【インタビュー】三上ちさこ、2年ぶりの新作アルバム『Emergence』リリース「そのままの自分でいることが自分にとっての“羽化”」

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■最初に思い浮かんだ自分の歌を愛してくれる人たちの存在
■気付いたら自分自身を励ますような曲になっていました


――アルバムは『Emergence』というタイトルです。「羽化」という曲がいわば表題曲にあたるわけですが、これはどういうきっかけでできた曲なんでしょうか。

三上:これは、山形国際ムービーフェスティバルに行ったとき、成島出監督の『八日目の蝉』という作品を観て、すごく衝撃を受けて書いた曲です。映画では、ある女性が赤ちゃんを誘拐して、その子と生活していく。犯罪だし、倫理的にも社会的にも絶対に許されないことなのに、そこに本当の愛情があるように感じるシーンが沢山描かれていて。正しさってなんだろうと思ったんです。正しいとか、間違ってるとか、本当の関係とか嘘の関係とか、それに囚われてしまうところもあるけれど、生き物が求めてるものって、手を繋いでるときの温かさとか、両手を頬っぺたに当ててるときの柔らかさのほうが大事なんじゃないかって。その中に本当の一瞬ってあるんじゃないかって思って。困惑しながら作った曲です。

――「羽化」という曲名をつけたのは?

三上:柔らかい羽根みたいなイメージがあったんです。曲もそうだし、映画もそうだし、間違ってるんだけどすごく清らかに感じて、神聖な感じがして。そのイメージでつけました。

――「Inner STAR」はどうでしょうか。これは1曲目に収録されていて、アルバムのリード曲的な位置づけになっていますが。

三上:これは実は『ワースポ×MLB』のエンディングテーマを依頼されたときに、プレゼン用に作った曲だったんです。結果「TRAJECTORY-キセキ-」を提出したんですけど、このままお蔵入りになるのかなって思っていたら、保本さんが「これはすごくいいからリード曲にしよう」と言ってくれて。歌詞も当初とは変わりましたね。


――きっかけはスポーツだったけれども、それをもう一度ブラッシュアップしていく中で、自分自身の内側にあるものがモチーフになった。

三上:そうですね。今、自分の内側に何があるのかと思ったときに、最初に思い浮かんだのが、自分の歌を愛してくれる人たちの存在だったんですね。それで自分の音楽を聴いてくれる人のツイッターなどを見たりして、どんな言葉をかけてあげられるのかと、そういうことを考えながら書いていたら、自分自身を励ますような曲にもなっていました。サビでは「僕の中には 僕だけに見える星が輝いている 誰にもその光は消せないんだ そうだろう?」と問いかけている歌詞がある。また「その痛みは いまを生きる君を 苦しくも輝かせる宝物さ 愛してゆこう。」という歌詞もある。これはライブをイメージしながら書いた曲ですね。音楽で繋がっている仲間がいる、だから大丈夫って。そう歌っている場面を想像して書いた曲です。これは早くライブで歌いたいですね。

――『I AM Ready!』というアルバムを出して、ライブをやって、お客さんの顔を見ることのできた経験があったからこそ書けた曲だった。

三上:そうですね。実際にライブで感じたこともそうだし、今年の5月に配信ライブをしたときもそうですね。配信ライブでは、お客さんが思ってること、見てる人の気持ちが文字になってバーッて出てきたときに、今までに感じなかった繋がりみたいなものを視覚で受け取ることができた。今はなかなかライブができないですけれど、新しい繋がりの形もあるなと思いました。


――バラードの「ひかりの淵で ~in the Darkest Light~」はどうでしょうか。

三上:この曲の「君はおしみなく愛されてきた あふれる可能性に満ちた存在なんだよ」という歌詞は、今、みんなに伝えたい言葉ですね。これは以前に身近な人がひどく落ち込んでいたときに、何て言ってあげたらいいんだろうと思って書いた曲なんです。でも、アルバムが完成して改めて聴いていたら、この言葉が自分自身に刺さってきて、泣けてきちゃって。その人に書いたつもりだったけど自分の心に響いて、自分が救われてる。これを聴いた他の人もそうなれるんじゃないかと思いました。

