【ライブレポート】和楽器バンド、8人とファンで開く“アマノイワト”

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和楽器バンドが毎年恒例となっている、年初めのワンマンライブ<大新年会>を1月3日、4日に日本武道館で開催した。

◆ライブ画像(10枚)

今回の公演には<大新年会2021 日本武道館2days ~アマノイワト~>とのタイトルが冠せられている。この“アマノイワト”とは“天岩戸”のことで、日本神話の“岩戸隠れ”の舞台となる洞窟だ。諸説あることを前提に大まかにいえば、太陽を司る神が天岩戸に隠れてしまったことにより世界が闇に包まれ、八百万の神々が手を尽くして神を再び天岩戸の外へ導くという神話だ。

和楽器バンドがこの言葉を、自らが最も大切にしている<大新年会>のタイトルにつけた意味はとても大きい。コロナ禍という未曾有の事態に直面している現在、世界は岩戸隠れのように混沌としている。アーティストらが属するエンターテインメントの世界も同様だ。和楽器バンドはこれまでもコロナ禍で初のアリーナ規模での有観客ライブを開催、全国ツアーも成功させるなど、エンターテインメントの灯をともし続けようと活動してきた。そして今回の<大新年会>も、混沌とした世の中に向けて“アマノイワト”を開く──そんな覚悟を感じられるものだった。

<大新年会>とは和楽器バンドにとって、今持てる全てを魅せる年初め一発目のワンマンライブ。コロナ禍以前は、大きな会場でメンバー以外にも剣詩舞隊や和楽器奏者、ダンサーらが出演し、大所帯での華やかなライブが繰り広げられていた。新年にふさわしい目出度いライブだったが、今回の<大新年会>は感染防止ガイドラインに即したもので、これまでのようにはいかない。歓声を上げることができない、マスクをしたままで静かに観覧する、客席にも間隔がある……そんな状況にあっても、幕が開いた瞬間から、気づけば和楽器バンドが作り出す“物語”の中に没入していた。


ライブは「千本桜」からスタート。鈴華ゆう子(Vo)の圧倒的歌唱力のアカペラで始まり、7つの楽器が合わさった瞬間に会場に桜吹雪が舞い上がる。もはや“お家芸”とも言える「千本桜」だが、これまでライブ一発目に披露されることはあまりなかった。会場全体をピンクに染める桜吹雪と、笑顔いっぱいのメンバーたち。一気に和楽器バンドの空気に引き込まれた。ちなみにメンバーはこの日初披露となる大正時代風の衣装を着用しており、加えてステージセットも豪華という気合の入りよう。

鈴華の「“アマノイワト”の幕開けだ!」と言う宣言から、「reload dead」「反撃の刃」と、ロックなナンバーが続けざまに披露される。亜沙(B)のうねるベースに空気を切り裂くような激しい山葵(Dr)のドラム、町屋(G)の神業的ギターが鳴り響く。蜷川べに(津軽三味線)の華やかな音色も負けていない。スピード感溢れる映像演出も相まって、和楽器バンドのロックな面がこれでもかと突きつけられた。「華火」では全員のキメがたまらなく格好いい。観客も皆圧倒されたようで、3曲が終わった後には大きな拍手が沸き起こった。


鈴華から今日ライブができたことへの感謝が述べられると、場面は一転、いぶくろ聖志(箏)が爪弾く優しい音色からバラード「オキノタユウ」が始まる。黒流(和太鼓)の叩く深い音も加わり、伸びやかな鈴華のボーカルと神永大輔(尺八)の音が重なった。いつもながら「オキノタユウ」には、今いる場所を超えてどこか遥かに連れていってくれるような不思議な力がある。今回は観客がスマートフォンのライトを付けて会場を彩るという演出もあり、より一層この曲の魅力が際立った。

