【インタビュー】My Hair is Bad、椎木知仁を形成する8つのこと「僕は死んでもバンドマン」
My Hair is Badが12月23日、CDシングル「life」と配信シングル「love」を同時リリースした。音源リリースは4thフルアルバム『boys』(2019年)以来、約1年半ぶり。CDとデジタルで発表されるこの2作はいずれも3曲収録で、“対になる”作品だ。
◆My Hair is Bad 画像 / 動画
地元・上越市高田城址公園野球場で収録したライブ映像作品『Youth baseball』の配信など、大きな動きが続いているMy Hair is Badだが、今までのような形でライブを行うことができない2020年の日々を、椎木知仁(G, Vo)はどのように過ごしていたのだろうか? 2020年の彼の心を動かした様々なものを挙げてもらいつつ、存分に語ってもらった。少年時代に胸躍らせたゲームや漫画、アニメほか、音楽、映画、小説、お笑い、スポーツに関するエピソードも満載となった10,000字インタビューだが、My Hair is Badの背景を新鮮な角度から捉えられる内容にもなった。
◆ ◆ ◆
■俺、誰になっちゃったんだろう?
■っていうか、そんな感覚でした
──音楽が好きになったのは、いつ頃ですか?
椎木:音楽というかギターを始めたのは中学の頃で、ORANGE RANGEとかBEAT CRUSADERSが流行ってたんです。当時はなんとなく、ちょっとでもコードを当てられたら、それだけで嬉しかったんですよね。でも、初めて買ったCDは、KICK THE CAN CREW。当時住んでたマンションの1〜2階がレンタルビデオ/CD屋さんで、ランキングの上位をよく借りたりもしていました。ロックというものに本格的に触れたのはELLEGARDENなのかな? 中3の受験が終わった辺りの頃に友だちがDVDを観せてくれて、「めちゃくちゃカッコいい!」ってなったんです。
──椎木さんの世代は、ELLEGARDENの影響が絶大でしょうね。
椎木:そうですね。でも、田舎町だったので、クラスのひとりふたりが知ってるバンドという感じで。“知ってる人たちが特別”っていう感覚がありましたね。
──音楽的な部分はもちろん、細美さんの姿勢や発言に憧れる部分も大きかったんじゃないですか?
椎木:はい。DVDの中にはMC集みたいなものも入ってて、そういうのも何十回も観ました。僕はELLEGARDENのライブには行けなくて、細美さんのライブはthe HIATUSが初めてだったんですけど、最初の2〜3曲目でなんかわからない涙が出てきて。すごく興奮したのを覚えてます。やっぱり、ELLEGARDENには影響を受けてますね。僕がレスポールを使ってるのも細美さんの影響ですし。そういえば……僕、一番新しいミュージックビデオでテレキャスを使ったら、「レスポールやめちゃったんですか?」って若いお客さんから言われて、「ギターいっぱい持ってるし、ライブでも持ち替えてるんだけどなあ」って思ったんです(笑)。でも、細美さんがELLEGARDEN時代、サンバーストのレスポールから新しく黒いレスポールに替えた時、すごくショックだったことを、ふと思い出しました。
▲My Hair is Bad |
椎木:はい。“今年の1作”みたいなことを意識していろいろ選びました。
──まず、“音楽”という項目ではpaioniaを挙げていますね。いつ頃出会ったんでしょう?
椎木:楽曲は昔から聴いてたんですけど、メンバーの方々にはお会いしたことはなくて。今年4月くらいからコロナの影響でウチのメンバーにも会えなくなったし、家でひとりで曲を作ってて。そういう時期にいろんな音楽を聴くなかで、一番近くで寄り添ってくれたのがpaioniaでした。歌詞もそうなんですけど、特に音が、あの頃、家にいる感覚にぴったりきたんですよね。全CDを通販で買って聴いてました。ギターのコードひとつでも風景を見せられる人たちですし、言葉の選び方もすごく丁寧で嘘がないというか。あと、僕らと同じ3ピースバンドというのもあって、“こんな表現ができるんだ!”っていう点でも勉強になりました。
──春先の自粛期間は、音楽とじっくり向き合う時間にもなっていました?
椎木:はい。音楽をたくさん聴いてたし、作ってもいましたから。
──新曲の「白春夢」は、まさにそういう中で生まれた曲?
