【インタビュー】メロディ・ガルドー「心に平静と穏やかさをもたらすには愛が必要よ」

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(C)Laurence Laborie

10月23日、メロディ・ガルドーが5年振りとなるニュー・アルバム『サンセット・イン・ザ・ブルー』をリリースした。最近ではビリー・アイリッシュがメロディ・ガルドーのファンであることをポッドキャストなどで公言するなど、2008年のデビュー以降今も多くのアーティストに影響を与え続けている。

前作『カレンシー・オブ・マン』はアメリカン・ルーツ・ミュージック寄りのサウンドが展開され「歌でオーディオ・ジャーナリズムをやる」という彼女の言葉通り力強いメッセージが込められたアルバムとなっていたが、今作は彼女の出世作となった2009年の『マイ・オンリー・スリル』を彷彿とさせるような美しいオーケストレーションと優しい歌声が非常に印象的で、そこにはラリー・クライン、ヴィンス・メンドーザと再びタッグを組んだことも大きくかかわっている。

現代の抽象表現画を代表するアメリカのパット・スティアによる美しい絵画がフィーチャーされている本作に、彼女がこめたメッセージとは何だったのか。今回はパリの自宅からリモートで行われたインタビューを通じて、彼女がゆっくりと、しかし力強く語ってくれた内容をお届けしたい。


──『サンセット・イン・ザ・ブルー』は素晴らしいアルバムになりましたね。オリジナル・アルバムとしては5年振りとなりますが、制作にとりかかったのはいつ頃なのでしょうか。

メロディ・ガルドー:5年前かしら(笑)。つまり私は常に曲を書いているということよ。ひとりでだったり誰かとだったり。今回もスーツケース1箱分くらいの曲があったから、それらをプロデューサーと一緒に見直したわ。これはこのアルバムに限ったことでなくて、毎回やること。画廊に飾る作品を選ぶみたいに、どれとどれが合うかしら…と全体を見渡して考えるの。そして今年1月からレコーディングを始め、1~2月にかけてスタジオに入った。ところがCOVID-19の状況が悪くなりレコーディングは一旦すべてストップ。それで春に入って、アビイ・ロード・スタジオのオーケストラとリモート・レコーディングをやったの。興味深かったわ。Source Connectというシステムを使い、ロサンゼルスにいるアレンジャーと生で繋いでレコーディングが行えるのよ。『スター・トレック』みたいにヴィンス・メンドーザがスクリーンに映し出されて、オーケストラの演奏を聴いているのよ。まさに『Black Mirror』の世界。知ってる?テレビ番組よ。近未来の話…。このコロナ禍で、もしかしてアルバムは作れないかもと思っていたけど、テクノロジーの進歩がそれを可能にしてくれた。リスクもあったけど、良い点もあったということね。


(C)Laurence Laborie

──今作のジャケットではPat Steirというアーティストによる美しくとても印象的な”Waterfall Painting”が採用されていますが、これにはどのような経緯があったのでしょうか?

メロディ・ガルドー:彼女の名前はパット・スティアといって、このアートワークはWaterfall Paintingシリーズの中の『Untitled 2019(Taipei)』という作品よ。なぜそういうタイトルなのか、その辺りは知らないのだけど、彼女のシリーズの中でも私が最近、最も気に入っているの。彼女の作品はNYのギャラリーLevy Gorvyを経営してる友人ドミニクの紹介で知ったのよ。「フロム・パリ・ウィズ・ラヴ」のプロジェクトをやって以来、他のシンガーとのデュエットがやりたいという思いが強まった。だからアントニオ・ザンブーショとやったり、ドイツでティル・ブレナーにトランペットを吹いてもらったり(これはラリー・クラインのおかげ)。とにかくなるべく人とコラボレーションをしたい…今こそがその時期だと感じたわ。COVIDによって多くの人が大きな経済的なダメージを受けた。音楽家、写真家、ダンサー、画家…私にとってアーティストはみんなファミリー。彼らをサポートしたいと思ったわ。その時に真っ先に頭に浮かんだのがパットだった。それで連絡を取り、何かできないかと聞いたの。

──それでアートワーク起用が実現したんですね。

メロディ・ガルドー:イエスと答えてもらえるとは思ってなかったから嬉しい驚きだった。ルーブルにもMOMAにもTATEにも作品が常設されているようなアーティストなんだもの。その作品は一度もオリジナル以外で再生されたことがなくて、例えばルーブル以外でこの作品を見られるのは私のアルバムだけなのよ。そのことだけで泣きそうに嬉しいし、光栄だし、感動だわ。そして誇りに感じている。彼女の作品を知らない人も多いので、こうしてジャケットにし、私が話をすることで、彼女を支援できるわけだから。素晴らしい女性、フェミニスト、作家、詩人、画家、そのすべてなのよ。音楽ってつくづく絵を描くのと一緒だと思う。使いたい色を選んだなら、あとは自分の感情や動きに絵の具がどう反応して行くかを信じる…ジャズと一緒なの。私達もベース、ドラム、ギターを選び、ひとつになって音を作って行く。彼女の絵はまさにそれをぴったり反映していると感じたの。これ以上のコラボレーションはなかったわ。

