【対談】草野華余子×ナオ(首振りDolls)、異なる視点から深める“女性性”の解像度

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2021年の首振りDollsマンスリーインタビューのトップバッターゲストは、草野華余子。"カヨコ"というクレジットで多くのヒット曲を生み出して来た草野は、作曲を手掛けたLiSA「紅蓮華」の大ヒットにより、その実力を多くの人に改めて知らしめた。2021年、最注目クリエイターであると言っても過言ではない。

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1月27日には、"カヨコ"から本名である"草野華余子"に改名して初となる1stフルアルバム『Life is like a rolling stone』をリリースした草野だが、そこには彼女がこれまで書き続けてきた様々な人生観が曲となり言葉となって詰め込まれている。

草野が生きる上で感じ取る想いを作品に変え、世に送り出す楽曲達とは、全く異なる表現を曲と歌詞に落としこむ首振りDollsのナオ。初対面である2人は、お互いの曲や歌詞に、一体何を想うのか? “対談”というキッカケがなければ、出逢わなかったかもしれない2人は、クリエイターという共通点から、お互いのサウンドや言葉を使った表現から何を感じ取るのだろう? 男性でありながら、異性である女性性を歌うことが多いナオの歌詞を、女性である草野はどう受け止めるのか? 

客観的に書かれる女性性と、自らが追求し書く女性性に迫る分析話を中心に、お互いの音楽性について紐解きながら話し始めた2人のトークは、ファンならずともとても興味深い対談となった。

あわせて、3月17日に発売が決定した首振りDollsのニューアルバム『ドラマティカ』についても語られた最新のインタビューをお届けする。


――新年一発目は、1月27日に、"カヨコ"から本名である"草野華余子"に改名して初となる1stフルアルバム『Life is like a rolling stone』をリリースされた草野華余子ちゃんにお越しいただきました!

ナオ:よろしくお願いします!光栄です!

草野:よろしくお願いします! いや、こちらこそ! いきなり呼んでもらったので、え、私でいいんですか!? みたいな感じですけど(笑)。

ナオ:とんでもございません! お会いできて光栄です! まさかお会いできるとは思っておらず。本当に楽しみにして参りました!


――自身もシンガーソングライターとしてライヴ活動をされていながら、作家として多くのアーティストに楽曲を提供されている華余子ちゃんですが、個人的にその才能に前々から強く惹かれておりまして。メロディももちろん、華余子ちゃんが書く女性性と、異性でありながらも女性性を書くことが多いナオの対談が実現できたらと。

草野:光栄です! 私自身バンドの音は昔から好きで、今でも好きなバンドはチケットを買ってライヴに行ったりしているので、首振りDollsさんにもすごく興味が沸いて、今回対談のお話をいただいて、色々と過去作を聴いてみたり、YouTubeを観たりしてみたんです。いやぁ、カッコ良かったです!でも……怖い人が来ると思って、ちょっとビビってたんですけど……会ってご挨拶したらめっちゃのほほんとしてる感じで、印象が全く違ったから、今、どうしていいか分からなくなってます(笑)。

ナオ:あ、よく言われます(笑)。

草野:ファンの方ってそういうギャップは知ってるんですよね?

ナオ:あぁ、でも、ここまでのほほんって感じなのは知らないかもです(笑)。

草野:ギャップ萌えってやつですね、完璧に。でも、とりあえず、怖くなくて良かった。

ナオ:あははは。どうぞよろしくお願いします。

――華余子ちゃんと言えば、多くのヒット曲を世に送り出している売れっ子作家さんで、最近では『鬼滅の刃』の主題歌だったLiSAの「紅蓮華」の作曲を手掛けたことでも大注目だったわけですが、私が華余子ちゃんの曲を知ったのは、LiSAの楽曲がキッカケで。中でも印象深いのは、「シルシ」や「DOCTOR」。「蜜」「虚無」「ADAMAS」が特に印象深くて。LiSA との作曲と作詞の相性もすごく良くて、“ザッツ・カヨコサウンド”を強く感じて。女性の本能を曝け出した歌詞の乗ったアダルトな印象の「DOCTOR」も、作家であるカヨコごと赤裸々に本能を曝け出して作られた作品であったなと感じていて。LiSAにとってもイメージを広げた1曲になったんじゃないかなと。個人的に本当に秀曲だと思うのは、壮大なバラードに、LiSAが不安を隠すことなく素直に吐き出した気持ちを歌詞として乗せた「シルシ」。この曲は、ライヴで聴く度に涙が零れ落ちてしまうんだけど、「DOCTOR」は、そことは全く対照的とも言えるロック色の強いバンドサウンドでもあるよね。その幅の広さに驚かされるというか。本当に天才だなと。

