【インタビュー】ポルカドットスティングレイの在り方「求めてくれる限り」

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▲雫(Vo&G)

3rdフルアルバム『何者』をリリースしたポルカドットスティングレイ。前作『有頂天』から約1年10ヶ月振りのフルアルバムとなる本作までの間に、バンドは初の日本武道館ワンマンを即完させ、多方面でタイアップを獲得。様々な場所でその曲達を耳にした。結果、『何者』に収録されている楽曲ほぼすべてにタイアップが付いているところは、間違いなくポルカの音であり、その存在が求められている事実を物語っているひとつの証左になっている。

そんな好況を物語る『何者』は、ギターロックバンドという枠組みをぶち壊した前作以上にバラエティ豊か。目まぐるしいほどに色とりどりの表情を見せていくポップミュージックの数々に身を委ねたくなるのと同時に、そのあまりにもジャンルレスな展開に「この人達、マジで何者?」と、ある人には疑問を、またある人には興奮をもたらせる仕上がりになっている。そんな会心作のこと、そして様々な出来事が起こった2020年について、雫(Vo&G)に話を聞いた。

  ◆  ◆  ◆

■「ライブ」というものをすごく考えた

──アルバムタイトルの『何者』というワードはいつ頃出てきたんですか?

雫:いつもタイトルは最後のほうにノリで決めるんですけど、今回は『新世紀』(4thミニアルバム/2020年1月)を出す頃には、自分の中では決めてましたね。曲の振り幅とかタイアップの数とか、だいたいこんな感じになることがわかったので、観た人や聴いた人が「マジでこいつら何者なんだ」「もうバンドでもないやん」みたいに思うだろうなと。その台詞を予想して、それをそのままタイトルにしてみました。

──ちなみにですけど、『新世紀』に収録されていた「女神」に〈結局さ、人間さ「何か」じゃなきゃ 生きていけないのさ〉という歌詞がありますけど、そこって何かちょっと関係あったりするんですか?

雫:ほんとだ。あの曲はドラマ『左ききのエレン』の主題歌で、作品のテーマが自分とは何者なのかとか、天才じゃない人間に生まれてしまった主人公が、何かを成し遂げて何かにならなければって必死にもがく、その姿を書いた曲なんですけど……確かに『何者』のコンセプトとちょっとかぶっちゃってますね(笑)。



──たまたまそうなった感じだったんですね。今作の「さて、私たちを何者としようか」というキャッチコピーもビリビリきました。挑発的な感じがあって。

雫:こういうときにちょっとビッグマウスしちゃうんですよね(笑)。

──いや、アルバムを聴けばこれがビッグマウスじゃないことはわかりますよ(笑)。

雫:確かに「何なの!?」みたいな感じではあるんですけど。キャッチコピーはいつもアートワークを入稿するときに決めるんですよ。CDのタスキにいつも入れているので、そのデータを作っているときに考えるんですけど、今回もビッグマウスで行くやろ!って、ノリで決めました(笑)。入稿で追い詰められているときに出てきたものではあるけど、結構気に入ってます。

──そういった挑発的な部分もありつつ、この言葉って自問自答とも取れるよなと思ったんですよね。自分たちは何者なんだろうかっていう。

雫:確かに。毎作品そうなんですけど、どこまでバンドの枠にとらわれずに幅広いニーズに打ち返していけるかっていう戦いでもあるんですよ。そんな感じだから「どこまでやれるのかな、我々は」みたいところも、もしかしたらあるのかも。とは言ってもノリで考えたので(笑)、そこまで深く考えていなかったけど、わりかし自問自答はしているかもしれないですね。



──言ってみたら、今年はコロナウイルスの問題があって、自問自答する機会が多かった年でもあるのかなと。バンドとしては、幕張メッセからスタートする過去最大規模のツアーや、来年の代々木第一体育館公演も中止になってしまって、進もうとしていた道をすべて叩き潰されてしまった年ではあったと思うんですけど。

