【連載】フルカワユタカはこう語った 第38回『Yesterday Today Tomorrow』

ツイート


コロナ禍の影響もあって、朝6時に起床するようになって半年。元々極端な夜型ではなかったものの、なんやかんやと2時3時までは起きて8時9時くらいに目を覚ます生活だった頃と比べると、だいぶ生活のリズムは変わった。

◆フルカワユタカ 画像

不規則に思われがちな職業ではあるが、僕達ミュージシャンの生活は(あくまでも本人次第だが)それほど不規則ではない。レコーディングスタジオやライブハウスの入り時間は大体13時~14時が相場で、撤収時間はどちらも概ね22時~23時といったところか。例えば、オールナイトのイベントだったり、ミュージックビデオの撮影で早朝から富士山の麓へ行かねばならなかったり、PAとマネージャーの“朝まで生喧嘩”を見届けなければならなかったり、というイレギュラーさえなければ、基本的には昼過ぎから始まって“てっぺん(夜0時)”前に仕事は終るものだ。故にその気になれば案外とヘルシーな生活ができる。あくまでも本人次第だが。




▲『オンガクミンゾク Vol.04』2020.10.25/ジャズカワユタカ feat.岸本亮(Key)、井上司(Dr) from fox capture plan/撮影◎瀬川ダイジュ

と、ここまで頭の中で書いてからベッドを出た。毎朝6時に起きてはいるものの、最近は寒さから10分程度布団の中でスマホを眺めてから動き出す。最近の6時はまだ暗い。居間の電気を点け、昨夜の晩酌の食器やグラス、空き缶を片付け、テーブルに出ていた2リットルペットボトルの水をがぶ飲みしてソファーに座る。テレビを点けて10分ほどボーっとしていたら部屋が明るんできたので居間の電気を消した。鍋に水を入れて火にかけ、ノートパソコンを開けて布団の中で考えた文章をパパッと打ち込んでまた閉じる。ゴミ箱からゴミ袋を取り出し、玄関にかけてある“とりあえずのマスク”をして捨てに行く。家の前に捨てるだけなので、いちいちマスクをする必要は全くないが、4月の緊急事態宣言以来の習慣だ。一度、考え事をしながらコンビニに買い物へ出かけ、レジに並ぶまでマスクをしていないことに気づかなかったことがあった。気づいた瞬間、服も着ずに人前に突っ立ってるような気持ちになって、罪悪感とかでは全然なかったけれど、とても恥ずかしかった。ゴミ捨てから戻って玄関に置いてあるアルコール消毒液で手を洗う。まあ意味はないだろうが、これも習慣だ。沸いていたお湯でインスタントコーヒーを入れる。蓋を無くして捨てて以来、ウチにはヤカンがない。小鍋でコーヒーを入れると十中八九お湯をこぼすので買わねばなと思い続けてはいるが、買うには至っていない。熱いコーヒーをちびちびとなめながら冷蔵庫を開けて朝食の献立を考える。

「肉、ないよねえ」──1日のうちで朝が一番食べる。炭水化物は基本的に朝しか摂らないので、茶碗いっぱい食べる。それからおかずには必ず肉を食べる。朝からハンバーグとかステーキとか全然平気だ。食べたいと思えば唐揚げでもトンカツでも朝から揚げる。今朝は肉がなかったので、一昨日の鍋に入れ損ねたしめじと油揚げの炊き込みご飯と卵焼きを作った。食べたいものを食べたい味で食べることが出来るので、自分の料理が好きだ。冷蔵庫にあるものでレシピとか見ずに味を想像しながら作るのは楽しい。これも一種のクリエイティブだからなのだろうか、僕の周りに限るのかは知らないが、作曲する人は料理が好きで上手な人が多い。

血糖値が上がってきた。眠くなる前に立ち上がり、朝食と昨晩の晩酌の洗い物を一気に片付け、洗濯物を回し、2杯目のコーヒーを入れる。9時を回っている。英語の勉強の時間だ。3月の終わりからもう9ヶ月、短くても一時間、長い時は二時間ほど英語の勉強を続けている。この短期間で随分と上達した気もするし、根気よくやってる割にはそうでもない気もする。しかしながら、“単語の先頭の”R”はすごく気にするクセに、単語の中の”R”はほとんど気にしてなかったことに気づいた”のは収穫だ。以来、発音も聞き取りも上手になった。英語の勉強を終えると3杯目のコーヒーを飲む。ここで干し忘れていた洗濯物を慌てて干すことが少なくないが、今日はちゃんと干してある。コーヒーを飲み終えたら作業部屋へ移動して歌の練習をする。弱目のファルセットから始めて、最後は全開の弾き語りまで、ライブが近い時はセットリストに沿って二時間程度毎日歌う。歌い過ぎはもちろんダメだが、毎日歌うことが大事だと思う。今日はこれから市川さん(LOW IQ 01)のプリプロを手伝う予定なので、発声練習程度に留めて掃除を始めた。