「千本桜」で一気に心を掴み、ロックチューン3曲での怒涛のパフォーマンス、そして「オキノタユウ」を聴けば、もうそこは和楽器バンドの世界の中だ。もちろん、新年ならではの明るいムードも健在。「起死回生」では勇気をくれる歌詞に会場全体で3本締め、そして「日輪」では再びロックバンドとしての顔を魅せる。山葵のバスドラ、鈴華の詩吟に圧倒される。いぶくろも文化箏の白鷺(約1/2サイズに作られた箏)を持って前面に。全員が前へ前へ疾走していく様は圧巻だ。


MCでは新衣装が新曲「生命のアリア」のものであることが明かされる。本楽曲は4月より放送のテレビアニメ『MARS RED』のオープニングテーマとして書き下ろされたもので、スクリーンではアニメ映像も紹介された。ここで映像が乱れるというハプニングが起こってしまうが、会場でライブを味わえる機会が減ってしまった今となっては、この生感までもなんだか愛おしく感じる。

そして「生命のアリア」がいち早く披露された。この曲間だけはスマートフォンでの撮影も許可されており、ファンにとって嬉しいサプライズとなった。なお、この「生命のアリア」はこれまでありそうでなかった、切なさを孕んだミドルロックチューン。どっしりとした洋楽器隊の土台に、和楽器が華を添えるような印象を受けた。


続く「月下美人」でも驚きの演出が。鈴華ひとりがリフトアップするステージに乗って歌い始めたかと思うと、衣装がドレスのように変化。まるで星のような照明の輪の中で、歌詞にある通りプリマの如く歌う。最後のサビ前に鈴華が一つの星を上に放った瞬間が、一段と綺麗だった。一夜限りの花を咲かせる月下美人、それに翻弄されつつも自身を顧みる人の心を表現したというこの楽曲にぴったりの演出だ。

楽器隊も負けていない。ボカロ曲「Episode.0」は、アコギを弾きながら切なげに歌う町屋に、コーラスを重ねるのは亜沙。黒流が和太鼓で彩りを加えるという珍しい編成だ。そして、いぶくろと神永が日本の正月にぴったりの「春の海」を演奏。シンプルに和楽器奏者としての実力を味わえる……と思えば、蜷川、黒流も加わり一気にEDM調に。鈴華の剣舞まで披露されて、和楽器隊の実力とジャンルに囚われない彼ららしさを味わえる、特別な和楽器セッションとなった。

普段のライブで披露されることの少ない楽曲も並んだメドレーコーナーは、ボカロカバー「チルドレンレコード」に、純和風の「花一匁」、ロックな「Ignite」など、和楽器バンドの特色を一手に詰め込んだ豪華版。和楽器バンドのライブ恒例の「ドラム和太鼓バトル 〜登攀猛打〜」も、過去一番驚く仕掛けが施されていた。


山葵と黒流がドラムと和太鼓でセッションするこの企画だが、今回はステージセットの上部に楽器がセッティングされている。数メートルもあるこの場所に山葵が駆け上るという演出があったのだ。山葵が2020年末に出演したTBS系『SASUKE 2020』を彷彿とさせる一幕だ。一方の黒流は高所恐怖症ながら、フライングで和太鼓台に到達。観客は入場時に配られた山葵オリジナルイラスト付きのハリセンを使用し、一体になって2人の叩き出すリズムを楽しんだ。

粉雪が舞う中で奏でられる美しい「細雪」に続き、本編ラストは「IZANA」。「予測もできない悲しみやつらさが起こる世界で、ひとつひとつを包み込み、それらを溶かすことができたら」という思いが込められたこの楽曲は、壮大で優しく美しいバラードだ。誰もが不安を抱える今の状況を解きほぐすようなメロディに、涙が浮かぶ。2020年8月に開催された<和楽器バンド 真夏の大新年会 2020 横浜アリーナ 〜天球の架け橋>では一曲目に披露され、ライブの始まりにあたり不安な気持ちを浄化してくれたように感じたが、今日はラストに披露されたことで、悲しみの中にも一縷の希望を感じることができた。まさにこの曲のベースとなったイザナギ、イザナミの国生み物語の如く。そしてステージのスクリーンには、岩戸から覗く光射す景色が映し出される──。


