【インタビュー】MUCC、武道館直前にミヤが語る「有観客+配信は初めて。培った経験を活かして最高の音にしたい」

ツイート

MUCCが12月27日、日本武道館にて有観客ワンマンライヴ<惡-The brightness world>を開催する。同公演は有観客に加え、WEB生配信、WOWOW生放送が実施されるなど、さまざまな参加方法が用意されている。特筆すべきは、武道館会場用と配信用にそれぞれ異なるエンジニアを配置して、いずれの環境でも最高の音質を目指すというこだわりだ。これはMUCCのサウンドエンジニアという側面も持つ、リーダー・ミヤ(G)の発案によるものに他ならない。

◆MUCC 画像 / 動画

MUCCはコロナ禍以降、<Fight against COVID-19>と題した配信ライヴシリーズを現在まで全5回実践してきた。配信ライヴ黎明期から果敢に未知の分野に挑んできた彼らは、目前に横たわる問題を乗り越え、音質面はもとよりパフォーマンスや演出面でも試行錯誤を重ね、配信ライヴの可能性を開拓して、ノウハウを勝ち得てきた。予期せず新局面を迎えたライヴシーンではあるが、ある意味では、そこで培った新しいライヴの在り方の集大成とも言える公演が<惡-The brightness world>となる。

BARKSは、これまでの<Fight against COVID-19>を振り返りつつ、現在のMUCCが辿り着いた最善のライヴ表現方法についてミヤにじっくりと話を訊いた。日本武道館公演は、会場で音圧を浴びるように体感するもよし、モニターを観ながら事細やかな映像美と音像美に身を委ねるもよし。その両方向から存分に堪能できる新解釈の公演になるようだ。

   ◆   ◆   ◆

■ライヴ配信はライヴハウスとは別のもの
■鳴っている音を同じにすることは不可能

──コロナウイルスの影響でアーティストは3月頃から通常のライヴ活動ができなくなってしまいました。それを受けて、MUCCは5月から配信を始めましたね。

ミヤ:当時は有観客ライヴが完全にできなくなったので、別の形を考えたんですよ。いろいろ模索するなかで、リモートでやれることは何かと考えた結果、メンバーそれぞれが自宅で録音/録画した映像を配信することができると。まずは、そういう形で5月に2曲、無料配信してみたんです(5月4日のバンド結成記念日に特別動画『Remote Super Live〜Fight against COVID-19〜』を期間限定配信)。本当は、各メンバーが別場所にいながらもリアルタイムで同時演奏できればベストだったけど、現状ではどうしてもタイムラグができてしまうので演奏が合わない。そのときは絶対にできないんだということがわかったので、メンバー各々がリモート録音したものを配信しました。


──今やれることをやろう、という思考で早い時期にアクションを起こしたのはMUCCらしいです。最初の配信終了後は、どんなことを感じましたか?

ミヤ:一番感じたことは、配信にもいろいろな手法があるけど、まだまとまっていないから大変なことが多い、ということでしたね。でも、技術を駆使すれば、ライヴっぽいものはいくらでも自宅から発信できることがわかった。だから、ますます勉強していこうという気持ちになりました。

──手応えを感じたんですね。その後、6月21日に無観客有料配信ライヴ<~Fight against COVID-19 #2~『惡-THE BROKEN RESUSCITATION』>を実施しましたが、初回からわずか1月あまりで驚くほど進化したライヴを提示されました。

ミヤ:各メンバーをリモートでつないだライヴでは限界があることが初回配信でわかったので、ライヴ会場で収録したものを配信するというのが一番現実的だと思ったんです。ただ、どうせやるなら普通のライヴではなくて、配信ならではの手法を活かしたかったし、音のクオリティを上げないとダメだとも思っていた。そういうことを踏まえたうえで、すぐに2回目をやって経験値を積みたかったんですよ。という思考のもとに実施したのが6月の<Fight against COVID-19 #2>でした。

▲無観客配信ライヴ<~Fight against COVID-19 #2~『惡-THE BROKEN RESUSCITATION』>2020年6月21日(日) 撮影◎田中聖太郎/渡邊玲奈 (田中聖太郎写真事務所)

──渋谷ストリームホールというライヴスペースのフロア全体を使ったパフォーマンスや、観応えのあるカメラワーク、良質なサウンド、ゲストに迎えたヴァイオリニストの後藤泰観さんと琴羽しらすさんなど、非常に充実した内容でした。

ミヤ:ライヴハウスからの配信は、その時期、すでにやっている人もいて。それらを観ている中で“自分ならこういう感じがいい”という方法論を見つけたんです。具体的には、ライヴ感を出すというより、配信ならではのカメラワークやライティング、それに演出を活かしたアプローチ。明確なイメージを持っていたんですけど、当時はまだ配信ライヴ黎明期だったので、スタッフも含めてノウハウが少なかった。だから、自分のイメージを具現化することの大変さを感じたんです。たとえば、サウンド面での試行錯誤の必要性が課題として浮き彫りになった。初回は2曲だったけど、<Fight against COVID-19 #2>では本格的な長尺の配信ライヴを初めて経験したことで、わかったことがたくさんありました。

