【インタビュー】YOSHIKI EZAKIの美学「すべてにおいて、とらわれずに」

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■どうなるかわかんないけど、絶対いけるっしょ

──「Aura」は洗練されたシティポップ風のトラックで、アルバムのなかでもキャッチーな要素も強く、歌詞も“愛”がテーマになっています。

YOSHIKI EZAKI:これまでの人生で、短期間でここまで曲を作ったことがなくて。スイッチ入って黙々と作り続けてたんですけど、“作りすぎたし疲れたな”とオフになった瞬間があって、そこで歌詞が降ってきたんです。その時の心境がそのまま反映されてますね。大金持ちになることばっかり追いかけてもなあ、と思いつつ、お金も大事だしなあ……の狭間というか(笑)。

──ははは。アルバム1枚通して聴いて、EZAKIさんはお金に対してどちら側の人間なんだろうなとは思っていたんです。

YOSHIKI EZAKI:どっちなのかまだわかんないなっていうのが今の自分のリアルだなと思いますね。お金と愛どっちが大事か? という結論が出せるのは、どちらも手に入れてからだと思うんです。だから19の俺にはそのジャッジはまだできないかなって。「Aura」は仲間に対する感謝の曲でもあるし……スイッチが切れた時にいろいろ考えたんでしょうね。もう少し年齢を重ねてわかった時に、この続編でも出そうかな(笑)。

──“縛られたくない”や“自由”という要素はどの曲にも通ずると思うのですが、それはそこから解き放たれたいという願望や反抗というよりは、高校を卒業して自由を得た喜びから生まれた思いなのでしょうか?

YOSHIKI EZAKI:そうです。その通り。

──そこが個性的ですよね。EZAKIさんの歌詞は野心を感じるんですが、世間に対して見せつけたり中指を立てたりする要素よりも、自問自答の色が強いなと思ったんです。

YOSHIKI EZAKI:環境を変えるにしても、世間を変えるより自分を変えたほうが早いということはわかっているので。アンチなスタンスを取ってくるやつらに思うことはいろいろあるけど、世間に対して言いたいことはそんなにないんです(笑)。自分、仲間、家族、関わってくれる人がいれば幸せだし、それでいいんじゃね? っていう。変わっていきたいけど、どんなふうに変わりたいかはどんどんその時の心境によって変わっていくんじゃないかなとも思っていて。だから自分の作る流れに身を任せていこうかなって。

──「19」に描かれている理想の生活に辿り着くまでの具体的なイメージは、そこまでないと。

YOSHIKI EZAKI:ただ漠然とスーパースターになれれば、っていう(笑)。でも天狗にならずにいい曲を作り続けていけば、おのずとその道につながってると思うんですよ。いいものを提示したら、いいものが返ってくると思ってる。不安は不安なんですけど、そういう根拠のない自信はずっとあるんです。“どうなるかわかんないけど、絶対いけるっしょ”って自分を信じて、これまでもずっと生きてきましたね。

──強いメッセージは、自分を鼓舞するためというか。

YOSHIKI EZAKI:音楽に対するそもそものスタンスとして、自分が聴きたい曲だけを作るようにしていて。とにかく今の自分が聴いて、聴き心地のいいものにしたい。歌詞は俺の基準の“かっこいい”を超えているものにはしたいんですけど、音楽において聴き心地がいいことがなにより大事だと思っているんです。歌詞は二の次というか。

──そうですか? しっかりとポリシーが通っていると思いますが。

YOSHIKI EZAKI:俺はほかのヒップホップのラッパーと違って、壮絶なバックグラウンドがないんです。普通に学校にも通ってたし、サッカーのクラブにも入ってたし、幸せな家庭環境だから、曲に落とし込んでまで語ることがまだそこまでないというか。だからこそ、そういうやつがラップシーンにひとりいてもいいでしょ、っていうスタンスでもあるんです。だから今の心境をそのまま歌詞にしてるって感じですね。

──話してくださっている内容も、EZAKIさんの纏っている空気感や楽曲の雰囲気も、喜怒哀楽のどこかひと方向に振り切れるわけでなく、ひたすらにフラットだなと感じます。そういうマインドが「Sleeping」にあるような《共感も別に求めない》というスタンスにもなっているんでしょうね。

YOSHIKI EZAKI:頑張って作ったからいろんな人に届いてほしいなとは思うけど、音楽の楽しみ方は聴く人の自由だから。なにも考えず“なんかいい感じだな〜”くらいでもうれしいし。聴き心地がいいなら自然と耳に入ってくるとも思うし、共感を求めてるわけでもないけど歌詞を気に入ってくれたらうれしいし。“いまこの瞬間に死ぬ”って可能性がないとは言い切れないから、作品には自分のやりたいことをちゃんと詰め込みたいんですよね。「19」は19歳の時にアルバムを作ったことを忘れたくなくて、何年後かの自分が聴くためだけに作りました。

──未来の自分に、19歳の時の自分の気持ちを思い出してもらいたいと。

YOSHIKI EZAKI:未来にこんな感じだったなー、懐かしーって感じられたらいいなって。結構軽い感じです(笑)。だから《暑い日差しの中》とか、情景も細かく書きました。読んだらすぐにあの夏、駅からスタジオまで歩いたあの感覚とかも思い出すと思うし。

──それこそ、未来の自分のために残したいことだったんでしょうね。

YOSHIKI EZAKI:19年生きてきて、音楽そのものの捉え方は変わってないんですけど、やっぱり18、19は遊びだった音楽が職業になったタイミングなので。思い入れが強いですね。

