【コンサートレポート】新日本フィル、まるで映画のような世界観を描き出した特別配信公演

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まるで映画の世界観。既存配信を凌駕する新日本フィル特別配信公演「オーケストラ・モンタージュ─”死と愛”の物語」オフィシャルレポートが到着した。

3月7日から3日間限定で配信され、既存のオーケストラによる配信公演と一線を画した圧倒的な映像美が話題となっている「新日本フィルハーモニー交響楽団 特別配信公演オーケストラ・モンタージュ─"死と愛”の物語」。今回、再配信の声に応える形で、追加配信が決定した。配信の模様をオフィシャル・レポートにてお届けする。

気付いた瞬間、それはもう衝撃的だった。雷に打たれたような衝撃というよりも、もっとジワジワと、心の奥底から震え出てくるような驚きといえばよいだろうか……。

何が起こったかといえば、このたび公開された新日本フィルハーモニー交響楽団特別配信公演で、オーケストラが「客席に背をむけて」演奏しているのだ。基調となる照明はオーケストラピットの内部かと思うぐらいに抑えられており、そこにピンスポットの明かりなどが加わることで、楽曲ごとにあわせた節度をもった演出が加わる。


「え?たったそれだけ?」……と思うべからず。これまでの放送・配信されてきたオーケストラの映像が「テレビ的」だとすれば、今回の映像は明らかに「映画的」。映画の一場面として、こんな映像が流れてきたら名シーン確定である。オーケストラファンは誰もが唸らされてしまうに違いない。

そう断言してしまいたくなるのは、演出が過剰にならず、徹底して演奏されている音楽そのものの魅力を引き立てようとしているからだ。オーケストラが主体となった配信であるため、もっと個々の奏者にフォーカスしたくなりそうなものだが、あくまでも主役は音楽なのである。クリエイティブ・スタッフも一流で万全の布陣で臨んでいることも大きい。映像監督はフジロックの公式ムービーの制作などをしている藤井大輔、照明はライブ演出からMUTEKなどメディアアート領域も手がける、ライティングアーティストの空本朋之。そしてライブレコーディング&マスタリングはもはや説明不要のパイオニア、オノ セイゲンが努めており、プロダクションはサー・アンドラーシュ・シフのライブ配信や昨年9月のオンラインフェスBLUOOM X SEPを成功させたKAJIMOTOの映像部門「Team MOV. by KAJIMOTO」が担当している。

シベリウスやマーラーといった本格的なクラシック作品だけでなく、意外な聴きものとなるのが、山本直純の作曲した映画『男はつらいよ』のテーマ音楽。直純さんとの思い出を語るベテラン楽団員のトークコーナーも必聴だ。縁の深い新日本フィルならではの、良い意味で軽いサウンドによる下町情緒あふれる「寅さん」の音楽に、思わず落涙してしまうとは、思いもよらなかった。

しかも、その直後に演奏されるミシェル・ルグランの名作ミュージカル映画『シェルブールの雨傘』では、別のオーケストラに変わったのではないかと思うほど、後期ロマン派のマーラーを演奏するかのような濃密な音色へと変貌してしまう……。うちにいながらにして、オーケストラの「奥深さ」に思わず息を呑む体験が出来るはずだ。


楽団員が客席に背をむけて演奏することで、ホールの「奥行き」が視覚情報として加わり、オーケストラの「奥深さ」が映画的に表現される。これが新時代を告げるオーケストラの映像表現になり得るかもしれない……と、そう思わされるだけの内容であった。そして、コンサート全体のテーマ曲として繰り返し流れるエンニオ・モリコーネの『ニュー・シネマ・パラダイス』(映画をテーマにした映画である!)によって、「映画的」というキーワードは更に強調されている。

映画好きの方ほど、今回の「オーケストラ・モンタージュ─”死と愛”の物語」に感銘を受けるはずだ。フランス語で「組み立て」を意味するモンタージュといえば、かのエイゼンシュテイン監督が発明した映画の編集方法でもあるのだから。

Text by Takayuki Komuro
Photo by Mitch Ikeda



配信情報

新日本フィルハーモニー交響楽団 特別配信公演
オーケストラ・モンタージュ─"死と愛”の物語
指揮:大友直人
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
ナビゲーター:三原勇希
[好評につき追加配信決定]
オンデマンド配信
2021年3月14日(日)12:00?3月20日(土)23:59
視聴チケット販売期間
2021年3月10日(水)~3月20日(土)21:00(チケットぴあ 3/20(土)19:00まで)

プログラム

シベリウス:交響詩「フィンランディア」
マーラー:交響曲第5番より“アダージェット”
モリコーネ:『ニュー・シネマ・パラダイス』より“愛のテーマ”
バーバー:弦楽のためのアダージョ
ロータ:「太陽がいっぱい」
マンシーニ:『ティファニーで朝食を』より“ムーン・リバー”
山本直純:男はつらいよ
ルグラン:シェルブールの雨傘
モノ―:愛の賛歌

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