そしてアンコール。ファンから募集された「暁ノ糸」歌唱動画とともに鈴華が歌い出す。詩吟の歌詞もスクリーンに表示され、その意味する言葉やサビの「笑いあっていられるように 重ね紡いでいく」という歌詞が胸を打つ。鈴華の「待っていてくれる人がいる限り、自分たちなりの形を提示していきたい」という言葉を経て、オーラスは「Singin’for...」。明るい空が見えるような晴れやかな楽曲だ。メンバーのコーラスも嬉しい。このアンコールの2曲は、“岩戸が開いた後の世界”へ向けた願いが込められていたのだろう。

和楽器バンドがこの日に紡いだ“アマノイワト”物語はこれで終幕。神話では太陽を司る神は、岩戸の外で歌い言祝ぐ声に惹かれて再び外へ姿を現し、そして世界には光が戻ったという。今回の<大新年会>も、美しい歌あり、心沸き立つ激しい演奏あり、笑顔になる演出ありと、まさに言祝ぐための物語だった。そしてそこには八百万の神々ならぬ和楽器バンドのファンがいて、コロナ禍で制限された空間ながらルールを遵守し、あるいは配信画面で視聴し、和楽器バンドとひとつになって岩戸を開いた。素敵なライブであったというだけではなく、今回の<大新年会>には、いつかまた世界から闇が消え、希望の光が満ちるように──そんな皆の願いと祈りが込められていたように思う。和楽器バンドの “アマノイワト”は、開いた。2021年、彼らがこれから見せてくれる景色はきっと光輝くものになるだろう。

なお、本公演の模様は1月6日18時まで(プレミアムチケットは1月7日18時まで)、LINE LIVE-VIEWING、PIA LIVE STREAMにてアーカイブ視聴が可能となっている。

取材・文◎服部容子(BARKS)
写真◎KEIKO TANABE 、上溝恭⾹ / Kyoka Uemizo

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BARKSでは新年を祝して、和楽器バンドメンバー全員のサイン入り「2021年の抱負」絵馬プレゼントキャンペーンも実施中。ぜひ応募を。

セットリスト

セットリスト
00.Overture〜アマノイワト〜
01.千本桜
02.reload dead
03.反撃の刃
04.華火
05.オキノタユウ
06.起死回生
07.日輪
08.生命のアリア
09.月下美人
10.Episode.0
11.Wagakki & EDM Session -春の海 Remix-
12.スペシャルメドレー2021
(チルドレンレコード 〜 Perfect Blue 〜 World domination 〜 花一匁 〜Ignite 〜 月・影・舞・華 〜 虹色蝶々 〜星月夜)
13.ドラム和太鼓バトル 〜登攀猛打〜
14.あっぱれが正義。
15.細雪
16.IZANA

EN1暁ノ糸
EN2 Singin’for...

<和楽器バンド 大新年会2021 日本武道館2days ~アマノイワト~>アーカイブ配信情報

1月4日公演 有料配信

■チケット販売期間
2020年12月22日(火)18:00〜2021年1月6日(水)16:00まで

■配信チケット料金
プレミアムチケット:5,680円(税込)
通常チケット:3,680円(税込)

■アーカイブ
プレミアムチケット:2021年1月5日(火)18:00〜2021年1月7日(木)18:00まで ※期間にご注意ください
通常チケット:終演後〜2021年1月6日(水)18:00まで(48時間)

■配信プラットフォーム
【LINE LIVE-VIEWING】
国内のみ
手数料:220円
プレミアムチケット / 通常チケット 販売ページ:https://ticket.line.me/sp/wagakkiband_online

【PIA LIVE STREAM】
国内・国外
手数料:220円 ※220円(コンビニ決済のみ)
国内:通常チケット販売ページ https://w.pia.jp/t/wagakkiband-pls/
国外:通常チケット販売ページ http://w.pia.jp/a/wagakkiband-eng/

◆和楽器バンド オフィシャルサイト
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