【インタビュー】果歩、女の子の憂鬱に捧ぐ弾き語りEP

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今年は3ヶ月連続で弾き語りのデジタルシングルをリリースし、ソングライターとしても、シンガーとしても、着実にステップアップした姿を見せてくれた果歩。彼女の原点でもある弾き語りはライブにおいても好評で、11月15日に行われたワンマンライブでもしっかりとオーディエンスの心を掴んでいた。今回は約1年ぶりに行われたそのワンマンライブの手応えに加え、最新作となる弾き語りEP「女の子の憂鬱」についてインタビュー。優しさと鋭さを併せ持つ21歳の感性にフォーカスしてみた。

  ◆  ◆  ◆

■優しくしてあげられるようなEPに

──11月15日に行われたリリース記念の弾き語りワンマンライブ<女の子の憂鬱>。やってみてどうでした?

果歩:楽しかったけど、めっちゃ緊張しました。ワンマンは配信で何度かやりましたが、お客さんを前にしてのワンマンは1年ぶりだったんです。去年の10月に「水色の備忘録」を出して、20歳記念のリリースパーティーみたいなライブをやって以来だから手が震えちゃって(笑)。

──あれは下北沢SHELTERでしたね。今回の弾き語りワンマンに向けて、改めて自分のライブというものに対して考えたりもしました?

果歩:そうですね。曲の構成もしっかり考えたし、私はMCが苦手だからそこもしっかり考えて臨んだんですが、いざ本番が始まると、ライブの空気感みたいなのを思い出すのがちょっと大変だったというか。(その感覚を)忘れていたわけじゃないけど、「あ、そうそう。この感じ」ってなるまでに、ちょっと時間がかかった気がしました。あとはお客さんもマスクしてるし、動きもないから、「(会場の)空気、硬いかも…」って思っちゃって、そっちに引っ張られそうになりました(笑)。

──でも、双方の意識がどんどん集中していきましたよね。配信で見ていても、それは伝わってきました。

果歩:良かった。きっとお互いの緊張がほぐれたから、いい感じに持っていけたんだと思います。

──そういう緊張感って、ライブを始めた頃の感じとも違うんでしょうか。

果歩:私、あまり緊張しないんですよ。ステージに上がってお客さんを前にしてやっと「あ、緊張感ある…かも」くらいだし、最初のライブの時も、緊張より楽しいっていう気持ちの方が勝っていたから。

──それでも緊張したってことは、余程のことだったんでしょうね(笑)。でも今は、そういうアーティストも多そうな気がします。

果歩:たぶん、お客さんの期待みたいなものをひしひしと感じているし、それに応えなきゃっていう気持ちもあるからだと思います。しかもライブをやってない期間が長かったから、思いがけず「あれ?自分、大丈夫かな!?」みたいな不安を感じたりもして。

──かと言って、無理にテンションを上げようとすると空回りしちゃうし。

果歩:そうそう。ライブは楽しいけど、あの日は本当に難しかったです(笑)。


──MCでは、果歩さんがこれまでもずっと大切にしてきたライブ、そしてライブハウスという場所への思いも語っていましたね。

果歩:みんなそうかもしれないけど、こんなにライブができなかったのはライブ活動を始めてから初めてだったんですね。お客さんを入れてライブをするっていうのが当たり前じゃない状況になってだいぶ経ちますけど、その期間にいろいろ考えて、いろんな曲を書いたんです。その中のひとつが、「下北沢南口商店街」という曲で。

──あの日も歌われていましたね。

果歩:はい。普通にライブができなくなって、今までよく行っていた下北沢にもあまり行かなくなったし、ライブハウスにも行けなくなった。でも私にとってライブハウスは、生きてる心地がするじゃないけど、肯定されているような気持ちになる場所だなって思ったんですよ。そのライブハウスのステージの上なら、一番の私で、胸張っていられる。目の前には聴いてくれる人がいて、ライブハウスのスタッフの人がいて、本当になくなって欲しくない大好きな場所なんです。その中でも下北沢がなかったら私は今歌ってないかもしれないし、大切な人とか場所とか、全部下北沢が繋いでくれたなって、そんなことを考えながら作ったんです。

──いろんなことが当たり前じゃなかったんだなと思うと、大好きなライブハウスで、心を込めて作った楽曲が歌える、聴けるというのはすごく幸せなことなんだと痛感します。

果歩:本当に。…ライブハウス、ないとイヤですよね(笑)。

──同感です。そしてもうひとつ、頑張ろうとか元気出してではなく、自分の音楽が誰かの憂鬱な気持ちに「寄り添えたら」と言っていたのも印象的でした。果歩さんの、音楽に対する想いの体温が伝わってくるようで。

果歩:私は曲を作る時に、テーマを決めて作るのではなく、日頃思っていることを思った時に作るっていう感じなんですね。だから今回も、作ってから客観視して初めて「こういう作品になったんだな」という感じだったんです。

──それが「女の子の憂鬱」と名付けられた今回のEPですね。

果歩:そうです。今回はライブの前にいろいろとインタビューをしていただく機会があったんですが、その分、いつもより多く作品自体や今回のライブというものに向き合うことができたんですね。その中で、私自身がそうであったように、誰かが悲しい気持ちの時はそっと寄り添ったり、夜の終わりに「とりあえず明日も生きてみるか」って思えるような、優しくしてあげられるようなEPになったんだなって思えたんです。その気持ちを、ライブでも伝えられたらなって思ったんですよね。

▲果歩/「女の子の憂鬱」

──そのライブも、作品も、すべて果歩さんの弾き語り。レコーディングはどうでした?

