【インタビュー】シキドロップ、闇から光へ

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■お互い逆の位置にいる

──歌詞で言うと、「生きてて良かった / 一瞬でいいから / 勘違いさせてくれよ」のところが、個人的には一番刺さったというか、いいなと思ったところですね。ネガティブにもポジティブにも取れる、微妙な感覚を歌っているから。

平牧:これはすごい偶然なんですけど、♪一瞬でいいから、で歌が一回終わるので、ドラマではそこで切ってくれていたんですけど、一小節あとに♪勘違いさせてくれよ、が待っているので。♪一瞬でいいから、で終わるとすごいポジティブに聴こえるんですけど、♪勘違いさせてくれよ、まで聴くと、「え、勘違いでいいの?」って、ネガティブっぽくなる。そこの面白さがあったりするんですけど、僕はそんなにネガティブじゃない気がするんですけどね。たとえば、めっちゃ飲んだくれてくだを巻くけど、次の日ケロッとしている人っているじゃないですか。吐き出したからこそみたいな、あのぐらい言いたいことを言ってスッキリしてしまえよって思うんですよね。そうしたら次の日頑張れるじゃんという、そう思うとそれはネガティブじゃない。だけどそこで言いたいことも言わずにうじうじしちゃうと、それこそネガティブだと思うので、そういうところを書きたいと思ったんですよね。

──そこ、まさに、音楽とか芸術の面白いところだと思いますね。言葉や表現は絶望的だったり後ろ向きだったりしても、ポジティブな衝動がそこにはある、みたいな。

平牧:そうかもしれない。

宇野:そういった意味だと、仁ちゃんが曲をいろんな人に聴かせたがるのが、俺はめちゃめちゃ不思議なんだよね。

平牧:自信ないくせに。

宇野:そうそう。「自信ない」と言いながら、家に来た人みんなに聴かせるらしい。

平牧:強制的に聴かせます(笑)。「新曲できました」って、待ってもいないのに聴かせる。曲のほうが自分、という意識がすごくあるんですよ。やっぱり曲のほうが素直なので、普段話しているほうが、嫌われない自分とか、こう見えたい自分を作っちゃう気がします。それよりも曲を評価してもらうほうが、アイデンティティが満たされるというか。

宇野:なるほどね。

平牧:「その服かっこいいね」とか「目がきれいだね」とか言われるよりも、「曲がいいね」と言われたほうが満たされる。生きてていいんだ、みたいな。

──歌詞にあるように、まさに「存在証明を探している」。

平牧:そうですね。認めてほしくて、聴かせるのかもしれない。

──悠人くんは、自分のことよりも、歌をほめられたほうがうれしいとかは?

宇野:いや、歌をほめられるのはあんまり好きじゃないんですよね。いちいち言わなくてもいいことを言うなって感じですね、僕は。こういった言い方をするとおかしいですけど、僕も歌がうまいと思ってるから歌っているわけで、それをわざわざ「歌がうまい」と言われるのって、言わなくていいよって感じです。それよりも、普通に僕の歌を聴いて、自分の生活の一部にしてもらうほうがうれしいです。僕の歌だから聴くというよりは、僕の作ったものを聴いて、その時期の記憶と結びついて、「ああ懐かしいな」といずれ思えればそれでいい。だから僕を立てる必要がないって感じですね。

平牧:先へ行ってるね。

宇野:売れてもいないのにね(笑)。

平牧:でもきっと、どのジャンルでもいるんじゃない? たとえばプロの漫画家さんに「絵がうまいですね」って、失礼じゃないですか。でも「うまいですね」って言われたい人も絶対いるじゃないですか。そう言われたくて描いてきたわけだから。俺はたぶん、永遠にそっちな気がする。

宇野:ああー。

平牧:もしかして大先生とかになったとしても、「やっぱり平牧さんの曲はいいですね」って言われたら、もう有頂天になっちゃう。お酒飲んじゃう(笑)。その2パターンに分かれるんじゃないかな。

宇野:だと思う。だから仁ちゃんの気持ちはまったくわかんないし、たぶん僕の気持ちを仁ちゃんもわかんないと思うし。

──おもろいコンビですねえ。だからいいのかも。

平牧:バランスが取れてるんですよね。お互い逆の位置にいるから、いいバランスで立っていられる。

宇野:でも仁ちゃんが人に聴かせまくる習慣があったから、この曲もリリースまで来たわけで。僕が作っていたとしたら、ずっと家の片隅にあったかもしれない(笑)。だからそういうのも、大事ですよね。

平牧:しかも今回、時間がなかったことが良かった気がするんですよ。スピード感がパワーになった気がしたので。

宇野:いつもシキドロップは、作ってからリリースまでの間がめちゃめちゃ長いんで。でも今回は、考える暇もなかった。

平牧:こういうスピード感のほうが合いますね。鮮度のいいもののほうが、自分も今そこにシンクロしているので、ほめられるとうれしいです。

──時代をとらえた曲なので、みなさん今チェックしてください。

宇野:今すぐに。よろしくお願いします。

▲シキドロップ/「育つ暗闇の中で」

──そして、11月に延期されていたワンマンライブは、残念ながら中止になっちゃいました。今後はどうしましょうか。

宇野:正直なことを言うと、あんまり先のことは考えられてはいないですけど、動画はまた作っていきたいなとは思っています。家にいながら作品が届けられる今の状況は、僕はわりかし気に入っているんですよ。この時代、家にいながらみんなの元に届けられるという面白さを、もっとレベルアップしていきたいですね。

平牧:ワンマンを中止した理由もそうだったんですけど、一番いい形で見せられないんだったら中止しましょう、ということなので。コロナだからこそできる形で届けなきゃ、というのと、時が来るまでじっと待とう、というのと、これも2パターンある気がする。

宇野:「鳴くまで待とう」だね、俺らは。

平牧:今までもそうだったんですけど、一個一個のクオリティをもっと上げたいなというのはすごくあります。いろいろ試行錯誤している段階ですね。

──そうしている今も、仁くんは相変わらず曲を作り続けていると。

平牧:そうですね。ダムが決壊したというか、風呂の栓が抜けたというか。

宇野:あははは。

平牧:最近は、降りるというか、漏れてくるというか、そういう感じなんですよ。

宇野:上から溢れてるんじゃないの?

平牧:作業が追い付かないんですよ。相変わらず歌詞を書くのはめちゃくちゃ遅いんですけど、曲だけはすぐにできます。逆に、前よりもっと早くなった気がする。でもそこで何を書けばいいのか?というのは、いい意味ですごく思うようになってきたので、今これ(「育つ暗闇の中で」)を出せたのはすごく良かったなと思いますね。ここでシキドロップが「みんな頑張ろうぜ」みたいな曲を──そういうものも必要だと思うんですけど──うちらがそれを言っても、今までの流れから言ったら説得力に欠けるかな?と思いますし、最初に言ったようにポジティブにとらえてほしいメッセージとして、こういうほうがシキドロップらしいのかな?と思いますし。これからの時期に出すなら、もうちょっと明るくてもいいのかもしれないと思いながらも、どういう歌詞にしようかな?と考えながら曲を作っていますね。今は。

取材・文◎宮本英夫

「育つ暗闇の中で」

2020年10月9日(金)配信リリース
1. 育つ暗闇の中で
2. 育つ暗闇の中で(Instrumental)

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