▲有観客ライブ<生配身>2020年11月23日(月・祝)@東京・亀戸文化センター カメリアホール/撮影◎瀬川ダイジュ

若い時のように何をする時も音楽をかけているような生活ではなくなった。起きたらすぐ、食事中も、本を読んでいても、掃除をする時も、テレビの音を消して、寝る時は当然、音楽をかけていたが今となっては無音だ。もちろん音楽を遠ざけているわけではない。むしろ逆に、これを生業としてからの僕は、歳を取れば取るほどに全てのことを音楽と結びつけて生活するようになった。本も、映画も、英語学習も、ジョギングも、絵を描くことも、全てが作曲や演奏というクリエイティブの為の手段だ。若ければ若いほどずっと音楽を聴いてずっとギターを弾いていた。そうしなければプロになれない、プロではないと思っていた。いつの間にか無趣味で通していた自分が多趣味になった。特に今年は沢山増えた。

夕方は散歩の時間だ。そのついでにスーパーに買い物へ行くこともあれば、ただ一時間歩くだけの時もある。まとめておいた気になる新譜やspotifyのAIによる僕向けのプレイリストなどを聴きながら歩く。気に入った曲が見つかれば、その場で“一軍”のプレイリストに振り分ける。一つにつき大体15曲づつ、今年はコロナ禍で沢山散歩したのだろう、“一軍リスト”は現段階で例年より多く“Vol.8”まである。この散歩の時間と晩酌時のレジェンド鑑賞の為のYouTubeの時間が、現在の僕のリスナーとしての音楽の場だ。CDはもう何年も買っていない。タイトルがすぐに出てこない大好きな曲が増えた。どこの誰だかバックグラウンドは全く知らないけど、大好きなアーティストが増えた。その反面、青春のマイヒーローに浸る時間も増えた。こういうリスナー環境の中で若い子達はどうしているんだろう? 彼らにはちゃんとヒーローがいるのかな? いや、彼らにもちゃんといるよね。僕が彼らを心配する必要なんてない。嫉妬とかではなく最先端はいつだって“彼ら”のものだったはずなのだから。僕にとっても。

日が暮れれば日課のジョギングの時間だ。夏の終わりの頃までは早朝走っていたのだが、最近は6時頃に走っている。市川さんとの作業を終え、コラムの終えていた部分の推敲と続きを書いていたら部屋が暗いことに気がついた。普段ならもうジョギングに行く時間だが、今日はこのコラムを書き終えてからにする。ジョギングの後は強制的に晩酌が始まる。ミックスや作曲はお酒の力が功を奏す時もあるが、作詞やコラムなどの文筆作業において飲酒が助けになった試しはない。独りよがりなアレンジやメロディーは、時として光り輝くこともあるが、独りよがりな言葉ほど醜いものはない。玄関先と居間の電気を点け、朝の炊き込みご飯の残りをつまみ食いして、今日4杯目のコーヒーを入れた。これを書き終え、汗を流して、酒を飲む。若かりしエディのライブ映像を観ながら、今日もグダグダと涙をこぼして、明日またすっきりと目を覚ますのだ。



▲有観客ライブ<生配身>2020年11月23日(月・祝)@東京・亀戸文化センター カメリアホール/撮影◎瀬川ダイジュ

ふと思った。

僕の生まれた1978年を始点として、2020年はそこから42年後で、1945年(終戦の年)は33年前。生まれたての僕が時間軸0地点から眺める今は終戦の日よりも遠いところにあるんだ。僕はもうすごく遠いところまで来ていて、そしてこれからもっともっと遠いところまで否応無しに行ってしまう。42年前の自分から、20年前の自分から、10年前の自分から、5分前の自分からどんどんと遠ざかっていく。人生の端っこはもうそう遠くないところにあるのかもしれない。と思ったら寂しくなった。お酒なんてなくてもグダグダしてしまいそうに寂しくなった。

でもさ。近づいてもいるんだろ? この先にいる素晴らしい自分に。今日だって後輩の結婚式で先輩にウザ絡みした7年前の問題児よりいくらかマシだったぜ。

おい7年前の俺。友達増えたぜ。料理が上手くなったぜ。英語も少し上手くなったぜ。
おい10年前の俺。こないだ大好きな先輩に「歌うめーな」って褒められたぜ。あんなにコンプレックスだった歌をだぜ。
おい20年前の俺。わざわざ東京に出てきて良かったな。お前20年近く大好きな音楽だけでご飯食べ続けられてるぜ。

な、寂しくなんかないじゃんこれっぽちも。

てなわけで明日の俺よう。悪いんだけど、今日はもうジョギングパスして飲んじゃうから。代わりに明朝よろしくな。

■配信番組『オンガクミンゾク Vol.6』

配信日時:2021年1月16日(土)
open20:50 / start21:00
スペシャルライブ:新井弘毅、村田シゲ(口口口)、KAHDIO(ALI)
トークゲスト:後日発表
▼チケット
1,500円(税込)
配信プラットフォーム:Streaming+
https://eplus.jp/furukawayutaka-s/


■公式ファンコミュニティfanicon『星の降る町』入会ページ

キャリア初となる公式ファンコミュニティ「星の降る町」開設。ファンコミュニティでは、新曲がいち早く聴ける他、ここだけでしか観られない会員限定の生配信ライブ、ここだけでしか見られない呟きや、オンラインギタークリニックなど、ツアーと併せて楽しめる様々なコンテンツに挑戦していく。
■コンテンツ内容■
・ここだけでいち早く聴ける新曲
・ここだけでしか呟かない、本人による投稿
・ここだけでしか見られない生配信ミニライブを月1〜2回程度開催予定
・本人によるオンラインギタークリニック
etc.
「星の降る町」入会ページ

この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス