【インタビュー】歴史を作り出した海外ブランドのサウンドが、魅力を放つ理由

ツイート

山野楽器といえば、銀座本店を思い起こす人も多いだろう。日本で最も地価が高いといわれる一等地(←文字通り)に構える、CDや楽器を販売するお店である。が、楽器フェア経験者となれば、「山野楽器」=「日本を代表する楽器輸入代理店として日本の楽器産業を支えてきた筆頭企業」という認識に変わってくる。

山野楽器は、かつてエレキギター2大巨塔ブランド:フェンダーとギブソンの代理店を営んでいた。いずれも日本法人が設立されたことで代理店契約は終了したものの、日本におけるエレキギター・カルチャーの発祥を基盤から支えてきた企業であり、エレキギターたる輸入文化の潮流をも生み出し、欧米から日本へ刺激を与え続けてきた組織でもある。

そんな山野楽器だが、今もなおリッケンバッカー、ヘフナー、G&Lといった重厚なレジェンドブランドを丁寧に取り扱いながら、ウィズダムというオリジナルブランドや販売代理店として周辺機材を軸としたProvidenceの舵も取る。海外ブランドが放つ楽器の実力に魅せられた、山野楽器のスタッフ陣の言葉に耳を傾けてみよう。


──山野楽器は銀座にお店がありますが、楽器専門商社なんですよね?

浅野総一(LM事業部 海外営業部 営業課 輸入楽器担当 課長):銀座は本店であり社長のいる本丸でして、逆に僕らが特殊なんです。輸入ブランドを中心とした代理店業務を行うエージェント部署なんですね。

──山野楽器に就職すればリッケンバッカーが安く買えるんだ、って妄想していました(笑)。

板倉浩司(LM事業部 海外営業部 営業課):ならばいいですよね(笑)。欲しくても先にお客様の方に行きますから、僕らはなかなか買えないんですよ(笑)。

──今では自社ブランドの製品も扱っていますが、昔からオリジナルブランドも扱っていたんですか?

浅野総一:ないです。過去の歴史を紐解くと、フェンダーとギブソンという二大大手ブランドを長い間やってきていたというのもあって、自分たちのブランドに着手するという考え方も余裕もありませんでした。

内田貴慶(LM事業部 海外営業部 営業課 係長):代理店業務として海外のブランドを輸入して消費者に安心して使用してもらえるように全国に流通させるのが業務ですが、ギブソンとフェンダーは現在取り扱う物量よりも大規模でしたね。

浅野総一:その2社はライバルメーカーで政治的にもすごく強い存在ですから、実は同じ商社内で取り扱われるというのは、本来ありえない話なんですよ。実際、チームも完全に分けていたくらい緊張感のある環境でライバルブランドを取り扱っていました。

──そうですよね。両者は永遠のライバルですから。

浅野総一:弊社だから許されたんです。50年を超えるフェンダーとの長い実績があったことによって、ギブソンの代理店も運営していく事ができたと思います。徹底して二つのブランドを組織分けすることで運営してましたから、自社のオリジナルブランドを起こすなんて現実的ではない、というわけですよ。そういう力関係の時代ですね。

──ありえない関係性を勝ち得ていたんですね。

浅野総一:手前みそになっちゃいますけど、ギブソン/フェンダーを扱ってきたことで、メンテナンスやリペアの代理店保証ノウハウは会社として財産にすることができました。結構な投資もしてきましたし、一流ブランドを長年取り扱うことでお客様からの信頼も得ることができましたから、それを活かそうと思ったことがオリジナルブランド立ち上げの発端のひとつになります。

──確かにその厚い信頼こそ、何にも代えがたい財産ですね。

内田貴慶:それを活かさないのはなぜ?ってなるでしょう?もちろんオリジナルブランドの展開なんて、そんなに甘くはないんですけどね。

──一方で、同時にG&Lやリッケンバッカーといった王道ブランドもしっかりと扱ってますよね。

内田貴慶:G&Lは、新製品もコンスタントに出しています。今回楽器フェアでは、2021年に発売される比較的初心者でも手に取りやすいTribute seriesなどをメインに紹介しています。もともとバリエーションも価格帯もすごく広いのでその辺もご紹介していますし、限定的な本数になりますが、USA製のリミテッドモデルが一機種あります。

──Tribute seriesは初心者にも優しいモデルで。


内田貴慶:USA製の半額以下ぐらいで、定番モデルを身近に感じ取ってもらえるような設計になっています。インドネシアで製造していますが、電装系やパーツの一部はUSA製と同じものが使用されていてサウンド的には遜色を感じさせません。G&Lは独特のカラーバリエーションを持っていまして、元々レオ・フェンダーは見た目と音がきちんと融合されたデザインをしてきた人なので、「ちょっと変わったのが欲しい」「違うものがいいな」という人にはすごくお薦めです。

──G&Lの一番の強み/魅力というのはどのあたりだと思いますか?

