあるから” (「リンダリンダ」) ──ドブネズミが美しいだと? もしかしたら、人間なんかより美しい。そういうことなのか?

“キスして欲しい 二人が夢に近づくように キスして欲しい” (「キスしてほしい (トゥー・トゥー・トゥー)」) ──なんてロマンチックなんだ。気恥ずかしい。でも生きていることが素晴らしいと感じる瞬間は、たしかにある。

いや、それまでの日本のパンクだってカッコ良かった。ヤバさ満載の殺気立ったロックを叩きつけてくる上の世代は本当にすごかったと思う。その一方で、世間にはバブルに向かっていく時期のフワフワした空気が蔓延していた。お金持ってないとカッコ悪いとか、正直者はバカを見るとか。若い連中の間でさえ、そんな考え方が当たり前の時代だった。

しかしTHE BLUE HEARTSは違った。笑顔で、普段着のような服で、そのまんまの感情を真っ正面からビュンビュン投げつけてきた。だからTHE BLUE HEARTSには、ねじれた思考回路を正すような清冽さがあった。好きなら好きでいいじゃないか。優しくしたい気持ちがあるのなら、ほんとに優しくしてあげなよ──人を傷つけたりなんかしない、弱い者の心にも寄り添う彼らのロックに対して“優しさパンク”なんて言葉を耳にしたこともあった。そして、いい歌で、最高のビートパンク。そのポップなメロディには、生きる中でのメッセージが込められていた。楽しいのに、聴くたびに背骨に何かがビシッ!と突き通されるような感覚があった。

やがて1988年、THE BLUE HEARTSの人気は「TRAIN-TRAIN」がTVドラマに起用されたことで一気に爆発する。街を歩いていてもヒロトのシャウトが聴こえてきたし、さして音楽好きでもない友達でさえこの曲をカラオケでがなった。実際に世の中では、社会現象にまでなったこの頃にTHE BLUE HEARTSのことを知った人がほとんどだったはずだ。当時、このバンドのことを若者の代弁者だとする報道があったことも記憶している。

あれから長い月日が経って、その間には世界にも、音楽シーンにも、いろいろなことがあった。ヒロトにもマーシーにもきっといろいろあったとは思うが、彼らは今も元気にロックンロールを鳴らしている。

その途中……1990年代半ばにHi-STANDARDが現れた時には“今の若い世代にとってのTHE BLUE HEARTSのような存在になるんだろうな”と思ったし、そして実際にそうなったと思う。そのすぐあとには青春パンクのムーヴメントが勃興し、優しさや思いやりを唄ったMONGOL800は英語詞の「Song For You」で“THE BLUE HEARTSの歌を唄おう”というコーラスを叫んだ。

そういえば数年前、僕は思いがげないところでTHE BLUE HEARTSの歌をライブで聴く機会があった。東日本大震災からの復興イベントでTOSHI-LOW (BRAHMAN / OAU)がリードボーカルをとり、細美武士(ELLEGARDEN / the HIATUS / MONOEYES)や後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)がギターを弾くエセタイマーズというバンドが「青空」を演奏したのである。彼らもTHE BLUE HEARTSの影響を受けたバンドマンに違いない。そこで一緒に口ずさみながら、自分は本家のTHE BLUE HEARTSでこの曲を聴いたことはなかったことを思い出した。

ふと気づけば、僕はヒロトとマーシーに取材で会い、インタビューの席で時々THE BLUE HEARTSの話になったりもする。「THE BLUE HEARTSの頃、狭いライブハウスでやってたら酸欠になっちゃって、目の前が真っ白になったんだよなあ」と無邪気に笑うヒロトの話を聞いてると、「そうか、この人はTHE BLUE HEARTSだったんだ!」と我に返ってしまい、一瞬で緊張したりする。ただ、彼がそういうことを屈託なく話せるのは、あのバンドのことがもはや遠い過去になっているからだろう。ヒロトもマーシーもTHE BLUE HEARTSの歌を唄わなくなって、もう25年以上が経つ。