椎木:そうです。家で過ごしてた4〜5月……特に5月が変化の時間だったなと思ってて。あの感じをそのまま描いたというか。言葉の面でも“~だった”って全部過去形になってて。それによって、“そんなこともあったな”って感じられるような曲になったのが、良かったなと思ってます。
──椎木さんの書く歌詞は、情景描写がすごく生々しいですよね。
椎木:ありがとうございます。でも、“やってることは音楽なんだな”って、最近すごく実感するんですよ。「白春夢」も“最初のアルペジオでどれだけこの歌詞を立体的に表現するか?”ということにすごく気をつけました。聴いた時の感覚的なものではあるんですけどね。僕らは3ピースとして、ガンガン歪んでる音でずっとやってきたんですけど、今回は歪みを落として、“もうちょっと目の前に音があるように聞こえたらどうなるのか?”っていうのを、6曲全部で試してみました。それが上手くいったかなと思ってます。
──『life』と『love』の6曲の音は、どれも豊かな質感があると思います。
椎木:そうですね。「白春夢」とか、ぱっと聴き暗いのかもしれないですけど、通して聴いてもらえたら、暗さとは別のものを理解してもらえると思うんです。まあ、僕は曲をどれだけ書いても暗くなっちゃうというか(笑)。だから「明るい曲を書いてください」って言われた時に、「どうやるんだっけ?」ってなるんですけど。
──メジャーコードを多用するから明るくなるっていうものでもないですよね?
椎木:そうなんですよ。僕がそういうのを歌うと、なんか間が抜けた感じになっちゃう(笑)。血が通ってない感じになっちゃうのはもったいないって思うんですよね。
──My Hair is Badの音楽が醸し出している、“明るい”とか“暗い”で単純に分けられないトーンみたいなものは、2020年の“映画”の項目で挙げていただいた『きみの鳥はうたえる』にも、通ずるものがある気がします。
椎木:この映画はなんとなく観たんですけど、すごく引き込まれるものがありました。「白春夢」の歌詞の描写の羅列とかも、この映画を観た時に“書いてみようかな”って思ったんです。この映画の中でクラブに行くシーンがあって、“こんなことやったなあ、去年”って思ったりもしました。
──映画『きみの鳥はうたえる』は、セリフだけじゃなくて、表情とかでも複雑な心理を伝えてくれる作品ですよね。
椎木:そうなんです。こっちに委ねてくれるものがたくさんあるので。印象に残っているシーンがいろいろある映画ですね。
──ものすごくシンプルに言えば“三角関係の映画”ということになるのかもしれないですけど、それだけでは言い尽くせないものがあるように思います。
椎木:あの鬱屈した感じ、なんて言うんですかね? ごしゃごしゃしたあの感じが、すごく良いんですよ。不思議な魅力のある映画です。今年の4〜5月くらいの時期に映画はNetflixとかで結構観てたはずなんですけど、あの時間の中の自分に、『きみの鳥はうたえる』がすごくしっくりきました。
──4〜5月頃はライブができなくなったり、複雑な心境でもあったと思いますけど、どんな感じでした?
椎木:すごくもがいてましたけど、今になって思えば、あの時間があって良かったのかなと。僕らは毎年、年間100本以上ライブをやってましたし、200本近い年もあったんです。そういう時は、“休みさえあればな”とか“もうちょっと間が空けばな”とか思ってたんですよ。でも、「次の予定、いつかわかりません」ってなったら……不安とかじゃないんですけど、なにか満たされない感じというか。承認欲求みたいなものをお客さんにすごい満たしてもらってたっていうことを感じました。あの4〜5月頃、ステージに立ってる自分の映像を観たり、自分たちの作品を聴いたりすると、他人事のような感じがしたというか。別の人がやってるような感覚がありましたね。“俺、誰になっちゃったんだろう?”っていうか、そんな感覚でした。
──そういうムードは、「白春夢」にも表れているのを感じました。この曲を初披露したのは、先ごろ配信されたライブ映像作品『Youth baseball』でしたよね?
椎木:はい。お客さんが入ってない状況でカメラが回ってて、そこで演奏するっていうことが初めての経験だったので、すごく独特でした。前半は“ライブってこういうもんだったな”と思って、後半は“お客さんを入れないとライブはライブじゃないんだな”っていう感じで……。でも、いろんな気持ちになりつつも楽しかったです。戸惑ったのはMCだけですかね。どこに向かって話したらいいのかわからなかったので(笑)。
──ははは。演奏に関しては、どうでした?
椎木:演奏は3人で向かい合ってだったから、スタジオ演奏みたいなものに、さらに熱量をのせる感じだったというか。でも、違和感はなく、やりきることができたと思います。とはいえ、“お客さんを入れてやれたらいいなあ”っていうことも改めて感じましたけど。
──オープンエアーな野球場の内野で演奏するっていうのも、かなり特殊な体験だったんじゃないですか?
椎木:そうですね。土の上にアンプを置いてイヤモニを付けて演奏したんですけど。でも、意外に歌いやすかったというか。中音がすごく作りやすくて。野外フェスとも違ったんですよ。“土の上って歌いやすい”っていうのは発見でしたね。
◆インタビュー【2】へ
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