【インタビュー】FINLANDSを照らした、閃きと繰り返しの日々

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■爆発的に愛せるアルバムに

──疾走感たっぷりで明るいトーンの「テレパス」も印象的でした。“あの頃の自分はこうだった”とか、塩入さんの気づきが散りばめられているんじゃないかと。

塩入:「テレパス」を作ったときに考えていたことが「HOW」に反映されていると思うんです。相手が願っている自分が昔の自分だったりすると「あなた、こういう人だったじゃない?」って言われたりして。でも人は変わっていくし、昔の自分を引っ張り出して演じ続けるのはすごく疲れるなって。恋愛に限らず誰かの期待に応えたかった自分がいたけど、ガッカリされたとしても最新の自分でいることがいちばん健康的なことだと思ったんです。相手との関係性が変わっていけばいくほど思っていることは言葉にしないと伝わらなくなってくる。今はテレパシーだけじゃ伝わらないよっていうところに焦点を当てた歌を書きたかったんですよね。

──ほかに塩入さん自身が今だから生まれたと思う曲は?

塩入:「Stranger」という曲が私はすごく好きなんですけど、作りたかった曲が具現化できたという喜びもありますし、サポートメンバーと4人で作ったときに、それぞれのバンド感というか、バンドのカッコよさを一挙に集めて作りきれた曲だなと思うんですよね。すごくバンドっぽいサウンドなんだけど、混濁していなくて透明な曲で、出来たこと自体がすごく嬉しかったですね。

──バンドマジックが生まれたナンバーですか?

塩入:うまく言葉にできないですけど、“こういうところに着地したい”という起爆剤を4人が4人とも持っていた気がしますね。

──「Stranger」は異邦人という意味ですが、人間という生きものについて歌っていますよね。

塩入:人間って変だなって思っていて、冒頭にお話した“閃きと繰り返し”のスタート地点みたいな曲でもあるんですけど、人間って昔から同じことを繰り返していると思うんですよね。綺麗なものを人に贈る文化だったり、群れを作ることや、敵がいることで安心している気持ちとか、もう期待しないと決めたのに翌日にはもう期待している愚かさとか。そういう繰り返しをずっと続けて最新をカスタマイズしていっている。形がちょっとずつ変わっても根本的には変わらない生き物だと思うんですよね。自分自身もそうだなと思いますし、「ホントに私は同じことばっかり繰り返しているな」って考えたとき、そもそも人間はそういう生き物だと思ったら、すごく安心できたんですよね。

──時代が進化しても変わらないところがある。

塩入:ある種、変態的だなと思いますし、どれだけ傷ついても悲しんでも、また人を好きになるし……。FINLANDSで『BI』(2018年)を発売したとき私はすごく恋愛をしたなと思ってアルバムを作ったんです。すごく好きで、でも、もうその人と会えないってわかったときにめちゃくちゃ落ち込みましたし、これからきちんと生きていけるだろうか?って思ったんですけど、だけど今きちんと生きていけてるし、全然元気だし、人間の回復力はすごいなと思ったんです。失くすことに対して、こんなに耐性がついていってしまうものなんだなってちょっとビックリしたんですよね。そういう部分も含めて人間の繰り返し能力は絶対的だなと思って「Stranger」ってタイトルにしました。

──“人は失う事が得意なんだから”って歌っていますものね。

塩入:そうですね。

──Twitterに学生時代に授業中にイヤフォンを隠して聴いていた頃の気持ちを蘇らせたかったと書いていましたが、それぐらいテンションの上がるアルバムにしたかったのでしょうか?

塩入:私が高校生のときってMDだったんですよ。高3のときにiPodが出てきてやっとシャッフルできるようになったんですけど、通学時間が長かったのでアルバムを買ったら、MDに入れてリピートして聴き続けていたんです。で、ホントに好きなアルバムが発売されたときって行き帰りだけじゃ物足りなくて、すごく自由な学校だったので授業中もずっと聴いていて。

──怒られなかったんですか?