――レゲエテイストの「go on」、ミクスチャーロックの「Super Civilization」など、他にもアルバム収録曲はサウンドもテーマも多岐にわたっている印象です。

三上:「go on」は、いろんな人と出会って、一緒に笑ったり泣いたり、悩んだり、ぶつかったり、ムカついたり、いろんな思い出を作って、いつか星になるという私たちは、神様の立場から見たら、すごくキラキラしてるんじゃないかなと思って書いた曲です。「Super Civilization」は、次々いろんな情報が自分の中に入ってくるネット社会では、そのつど瞬間的に心を動かされて、またすぐ忘れるのを繰り返している。それを歌詞に出てくる「クリオ」という歴史の女神が見ているという曲です。それを、Aメロでは騒がしい感じで、サビはドーンとおおらかに広がる感じで表現しています。

――「聖域」はサウンド的にもアルバムの中では異色ですね。バンドサウンドではなくピアノだけのパーソナルな仕上がりになっている。これはどういう位置づけでしょうか。

三上:これは自分の心の中の誰にも侵せない領域、ごまかしたり取り繕ったりする自分自身すら侵せない本当の自分の心の領域みたいなものを表現したいと思って作りました。自分の出身中学校の体育館に行って、そこに録音機材を持ち込んでレコーディングしたんです。広い体育館でヘッドフォンをしながら、ささやくように歌ったんですけど、同じようにヘッドホンで聴いてくれる人に語りかけるつもりで歌いました。

――「聖域」がラスト曲っぽい響きがあるので、「ホーム・ステイ・ホーム★」はカーテンコールのような感じもあります。これはステイホーム期間にリモートで作ったものということですが。

三上:この曲を入れるかどうかも悩んだんですけど。何年か後にこのアルバムを手に取って聴いたときに「2020年はコロナウイルスの蔓延で大変だったよね」って思い出せるように、入れておきたいなというのがあったんですよね。こういう大変なことがあって、でも乗り越えてきたよなって。音楽って思い出と共にあるじゃないですか。だからこそ、この曲を収録しました。実は、ステイホーム期間に私も曲を書いていて、そっちはシビアな曲だったんです。それを保本さんに聴かせたら、今は毎日家にいて、みんなしんどくなっているから、逆に明るい気持ちになれる曲のほうがいいと。確かにそうだと思って、気持ちを切り替えて作った曲です。

――アルバムが完成して、現時点で2020年を振り返って、どういう年だったと思いますか?

三上:想像してないことが起きて、シンプルな場所に立ち返ることができましたね。2018年に復活してから「自分はこうしなきゃならない」とか「こうあるべきだ」っていう思い込みにがんじがらめになっていた自分がいて。できない自分が見えてきて、すごくしんどかった。でも、いろんな人の話を聞いてるうちに、そうじゃなくていいんだと思えるようになり、もっとそのままの自分でいいんだと、最近はそう考えるようになったんです。それが自分にとっての「羽化」なのかなって思います。

取材・文:柴 那典

リリース情報

New Album『Emergence』
2020年10月7日(水)発売
【初回盤】[CD+DVD]4,000円(税抜)
SLIDE SUNSET : SSSA-1011A
【通常盤】[CD]3,000円(税抜)
SLIDE SUNSET : SSSA-1011B
[CD]
M1.Inner STAR
M2.re:life(Album Mix)
M3.ヌード
M4.ひかりの淵で~in the Darkest Light~
M5.go on
M6.ユートピア(Album Mix)
M7.TRAJECTORY-キセキ-
 NHK BS1「ワースポ×MLB」エンディングテーマ
M8.羽化
M9.Super Civilization
M10.Red Burn
 福島レッドホープス公式応援歌
M11.sNow letteR
M12.SA (Samurai Anthem)
M13.聖域
M14.ホーム・ステイ・ホーム★
[初回盤 Bonus DVD Disc]
2019.12.21 @梅田シャングリラ
「House Of “LIGHT&SHADOW” 2nd」Vol.2(全11曲収録)

ライブ・イベント情報

生配信ライブ決定
日時:10月31日(土)
場所:芸森スタジオより生配信ライブ
*チケットや開演時間などの詳細は追って三上ちさこホームページにてお知らせします

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