【インタビュー】VALSHE、「人間味のある10年」を振り返って

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VALSHEが11月25日、メジャーデビュー10周年を記念したベストアルバム『UNIFY -10th Anniversary BEST-』をリリースする。2枚組となった本作には10年の歩みを辿る全32曲を収録。新曲「UNIFY」と「フィラメント」をはじめ、デビューミニアルバム『storyteller』のリードトラック「Myself」をリアレンジし、新たにレコーディングした「Myself -DECADE-」やデビュー前に動画サイトに投稿して話題となった「右肩の蝶」のカバーの2020年バージョンも収められた。

“統一”という意味を持つタイトルをつけたVALSHEの意図とは? そしてウエディングドレスをモチーフにしたという純白の衣装が意味するものとは? 自分にもファンにも「10年の課程を修了した証明書を渡す気持ちだった」と言うVALSHEに月日を振り返りながらベストについてたっぷり語ってもらったロングインタビューをお届けしたい。

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■新しい発見をしてほしい

──10周年イヤーはコロナ禍もあり、ライブなど、いろいろなことが不確実な日々だったと思います。そんな中、前回のオリジナルアルバム『PRESENT』(2020年4月)を発売して以降、VALSHEさんが感じていたこと、心境の移り変わりがあったら教えてください。

VALSHE:この半年ぐらいは、みなさんとそんなに遠くない心情の変化を辿ったんじゃないかと思うんですけど、当初はこんなにコロナが長引くとは思っていなかったんです。それが3月、4月と日を追うごとに先が見通せなくなってきて、家にいる生活になって、何もできない状況だったのが自分的にいちばん辛かった時期ですね。ライブツアーを中止せざるをえなかったことにもファンの方はすごくガッカリしたと思うし、何らかのアクションを起こしたいんだけど起こせないし、歌も録れなかったので「この状況がこのまま続いたら何もできないで周年が終わる可能性があるな」っていうところまで思い詰めた時もあったんです。そんな中、継続していたのが生放送だったんですけど、「絶対、終わる時が来るからそれまで頑張ろうね」と伝えた自分の言葉をみんながそれぞれ受け止めてくれて「葛藤を抱えながらも希望を持って過ごしています」って言葉もたくさん届いて、それが励みになりました。正直、5月とか6月くらいはベストアルバムを出せないんじゃないかと思っていたんです。

──ベストアルバム『UNIFY -10th Anniversary BEST-』をリリースすることを決めたのはいつ頃だったんですか?

VALSHE:出すことを正式に決定したのは7月に入ってからなんです。当初は『PRESENT』をリリースしたあと、9月下旬にベストをリリースする予定で動いていたんですが、こんな状況と心情のままでは作れないなと思っていたのが、6月で配信ライブを始めて気持ちの整理がついて、できるという想いが固まったのが7月ですね。

──ということはベストアルバムを作るなら新曲は入れたいと思っていたんですね。

VALSHE:もともと入れたいと思っていました。でも、「こんな状況下でどんな言葉を書けばいいんだ?」って。10周年に自分の気持ちに嘘をつくことはしたくない。だったら出さないほうがいいなって。

──それがファンのメッセージを受け取ったことによって変わったんですか?

VALSHE:それもありますし、日々の中で「この10年の中、苦しい状況や心情、越えなければいけない壁はたくさんあったし、今年に限った話じゃないな」ってふとした時に思ったんです。今に至るまでの歩みが100点満点じゃないから出せないっていうことはないって自分の中で腑に落ちたんですよね。

──気持ちを切り替えられたんですね。“UNIFY”には“統一”という意味がありますが、以前からVALSHEさんの中にあったワードなんでしょうか?

VALSHE:ありました。リード曲「UNIFY」の中に“Certify”(証明する)という言葉があるんですが、両方ともベストのキーワードになる言葉でした。全作品をひとまとめにするというよりは「いろんな楽曲、いろんな顔、いろんな姿を見せてきましたけど、その全てがVALSHEなんだよ」っていう意味あいが強いですね。



──5周年の取材でVALSHEさんは「ひとことで言うと戦いの日々だった」って振り返っていました。今はどんな気持ちでしょうか?

VALSHE:5年目以降、今に至るまでという意味ではずっと戦いの日々は続いてますね(笑)。気が休まる時は全然ないんですけど、要約すると今まで生きてきた中で、いちばん人間味のある10年を過ごしてきたんじゃないかなと思っています。この10年はVALSHEの青春なんだなと。

──VALSHEさんにとって青春の定義は?

VALSHE:出会いや別れがあって、大きな喜びも悲しみもあって人と関わることで傷ついたり、何かを得たり知ったりしながら、日々を一生懸命に生きること。「これまでの日々を青春と呼ばずして何と言うんだ?」という気がしています。歌手として活動しているからとか、そういう意味ではなく、一人の人間の成長録という気がしますね。

──ちなみにデビュー前までと今では様々な面で違いがあるんでしょうか?

