【インタビュー】SABER TIGER、最強セルフ・カヴァー作品『PARAGRAPH V』をリリース

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■“破壊と再生”をテーマに紡がれた
■大作「Eternal Loop」の再編


――そうかもしれません。「Eternal Loop」は<Red><Blue><Clear>という3章からなる約24分の組曲として、シングル・リリースもされた大作ですね。当時もライヴの際に涙を流しながら観ている人も多かった。

下山:これは僕が最初にいた2002年までの代表曲じゃないですかね。シングルにもなったぐらいて、たくさんの人に愛された曲だなと思うんだけど、いつかチャンスがあれば、三部作的な感じをまとめて、改めて一つのストーリーを完成させることができたらいいねとは思ってたんだよね。とはいえ、今回の「Eternal Loop」も13分ぐらいある大作ですが、アルバムの最後を締めるに相応しい、素晴らしい仕上がりになったんじゃないかなと思います。

――まとめる作業はMACHINEさんがやったんですか?

田中:いや、木下さんですね。これは僕ではできないですよ。やっぱコンポーザー当人じゃないと。木下さんですら、相当手間取ってて、なかなか収められなかった。

下山:難しかったと思うよ。

田中:この曲が多分、最後の最後に仕上がったんですよ。スパッと切ってくっつくわけじゃないからね(笑)。コードのつながりとかもあるから、よくつなげたなぁと思って感心しますよ。「Eternal Loop」の最初のソロは僕が弾いてるんですよ、短いですけど。最初は木下さんが弾く予定だったんだけど、俺に弾いて欲しいと言ってもらえて……木下さんも思い入れがある曲なんだから、自分で弾きなよって言ったんだけどね。でも、僕も曲を作る人間だからこそ感じるんだけど、自分が書こうと思っても書けないぐらい素晴らしい曲なんですよ。他の曲もそうなんだけど、だから面白いんですね。木下さんとはギターのサウンドのキャラが結構違うので、木下さんの曲を僕が後付けでツイン・ギターを弾くと、曲の印象がガラッと変わったりする。そういう意味での達成感というか、やり甲斐というのはありますよね。逆に言えば、それを求められてるのかなという気もするので。
他の曲でも、バッキングをゴリゴリした感じで弾いたらカッコよくなりそうな曲であれば、思いっきりそこをフィーチュアしてみたりするんだけど、そういう取り組みはすごく面白いし、むしろ自分が作った曲以上にやり甲斐を感じるかもしれないですね。たとえば、「Mr. Confusion」は演奏も難しいし、細かいんだけど、オリジナルを聴いたら、やっぱり木下節のギターなんですよ。でも、今回出来上がったものを聴くと、全然違う曲になっててね。サウンド的にかなりパワー感も増して。昔の曲を録り直すって、言葉にすればただ単に焼き直しみたいな感じだけど、やっている側としては、新曲と大差ないぐらいの面白さもあるし、新鮮さをすごく感じるんですよね。


――「Eternal Loop」は歌詞も必然的にコンパクトになりましたが、歌い手の気持ちとしてはどんな臨み方をしたんですか?

下山:まぁ、当然、歌詞も全部は入らないから、伝えたい言葉が中途半端になって、違和感があれば何か考えなきゃと思ったんだけど、意外と新しい解釈で受け入れられるものになったよね。そもそもは9.11の同時多発テロ事件を受けてできた曲で、破壊と再生というテーマで作ったんだよね。人生においては、いろんなものが壊されたり、壊したりということがあるけど、そこから次の再生に向けて……最後の歌詞にも<手のひらで受けた涙が乾くときに光が見える>みたいな一節があるんだけど、そこでもう一つのストーリーが成立してる。訳詞はオフィシャル・サイトで公開したいなと思ってますよ。

――「Because Of My Tears」はどういう理由で採り上げたんですか?

下山:SABER TIGERの曲の中ではすごく異質というか、ポップ寄りというか、アルバムのヴァリエーションを考えたとき、こういうコーラスから入るようなわかりやすい曲も一つあっていいなとずっと思ってたんだよね。「Back To The Wall」みたいなバラードもそうだけど。

田中:この曲は確かチューニングが1音低いんですよ。だから、曲はキャッチーなんだけど、ギターとかベースとかの重さにはこだわって録ったし、ミックスした思い出がありますね。カッコいい曲ですよね。エンド・ソロを僕が弾かせてもらったんだけど、何か最近、フェイド・アウトする曲は僕担当が多いんですよね。

下山:長々弾かされるやつね(笑)。

田中:でも、中間ソロよりも何倍も難しいですよ。中間ソロのほうが作りやすいんですよ、構成とかもイメージしやすいから。エンド・ソロの場合、フェイド・アウトするって前提がまず難しいし、フェイド・アウト自体に意味があるじゃない? スパッと終わらない切ない感じというか、思わせぶりな感じがある。そこにソロを乗せるわけだからね。だから、録っていても、感情がすごく入りますよ。この曲はアニキが歌っているかのように録りましたね。


