【コラム】吉澤嘉代子はやっぱり素敵な“魔女”

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吉澤嘉代子が、日本クラウンに在籍していた5年間の集大成となるコンピレーションアルバム『新・魔女図鑑』を11月25日にリリースした。本作に寄せて音楽コンシェルジュのふくりゅう氏より、吉澤嘉代子の魅力を語るコラムが届いたので紹介したい。

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吉澤嘉代子さんの存在を知ったのは、2010年3月、ヤマハ主催の音楽コンテスト『The 4th Music Revolution(2010年度)』でした。当時はカタカナ名義でバンドスタイル、ヨシザワカヨコとりんりんズとしてグランプリとオーディエンス賞を受賞。その前年『The 3rd Music Revolution(2009年度)』で筆者が秋元康さんと一緒になぜか審査員を担当していたこともあり、コンテスト自体に興味を持っていたのでした。

この全国規模で開催された『Music Revolution』というコンテストからは、ROTH BART BARON、さユり、おおたえみり、ORESAMA、中嶋イッキュウ、BLUE ENCOUNT、山崎あおい、夜の本気ダンスなど、今から振り返ればそうそうたるアーティストが世に誕生しています。そんな第4回目のグランプリが吉澤嘉代子さんでした。

その後、吉澤嘉代子さんとは、2014年4月23日に当時のレコード会社のスタッフから取材前に顔合わせをということで原宿神宮前交差点そばにあった「ダブル トール カフェ原宿店」で直にお会いしました。13時半にお店で待ち合わせて、ちょっと奥まった手前角の席で。挨拶をしたことを覚えています。たぶん事前にスタッフの方と打ち合わせされていたのか、早めに入った瞬間、まだパスタを食べられていたことを覚えています(苦笑)。

ご自身は人見知りするタイプと言われながらもトークは魅力的で、2014年5月14日に、日本クラウン株式会社と株式会社ヤマハミュージックアーティスト、株式会社ヤマハミュージックパブリッシングによる新レーベルe-stretch RECORDSよりリリースされるミニアルバム『変身少女』についてお話を伺ったり、2013年6月5日にリリースされたインディーズ時代の名盤1stミニアルバム『魔女図鑑』についてインタビューをしました。出身が埼玉県川口市とのことで、僕は浦和市育ちだったのであるあるな埼玉トークや、敬愛しているという井上陽水のお話やお好きな小説のお話などもしました。すでに独特のアーティストオーラがありまして、けっこう僕の方が緊張していました。でも、翌日、ツイッターで取材の感想をメッセしてくれるという優しい方なんです。ここで書いた記事は、たしかプロモーション用の紙資料に掲載されたのかな?

そういえばその直後、筆者が担当していたYahoo!ニュースで“リリックビデオ”についての記事を寄稿しまして、インディーズ時代の吉澤嘉代子「未成年の主張」という楽曲をフックアップして紹介したら、Yahoo!トップへ引っ張られました。手作り8ミリ映画風で、ボブ・ディランへのリスペクトなのか、紙のノートブックを使った洒落た演出が目を離せない作風が素敵だったのです。まるで映画のような作品でしたね。


そういえば、音楽年表に残る女性シンガー・ソングライターのレジェンド級のアーティストは、みな“魔女っぽい”雰囲気を持っています。ユーミン、大貫妙子、矢野顕子、YUKI、椎名林檎、aikoなど枚挙にいとまがありません。そんななか颯爽とシーンに登場した吉澤嘉代子。彼女は子供の頃、魔女に憧れ魔女修行をしていたと聞いて、なるほどと。そもそも、インディーズ期にリリースしたアルバムが『魔女図鑑』であり、今回、2020年11月25日にクラウン時代の作品を総括する集大成コンピレーションアルバムのタイトルは『新・魔女図鑑』なんですよね。うん、いいタイトルです。


こうして吉澤嘉代子は、2014年5月14日にデビュー・ミニアルバム『変身少女』をリリース。本作に収録されたリード曲「美少女」のミュージックビデオでは、映像で女の子の二面性を表現。心情の変化を一人二役で演じ、歌謡センス溢れる爽快なポップチューンに仕上げています。ここで、気がついたのですが彼女は自分の心情をストレートに吐き出すタイプのシンガーのみならず、物語を生み出すことに興味があるクリエイター気質の高いアーティストだったのでした。