塩入:全然。紙パックの紅茶とか飲みながら(笑)。今、考えたら授業中ぐらい我慢すればいいのにって思うんですが、それぐらい聴きたいアルバムがあったんですよ。勉強中も我慢できなくなるぐらいに聴きたくなるものを自分で作りたいっていう気持ちがすごくあって、テンションが上がるっていうのもありますけど、それぐらい自分自身が爆発的に愛せるアルバムにしたいなと思ったんです。

──その想いは実現したのでは?

塩入:しましたね。

──曲間がなくたたみかける後半の「Silver」、「Balk」、「UNDER SONIC」は特に上がりポイントです。

塩入:そうですね。アンダーグラウンドな感じがして、そこはいい部分だと思いますね。

──ノイジーでブチ切れたギターソロが入っているのは「Silver」でしたっけ?

塩入:だいたい入ってるんですけど(笑)、そうですね。

──塩入さんの歌も攻撃的な曲もあれば、息遣いまで伝わる情緒のある曲もあって、曲調も歌い方も幅が広がっている印象を受けました。

塩入:広がったと思います。ちょっとだけ自分を開いていくっていうのはそういうことなんだなと思いました。

──アルバム最後の曲を配信シングルでリリースした「まどか」のFLASH ver.で締めくくった理由についても教えてください。

塩入:曲順をみんなで相談していたときに2020年は「まどか」で走り抜けた気がして、去年は活動自体すごく少なかったですけど、3月に「まどか / HEAT」をリリースできたことは大きかったと思うんですよね。「まどか」は私にとってすごく大きな存在の曲ですし、この曲が最後に来るのが美しい形なんじゃないかと思いましたね。



──4月10日からは東名阪ツアーがスタートしますが、今思い描いていること、ワクワクしている気持ちを教えてください。

塩入:まず、今までと違うなと思うのは無事に開催できることをいちばんに願っています。そしてリリースツアーなので、新しい曲を各地で演奏していくんですが、曲ってCDにパッケージされて、ツアーで披露するにつれ、どんどん形を変えていくものだなと思うんですよ。この5〜6年、曲が成長していくという意味をすごく実感しているので『FLASH』の13曲も<FLASH AFTER FLASH TOUR>が終わる頃にはどういう形で成長しているのか、自分でも楽しみですし、CDで聴いたときとライブで聴いたときに印象が変わる現象がきっとあると思うんですよ。そういう楽しみ方もしてもらえたらいいなと。

──やはり、お客さんが来て一緒に楽しむライブは配信と違いますか?

塩入:全然、違います。知り合いのバンドマンが「お客さんがそこにいてきちんとコミュニケーションが取れるのがライブのいいところだ」って言っていたんですが「まさにそうだな」って目から鱗というか、私たちはそういうものを求めていたんだなって感じました。

──話をお聞きして、落ち込むこともあったとは思いますが、いろいろな新しい発見、気づきがあった日々を過ごしていたんだなと感じました。

塩入:そうですね。生きていく中、自分の人生を変える一瞬みたいなこと、ドラマティックなことってそうそうないと思うんですよね。でも去年は大きなひとつの出来事があったことによって私たちの生活はほぼほぼ何もなかった。そういう中でちょっとだけ考え方を変えるだけで光を当てたり、ひらめけることってたくさんあるんだなって。そう考えたら、これからはもっと自分や相手や時間だったりをひらめけるように見つめられるんじゃないかなって。そしたら、もっと面白いんじゃないかなと思いました。

取材・文◎山本弘子

3rd Full Album『FLASH』

2021年3月24日(水)発売
FU-022 ¥2,500(本体)+税
発売元:sambafree.inc
販売元:ハピネット

[収録曲]
1.HOW
2.ラヴソング
3.HEAT
4.テレパス
5.Stranger
6.ナイトハイ
7.ランデヴー
8.ひかりのうしろ
9.Silver
10.Balk
11.UNDER SONIC
12.USE
13.まどか(FLASH ver.)

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