▲下山武徳(vo)

――「Believe In Yourself」は、1999年に販売されたデモ・カセットにも入っていた曲で、その後、『SABER TIGER』(2001年)にも収録されましたから、バンドでレコーディングするのは、これで3回目になりますね。

下山:そっか。それは今知った(笑)。普通にライヴをイメージして、みんなと一体になれる感じがする縦ノリ系のものもあったほうがいいなと思って選んだ曲だね。他にもいくつか候補はあったんだけど、こういうライトな感じの曲も作れるんだぞという(笑)。

田中:やればできると(笑)。

――『SABER TIGER』からは3曲が選ばれましたが、あのアルバムは今はどのように見えるのでしょう?

下山:(CONCERTO MOONの島紀史と2000年に始動させた)DOUBLE-DEALERがあっての流れで、SABER TIGERがバップと契約できた作品だったから、もう最高のものを作ろうという気合もあったし、このメンバーで日本のヘヴィメタル界で天辺を取っちゃるみたいな思いも強かったよね。この作品からSABER TIGERは初めてメジャー・デビューしたと自分では思ってるんだけどね。それまでとのアマチュア臭い活動とは、あらゆることが一線を画すような、周りの環境もガラッと変わった。その中でプロ・ミュージシャンとしての自覚がちゃんと芽生えていった時期……自覚というか、責任だよね。自分たちだけのことじゃなくて、事務所のスタッフやレーベルの人たち、ライヴでライティングする人、PAの人たち、ローディ、全員の生活を支えなきゃという意識を持ちながら活動していくのが、プロとしての正しいあり方だと思ってたので、意識が全然違ったし、それをSABER TIGERというバンドでやっていかなきゃいけないなって。ただ、木下さんはまず自分の音ありきの人だったので、そういった面での不協和音がどうしても出てきて、その後、ほどなくして『F.U.S.E.』(2002年)をリリースして、バンドはバラけてしまうことになるんだけどね。

――当時のマネジメントからは、海外にどうやって出ていくかという具体的なプランも話に出ていましたよね。

下山:目標を海外にというのは俺が勝手に言ってたんだけど、みんな同じベクトルを向く前に、意識がズレちゃってたからね。みんなガキだったからな。DOUBLE-DEALERでヨーロッパ・ツアーに行けたのに、SABER TIGERで行けてないというのが、俺はすごく歯痒く思ってたんだよね。絶対に行きたい、海外のオーディエンスをびっくりさせてやるという意識はすごく強かったよ。脱退しても、俺は木下さんと喧嘩したわけじゃないから、別に関係が悪化したこともないし、普通に話ができる良好な間柄ではあったけどね。

■新たな風を吹き込む
■hibikiのベース・アレンジ


――お二人が加入する以前の1980年代の楽曲としては、今回は「Jealousy」が入っていますよね。

田中:初期のSABER TIGERを代表する1曲かどうかはわからないけど、象徴する1曲ではあるよね。もともとは、古いのを何か大胆にアレンジしたらいいんじゃないかって、水野がhibikiに言ったんじゃないかなぁ。そこで、じゃあ「Jealousy」をやろうかなって流れで決まったんだと思う。でも、かなりhibikiがモダンな要素も大胆に取り入れつつアレンジしてくれたおかげで、このアルバムに入れても違和感のない……。

下山:あるけどね(笑)。でも、だいぶモダンにしてくれたからね。俺たちがオリジナルを知っちゃってるから、違和感があるのかもしれないけど。

田中:確かに以前のヴァージョンを聴いてなければ、そうでもないかもしれないね。


▲田中康治(g)

――サウンド的にはそうかもしれません。歌詞は当時の匂いがどうしてもしますけどね。

田中:これ、木下さんが歌詞を書いてたんですよね。僕も今回の作詞作曲のクレジットを確認するまで知らなかったんだけど。木下さんからあんな言葉が出てくるんだなって(笑)。

下山:どこで覚えてきたんだろうな(笑)。

――確かにその意外性はありますね(笑)。「Into My Brain」は当時のSABER TIGERの代表曲と言っていいものですね。

田中:ドラムがすごく難しいから、チャレンジしたかったって水野は言ってましたね。『INVASION』の1曲目は「Storm In The Sand」で、これが『AGITATION』の1曲目ですけど、あの頃のジャパメタはイケイケの感じを売りにするバンドが多かった中で、わりとスローというか遅めの曲を1曲目にしているというのは、かなり大人っぽいことをやってたんだなとは思いますよ。木下さんも31歳ぐらいでしょ。よくこんな渋い曲を書くよねって思いますよ。