その後、誕生した大傑作アルバムが2015年3月4日にリリースされた1stアルバム『箒星図鑑』。幼少期、魔女にさらわれたという悪夢がいつの日か憧れへと変わり、魔女修行をしていたという子供時代の吉澤嘉代子。そんな彼女もいつの日か大人になり、忘れかけていた“魔法”を取りもどすために書いたという楽曲、それがイントロから沸き起こる高揚感がたまらない大名曲「ストッキング」。そして17歳の頃に書かれた曲「泣き虫ジュゴン」など、1曲目から畳み掛けるように繰り広げられていく、現実と妄想世界を行き交う13編のストーリー。


吉澤嘉代子のターニングポイントがいつだって聞かれたら、2枚目のフルアルバムとなった2月27日にリリースされた『東京絶景』なのかもしれません。妄想少女のドタバタ劇からひとまわり、本作では日々の暮らしを舞台に“日常の絶景”を歌っています。誰しものフィルターを通じて記録される日常は、ふとした瞬間に絶景となる。うつくしいだけではない風景。なかでも、瞬間の美学を切り取った「綺麗」という素晴らしきポップミュージックの存在の強さ。エバーグリーンであり、2020年のいま聴いたって最高な世代を超えてグッとくるポップチューンなのです。優れたシンガーソングライターは時代を写す鏡。日常を切り取り、歌とメロディーに乗せてアートを表現していくのです。


そして、2017年3月14日には、吉澤嘉代子アルバム初期3部作の集大成3rdアルバム『屋根裏獣』をリリース。彼女の真骨頂である、妄想世界、物語性など“吉澤ワールド”が爆発した大作が完成した1枚。


2018年11月7日には、バカリズム作ドラマ『架空OL日記』主題歌「月曜日戦争」を含む “主人公の性(せい)と性(さが)”を表現しようと試みた4thアルバム『女優姉妹』をリリース。後に、夏から秋にうつりかわる日、季節の中に取り残されてしまった朝帰りの女の子の歌「残ってる」をきっかけに、作家としての評価もうなぎ登りに。


魔女になりたかった、ちょっと夢見がちな少女が大人になり、ほうきをギターに持ち替え、70年代をルーツとする魔法のような新しい音楽で心ときめくポップなサウンドで表現するラブリーなオトセカイ。彼女の作品は常に“楽曲を聴いたリスナーが主人公になってほしい。その人の恋を投影してもらえたら”というほのかな気持ちが込められているように思います。そう、ベストアルバムかのように5年の歴史を総括するコンピレーションアルバム『新・魔女図鑑』を部屋で大きな音でかけてみると、日常生活がちょっとだけ素敵な雰囲気へ空気や質感へと変わっていくのです。


ちなみに、吉澤嘉代子さんはこれまでインディーズ時代にリリースした1stミニアルバム『魔女図鑑』に収録された6曲を少しずつ、後のアルバムなどに散りばめてこられたのですが、今回ついに「らりれるりん」を再録しました。ハタチの頃に作った楽曲だそうです。好きな人からの電話を待っていると、なんでもかんでも電話のベルに聴こえてしまうという楽曲。ちょっとファニーなんだけど、わかるなあっていう吉澤嘉代子さんらしい作品性なんですよね。10年近く経って聴いてもあの可愛らしさが新鮮に伝わってくるのだから不思議です。音楽は魔法。やっぱり、吉澤嘉代子さんは魔女なんだなあ。

文◎ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

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コンピレーションアルバム『新・魔女図鑑』


2020年11月25日(水)発売
■初回限定盤(CD+DVD)
CRCP-40614 ¥5,000+税
■通常盤(CD)
CRCP-40615 ¥2,727+税

[CD] ※初回盤・通常盤共通
01. らりるれりん
02. 未成年の主張
03. 美少女
04. 月曜日戦争
05. 化粧落とし
06. ケケケ
07. 恥ずかしい
08. 綺麗
09. よるの向日葵
10. 残ってる
11. がらんどう
12. 東京絶景
13. 泣き虫ジュゴン
14. ストッキング
15. movie
16. えらばれし子供たちの密話
17. 地獄タクシー
18. ぶらんこ乗り

[DVD] ※初回限定盤のみ
女優ツアー2019
2019年3月17日 昭和女子大学 人見記念講堂
◆魔法の鏡
・鏡
◆物語の主人公
・怪盗メタモルフォーゼ
・屋根裏
・えらばれし子供たちの密話
・月曜日戦争
◆恋する主人公
・キスはあせらず
・アボカド
・洋梨 feat.弓木英梨乃
・恥ずかしい
・よるの向日葵
・残ってる
・真珠
◆美しい主人公
・必殺サイボーグ
・シーラカンス通り
・ちょっとちょうだい
・地獄タクシー
◆魔法の鏡の正体
・女優
・最終回
・美少女
・洋梨 feat.たなかみさき
・雪
・ミューズ

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