内田貴慶:G&Lもリッケンバッカーも、製作工程とか規模感がスタート当初からあまり変わっていないんです。これは、当時のままのサウンドが今でも出せることを意味します。データ化による大量生産も正義ですが、当時とは違う製作工程が入ると、その分音は変わっていく。それが悪いわけではないですが、昔のサウンドが現代のものでもそのまま出せるっていうのはいいところなのかな。

──それは大きなポイントだ。

内田貴慶:昔の町工場的なニュアンスがあるんですよね。生産本数自体も多くはない。それが現代の音楽シーンに合うかどうかは分からないですけれども、同じプライスゾーンのUSA製と比べてもいい音がするんです。不思議ですけど説明しづらい部分があります。

──そういうブランド、いいですね。

内田貴慶:2020年でG&Lは40周年ですけど、それ以前(デザイン会社としてのCLF Research社時代)のレオ・フェンダーによるギターデザインの設計図が残っているので、それを叩き起こして製品化するというプロジェクトも進行しています。突発的なモデルもありますが、新しいものが生まれるたびにレオ・フェンダーってすごい人だなって思います。革新的な考え方を持っていた方なので、シーンにはまったら驚異ですよ。

──一方、リッケンバッカーはどんな歴史を?

板倉浩司:1931年の会社設立から第二次世界大戦を挟んで、ハワイアンで使うようなラップスチールの開発製造、スパニッシュスタイルのギターへの移行と併せ、いわゆるエレクトリックギターが出てくるわけですけど、マグネティックピックアップを搭載した量産製品としては業界で一番早かったブランドと言われています。1960年代に入り、ザ・ビートルズが使用することで一躍有名になるわけです。



──結果リッケンバッカーは、ザ・ビートルズ・サウンドそのものとなったわけですが、彼らがリッケンバッカーを愛し使い続けた最大の理由って何でしょう。

板倉浩司:彼らのひらめきとマッチしたんでしょうね。初めてアメリカに渡る1964年2月に、リッケンバッカー社に「イギリスで1位になったバンドがそちらへ渡るんだけど、リッケンバッカーを使ってるんだよ」という情報が入り、最新モデルをいくつか持って会うことになったんです。それがレコーディングで使われて、世界的に有名な曲がリッケンバッカー・サウンドの代名詞的なものになっていった。現在の目線ではザ・ビートルズはモンスターバンドですが、アメリカの音楽に憧れてた当時の若者が自分たちのためにギターを用意してプレゼントしてくれたなんて、嬉しかったでしょうし、ザ・ビートルズのインスピレーションを広げさせるのに役立ったのが、フェンダーでもギブソンでも出せなかったリッケンバッカーの独自サウンドだったのだと思います。

──出会いですね。

板倉浩司:1960年代も半ばを過ぎるとサイケや、よりハードなサウンドの音楽が出てきて、そういう人たちがギブソンとかフェンダーを使っているわけで、元々はザ・ビートルズのメンバーもフェンダーが欲しかったようですし、フェンダーも何度もアプローチしていたんですけど、マネージャー(ブライアン・エプスタイン)が断っていたんですよね。特にステージ上のビジュアル的なバンドのイメージっていう意味で、みんな使っているフェンダーじゃないという路線があったのかもしれない。実際マネージャーが1967年に亡くなった後は、フェンダーをはじめもっと自由に楽器を選ぶようになりましたから。

──いろんなケミカルが作用したわけだ。

板倉浩司:その時の偶然の出逢いや運命のようなものがあったと思います。

──それからも数十年が経ちますが、リッケンバッカーはどのような歩みを?

板倉浩司:リッケンバッカーの最大の特徴のひとつに、どこの会社にも買収されたりしてないというポイントがあります。ファミリー企業なので方針が全くぶれないんです。もちろん時代の変化とともに迷走することもあるわけですけど(笑)、基本的に昔から変わらないんです。

──<2020楽器フェア オンライン>でリッケンバッカーの注目のモデルは?

板倉浩司:現時点での新製品ってないんです。既存のものだけになるんです。

──リッケンバッカーらしいなあ(笑)。

板倉浩司:そうなんです(笑)。<NAMMショー>にもリッケンバッカーのブースは必ずありますが、なにか新しいアイテムが発表されることって本当に少ないんです(笑)。

──ステキ(笑)。

板倉浩司:調べても「今年も何も変わったものなし」って(笑)。「カーペットの色だけ変えた」とか言っているんです。そんな感じなんですよね。リッケンバッカーは限られたキャパの中で順番に製造しているだけなので、「このモデルが欲しい」ってお客様からご予約をいただいても、そのギターが作られるのは半年後~1年後だったりするんです。そんな商売が今の時代のサービスなのか?という問題意識もあるんですけど、それがリッケンバッカー社の譲れない価値観でもあるわけで…。