――hibikiのベース・ソロが一つの聴きどころですね。

下山:ベース・ソロを入れようというのは俺が言い出したんだよね。やっぱ新しい風を入れないとね。もともとが陽子さんが語りみたいなものを入れてるじゃん? あれを俺がやってもカッコ悪いから(笑)、これはベース・ソロだなと。

田中:ベース・ソロを入れるから尺を少し延ばしてるんですよ。

――「屈辱」は当時のSABER TIGERとしては最後の作品となった『F.U.S.E.』のオープニング・トラックでしたね。

下山:そうだね。いろんな思いもあるけど、とりあえず20年経ってもちゃんと歌えてよかったなとホッとしたのと同時に、感謝の思いもあるね。若い頃は、イキってやってるとかあるからね。とにかく自分のエゴを丸出しにするというか。それはその時代でよかったと思うんだけど、今はどういう表現ができるのか自分でも楽しみでね。尖っているところは尖っていて、だけど、優しさのある尖り方というかさ。丸くなったというのとは違うんだけどね。それは他の曲でも言えることなんだけど、歳を重ねるというのはこういうことなんだなぁと自分でも思うところはあったね。

――余談ですが、あの当時のラインナップでは、『STAND PROUD! III』に提供したCHICAGOのカヴァー「Hard to Say I'm Sorry」が最後のレコーディング作品になりましたね。木下さんが「Sleep With Pain」を選んだ理由は何か聞いていますか?

下山:「好きなんだよね」って言ってたような気がする(笑)。

田中:僕はライヴでもやったことがなかったから、最初はどんな曲か思いつかなかったけど、木下さんが好きそうだよね。超木下さんっぽいリフなんですよ。

下山:hibikiのスラップにはびっくりしたね。

田中:うん。ただ、それは確かに新しい風なんだけど、ミックスのとき大変だったよね。スラップとスラップじゃないところの音量レベルや音質の感じがどうしても違ってくる。最初、木下さんの第1弾ミックスを聴いたとき、これはダメだねって言って(笑)。hibikiはhibikiなりに上手く馴染むように弾いてるはずなんですけど、そのイメージどおりのミックスになってないなと。最終的にはいい感じになってよかったですね。普段、スラップの音なんてSABER TIGERでは出てこないからね。

――確かにそうですね。さて、バンドとしては、この後はどのような活動を想定しているのでしょう?

下山:一応は白紙。ライヴが組めないからね。ツアーなんて余計にそうでしょ。20人ぐらいしか入れないような狭い会場でのライヴも、個人的にはセッションとかでやってはいるけど、それはSABER TIGERでは違うでしょ? かといって無観客配信もやりたくないんで、もうちょっと様子を見ながらだよね。配信をやるにしても有観客でやりたいし。今年、来年は運営するほうも大変だと思う。(SABER TIGERが地元・札幌で主催している)『HAMMERBALL』もどうしようかと思ってるし。

――そうでしょうね。各地からミュージシャンが集まる大型イベントですしね。オリジナルのスタジオ・アルバムを制作する計画はあるんですよね?

下山:それは2021年のうちに出したいねという話はしてる。まだ何も進んではいないけどね。

田中:曲を作らなきゃっていう状態ですね。まだ尻に火がついてないというか、火がつく日がない状況なんですよね。いつリリースとか決まれば、いろんなことが進むと思うんですけど、リリースすることが決まっている今回の『PARAGRAPH V』ですら、ツアーが廻れない、グッズを作っても売るところがない。現実的なことを言えば、次の作品まで資金をどう工面するのかとか、なかなか思考が追いついていかないんですよ。

下山:ただ、みんな止まっているときに、スピード感を持ったバンドが頭一つ抜きん出るとは思う。その意識はやっぱり持たないとね。

田中:ホントは『PARAGRAPH V』を持ってツアーを廻ったりと考えてたけど、それができないのであれば、能力はすべて新譜の制作にシフトさせるということしかないですもんね。

――歌詞を日本語にするという話もあるようですし、曲そのものも楽しみですね。

田中:そうですね。気持ち的には、わかりやすい曲のアルバムにしたいなと……毎回そう思って取り組んでいるつもりなんだけど(笑)。でも、今回、『PARAGRAPH V』を録ってみて、原点に帰るということではないけど、シンプルでいい曲とか、わかりやすい曲の素晴らしさとか、いろいろ気付かされた部分はあるので、次の作品にそれが少しでも活きればいいなと思います。

取材・文◎土屋京輔



リリース情報

アルバム『PARAGRAPH V』
2021年1月20日発売
Walkure Records
WLKR-0055 ¥3,000+税
01. Revenged On You
02. Believe In Yourself
03. Motive Of The Lie
04. 屈辱
05. Sleep With Pain
06. Back To The Wall
07. Jealousy
08. Into My Brain
09. Because Of My Tears
10. Mr. Confusion
11. Eternal Loop

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