草野:ありがとうございます。なんだか、女の子が好いてくれる曲みたいで、感謝しております。“男になんて負けない!って言っていながらも、好きという気持ちに負けてしまう”という想いを赤裸々に書いた歌詞の乗った、「DOCTOR」は、LiSAちゃんが女性性というものを歌った初めての楽曲でもあったんですよね。そこからバラードも書かせてもらうようになって。私自身、LiSAちゃんのファンだったし、すごくいいケミストリーが起こったなと感じてますね。今回の対談の大きなテーマでもあると思うんですけど、女性性っていうものをどう表現していくかで、大きく変わってくるところでもあると思うんです。LiSAちゃんの場合、アウトプットがスポーティーで、いい意味でいやらしくないから、根幹の部分で赤裸々に女性性を書いていても、芸術的にアウトプットされるところが持ち味でもあるんですよね。だから、ライティングの面ではとことん泥臭く書いてもらって、それをいかに瞬発力で出してもらうか、ってところを意識して作っているというか。そういうやり取りも含め、彼女とのやりとりは本当にいつも楽しく刺激的にやらせてもらってますね。首振りDollsさんの曲も色々と聴かせて頂きましたけど、女性性を歌われている曲多いですもんね。

ナオ:そうなんですよ。ちょっと半分女みたいなところがあるので。

草野:なるほど、それは興味深いです。

ナオ:草野さんが女性性を書くときは、どんな意識を持って書かれているんですか?

草野:私は、性格的にもサバサバ見られがちなんですけど、わりと恋愛体質だったり、小さい頃イジメられた経験があったり、あまり自己肯定感が高い方じゃなかったので、できる限り自分の思っていることを書いていこうと思っていたんですよね。5歳くらいから曲を作っていたので、曲に落とし込むことで、自分の気持ちをアウトプットさせてきたというか。人に言えなかったことを、曲にすることで成仏させるという意味で。例えば、好きな人に言えなかったこととか、本当はこんな風に生きたかったとかっていう女性っぽい気持ちを歌詞にしてきたんです。そういう歌詞の書き方をしてきていたら、怨念の篭った歌詞が出来上がっていったっていう(笑)。

――華余子ちゃんが歌詞を書く瞬間というのは、自分の中の鬱血した気持ちを表に吐き出す時なんだね。

草野:そう。曲にする瞬間って、成仏する瞬間なんですよ。ジトッとした粘着質というより、“そんなこともあったな”って笑い飛ばすような曲になりがちなので、女性が聴いて、“あぁ、こんな風にスパッと生きられたら良いな”って思ってもらえるような感じになってるというか。そういう女性性を歌った歌もあれば、虚無ではなく、“人間とは”っていうことを歌っているような曲もありますし。半々かな。最近は、年齢的なものもあるからか、人生を歌った歌が多かったりするんですよね。人と人って、どうしても分かり合えないっていうところを歌ってみたりとか。そういう曲にシフトチェンジしてきてるのかなって自分では思いますね。

ナオ:成仏っていうお話、すごくよく分かります!

草野:あ、分かります? 歌詞を書かれる時、そういう感覚ありますか?

ナオ:そうですね。でも、私の場合、成仏させようと思って書いている訳じゃないんですけど、過去の経験とかを活かして書いていると、辛かったことや寂しかったことが過去になっていくというか。

草野:あぁ、そうですね。

ナオ:はい。整理できるというか。だから、成仏するってすごく分かります。

草野:書いて過去になるタイプですか? それか、過去になってから書けるようになるタイプですか?

ナオ:現在進行形でも書きます。

草野:あ、そうなんだ。私とはそこが違いますね。私はちょっとだけそこは距離を置くかもです。渦中だと全部が温度のある歌詞になってしまうから。

ナオ:あ、それは分かります。リアル過ぎるというか、気持ちがこもり過ぎちゃうっていうところですよね。それもすごく分かります。でも、私は、書けるときは書けちゃうタイプですね。

草野:なるほど。明らかに、“この人に向けて書いた”みたいなことが分かる歌詞ってあったりするんですか?

ナオ:あははは。そこまでは分からないように書きますけどね(笑)。


草野:実際のモデルが居て書くってことはするんですか?