雫:やっぱりライブがなくなったのはすごく大きな出来事だったし、それぐらい大きなことが起こると、今まで当たり前のようにやっていたライブに対してすごく考えましたね。ウチは幸いライブでお金を稼ぐタイプではないから、新規のライブが組めないことによっての数字面での打撃はあまりないんですよ。でも、お客さんが会いたいと思って、我々の演奏を観たいと思って楽しみにしてくれていたから、当たり前のように会いに行っていたわけで、それができないって言われたら、我々はどうしたらいいんだと。でもお客さんは我々の姿を観たいと思ってくれている。マジでどうしようと思ったんですけど、オンラインライブの流れが始まったじゃないですか。

──はい。

雫:他のバンドがやっているのを観て、確かにオンラインライブはいい手かもしれないと思ったけど、いわゆる「ライブハウスでやるオンラインライブ」をウチがやるのは違うなと思って。これは個人的な意見ですけど、ライブハウスのステージでやる演奏やセットリストって、ライブハウスで観ているときに最大化されるものだと思っていて。目の前で観て、あのデカい音響で、身体に振動を浴びながら聴くのがいいものなのではと思ったんですよね。だから、ライブという事象を分解していったんです。

──おおー。なるほど。

雫:お客さんは何を求めてライブに来るのかというのは外したらいけない部分としてありつつ、ライブの良さってなんだろうと。それを映像で無理なく達成できる部分と、達成しようとしないほうがいい部分に分けて。それと、映像の良さ。全員最前列とか、観ている位置で見え方が変わったりしないとか、そういう分析結果をしっかり反映して、最高のシナジーを作り出したオンラインライブをやろうと思って、誕生日のとき(10月15日に開催された<ポルフェス48 #教祖爆誕 オンライン>)に初めてやりました。だから「ライブ」というものをすごく考えた1年でしたね。

──とにかく徹底的に分析されたんですね。

雫:直感で、オンラインライブはライブ寄りじゃなくて、MV寄りにしたほうがいいと思ったんです。それで、そもそも映像コンテンツを観ている人は平均してどれくらいの時間耐えられて、スマホで観ている人が何割、PCで見ている人が何割で、あとはイヤホンやヘッドフォンをしているのかしていないのかっていうデータを今回協力してくれた会社に出してもらって、そこからすごく緻密にセットリストを決めました。今までのライブのセトリの中で圧倒的に一番考えましたね。武道館のときより全然考えた(笑)。


──その有料配信ライブをする前も、3月には幕張メッセ公演が中止になったことを受けての<ポルフェス47 #エア幕張>や、「FREE」を配信したりと、ライブができない状況に対してのアクションも早かったですよね。

雫:早かったですね。「幕張中止……最悪……」ってなることもなく、できないものはしょうがないから、じゃあ次に何しようかって。<#エア幕張>はシンプルなスタジオライブを4曲無料で配信した形でしたけど、あのときに日本のTwitterトレンド1位、世界3位になったことで、絶対にオンラインライブをワンマンでやろうって思ったんですよ。みんなすごく興味を持ってくれているんだと思ったので。

──「FREE」に関してはいかがです? 『何者』にも収録されていますけども。

雫:ウチは基本的に案件が来てから曲を作るんですけど、コロナの期間ってクライアントさんたちの活動も止まっているから、タイアップの話が来なかったんですよね。でも、お客さんも不安になっているかもしれないから、何か曲は出そうと。で、タイアップがつかないのであれば、お客さんにどんな曲が欲しいか聞くのも最低限にして、私が考えていることを歌詞に書いて、メンバーの楽器の音だけで構成しようと思って作ったのが「FREE」です。今回のアルバムの中で、自分の気持ちを書いているのはこの曲だけですね。いつもあまりライブのことを考えて曲を作らないんですけど、やってみたらわりとライブ映えする気もしているし、部屋でひとりで聴いてもらうのにダンスチューンっていうのも、それはそれで意味のある曲になったかなって。で、外出自粛が解除されてからババババッ!と一気にタイアップの話が来て、そこからの出来事は忙しすぎて覚えてないです(笑)。



