【インタビュー】岸谷香、「青春、胸キュン、ドカン」って(笑)

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岸谷香が発する芳醇なミュージシャンシップを伝えるロングインタビューがBARKSに掲載されたのは、2020年4月。この取材が行なわれたタイミングでは緊急事態宣言こそ発令されていなかったものの、新型コロナウイルスの深刻さがじわじわと人々に伝播し始めた頃だった。

この時、岸谷香はステイホームを意識しながらも、すでに明るく前向きな心持ちで作品作りに邁進している状態にあり、エネルギッシュで多幸感満載な作品の原石が誕生したことを、喜びと興奮で伝えている。

「もっとクールにやりたいと思って、いろんなこともやってきたけど、自分でキュンとしないとダメなんですよね。(中略)それで「よし!」って思う曲ができた。最終的に「唯一無二、これしかできない」でいいんじゃない?それがミュージシャンって思っています。隣の芝生はカッコいいけど…そんなもの採り入れようと思っても無理(笑)。自分のスタイルがあるだけ良かったじゃんって思って、それを恥ずかしげもなくやれればって思ってます」──岸谷香(2020年4月BARKSインタビューより)

そして今、ミニアルバム『Unlock the girls 3 -STAY BLUE-』が2021年2月17日=岸谷香の誕生日に発売となる。表題曲「STAY BLUE」は、「今こそ青空を駆け抜けよう」というキャッチワードとともに世に放たれる青春エールソングだ。あわせて、2月20日には<岸谷香 感謝祭2021>と題された有観客ライブも実施される。

新型コロナウイルスで世の中が停滞しがちな状況下、岸谷香は持ち前の明るさと音楽の才を武器に、快活な1歩を歩み始めた。


──「よし!」と確信した曲、それが「STAY BLUE」だったんですね。

岸谷香:道のりは長かったんですけれど、やっと今こうやって形になりました。今でもプリンセス プリンセス時代の音楽を愛してくれている人もたくさんいるし、そういうプリプリっぽい岸谷香節をUnlock the girlsでも聞きたいと言われることもあって、「プリンセス プリンセスっぽいって何だろう」って考えるんですけど、大きく言えば「美しいコード進行とメロウなメロディをハードに演奏するかな?」って思っていたんです。

──まさにそんな感じですよね。

岸谷香:そう思って作っていたんですけど、どうやらレコード会社のディレクターはそうじゃなかったみたいで。

──ん?

岸谷香:「どういうの?」って聞いたら「なんかこう…青春!ポカリスエット!」って。「え?」みたいな(笑)。「明るい」「青春」「ポカリスエット」って言っても音楽のイメージはそれぞれ違うから、言ってみりゃ「みんなが大好きな岸谷香節でヒットするような曲を書きなさい」って言われたようなもん(笑)だから「イメージそのものの映像を見たい」って言ったの。「これに音楽をつけてください」って言われたら、それはできるから。そしたらその映像が青い空と海で、なんて気持ちがいいんだろうっていう素敵なものだったのね。自粛で外出もままならない今、バブルな時代に海外で撮影してきましたーみたいな青春で胸キュンな映像で、「よし、これにBGMをつけるとしたらどんな曲書く?」って言われたと思ったらすごい盛り上がっちゃって。

──いいですね。

岸谷香:映像見ながらイエイ!みたいな感じ。でも私としてみれば、ちょっとプリンセス プリンセスっぽすぎてUnlock the girlsのメンバーが嫌がるかなって思ったんです。「これじゃあプリンセス プリンセスじゃん。だったらプリンセス プリンセスでやりゃあいいじゃん」って。だけど意外にもみんな「胸キュンで素敵」「やりたーい!」くらいの勢いだった。彼女たちは時代的にもプリンセス プリンセスを知らないし、プリプリへの印象も違うのかもなと思いました。

──ディレクターは?

岸谷香:青春ポカリスエットをリクエストしてきたディレクターも「最高過ぎます」「自分が望んでいたイメージしたものでした」とか言うから、面白いもんだなって思います。

──そういう制作過程を踏めば、30年以上も前のプリンセス プリンセスと同じようなテイストが今の自分からも出てくる、というのは想定内ですか?

岸谷香:うん。普通に書いたらきっとそうなるだろうなって思ってました。なんて言うんだろう…衝動なんです。

──衝動?