ナオ:はい。だいたいモデルは居ますね。

草野:へぇ〜。結構リアルだったりするんですね。

ナオ:そうですね、結構リアルな感じだったりするかもですね。1月27日にリリースされたアルバム『Life is like a rolling stone』を聴かせていただいたんですけど、その中にも、女性性が書かれている曲もあって。あぁ、私には書けない歌詞だなぁって思いながら聴きました。自分は男だから、女性性を書くときは、“私”を軸にして、女言葉で書いているんですけど、やっぱり本当の女性が書いた歌詞は、男が書いた女性像、女性性とは違うなって、改めて思ったというか。

草野:あぁ、確かに、男性が書く女言葉の歌詞と、女が書く女言葉の歌詞って違いますよね。意外とね、女性の書く女言葉の歌詞の方が無骨なんですよ。案外男性が書く女言葉の歌詞の方が艶っぽくて、生々しくて、実は女性っぽかったりするんですよ。

――ほぉ。例えば?

草野:例えば、Acid Black Cherryのyasuさんが書く女言葉の歌詞って、Janne Da Arcの頃から女性より女性っぽいんですよ! 毎回yasuさんが女性性を書いた歌詞を見て、すごいなぁって思ってましたからね。でも、yasuさんが歌うと、セクシーなんですけど、いやらしくないんですよ。すごく艶っぽいんですけど、嫌じゃないというか。あれを女性が歌ったら、妙にリアリティが増してしまって、セクシーというより、いやらし過ぎちゃうんですよ。生々し過ぎちゃうというか。自分が女性性を書く時は、生々しくなり過ぎないように気を付けていたりはしますね。だから、男性が女性性をリアルに歌うというのが、個人的にすごく好きなので、首振りDollsでナオさんがそういう歌を歌われているのは、すごく好きです。おぉ、おぉ、こういうの好き!って思いました(笑)。

ナオ:おぉ! 嬉しいです! ありがとうございます!

――なるほど。確かに、私も初めて首振りDollsの女性性を書いた曲を聴いたとき、文学的なものを感じたのと同時に、歌詞に落とし込む言葉や、リアル過ぎるくらいリアルな情景描写が、yasuくんの書く歌詞と通ずるところがあるなぁって感じたので、今、華余子ちゃんからyasuくんの歌詞が上がったときに、なるほどって思ったというか。

草野:分かります分かります。私も、そこにちょっと通じるものを感じました。

――“ん? これ、実際に女の人から言われた言葉なのでは?”って思うリアルさもあったりとか(笑)。

草野:あははは。そっち(笑)!?

――そうそう(笑)。とか、やはり、“きっと女性はこんな風に思うんじゃないかな?”という想像をリアルな言葉で書いているというかね。

草野:そうそう。

――“こんな風に女性に思ってもらいたいな”みたいな、男の願望なのかもしれないなとか。

草野:なるほど。そういう感じも確かにあるのかも! 私が生々しくなり過ぎないように意識しながら書いているのと同じく、男性が女性性を書く時に意識することってあるのかな? あまりにもリアル過ぎると、そのアーティストが好きなファンの女の子は傷付く時もあるんじゃないかな? って思ったりもするから。でも、私は、男性が女性口調で逆の立場からで書いてくれると、より感情移入できるんですよね。だから、個人的には、中性的な男性が女性の気持ちになって書いてるメロウな曲とかジャズっぽい曲とかが大好物なんですよね!

ナオ:なるほどなるほど! 他のアーティストの曲を聴くときもいろんなことを考えて聴かれているんですね。

草野:そうですね。自分が聴かせる立場になった時にどう響くかな?ってことを考えながら聴いたりしますね。だから、自分の曲を書く時もそうなんですけど、できる限り恋愛の提供曲を描くときは、できる限りあっけらかんと自分のダメさ加減を笑い飛ばすようなニュアンスのロックにしがちなんですよね。

――1月27日にリリースされた『Life is like a rolling stone』の中に収録されている「おわりものがたり」とかもそういう感じですよね。

草野:そうなんです。「おわりものがたり」は、ファンの人の中では、“ダメ女3部作”って言われている曲で(笑)。他に「ばけものがたり」と「きずものがたり」って曲もあるんですよ。2012年に「ばけものがたり」っていう曲を書いているんですけど、全部主人公は同じで。ってことは、8年もこの主人公にこんな恋愛させてんのも可哀想だから、そろそろ終わらせておこうかな! と思って、今回「おわりものがたり」を書いて終わらせようと。

ナオ:8年! 8年も辛い恋愛させたんですね!

草野:そうそう(笑)!

ナオ:なかなかですね!

草野:そう。なかなかでしょ(笑)。ずっとグズグズ言ってたんですよ(笑)。あ、言っておきますが、私本人の話ではないですから! でも、歌詞書く時って、何人か主人公いません?

ナオ:いますいます! いっぱいいます!

草野:いっぱいいるタイプです?

ナオ:はい。100%妄想の主人公もいますし、自分の経験を乗っけた主人公もいますし、曲ごとに違うといえば違うんですよね。

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