VALSHE:人やもの、様々な世界に対して心を閉ざした状態からのデビューだったので、デビューしてからの経験や学んだことは音楽以外のことも含めてすごく意味のある日々でしたね。だからこそ楽曲には、人としてごくごく当たり前の心情だったり、生きることそのものや喜怒哀楽を反映させている作品が多いのかもしれません。

▲『UNIFY -10th Anniversary BEST-』初回限定盤

──では、ベストアルバムの曲順、構成について聞かせてください。Disc1は、新曲「UNIFY」で始まり、初期の「Myself」のセルフカバーが2曲目、この5年のVALSHEさんの楽曲が収録されています。Disc2はデビューから5年の曲で構成されていてデビュー前に動画投稿サイトで話題を呼んだ「右肩の蝶」の新録もあり、最後は新曲「フィラメント」で締められています。曲順、選曲の基準となったものは?

VALSHE:選曲の基準に関してはベストアルバムなので、シングルやアルバムのリード曲はしっかり収録したいという思いがありつつ、一度だけ配信限定で出した「White Prelude」(2017年)や、ライブ会場限定で発売したCD「Are you Ready?」(2018年)も収録しました。曲順に関してはディレクターと試行錯誤しながら決めていったんですが、5周年のベストアルバムの時のように時系列で並べるのは面白くないと思ったので、逆の順番にしてみようって。人間って時系列だと追えるんですけど、逆にするとうまく追えなくなるんですよね。

──脳がついていけなくなるんですかね。

VALSHE:そう。脳が混乱するらしいんです。自分も逆の順番で聴いてみたからこそ気づいたことや新鮮だったことがあったので、既にVALSHEの情報をたくさん持っている方たちこそ、今一度、今回のベストを聴いて新しい発見をしてほしいなって。ハッとするものに変えられる順番を検討した結果、この構成になりました。

──なるほど。タイトル曲「UNIFY」はサビの高揚感と力強さが半端ないなと思いました。ラウドな要素とゴスペルのテイストを感じましたが、曲を作った時のエピソードを教えてください。

VALSHE:「UNIFY」は2年ぐらい前から存在していた楽曲なんです。昨年のシングル「「SYM-BOLIC XXX」」の制作に入る前にVALSHEの100曲目にふさわしい楽曲のコンペを、サウンドプロデューサーやずっと作品に曲を提供してくれているdorikoさんと開催したんですけど、その時に持っていった曲で……。でも、自分が作った曲をそこで客観的に聴いたら「100曲目には重すぎるし、自分の曲だけ周年感が強いな」と思ったので「この曲はとっておこう」って。

──アニバーサリーイヤーにとっておいた曲なんですね。

VALSHE:ええ。その時点で編曲に近い作業もしていたので、実はイメージ的には大きくは変わっていないんです。デモの時点から荘厳で重いサウンドがしっかり見えていたので再構築する必要がなかったんですね。2年という時間があった分、微調整したり、よりブラッシュアップを試みる時間もあって、しかるべきタイミングでようやく出せたという気持ちですね。

──重いというのは重厚感があるということでしょうか?

VALSHE:そうです。重厚感、荘厳感。VALSHEがステージに立って歌っている姿が見える楽曲になったと思います。

──サビで“おまえに捧げる喝采の歌を”と歌っていますが、“おまえ”はVALSHEさん自身のことですか?

VALSHE:そこはファンに対して書いた歌詞なんです。10周年を迎えて「VALSHE、おめでとう!」と言われる機会が増えたんですが、自分の感覚としては「祝われるべきはファンなのでは?」と思っているんです。この半年間のつらかったことだったり、心情の変化があったからこそ、今回のベストアルバムにちゃんと着地できたし、ファンとの相互関係を原動力にして曲が生まれた過程を汲めば、サビの1行目にはファンへの想いを書きたくて。“この身体を通り過ぎるすべてを必然と断言しよう”という箇所にはいいことも悪いこともどんな状況も全て受け入れた上でまっすぐ立つ姿勢を表現したかったんです。

──先ほど“Certify”が大事なキーワードだったとおっしゃっていましたが、そこに込めた想いというのは?

VALSHE:“Certify”はタイトル曲だけではなく、ベストアルバム全体のことも含む言葉で、今回の作品自体に証明書のような感覚があるんです。自分にとってもそうだし、受け取るファンに「10年の課程を修了しました」じゃないけど、証明書を渡すような気持ち。「自分たちはこういうものを作って、こういう活動をしていろんなことを超えてきました。よく頑張りましたね」っていうような。そういう意味でも大事なキーワードなんです。

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