【連載】第42回 ホタバンのファミリアルミルキーウェイ ~ホタルライトヒルズバンド藤田リュウジの連載コラム~

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NHKみんなのうた「金魚のジョン」対談 土田ひろゆき(スタジオビンゴ)×藤田リュウジ(ホタルライトヒルズバンド)

NHK「みんなのうた」2020年10月-11月の新曲としてホタルライトヒルズバンド書き下ろしの『金魚のジョン』が放送され、大きな反響が寄せられたという。

『金魚のジョン』楽曲解説
誰しも子どもの頃に「いきものを飼う(育てる)」ことをめぐって、いろいろな思い出があるのではないでしょうか(現在進行形かも)。縁日、ペットショップで「出会ってしまった」瞬間。どうしても飼いたくて、家族に懇願した末に、家にやってきた時の喜び!その後、成長と共に生まれた(生まれる)様々な物語…。子どもの頃の実体験をもとに、メンバーが書きおろしたこのうたには、誰もが共感出来る「あるある」にあふれ、聴く人自身のそれぞれの物語を思い出させてくれるはず。お楽しみください。(以上NHK「みんなのうた」HPより抜粋)

『金魚のジョン』は、その楽曲に加え、コマ撮りアニメーションも「面白い」「泣ける」との声が多く届いたという。そこで今回、ホタルライトヒルズバンドのリーダー藤田リュウジとアニメーションを担当したスタジオビンゴ代表の土田ひろゆきが対談を行い、「みんなのうた」について、そして『金魚のジョン』の世界観について自由に語り合った。


(C)NHK/スタジオビンゴ

藤田リュウジ(ホタルライトヒルズバンド):今日はよろしくお願いします。今回NHK「みんなのうた」のご縁で『金魚のジョン』にアニメーションをつけていただいて、とても光栄です。早速お聞きしたいことは山ほどあるんですが…まず『金魚のジョン』を最初に聞いたときの印象はどうでしたか?

土田ひろゆき(スタジオビンゴ):「すごくテンポが良くて楽しい曲」だと思いました。最初に結構絵が浮かびましたね。

藤田リュウジ:おお、それは嬉しいです。その浮かんだ絵を元にアニメーションを作っていかれるのかなと思うんですが、制作するにあたって「みんなのうた」だからこそ意識した点はありますか?

土田ひろゆき:私自身は、NHK「みんなのうた」は番組名のとおり、それぞれの「楽曲(うた)」が主役で、映像やアニメーションは楽曲の魅力を伝えるための補助的な存在だと考えているんです。楽曲には歌詞やメロディといった情報があり、アニメーションには登場人物や背景、そして、動きといった情報があります。楽曲とアニメーションのふたつが合わさった時にそれぞれから発生する情報が過多になると観ている視聴者が疲れてしまうことがあるので、そうならないように「適度な情報量」を意識して演出を考えました。

藤田リュウジ:なるほど。最初に「みんなのうた」のホームページにスタジオビンゴさんのコメントが出た時「余白」という言葉を使われていたので、それがどういう表現になっているんだろうなという部分はとても楽しみにしていたんです。実際に見てみて「こういうことか!」と思いましたが、そういう演出意図をもって制作されていたんですね。

土田ひろゆき:きっと何度も観ていると思うのですが、改めて映像を観ながらお話する方が良いかなと…(『金魚のジョン』のアニメーションを再生)

藤田リュウジ:この最後のおじいちゃん家の池のところが本当に鏡になっているのが衝撃です。

土田ひろゆき:あ、そうですね。家族の後ろに「青空」をプリントしたパネルを置いて、カメラでこの辺りから撮影するとちょうどあのシーンになると。

藤田リュウジ:すごいなぁ…まさに「アイデア」ですね。


(C)NHK/スタジオビンゴ

藤田リュウジ:実際使われた人形たちはどのように作られてるんですか?

土田ひろゆき:『金魚のジョン』では造形物はできるだけ細かい表情だったりニュアンスを丁寧に描きたかったので3Dプリンターを使って制作してみました。3Dプリンターの造形物なら小さくてもディテールが出るのでクオリティに統一感が出ます。だから、実際につかわれた人形がこんなに小さいとは思わなかったとオンエアを観た多くの人に言われました。例えば、水槽越しに家族の時間が経過していくシーンの人形も小さくて、このシーンはミニチュアの水槽をカメラの前に置いて撮影したので、この水槽の中に家族4人が収まるくらいひとつひとつの人形が小さなサイズになりました!

