マドンナ、テクノトロニック、アイニ・カモーゼ……知られざる90年代アルジェリアの若者をめぐる音楽事情知る、映画『パピチャ 未来へのランウェイ』公開

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昨年のカンヌ国際映画祭・ある視点部門に正式出品され大きな話題となった映画『パピチャ 未来へのランウェイ』が2020年10月30日(金)よりBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開される。

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本作は、物語の舞台であるアルジェリアに17歳まで暮らし、この映画が長編映画監督デビュー作となるムニア・メドゥール自身の経験から生まれた物語。アルジェリアで1991年に始まった内戦、いわゆる<暗黒の10年>を舞台に、過激派のイスラム主義勢力によって内戦下で横行していた弾圧の真実を、ファッションデザイナーを夢見る少女の視点で劇的かつ瑞々しく描ききっていく。タイトルの“パピチャ”とは、アルジェリアのスラングで“愉快で魅力的で常識にとらわれない自由な女性”という意味。

第72回カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品されるや、全編にほとばしるそのエネルギーで世界を圧倒。媚びず、流されず、自らのために立ち向かう少女達の力強さは観客に勇気を与え、性差による抑圧に対する解放の賛辞だとして話題を呼んだ。しかし、昨年12月に大統領選を控え政治情勢が不安定となっていた本国アルジェリアでは、昨年9月に実施が予定されていた先行上映が当局によって説明なしに中止され物議を醸す事態に。そして未だに本国での公開には至っていない。 主人公の少女ネジュマを演じるのは、アルジェリア出身のリナ・クードリ。本作が初めての本格主演となるが、“パピチャ”を体現した魂の演技でセザール賞で第45回セザール賞で有望若手女優賞を受賞。今年の第73回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション作品であるウェス・アンダーソン監督最新作「The French Dispatch」ではティモシー・シャラメの相手役、2021年フランス公開予定のDIOR全面協力映画「Haute Couture」にメインキャストとして参加するなど、話題作が続々待機中。これから注目したいブレイク必至の新進女優だ。

夢であるファッションデザインを通じて愛する祖国の現実と向き合うことになるネジュマと仲間たちは、イスラム主義の思想が強まる風潮の中で日に日に増していく抑圧を肌で感じながら、それに屈しない“内なる自由”を守り続ける。それを分かりやすく表現しているのが、彼女たちが日常的に聴き、親しんでいる音楽だ。そんな、90年代のアルジェリアの若者をめぐる音楽事情から映画の魅力を紐解く。


映画のオープニングで、ネジュマは親友と大学寮を抜け出し白タクに乗ってナイトクラブに向かう。そこでネジュマがお気に入りの曲としてタクシーのカセットデッキにかけるのが、1989年に発表され、日本でもヒットしたテクノトロニックの「ゲット・アップ/Get Up (Before The Night Is Over)」だ。

ルームメイト達とベルギーのヒップホップグループ 、ベニー・Bが1990年に発表した「Vous êtes fous」を熱唱する寮の部屋にはマドンナをはじめとしたお気に入りのアーティスト達の切り抜きが張られている。本作の予告編でも使用され、ネジュマ達が紆余曲折のすえ実現にこぎつけるファッションショーの場面で使われるのはアイニ・カモーゼによる94年の大ヒットレゲエナンバー「ヒア・カムズ・ザ・ホット・ステッパー」。

ここに挙げた一例だけでも世界中のアーティストが登場するが、こうした楽曲を実際に劇中に使用したことについてメドゥール監督は、「脚本を書いている時から、音楽は自分が聴いていた1990年代のものを使うと決めていました。アルジェリアの若者たちは、世界中のほかの国の若者と同じ音楽を聴いていたんです。彼らと同じヒット曲を聴いて踊り、お祭り騒ぎをしてたの!」と自身のアルジェリア時代の思い出を語る。


監督によると、90年代のアルジェリアの若者は、世界各国の若者達と同じようにマドンナやニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、スパイスガールズなどといった西洋のあらゆるポップミュージックを好んで聴いていたという。さらに、当時のアルジェリアではカナダの男性アイドル ロック・ヴォイジーンが大人気で、彼に会うためにカナダに行くことを夢見る少女達も多かったそう。こうした背景には、80年代に普及したパラボラアンテナを通じてアルジェリアでもそういった西洋のカルチャーに触れられる環境があったという。監督は、「内戦下という社会的環境のもとで文化的にも暗黙の抑圧的ムードがあった一方で、レジスタンスのひとつの方法として、自由を求めて、気分を晴らしてくれるものとして、そういう音楽を聴いていたという部分もあったと思います」と語る。



また、監督は、本作を手掛けることにした動機として、「“あの時代を描きたい”というのが出発点でした。海外では1990年代のテロ映像を目にすることは多いけど、実際の生活は知られてない。だからこの映画ではアルジェリア社会の内側を見せたかったのです。その中心は少女たちの小さな世界、繭のように心地のいい女性たちの世界よ。彼女たちを中心に当時の闘いを描きたかったのです」と本作への想いを語る。

音楽だけでなく、ネジュマ達は輸入品であふれる布地店でお気に入りの服を買い、恋をするなど、ほかの国の若者達と同じように青春を謳歌している。そんな彼女たちの“内なる自由”をぜひ映画から感じてみてほしい。


『パピチャ 未来へのランウェイ』

2020年10月30日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督:ムニア・メドゥール
出演:リナ・クードリ、シリン・ブティラ、アミラ・イルダ・ドゥアウダ、ザーラ・ドゥモンディ
配給:クロックワークス
2019年/フランス・アルジェリア・ベルギー・カタール/スコープサイズ/109分/アラビア語・フランス語・英語/原題:PAPICHA/映倫G
(C)2019 HIGH SEA PRODUCTION – THE INK CONNECTION – TAYDA FILM – SCOPE PICTURES – TRIBUS P FILMS - JOUR2FETE – CREAMINAL - CALESON – CADC

■STORY
1990年代、アルジェリア。ファッションデザインに夢中な大学生のネジュマはナイトクラブで自作のドレスを販売している。夢は、世界中の女性の服を作るデザイナーになること。だが過激派のイスラム主義勢力の台頭によりテロが頻発する首都アルジェでは、ヒジャブの着用を強制するポスターがいたるところに貼られるように。従うことを拒むネジュマはある悲劇的な出来事をきっかけに、自分たちの自由と未来のため、立ちはだかる障害と死の匂いに屈せずに命がけでファッションショーを行うことを決意する―。

◆『パピチャ 未来へのランウェイ』 オフィシャルサイト
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