──また、少し前に“死”という言葉が出ましたが、“死”や“終わり”もどこか頭のなかにあるんだろうなというのは、歌詞からも伝わってきました。

YOSHIKI EZAKI:2020年は有名な人が多く亡くなっていることもあって、そういうことをよく考えちゃうんですよ。今こうして喋ってるけど、もし今この瞬間にこのビルが倒壊したら俺は死ぬのかな、とか。まあ有り得ないけど、100%有り得ないとは言えないじゃないですか。だから死は他人事じゃないし、みんないつどうなるかわからない……って考えるようになっちゃいましたね。後悔しないようにしたいです。

▲YOSHIKI EZAKI/『sweet room』

──『sweet room』にはさなりさん、Bainさん、百足さんという世代の近い仲間がフィーチャリングアーティストとして参加しています。

YOSHIKI EZAKI:友達がたまたま音楽やってた、ってくらいのノリですね(笑)。プライベートでもよく遊んでる人たちを呼びました。百足くんとはバトルで初めて会ってからずっと仲が良くて、Bainは中3の時、お互い音楽をやる前にTwitterで知り合ったんですよ。

──へええ。そうなんですか。

YOSHIKI EZAKI:Bainも俺も服が好きで、それ経由でつながったんです。だから原宿とかでよく遊んだりしてたんですよね。この3人に限らず、自分の芯を持って結果を出してる人は全員リスペクトしてます。

──EZAKIさんご自身は、アーティストとしてどんな自分でいたいというイメージはお持ちですか?

YOSHIKI EZAKI:音楽をやっている以上、男である以上、かっこつけてたいんですよね。だからかっこつけることがリアルになっちゃってるかも(笑)。言ったことが現実になるのを肌で感じたりもしているし──全然レーベルも決まってない頃に“2020年にはどっかレーベルからアルバム出せると思う”ってふつうに友達に言ってました(笑)。現に出会いがあってレーベルからアルバム出せたし。

──不安をすべて“なんとかなるっしょ”で押し潰すことで前に進めているのかもしれないですね。

YOSHIKI EZAKI:ああ、確かにそうかもしれない。ネガティブな感情をそのままさらけ出すことを、あんまりかっこいいこととは思ってない。実際に出したらそういうものをかっこいいと言ってくれる人はいると思うんですけど、まだかっこつけてたいっすね(笑)。そもそも俺そんなに苦労してないんです。大人のラッパーたちの話を聞くと“路上で寝てた”なんてザラで、俺にはそんな経験全然ないし、実家も東京だし、サッカー習ってたし、短期留学もしてたし、大きな挫折もしてないし……そんなやつが苦労とかネガティブとか口にしちゃいけないっすよね(笑)。

──ははは。冷静ですね。

YOSHIKI EZAKI:このインタビューだって仕事してるというよりはインタビュアーさんと話してるって感じだし、音楽をしている時も働いてるって感覚でもない。世の人たちに比べたら俺なんて全然。でも“普通のサッカー少年だったやつでも、こんなアルバム作れるぜ”、“ドレッドとかじゃなくてもいいラップできるぜ”っていうのをこの1stアルバムで知ってもらえたらいいですね。

──そうですね。日本のヒップホップ文化がメジャーになってきて、アーティストにも新しいスタイルのバックグラウンドを持った人が増えていることはこの10年特に感じています。EZAKIさんもそういう存在になるのではないかと、お話を聞いていて思いました。

YOSHIKI EZAKI:今回のアルバムを作って、俺音楽結構やれるなって思ったんです。自信があると言ったけど、本当にかっこいいかな? と頭に過ることもあって。でもいろんな人からアルバムについて“前までと全然違うね”とか“すごくいいね”と言ってもらえて、まだいけるんだなと実感できましたね。でも音楽だけに特化する必要もないし、いろんなことをやってもいいと思っていて。それもあって自分のことをあんまりラッパーって言わないんですよね。

──EZAKIさんは歌詞中でも“リリック”ではなく“歌詞”という言葉を使われますものね。

YOSHIKI EZAKI:“ラッパー”じゃなく、“ラップができるアーティスト”だと思うんです。今の時代はラップだけをする人ではなくなってきてるし、逆にラッパーがロックをやってもいいと思う。難しく考えてる人が多い気がしますね。楽しければなんでもいいし、それでいいと思うっすね。

──その考え方も“自由”や“縛られたくない”というマインドですね。では最後にものすごく嫌な質問をしますが、もし音楽をやりたい欲が続いているのにもかかわらず、大金持ちやスーパースターに辿り着けなかったらどうしますか?

YOSHIKI EZAKI:えーっ、どうするんだろう。それやばいっすね。全然そんなこと考えてない(笑)。

──“やることやってれば、なんとかなるっしょ”という魔法の言葉があるうちは、そんなこと考える必要がないかも。

YOSHIKI EZAKI:だからこそすべてにおいて、とらわれずにいたいですね。インスピレーションやフィールがいつ切れるかわからないんで、それがなくなった時が才能の期限だと思うんです。急に音楽ができなくなる可能性は全然あるし。それが切れるまで音楽は続けたいし、今はずっと音楽を作ってたいけど、音楽よりも好きなものができたらたぶんそっちに行くだろうし。ずっとその時その時で好きなこと、やりたいことをやってたいです。

取材・文◎沖さやこ

1st Album『sweet room』

2020年12月21日(月)発売
1. sweet room - produced by YungXansei & TEEZER
2. Trouble men(feat さなり)- produced by Tigaone
3. Aura - produced by TEEZER
4. Chrome - produced by YungXansei
5. TOKYO MIND(feat Bain) - producd by YungXansei
6. LORD(feat 百足) - produced by Pulp-K
7. Sleeping - produced by Ey3zlowBeatz
8. Smile - produced by Melody Creator
9. King Size Bed - produced by YungXansei
10. 19 - produced by YungXansei

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