藤田リュウジ:へぇぇぇ!人より水槽がデカい世界だ(笑)。

土田ひろゆき:はははは(笑)

藤田リュウジ:でもジョンから見たらこう見えているかも知れないですもんね。人間の縮尺とは違う世界観だから。いやぁ、僕の中では「ジョン」というのはイメージの世界だったので、形になると、もう…「可愛いなぁ」っていう(笑)。 やはり最初にオンエアを見たときの感想とか感動が一番強くて。歌詞に書き切れなかった部分を見事にアニメーションで表現してくださっていて。

土田ひろゆき:ありがとうございます。この間、ホタルライトヒルズバンドのYoutubeライブで藤田さんが、「おじいちゃんに友達ができたという意味で書いたつもりが、おじいちゃんの池の魚たちの友達という意味になっていて、そういう解釈があるのかとびっくりした」って言ってて。こちらも実は両方イメージしてたんですが、あの部分って、楽曲の終盤じゃないですか。そこでおじいちゃんが急に前に出てしまうと、男の子の感情は下がったままなのに、おじいちゃんだけ「わしに友達が出来たぞ!」っていうハッピーエンドになっちゃう(笑)。「みんなのうた」で放送されることを考えた時に、男の子の気持ちを置いてけぼりにしてはいけないなと思って。

藤田リュウジ:僕は一番そこのポイントがグッときたんですよね。見終わった後の気持ちが全然違うなと。 元々は、一人暮らしで寂しいおじいちゃんのところにジョンが来て、友達が出来たという風にしか僕は見えていなくて。

土田ひろゆき:藤田さんのエンディングのイメージはそうだったんですね(笑)。最後のシーンは男の子の気持ちの変化を大切にしました。デモ段階から、最後のくるりターンで「シャラララン」という音が入っていたじゃないですか?それまでジョンの引っ越しで下がってしまっていた男の子の気持ちが、その「シャラララン」で晴れて、最後に笑顔を見せられたら、気持ちよくまとまるかもしれないと思って。くるりターンして、ちょっと余韻があって、男の子本人が成長して笑顔で終わる、みたいな。

藤田リュウジ:いやぁ、自分ひとりでは気付けなかったですね。もしかしたらそのポイントにおいては僕が誰よりも一番感動していたかも。「そんな捉え方があったのかぁぁ!!」って(笑)。


(C)NHK/スタジオビンゴ

土田ひろゆき:実際に「みんなのうた」で『金魚のジョン』の放送が始まってからの反響はどうでしたか?

藤田リュウジ:ファンの方々やミュージシャン仲間たちからだけではなく、久しぶりに連絡を取る親族や遠く離れて暮らす旧友からも『観たよ!』と一報が届いたりして、僕自身も幼少期から大好きな「みんなのうた」に携われた喜びを実感しました。あと、「泣ける」という感想が多いことに驚きました。書き下ろした時には泣ける曲だとは思ってなくて。むしろ、笑えるなとかジョン可愛いとかが良いなぁと自分では思ってたんですけど。レコーディングしている時もとにかく楽しくワクワクウキウキするようなサウンドをと考えていたので。これは本当にアニメーションの力だなと思います。

土田ひろゆき:私も最初曲を聴いた時は楽しい曲だなと思いました。でも、何度も聞き込んで演出をどうしていこうかと考えた時に、「ワンワン泣いた」という部分がありますよね、弟につられてワンワン泣く部分。自分には家族がいて、2人の息子がいるんですけど、ちょうど「金魚のジョン」の兄弟と同じくらいで、うちは5歳離れているんですけど、自分の子に置き換えて考えた時に「あ~、ここは大事なシーンだな」と思いはじめて。

