【コラム】映画『はな恋』でも話題、Awesome City Clubを改めていま聴く

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1月29日に公開された有村架純と菅田将暉のダブル主演映画『花束みたいな恋をした』。小説や音楽などの趣味が合うことをきっかけに意気投合、恋に落ちた男女の5年間を描いた同作は現在大ヒット中。1月30日、31日の週末映画動員ランキングでは初登場1位を獲得した。

映画の盛り上がりとともに話題になっているのが、同作のインスパイアソングであり、予告編映像などにも使われているAwesome City Clubの楽曲「勿忘」(読み:ワスレナ)だ。『花束みたいな恋をした』にはAwesome City Club、そしてPORINが本人役として出演している。その縁もあり、映画に感銘を受けたメンバーが「勿忘」という楽曲を書き下ろしたそうだ。



始まりは、うっすら鳴る鍵盤の音色をバックにしたatagiの独唱。静かな歌声を聴いていると、そこではもう過ぎてしまった美しい日々について歌われていることが分かる。徐々に楽器の種類が増えていく様は大切な思い出を彩っているかのよう。サビでは軽やかなストリングスのメロディやPORINによるハーモニーも加わり、まさに春の陽気を思わせるような、温かみのあるサウンドが広がっていく。

2番ではPORINが主旋律にまわり、日々を花に喩えながら、もう一度咲いてくれたらと切ない願いが違う目線から歌われる。溢れそうな気持ちを表現するような、情熱的なモリシーによるギターソロ。一旦トーンダウンしてから、軽やかなラスサビへ──。恋愛におけるひとときの輝きとそれが失われたときの名残惜しさ、過去を慈しむ気持ち。約4分間でドラマを描く「勿忘」は、それらをぎゅっと抱きしめるような、それこそ花束みたいに愛おしい楽曲だ。



1月27日より配信リリースされた「勿忘」は、SpotifyやLINE MUSIC、AWAなど各種ストリーミング配信サービスの急上昇チャートで上位にランクインし続けている。歌詞検索サービス「歌ネット」の「歌ネット注目度ランキング」(1月28日付)では初登場1位を獲得。SNSには既に多数のカバー動画や楽曲を使用したオリジナル動画が上がっている。

「勿忘」を歌っているAwesome City Club(通称:オーサム)とは、atagi、PORIN、モリシーによる男女ツインボーカルスタイルの3人グループ。2013年、東京で結成。活動初期にはSoundCloudやYouTubeを通じてインターネット上で楽曲を発表。早耳の音楽ファンの間で話題を集めると、2015年4月、1stミニアルバム『Awesome City Tracks』をリリースしてデビューした。

当時「架空の街“Awesome City”のサウンドトラック」というテーマの下制作を行っていた彼らは、 “Awesome City Tracks” シリーズと題して、デビューからの2年間で4枚のミニアルバムをリリース。2017年にリリースされたベストアルバム『Awesome City Club BEST』は同シリーズの締め括りと言える作品のため、“オーサム入門編”としてぜひ聴いてみてほしい。

その後もバンドからはコンスタントに楽曲が発表されているほか、atagiは外部アーティストに楽曲提供し、PORINは自身のアパレルブランド「yarden」を立ち上げ、モリシーはギタリストとして様々なバンドのライブをサポートし……と、個々の活動も充実。メジャーデビュー5周年の2020年にはレーベルを「avex / cutting edge」に移籍。同年10月には、オフィシャルサイトやオフィシャルSNSで“僕らはオーサムシティで生きていく”というメッセージとともに新たなアーティスト写真などを公開。新生Awesome City Clubとして再スタートを切った。

そんなAwesome City Clubは、2010年代半ばの邦楽バンド界隈におけるシティポップブームを牽引してきたバンドとして知られている。しかしその音楽性は“シティポップ”という一単語では括れないほど多様なもの。活動を重ねるほど、彼らの鳴らす音楽はますます自由になっていっている。ここでは、バンドの豊かなディスコグラフィから厳選した楽曲をいくつか紹介したい。

■「青春の胸騒ぎ」


「勿忘」をきっかけにAwesome City Clubを知った人に初めにおすすめしたい楽曲。AOR調のサウンドが懐かしくも温かい。過ぎた青春を慈しむ目線で綴られた歌詞を、程よく脱力したバンドのアンサンブルが心地よく包むようだ。“初雪の東京”とあるように、季節感的にも今にぴったり。8ミリフィルム風のミュージックビデオも楽曲の世界観を存分に表現している。