──それでこそリッケンバッカーだという気がします。

板倉浩司:現在の商習慣からすれば、買いたいときに買えることが絶対に親切なんです。お客様には申し訳ないんですけど、でもそうしてない…というか、そうできないのがリッケンバッカー。もっと弾きやすいハイテクで精度の高い楽器は世の中にたくさんありますが、それでもリッケンバッカーに興味を持ってくれている方っていうのは、どこかそういうところに魅力を感じてくれてるんじゃないでしょうか。

内田貴慶:他に替えが効かないですよね。見た目も音も。

──そこにはプレイスタイルも紐付いていますから、もはやリッケンバッカーを持ったらチョーキングしたいとは思わない。

内田貴慶:これを持ったらそういうギターを弾く、みたいなのありますよね。

板倉浩司:いきなり最初からハイゲインに突っ込んで歪まそうとはあまり思わないですからね(笑)。


──フェンダー、ギブソン、G&L、リッケンバッカーといった一流ブランドを手掛けたことで、山野楽器は信頼のみならずいろんなノウハウも得たことでしょう。

浅野総一:アメリカ製品ならではの「響き」ってあるんです。ギブソンとフェンダーって相反するブランドですけど、この2つに共通する音って絶対あるんですね。面白いことにG&Lとリッケンバッカーにもあるんです。もちろん音色は違うんですけど、中に入ってる芯が一緒なんです。これがアメリカ人が作る楽器で、日本製のギターにはない。理屈じゃないんですけど、でもきっと理由がある。同じことを言う人は楽器業界にはゴマンといますよね。アメリカの楽器は雑だし大味なんですけど、立体的なんです。

──不思議ですね。

浅野総一:ただ、アメリカの楽器の大味で困ったところも経験してきているんで(笑)、その両方があればいいなというコンセプトをもって自社ブランドを立ち上げているんです。ウィズダムはそれを求めないとダメでしょう?という。

──そうなのか。

浅野総一:日本人ならではのきめ細かさと、欧米でしか作り得ていなかったあの三次元の音を一体化させたのがウィズダムです。口で言うのは簡単ですけどね(笑)。



▲Wisdom

内田貴慶:やっぱり人種の考え方だとか生活習慣が、楽器にもちゃんとリンクされていますよね。家の中が土足という文化ですから、日本人のように緻密に考えてないかもしれないけど「こんなん作ったらいい音するのかな」って、もうちょっと夢っぽい感じかなって思います。日本人はどうしてもデータを求めたりいろんなものを数値化して図面化して製品化させる。経験値も数値で出してね。もちろん数値化による設計は大事ですし否定はしませんが、それだけじゃない感覚的な何かとブランドコンセプトを一番にしているところは輸入ブランド全般に言えますね。ただ根本的に考え方が違うなって思いますね。何だかんだ僕らは8時間勤務していますけど、向こうの人たちは…すごいですもんね(笑)。

浅野総一:14時くらいに帰っちゃうね(笑)。

内田貴慶:そういう文化ですから(笑)。

板倉浩司:優先順位のつけ方が違うような気もします。教育もそうですが、日本では1位~5位の差が狭い気がするんです。良い意味で高い次元での平均化を求める。アメリカの1位は圧倒的な位置にある。そういう違いが楽器という分野でも現れますよね。

浅野総一:自動車もそうですよね。

板倉浩司:「野球」と「ベースボール」は違うっていうやつですね。アメリカ発祥の楽器で奏でられている音楽やフォロワーに憧れがある以上、我々にはずっと憧れがあり続けるんだと思うんです。

浅野総一:ですから、今の日本の若い子たちって、30年前のアメリカの人たちと同じくらいのロックエリートだと思います。両親がザ・ビートルズやクラプトンをバリバリ聴いていた世代ですから、アナログを聴くような若い子たちも増えてきている。いい物使うし耳も肥えてるし、何十年かしたら彼らはものすごいロックエリートになるでしょうね。ただアメリカでは、すでにおじいちゃんが平気でボン・ジョヴィを歌っていて、脈々とDNAに入り込んでいる。ギターの音がトラディショナルな良きものとして表現され続けているんです。日本の僕ら世代って、ごく一部の特殊な人だけがそっちに走っただけですから。

内田貴慶:現代はリアルタイムで情報が入ってくるから、タイムラグもないですよね。

浅野総一:そういう意味では、民族性っていうより音楽に対するレベルかもしれないですね。G&Lとかリッケンバッカー、ホフナーというのは、そういう歴史の重みとかサウンドの革新的な部分をよく分かっているので、数少ないアメリカ・ブランドのサウンドを皆さんに伝えていきたいと思っています。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)

◆山野楽器オフィシャルサイト
この記事をツイート

この記事の関連情報