藤田リュウジ:はい。

土田ひろゆき:泣きの場面があったとして、でもそこで終わってしまわないで、最後に前に進む、というポジティブな要素を強調したいな、と思いましたね。

藤田リュウジ:なるほど。じゃあ土田さん自身の父親としての愛情みたいなものも…

土田ひろゆき:入っているかもしれないです。面白いなと思うのは、藤田さんは泣ける歌を作ろうと思って作っていなくて、それこそ本当に楽しんでもらいたいという風に作っていて。僕らも泣かしてやろうと思ってつくってはいなくて、大切なシーンはポイントとして押さえるけども、その他の部分は想像してくださいという風に作ってる。でもその「その他の部分」がおそらく観ている方のイマジネーションによって膨らんで、それぞれの家庭や個人の思い出とリンクして、泣けちゃう、という。

藤田リュウジ:音楽や映像で呼び起こされるものってありますもんね。
まさに僕は「みんなのうた」の番組タイトルコールを観ると、一瞬で幼少期の頃の感覚に引き戻されるような気持ちになります。母親と一緒にテレビの前に座って、歌に合わせて一緒に踊ったり口ずさんだりしていたあの頃の思い出の中にタイムスリップ出来るというか。そんな誰かの思い出のひとつに、これから先『金魚のジョン』もなることが出来たら本当に嬉しいですね。


(C)NHK/スタジオビンゴ

(今回一番驚いた豆知識は、お兄ちゃんがお父さん似で、弟がお母さん似で、おじいちゃんはお母さんの父で面長が似ているというスタジオビンゴさんならではの愛あるこだわりでした!)

土田ひろゆき:まさにこの夏、子どもが近所の方からトカゲの子をもらってきて飼っていたら、うちの妻が最初は「トカゲなんて苦手なんだけど」と言っていたんですけどだんだん感情移入してきて、「本当にこれジョンだよ~」とか言ってて(笑)。

藤田リュウジ:(笑)

土田ひろゆき:家族で生き物を飼うって体験をした時に、ジョンの家族のシチュエーションと重なる部分っていうのがきっとあって。全国のたくさんの家族が楽曲のいろんな要素を自分たちに重ねて、自由に汲み取って、涙してくださっているんじゃないかと。

藤田リュウジ:僕も小さい頃からアニメーションに触れていて、それこそ「みんなのうた」を聞いて育った自分が、今こうして「みんなのうた」に関わることが出来て、僕一人の経験が見ている人たちの思い出と繋がって「みんなのうた」になっていくのを実感して、すごいことだなって思っています。

藤田リュウジ:土田さん個人として思い出に残っている「みんなのうた」はありますか?

土田ひろゆき:自分にとって幼少期の「みんなのうた」の思い出は『北風小僧の寒太郎』です。堺正章さんの歌声、月岡貞夫さんのアニメーション、どちらも魅力的でテレビで流れると嬉しく思った記憶があります。

藤田リュウジ:なんと。偶然なのですが、僕も『北風小僧の寒太郎』が最も印象に残っている曲です。季節が冬になって風が冷たくなってくると自然とあの"ヒューン ヒューン"というメロディを口ずさみたくなりますよね。不思議と懐かしい気持ちになってきて。「みんなのうた」を通して土田さんと僕の間に"シンクロ"があって嬉しいです。来年がちょうど番組放送開始から60周年ということですごいですよね。僕たちホタルライトヒルズバンドも活動10周年を迎えるのですが、もう歴史が違いすぎるなと(笑)。これからも世代を超えてたくさんの名曲がこの番組から生まれ続けて行くでしょうし、自分がこれから親になったりさらにその上の世代になっていった時にまた「みんなのうた」と歩んできた歴史を振り返ったりするのが今からとても楽しみですね。土田さんとも、番組を通して大きな出逢いをさせていただきました。

土田ひろゆき:「みんなのうた」を縁として生まれた『金魚のジョン』という楽曲との巡り合わせに感謝ですし、藤田さんをはじめとするホタルライトヒルズバンドのみなさんとのご縁に感謝ですね。今回やらせていただいてインターネットの反応なども見ると、本当に良かったなと。

藤田リュウジ:今日は貴重なお時間をいただき本当にありがとうございました!

土田ひろゆき:こちらこそです。これからもよろしくお願いします!

(2020年11月某日 スタジオビンゴオフィスにて)


(C)NHK/スタジオビンゴ

NHK「みんなのうた」
公式HP https://www.nhk.or.jp/minna/
『金魚のジョン』www.nhk.or.jp/minna/songs/MIN202010_03/
~NHK「みんなのうた」は2021年4月、放送スタート60年を迎えます~

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