岸谷香:プリンセス プリンセスの時って必ず何か衝動があって曲を書いていたんです。大抵つまらないことなんだけれど、ツアーとレコーディングで毎日が音楽で回っていたし、海外旅行に行ったとか彼氏とどっか行ったとか毎日に刺激があったから、曲を作るにも衝動とストーリーがあったんです。

──曲を書く理由があるんですね。

岸谷香:そうなんです。誰かのコンサート行ったらめっちゃかっこよくて「私もやりたいんだよね」って書いたものも衝動だし、前はバラードだったから今度はガツンと行きたいよねとか。職業作家じゃないからやっぱり衝動があって曲を書くんだと思うので、だから文章や口でリクエストをもらうのではなく、その衝動が欲しくて映像をリクエストしたんだと思ってます。


──ミニアルバム『Unlock the girls 3 -STAY BLUE-』は4曲収録ですが、バラエティは豊かですよね。

岸谷香:「STAY BLUE」は、ほんとしっくりきちゃっている感じですけど、あとの3曲のうちの2曲は「この際だから」と引っ張り出してきた曲なんですよ。

──?

岸谷香:簡単に言っちゃうと、ちょっとプリンセス プリンセスっぽくて気分じゃないという理由でお蔵入りさせていた曲たちで、「やるなら今でしょ」って歌った2曲が「charm」と「A VISITOR」なんですね。10年位前に書いた曲で、ライブなんかでちょいちょいってやっていたんですけど、「charm」の歌詞に関してはきょんちゃん(富田京子)に全取っ替えで書き直してもらいました。

──やっと日の目を見た曲なんですね。

岸谷香:プリンセス プリンセスの再結成も終わった後だったから、ソロではプリプリっぽい感じの曲はあんまりやる気がしなくて、マネージャーに勧められても「今全然気分じゃないの」とか言って却下してた曲なの。だけど、今「STAY BLUE」と一緒だったらそれはそれで楽しめるかもしれないと思って。Unlock the girlsでやるわけだから、ちょっと楽しい感じにアレンジも考えました。今回書き下ろした「STAY BLUE」と「Wrong Vacation」もすごくプリプリっぽいと思っていたんですけど、ディレクターは「全然違います」って(笑)。あたしが思うプリンセス プリンセスっぽいっていうのと他人が思うプリンセス プリンセスとは全然違うのかな。

──僕もプリンセス プリンセスっぽいとは思わないです。

岸谷香:ほんと(笑)? 私としては「GET CRAZY!」とかロックンロールをやっちゃうプリンセス プリンセスのあるあるだったんだけど…誰にもプリンセス プリンセスっぽいとは言ってもらえなくて、本人がぽいって言ってんのに違うってなんなの!みたいな(笑)。

──確かに「Wrong Vacation」も当時のプリプリが演りそうな曲ですけど、こういうロックンロールはシンプルが故に、バンドそのものの色が強く反映されますから、プリプリ色ではなくUnlock the girlsの匂いになりますよね。


岸谷香:絶対そうですね。「STAY BLUE」もね、緊急事態宣言の時に「ほんとパッとしないよね。なんかパッとしたのやらない?」みたいな話をきょんちゃんとしていて、「一緒にやらない?」「やるやる!」ってとんとん拍子に歌詞を書いてもらった曲だから、今作はプリンセス プリンセスの作家陣大集合みたいになっちゃったんですけど、バンドメンバーは「あ、そうなんですか」みたいな感じでそこは全然意識してないんですよね。それも嬉しかったし、私も今だったらいいかなって、すごい楽しかったです。

──自然な成り行きだったんですね。

岸谷香:うん。ものすごく自然な流れ。

──「STAY BLUE」では、きょんちゃん(富田京子)にどんな歌詞をリスエストしたんですか?