■「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」


ツインボーカルの特性を活かした男女デュエットソング。4ビートを主軸とした踊れるディスコソングで、裏メロ的に鳴るギターのフレージングが小気味よく癖になる。パーティー会場を舞台にした楽曲だが、恋の駆け引きだけではなく、「遊び足りない」という気持ちの裏にある寂しさ、心が満たされない感じも見事に掬い取られている。2番サビ前ではPORINの台詞に耳をすましてみてほしい。

■「最後の口づけの続きの口づけを」


「今夜だけ~」と同じくデュエットソングだが、道ならぬ恋と踏み外してしまいそうな心を歌った大人のラブソングに仕上がっている。スマートに進んでいくトラックが、綺麗事だけでは済まない恋愛の残酷さをかえって際立たせるようだ。サビのボーカルはハモりのラインがやや複雑で、2種類のメロディを堪能したかのような贅沢な後味が残る。

■「Don’t Think, Feel」


スケールを上昇していく冒頭のストリングスからしてドラマが始まりそうな予感が満載。オーサムのポップセンスが遺憾なく発揮されていて、どこをとってもきらびやかな1曲だ。リズムのタメを感じさせるatagiのボーカルはファンキー。“『会いたいなんて 言わないから 会えないなんて 言わないで』”というキラーフレーズも。

■「アウトサイダー」


デビューと同年の2015年にリリースされた初期の代表曲。SNSをテーマにした歌詞には“自分に正直であれ”というメッセージが込められている。メッセージ性の強い歌詞が乗せられたのはこの曲が初めてであり、バンドのターニングポイントにあたる重要な楽曲になったほか、リズミカルな曲調がファンに愛され、ライブの定番曲として定着していった。

■「燃える星」


「青春の胸騒ぎ」と同じく「勿忘」が好きな人に特におすすめしたい1曲。いわゆるリード曲ではないため、ミュージックビデオやリリックビデオは制作されていないが、ファンの間では影の名曲として知られている。恋愛の思い出は往々にして美化され、やがて淡くなり消えていく。“終わりの始まり”というべきその時間に宿る儚さ、美しさを体現した名バラード。



また、2月10日にはニューアルバム『Grower』がリリースされる。アルバムには「勿忘」を含む全10曲を収録。往年のソウル、ファンクに対するリスペクトが根にありながらも、ダンスミュージックに振り切った曲もあれば、アコースティックギターのリフを主体としたオーガニックな響きの曲もあり、アシッドジャズのリズムで心地よく揺らす曲もある。

多様なサウンドプロダクトから感じられるのは洗練と遊び心。なかでも、声のサンプリングをふんだんに使用した「Sing out loud, Bring it on down」は特に新鮮で、楽曲の構成も面白い。PESを招いたオーサム初のフィーチャリング楽曲「湾岸で会いましょう feat. PES」や、バンドの新たな宣言とも解釈できる「僕らはこの街と生きていく」も聴きどころと言えるだろう。

タイトルの『Grower』は直訳すると“(草木などの)栽培者、飼育者”という意味。音楽の枝葉がぐいぐいと伸びていく過程を一番に楽しんでいるのは他でもないメンバー自身なのかもしれない。アルバム全体からは、バンドの風通しの良さ、自由な発想に満ちた空気感が窺える。充実の季節を謳歌する最新のAwesome City Clubをぜひとも堪能してほしい。

文◎蜂須賀ちなみ

『Grower』

発売日:2021年2月10日(水)
商品予約:https://lnk.to/ACC_Grower

■CD+Blu-ray+スマプラ
品番:CTCR-96010/B
価格:¥5,500(本体価格)+税

■CD+スマプラ
品番:CTCR-96011
価格:¥2,900(本体価格)+税
収録曲
1.勿忘
2.tamayura
3.Sing out loud,Bring it on down
4.ceremony
5.湾岸で会いましょう feat.PES
6.記憶の海
7.Nothing on my mind
8.Fractal
9.僕らはこの街と生きていく
10.夜汽車は走る

◆Awesome City Club オフィシャルサイト
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