──怒涛の日々だったと(笑)。『何者』は「化身」と「FICTION」がリード曲になっていますが、「FICTION」はタイアップが付いていない曲ですけども。

雫:この曲、本当はタイアップが付いてたんですよ(苦笑)。曲がパケて、MVとかの段取りをしていたときに、急に話がなくなって。初めての経験だったし、周りもそんな話聞いたことないから、ユニバーサルの人たちも「それはすごいことだね……」って(笑)。

──(苦笑)。その話って書いても大丈夫なんですか?

雫:本当はリリース日にMVを出す予定だったんですよ。でも、そんなことがあったから予定通り出せないじゃないですか。撮影日もズレまくって、MVの制作会社が「もう無理ー!」って。私たちも「無理ー!」、代理店も「無理ー!」ってなって、結局破綻したんですけど(笑)。

──あの、雫さん、この話って本当に書いても大丈夫……?

雫:この話が一番おもしろいんで(笑)。もうね、こんな状況になったらネタにするしかない!

──たくましい(笑)。

雫:そもそもは「化身」と「FICTION」をリードにすることで、ポルカドットスティングレイは何者なのか?っていう答えを、それぞれのMVで表現しようと思ってたんですよ。「化身」は、ポルカドットスティングレイのインターネットでの存在みたいな感じで、神風動画のアニメが半分、実写が半分っていう2.5次元的な部分を誇張したMVにして。「FICTION」のほうはプレースメントとかプロモーショナルな部分──タイアップと向き合う姿勢とか、商品の宣伝、マーケティングにすごくこだわってやっている部分を誇張したMVにする予定だったんですけど、今は何か別の方法がないか考えてます。

──楽しみにしてますね。リードの2曲はサウンド的に対極にある感じになってますね。

雫:そうですね。ストリーミング時代というか、インターネットアーティストの若手の流行りみたいな感じの「化身」と、ちょっと落ち着いていて間を取るタイプの「FICTION」と。ウチは「流行りの音楽をいっぱいやる邦ロックバンドでしょ? わかるわかる」みたいな見方をされることも多いんですよ。タイアップが多いから。でも、たまにちょっと「FICTION」みたいな曲を挟みたくなる、タイアップでこういうことをするワルな感じのポルカドットスティングレイを見せたかったんですけど、タイアップがなくなったから、ただこういう曲をやっただけになっちゃいました(笑)。せめてかっこいい曲になっててよかったです。

──ですね。曲は間違いなくかっこいいので。「化身」は人力の限界に挑戦するような凄まじさです。



雫:ボーカルで言えば「息継ぎとは?」みたいな。元々少ないんですけど、この曲が一番息継ぎできなくて。やっぱりちゃんと歌いながら作らなきゃダメですね(笑)。本当にライブでやりたくないんですよ、この曲。

──申し訳ないですけど、めちゃくちゃライブで聴きたいです(笑)。

雫:そうですよね……。聴いてる人からしたらめっちゃライブ映えする曲かもしれないけど、マジでやりたくない……(苦笑)。やっぱちゃんとライブのこと考えないとダメだな。ウチのメンバー全員学ばないんですよ。ギターのハルシとか「やっぱライブで弾きやすいフレーズ作らないとダメだな〜」って、全曲で同じこと言ってるんです。えっ、この前のハルシと別人? なんか記憶がおかしいの?って。

──(笑)。ついやりすぎちゃうんですね。楽曲をとにかくいいものにしたいという気持ちがあるから。

雫:そうです。ライブで弾けないからっていう理由で音源のクオリティを妥協するのは嫌だっていうのが全員の根底にあるから、ライブのことはライブのときに考えればいいやっていうムーブになっちゃってるところはありますね。

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