それでもTHE BLUE HEARTSの音楽は現在でも愛され続けている。いつの時代もテレビのCMからは彼らの歌が流れてくるし(宮崎あおいが唄うシリーズは鮮烈だった)、数々の楽曲は小説やドラマや映画のモチーフになっているほど。音楽チャンネルで当時の映像を目にすることだってある。今度リリースされる記念アルバムも、今までのを全部数えたらもう何枚目になるんだ?と思ってしまうほどだ。彼らへの熱い支持は今もって続いているのである。

今回、WOWOWでオンエアされる彼らの映像を懐かしさとともに観るファンは多いだろう。ライブ映像を観ていて、当時のヒロトがステージと客席との距離や警備について気にしていたことを思い出した。そして彼が爽快なくらいにジャンプを続ける光景を見て、やっぱり若いなあ、と当たり前のことを思ったりもした。さらに、月並みな言い方だが、THE BLUE HEARTSの歌は色あせていない。それどころか、今もってリアルさとともに突き刺さってくることに、このバンドの歌の凄みを、あらためて感じる。

そして……中には、この番組でTHE BLUE HEARTSを初めて体験するという新しいファンもいるかもしれない。あのまっすぐな歌、まっすぐな音、まっすぐな言葉に、初めて接するわけだ。それがその人の人生に、ポジティヴな何かをもたらすといいなと思う。だってTHE BLUE HEARTSの歌は、今もって「終わらない歌」であり続けているのに違いないのだから。

文◎青木 優

■特番『THE BLUE HEARTS 結成35周年 WOWOWスペシャル』

▼『ザ・ブルーハーツライブ 1987.7.4 日比谷野外音楽堂 1988.2.12 日本武道館』
2020年10⽉20⽇(⽕) 夜7:00 [WOWOWライブ]
※数々の伝説を生み出した日比谷野外音楽堂で行なわれた1987年7月4日のライブ映像と、1988年2月12日、日本武道館でのライブ映像をドッキングして放送。

▼『ブルーハーツが聴こえない HISTORY OF THE BLUE HEARTS』
2020年10⽉20⽇(⽕) 夜8:15 [WOWOWライブ]
※ザ・ブルーハーツの歴史を完全網羅。ライブとエピソードで綴る2時間の作品をお届け。

▼『ブルーハーツのビデオ VIDEO CLIP 1987-1989+幻のビデオ復刻版』
2020年10⽉20⽇(⽕) 夜10:30 [WOWOWライブ]
※ザ・ブルーハーツ初期の代表作4曲のプロモーション映像と、デビュー第1作目ビデオ(完全限定版)として発売した貴重な映像3曲分をまとめた作品を放送。

▼『ザ・ブルーハーツ・ライブビデオ 全日本EAST WASTE TOUR'91』
2020年11⽉10⽇(⽕) 夜7:00 [WOWOWライブ]
※バンドシーンの頂点に躍り出たザ・ブルーハーツの、1991年6月12日、13日に東京・NHKホールで行なわれたライブをお届け。

▼『ザ・ブルーハーツの凸凹珍道中』
2020年11⽉10⽇(⽕) 夜8:15 [WOWOWライブ]
※ザ・ブルーハーツの凸凹珍道中ツアーに密着。全国15カ所の会場で撮影したライブ作品をお届け。

▼『ザ・ブルーハーツ ENDLESS DREAMS THE BLUE HEARTS MEET THE MUTOID with ANTI BODY』
2020年11⽉10⽇(⽕) 夜10:15 [WOWOWライブ]
※ミュートイと呼ばれるオブジェの映像と、ザ・ブルーハーツのコラボレーションによるドキュメンタリー芸術作品を放送。

▼『ブルーハーツのビデオ2 VIDEO CLIP 1990-1993』
2020年11⽉10⽇(⽕) 夜11:15 [WOWOWライブ]
※ザ・ブルーハーツ後期のプロモーションビデオ集を放送。ヒットナンバー「情熱の薔薇」からシングル作品としては最後となった「夕暮れ」まで。

▼映画『リンダ リンダ リンダ』
12月放送予定
※高校生活最後の文化祭で“ザ・ブルーハーツのコピーバンドをする”と決めた女子高校生4人組を描く青春バンドムービー。韓国のペ・ドゥナ、前田亜季ら人気の面々が共演。