──ミヤさんの中では納得いかないことも多かったようですが、6月の配信ライヴを視聴して衝撃を受けたリスナーは多かったと思います。続いて、竹芝ポートホール”のこけら落とし公演として9月に実施した無観客有料配信ライヴ<~Fight against COVID-19 #3~『惡-THE BROKEN RESUSCITATION』>は、全ての面にさらなる磨きがかかっていましたね。

ミヤ:6月の<Fight against COVID-19 #2>では、音と演奏面で、普段のライヴ感覚のままだと伝わるものにならないと痛感したんです。たとえば、通常ライヴを映像作品化する場合、ライヴ収録後に映像編集、音のミックス処理をして、作品としてリスナーが楽しめるクオリティに仕上げますよね。配信ライヴの場合は、それら全てをリアルタイムで行わなければいけない。しかも見本になるフォーマットなんて、無観客ライヴにないわけですよ。つまり、配信当日までの準備段階で、進行や演出、カメラのアングルといった詳細までしっかり決め込む必要がある。だからテレビ番組のようですよね、作り込まないといけないので。でも、そうすることでもっと突き詰めることができたのが、9月の<Fight against COVID-19 #3>でした。

▲無観客配信ライヴ<〜Fight against COVID-19 #3〜『惡-THE BROKEN RESUSCITATION-』>2020年9月20日(日) 撮影◎渡邊玲奈 (田中聖太郎写真事務所)

──わずか一度の本格的な配信ライヴ経験だけで、その域にいけるというのは驚きです。

ミヤ:それはやはり、規模が小さいものから大きなものまで、国内外問わずいろいろな配信ライヴを観ていたことが大きいですね。世界的スタンダードを作っていきたいという気持ちがあったので。配信ライヴの中には、すごくいいバンドなのに、それが伝わっていないものもあるんですよ。それは避けたかったし、ライヴハウスではない会場を使うというMUCCならではのイメージも、その時すでに出来上がっていたんです。それが実現できる会場がたまたまあったという意味では、タイミング的にツイていたなと思いますね。選択肢が広がったし。

──ミヤさんが持っていた“テレビ番組を作るように”というイメージは、すぐに周りのスタッフと共有できましたか?

ミヤ:MUCCは本格的な配信ライヴ<Fight against COVID-19 #2>を始める前から、事務所のスタジオで生配信企画をやってましたし、<Fight against COVID-19>シリーズと併行して、それを継続していたんですよ。たとえば、メンバーのバースデーライヴでは、その場で選ばれたMUCC楽曲をいきなり演奏したり。毎週のようにやっていた生配信企画と同じスタッフで取り組むことができたから、こっちのイメージはすぐに理解してくれたし、配信企画で得たノウハウを活かすこともできた。さらに言えば、配信を経験するたびに、“これだけのカメラ台数があれば、こういうカメラワークでいける”とか、“分割画面を実施するなら、これだけの人と機材が必要”という手法も技術も吸収してきた。そのうえで、規模が大きい<Fight against COVID-19>も、規模の小さい配信企画も、どちらも楽しんでもらえるように考えましたね。規模が小さいからこそ楽しめる内容ってあるんですよ。


──ミヤさんならではの強い追究心が発揮されたことがわかります。9月の<Fight against COVID-19 #3>は会場内にコンセプトの異なる2つのステージを組んだり映像ギミックも用いて、生ライヴながら良質な映像作品を観ている感覚に襲われました。

ミヤ:そう感じてもらえたなら良かったです。MUCCの場合、ライヴ配信はライヴ配信として割り切って考えてるんですよ。サウンド面も、ライヴハウスとは別のものとして捉える必要がある。もちろん俺らは、視聴者にライヴハウスに来ている感覚になってもらいたいわけで、やっぱりライヴハウスで生で観たほうがいい、と感じられてしまったらやる意味がない。ただ、ライヴハウスで鳴っている音と同じにするのは不可能なんです。そこは演出面でカバーしたうえで、生で観るのとは違うけど配信は配信で楽しいと思ってもらえるサウンドを作り上げないといけない。それを実現させるために、6月の<Fight against COVID-19 #2>は通常ライヴのいつものエンジニアにPAをお願いしていたんですけど、9月の<Fight against COVID-19 #3>からストリーミングに合うサウンドメイクが得意なエンジニアにお願いすることにしたんです。これは、いつものライヴエンジニアのスキルが低いということではなくて、通常ライヴとは違う音作りが必要だったからで。

▲無観客配信ライヴ<〜Fight against COVID-19 #3〜『惡-THE BROKEN RESUSCITATION-』>2020年9月20日(日) 撮影◎渡邊玲奈 (田中聖太郎写真事務所)

──サウンド面も確実な進化を遂げていました。ちなみに9月の<Fight against COVID-19 #3>では、lynch.の葉月(Vo)さんがゲスト参加して、ライヴに華を添えましたね。

ミヤ:葉月くんはアルバム『惡』(2020年6月発表)収録曲の「目眩」にレコーディング参加してくれたし、ゲスト登場は配信ライヴの絵的にも面白いと思ったんですよね。通常ライヴなら、音源を聴いてくれた人は葉月くんのゲスト参加を期待したと思うし、その期待に応えたいという気持ちもあった。レコーディング参加してもらったときと同じように軽い感じで声をかけてみたら「やります!」と言ってくれたんです。そういうライトな雰囲気がステージにも表れて、視聴者にも楽しんでもらえたんじゃないかな。

◆インタビュー【2】へ
この記事をツイート

この記事の関連情報