岸谷香:「青春、胸キュン、ドカン」って(笑)。「きょんちゃんさ、もうあの時みたいに膝とか抱えて星とか見上げてさ、昔みたいに青春に浸っちゃって泣きながら書いていいからさあ」みたいな感じで「いっちゃっていっちゃって」って(笑)。そうは言われても年齢もあるし、さじ加減もいろいろ悩んだと思うんですけど「もっといっていいし」とか言って何度もやりとりがありました。「いや、ここのボルテージと歌詞が全然合ってないからこっちに変えようよ」とか、昔みたいに散々やりましたよ。

──いい仲間ですね。

岸谷香:今までそういうのを一緒に作ってきたし、同じプリンセス プリンセスのメンバーだから分かる分かるって感じで。ここずっとモヤモヤしていて、それがお互いに嫌だったから、それを「ばーっとさ!」みたいなことを言っていたんです。

──コロナ禍で溜まった陰鬱なものを吹き飛ばしたい気持ち。

岸谷香:このトンネルみたいなモヤっとしているところから抜け出したいなと思って、自分のお尻を叩くというか、自分のモヤモヤしているものを破るために作ったような気がしますね。結果、それを共有してくれるみんなもそんな気持ちになれたらいいねっていう感じで。

──「Wrong Vacation」もそういう思いが詰まっていますよね。

岸谷香:そうです。世の中のミュージシャンは死ぬほど思ったと思うけど「ただでこんな思いしてたまるか」って。ツアーは飛ぶし、今まで当たり前だったことがこんなできなくなって、こんな時に人を集めて音楽やってる場合かよ…ってなんか悪いことしてるみたいな感じになっちゃったでしょ? 次から次へとキャンセルで、ただでこんな思いしてたまるか…せっかくだからこれを残そうって。「あの時コロナのおかげで、この曲が書けましたよ」くらいに上から目線で言ってやりたいっていう(笑)。

──感情の爆発ですね。

岸谷香:最初はスタッフから「そんな曲、コロナが終わったら歌えなくなる」って言われたんだけど、「いや歌えるよ。コロナの事はみんなの脳裏に残っているんだから、その時のことを思い出して逆に笑ったらいいじゃん」って譲らなかった。それでああいう歌詞にしたんです。

──ギターはハウりまくって、激しい思いが音にも表われていますよね。

岸谷香:メロディにも歌詞にも、全員負けてらんないって思いがあったと思いますよ。自分だけ冷静にやってる場合か?同じボルテージにいかないと、って。ツアーも飛んでレコーディングも一回キャンセルになって、で、やっとできるっていうそのエネルギーの持って行き場は「音」ですよね。久しぶりにみんなでやったときの嬉しさっていうか、もう泣きそうっていうか、その喜びもめっちゃ音に出てると思うんですよね。


──これぞ、バンドですね。

岸谷香:ほんとですね。レコーディングは本当に楽しかったし、あっという間に終わってしまって名残惜しかった。そんな気持ちでのレコーディングだったから、いい音も録れたような気がします。

──当たり前ながら、新型コロナウイルスはあらゆる人に大きな影響を与えたんですね。

岸谷香:そうですね。「スカッとしたかった」っていうのがすごくあったから、活動できること自体がとても嬉しくて、「あたしやっぱり好きなんだな」って自分でも思うし、「歌ってるのってきっと私らしいんだろうな」とも思います。

──音楽が人を動かす根源ですね。

岸谷香:だといいな。特にプリンセス プリンセスの現役時代に応援してくださったファンの人って、今一番大変な世の中を最先端の現場で支えている世代の人達でしょ?そういう人たちも一緒にパッとしたかった。この曲を聞いて、今一番辛い人たちが嬉しくなっちゃうような一瞬が訪れたらいいなと思ってます。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)


岸谷香『Unlock the girls 3 -STAY BLUE-』


SECL-2498 ¥2,400 tax in
1.STAY BLUE / 曲:岸谷 香 詞:富田 京子
2.Wrong Vacation / 曲:岸谷 香 詞:岸谷 香
3.A VISITOR / 曲:岸谷 香 詞:中山 加奈子
4.charm / 曲:岸谷 香 詞:富田 京子

<岸谷香 感謝祭 2021 生配信>

2021年2月20日(土)
@EX THEATERROPPONGI
開場:16:30/開演:17:30
出演:岸谷香 (Unlock the girls & OYAJI BAND)
全席指定 9,000 円(1ドリンク付き・税込)
配信鑑賞券 4,000 円(税込) https://w.pia.jp/t/kaorikishitani-pls/
配信メディア:PIA STREAM (https://t.pia.jp/pia/events/pialivestream/)
配信視聴期間:2月20日(土)17:30~2月26日(金)23:59
[問]DISK GARAGE 050-5533-0888(平日 12:00-19:00)https://diskgarage.com/

◆岸谷香オフィシャルサイト

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