番組サイト: https://www.wowow.co.jp/bluehearts/

■35周年記念2枚組ベストアルバム『ALL TIME MEMORIALS II』

2020年10月21日(水)発売
MECR-3035 ¥3,545+税
※2CD (DISC1:メルダックside [21曲収録] / DISC2:ワーナーside [21曲収録])
※メーカーを超えてのコラボレーション(トライエム [メルダック] / ワーナーミュージックジャパン[ガーランド])
※全曲最新デジタルリマスタリング
※全曲歌詞付き豪華ブックレット封入
※スペシャルBOX入り


▼DISC1:meldac side
01. パンク・ロック
02. 街
03. 爆弾が落っこちる時
04. 裸の王様
05. ダンス・ナンバー
06. ロクデナシII (ギター弾きに部屋は無し)
07. スクラップ
08. ロマンチック
09. ラインを越えて
10. チューインガムをかみながら
11. 遠くまで
12. レストラン
13. 英雄にあこがれて
14. チェインギャング
15. メリーゴーランド
16. ミサイル
17. 無言電話のブルース
18. 風船爆弾 (バンバンバン)
19. ながれもの
20. ブルースをけとばせ
21. お前を離さない
▼DISC2:WARNER MUSIC side
01. 殺しのライセンス
02. 脳天気
03. 夜の中を
04. 悲しいうわさ
05. 夢の駅
06. 恋のゲーム
07. 真夜中のテレフォン
08. ナビゲーター
09. ホームラン
10. 泣かないで恋人よ
11. HAPPY BIRTHDAY
12. 闘う男
13. 期待はずれの人
14. テトラポットの上
15. インスピレーション
16. 俺は俺の死を死にたい
17. うそつき
18. トーチソング
19. 雨上がり
20. 夜の盗賊団
21. キング・オブ・ルーキー

■リニューアル盤『ALL TIME SINGLES ~SUPER PREMIUM BEST~』

2020年10月21日(水)発売
MECR-4035 ¥4,545+税
※2CD+1DVD/オリジナル発売時と同様の商品形態
(DISC1:メルダックside [16曲収録] / DISC2:ワーナーside [21曲収録] / DVD:Music Video [15曲収録])
※高品質CDのBlu-spec CD2にて再発売(オリジナル発売時は通常CD)
※オリジナル発売日:2010年2月24日
※メーカーを超えてのコラボレーション (トライエム[メルダック] / ワーナーミュージックジャパン[ガーランド])
※過去全シングル曲 A、B面網羅(37曲)
※全曲歌詞付き豪華ブックレット封入
※スペシャルBOX入り


▼DISC1:meldac side
01. 1985
02. 人にやさしく
03. ハンマー
04. リンダ リンダ
05. 僕はここに立っているよ
06. キスしてほしい (トゥー・トゥー・トゥー)
07. チェインギャング
08. ブルーハーツのテーマ
09. シャララ
10. チェルノブイリ
11. TRAIN-TRAIN
12. 無言電話のブルース
13. ラブレター
14. 電光石火
15. 青空
16. 平成のブルース
▼DISC2:WARNER MUSIC side
01. 情熱の薔薇
02. 鉄砲
03. 首つり台から
04. シンデレラ (灰の中から)
05. あの娘にタッチ
06. わーわー <ライブバージョン>
07. TOO MUCH PAIN
08. 泣かないで恋人よ
09. 夢
10. 皆殺しのメロディ <ライブバージョン>
11. 東京ゾンビ (ロシアンルーレット) <ライブバージョン>
12. 旅人
13. 台風
14. 1000のバイオリン
15. 俺は俺の死を死にたい 〈ALTERNATIVE VERSION〉
16. 1001のバイオリン
17. PARTY
18. CHANCE
19. 夕暮れ
20. すてごま <ライブバージョン>
21. 夜の盗賊団
▼DVD
01. 爆弾が落っこちる時
02. NO NO NO
03. リンダ リンダ
04. キスしてほしい (トゥー・トゥー・トゥー)
05. TRAIN-TRAIN
06. ラブレター
07. 青空
08. 情熱の薔薇
09. 首つり台から
10. あの娘にタッチ
11. TOO MUCH PAIN
12. 旅人
13. 1000のバイオリン
14. 夕暮れ
15. すてごま

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