▲メロディ・ガルドー「フロム・パリ・ウィズ・ラヴ」。
日本からは寺井尚子が参加したことも話題となった。

──今作のテーマが「愛」だということですが、レスリー・ダンカンの「ラヴ・ソング」を採り上げていたのはそういった意図があっての選曲だったのでしょうか。

メロディ・ガルドー:いえ、あれはラリーが持って来た曲なの。アーティスト自身がプロデュースをしない限り、プロデューサーの意見もアルバムの行方にとても大きいことは忘れてはならないわ。「ラヴ・ソング」だけでなく「ムーン・リヴァー」もラリー、他にも何曲かもラリーが持って来たの。全曲をやったわけじゃなかったけど。初めて「ラヴ・ソング」を聞いた時、私とミュージシャンが数人いて、一度聴いた感覚だけを頼りに、自分たちなりの解釈で演奏してみたのよ。歌詞のシンプルさが自分と似ているなって思い、とても共感できたわ。言うならば、ラリーが私の家の玄関にプレゼントを置いて行ってくれて、それにすっかり恋をしてしまった。そんな感覚よ。「これ素敵!」ってね。

エルトン・ジョン「ラヴ・ソング」

──今年はCOVID-19やBLMのムーヴメントなど、解決されるべき世界的な問題が数多く噴出した年でしたが、これらの問題はアルバムの制作過程においてあなたの音楽に影響を与えたと思いますか?

メロディ・ガルドー:曲の一部はCOVID以前にレコーディングされていたの。でもその後の自粛生活期間中に、もっと「愛」のことを歌う必要を感じ、変更を加えたわ。今、一番必要なのは愛だって思った。入ってくるニュースは本当に怖かった。日本の状況はわからない。アメリカとフランス、ヨーロッパによってどれほど違ったのかもわからない。でも私がロックダウン当初にTVで見聞きするニュースから感じる恐怖心がとても嫌で、使われる言葉も嫌だった。知れば知るほど恐怖心は高まった。それで「恐怖」に対抗する感情はなんだろう?と思った時「自信」だと思った。でもどうすれば自信がつく? 自分を愛せれば自信がつく。つまり足りないのは「愛」。一種の数式よ。心に平静と穏やかさをもたらすには愛…男女の愛だけでなく、他人への思いやり、心の問題、そういう愛が必要だと思ったの。そこで曲を聴き返し、ちゃんとその「愛」ということに共鳴した歌詞やストーリーか曲かどうかを見直し、少し手直しをしたわ。それができたのは良いことだったわ。思いをさらにある方向に向け、歌を歌い直せたことも良かった。このアルバムは一種のスナップショット。アルバムとは常にそういうものよ。

──やはりCOVID-19の影響は大きかったんですね。

メロディ・ガルドー:もしスタートするのがロックダウン以降の3月とか4月だったら、また違う曲を選んで歌ってたのかもしれない。でもすでに軌道に乗ってスタートしていたから、あとは自分の周りの状況に呼応しながら、どうダイヤを磨くかということだった。もちろんアレンジはすべてロックダウン中の作業だったから、変更もあったし、関わった人間全員の心理状態をどこかで反映していたはず。恐怖、疲労感、心配…そこらへんはヴィンスに聞かないと分からないけど、彼の中にそういうものがなかったとは言えないから。ミックスの判断も私たちの心理状態に関係してたかも。もっとストリングスが聴きたいとか、低音が聴きたいとか。これは専門家を呼んで、「こういう状況の人間にはどういう周波数が合うのか」を教えてもらわないといけないわね(笑)。違う状況だったらきっと変わっていたと思う。そしてこのアルバム、私には「ブルー」なアルバムなの。タイトルが『サンセット・イン・ザ・ブルー』だというのも不思議。サウンド的に「黄色」とか「赤」の曲は少なくて、太陽が差し込む瞬間も1~2曲であるけれど基本「曇り空」のアルバムだわ。それは私たちの感じていたことなのかも。雲がかかっていて、先が見えない、不安だというような心理よ。「愛」を語ってはいたけれど、そこで選ばれた色はまさに今の時代を映す色相だった。私自身はあなたと一緒で、外から見る立場でもあるのよ。つまり、エンジニアやアレンジャー、プロデューサーとの共同作業でアルバムを作るわけで、全部私ひとりがコントロールしているわけじゃない。それでもなお(COVID以前とでは)変化は感じられた。どこかに暗さが感じられるの。


(C)Laurence Laborie

──最後にファンにメッセージをお願いします。

メロディ・ガルドー:日本に行けるようになったらすぐに日本に行きたいと思っているわ。また会えるのを楽しみにしています。いつも応援をありがとう。

通訳:丸山京子

メロディ・ガルドー『サンセット・イン・ザ・ブルー』


2020年10月23日(金) 世界同時発売
1.イフ・ユー・ラヴ・ミー
2.セ・マニフィーク
3.ゼア・ホエア・ヒー・リヴズ・イン・ミー
4.ラヴ・ソング
5.ユー・ウォント・フォーゲット・ミー
6.サンセット・イン・ザ・ブルー
7.ウン・ベイジュ
8.ニンゲイム・ニンゲイム
9.フロム・パリ・ウィズ・ラヴ
10.アヴェ・マリア
11.ムーン・リヴァー
12.アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー
13.懐かしき恋人たちの歌 *日本盤ボーナス・トラック
14.リトル・サムシング(feat.スティング)
試聴、購入:https://jazz.lnk.to/MelodyGardot_SITBPR

◆メロディ・ガルドー・レーベルサイト
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