果歩:最初は歌とギターを一緒に録ろうと思って「楽園」から始めたんですが、ギターが苦手なので全然ダメで(笑)。それで、全部別録りすることにしました。ミックスの時は1曲1曲のイメージを大事にして、例えば「楽園」は広がる感じの音響にしたいからちょっと空間を作って欲しいとか、「朝が来るまで、夢の中」は部屋で歌っているような生活感があるといいなと思ったので、距離感の近い感じで歌を前に出してもらうなど、相談しながら作っていきました。シンプルだからこそどうしようかって、そこはすごく考えましたね。

──6月からの3ヶ月連続配信の楽曲(「きみは美しい」「街と花束」「ロマンスと休日」)も含まれていますが、同じ時期にレコーディングしたんですか?

果歩:いえ、別々です。あの3曲は「やっぱり弾き語り、いいね」って評判が良くて、私もそこで手応えを感じたというか。私のこのスタイル──ずっと大事にしてきた弾き語りはちゃんと「いい」と思ってもらえるんだという自信にもなり、スタッフの方に相談したところ、デジタルリリースという形ですがEPとして出せることになったんです。だからレコーディングは夏くらいにやっていました。





──しかしこの「女の子の憂鬱」、悔しいくらいいいタイトルですね(笑)。

果歩:嬉しい。いやぁ、いいタイトルを思い付いちゃいました(笑)。

──(笑)。憂鬱というワードは、作品になった途端にすごくキャッチーになりますよね。メランコリーとかメランコリックもそうですが。

果歩:そうそう、そういうのすごく好き。大っ好きです。

──これは「女の子の憂鬱」という1ワードで思い付いたんですか?

果歩:はい。いろいろ考える中で、フィーリングで。「女の子の憂鬱」って、言葉の意味というよりイメージ映像みたいなものが強いんですよね。(左手で頬杖をついて、右手で煙草をくゆらす仕草で)こういう感じ。憂鬱だけど決して悲観的じゃなく、どちらかといえば未来を向いている感じで物思いに耽っていて、「…とりあえず、煙草吸ってからまた頑張るか」みたいな。今はちょっとダルいけど、これ終わったら楽しいことしよっかなみたいな感じというか。

──諦めてはいないんだ。

果歩:そう。仕切り直して「頑張ろう!」じゃなくて、「楽しいこと、なんかまたあるっしょ」みたいなラフな感じ。

──「ヨルニ」という曲の歌詞に「今夜を越せたなら 誰かに褒められたいな」とありましたが、個人的には、これこそ女の子の憂鬱の正体であり、答えのような気がしました。

果歩:まさに。私、毎日思ってますから。「今日頑張ったら、誰か褒めてくれー」って、いつも思ってる(笑)。いや褒められたいですよ、できれば。

──同じ褒められるにしても、家族とか友達とか彼氏とか、立場によっても違う気がするけど、果歩さんは今どこを求めているのかな(笑)。

果歩:すっごい優しい人。本音を話せるような人に出会って、甘やかされて、毎日褒められたい(笑)。

──でも果歩さんは、これまでそういう距離感で人と付き合うことはあまりないって言っていましたよね。

果歩:はい。だから、そういう人を求めちゃうのかも。心からめちゃくちゃ信頼して全部話せるような人にあまり出会えたことがないから、逆にそれなりの距離を持っていろんな人とも話せるし、「褒めてよ」なんてことも冗談では言えるんですよ。

──でも本当に「この日を越えたら 褒められたい」みたいなことを思うことだってあるわけで。

果歩:そう。でもきっと本当のところを言える人があまりいなかったから、さっきみたいに漠然と誰か優しい人とか、心から信頼できる人に出会えたら毎日でも褒められたいとか、そういう答えになるんですよね。

──女の子にとっての憂鬱って、さっき果歩さんが言った「未来を向いている感じ」という表現にもあるように、日々を生きるためのガソリンというか、エネルギーになっているのかもしれないですね。

果歩:そうですね。めちゃくちゃわかります。私も曲を作る時は、マイナスの感情の方が書けることが多いんですよ。だから幸せになりすぎると、それはそれで困っちゃうのかも(笑)。

──なるほど、だからさっきの話に繋がるんですね。

果歩:そう。人に対してどこか、自分の本音を隠しちゃうみたいなのもそういうことなのかなって。ものすごい幸せというか、そういうところにゴールしちゃったら私どうなるんだろう?みたいな気持ちって、女の子は必ず持ち合わせている気がします。私も生活していて、この気持ちはさらに更新できるのかな、それともここで終わっちゃうのかな、みたいなことはすごくあるし。

──女の子は今、みんな頷いていると思います(笑)。

果歩:難しいですよね(笑)。

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