【対談】丘みどり x コモリタミノル、「明日へのメロディ」が生まれたことで開き始めた新たな扉

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■言葉がパワーを持つには
■納得してくれるメロディーが乗っていないといけない


――完成したこの楽曲について、改めてどのように受け止めていらっしゃいますか?

丘みどり:ひと言で説明するのがすごく難しい曲だなと思っていて(笑)。

コモリタミノル:(笑)。

丘みどり:例えば演歌だと「男女の別れの歌です」とか「情念の歌です」って言えたりするんですけどね。それに「明日へのメロディ」は、最初に聴いた時と2回3回と聴いた時では違うように聴こえてくるんです。自分でレコーディングした時には気づかなかったけど、CDになって気づいたこともいろいろありましたし。とても奥の深い、何度も何度も聴いていただきたい曲になったなと思いました。聴くたびに、新しい発見がある曲ですね。

コモリタミノル:自分はいつも歌の必然性ということをいつも考えるんです。この歌はあってもいいの?なくてもいいの?と。支持されるものは、何かそこに必然性というか、みんなが必要としているものがあるからなんだろうなと思うんです。そういう必然性をどこまで出せるか。新曲ってどんどん出てきて、1週間とか2週間で忘れ去られるような時代になっていますよね。そこからどうやって踏ん張って、残っていくか。そういう曲のパワーというんですかね。

丘みどり:はい。

コモリタミノル:売れるとか売れないという言い方ではなく、人の気持ちが消費してくれる歌――例えば自分に置き換えて、「あぁ、今の気持ちに合った歌だな」と思ってくれて、カラオケに行って歌って発散してもらえるとか、歩いている時にふと言葉やメロディーを口ずさんでしまうみたいな。消費してもらうために、どこまで必然性を出せればいいかなって思うんです。さっきのマスクの話だけじゃなく、最近は特に、テレビを付けたらニュースもワイドショーも人の悪口と集団リンチのようなことしか言ってないなって自分は思うんですね。あまり気持ちいいものがそこになかったりするので、何かこう、そういう中でもし自分がそんな目にあったらどうなんだろう…みたいなことは、2番の歌詞の伏線としてすごくあったりします。それだけ人の心に入っていけるキーワードみたいなものが、たくさん入っている曲だと思うんですよね。しかも歌が、通り一遍メロディーをなぞるのではなく、そこにセリフのように歌い込んでくれるとますます届きやすくはなるのかなって思うんです。

――今回、歌詞に関してはどんなお話をされていたんですか?

コモリタミノル:カラオケで、OLの人が酔っ払ってヤケになって歌える歌(笑)?

丘みどり:(笑)。

コモリタミノル:自分を投影しながら歌う歌って、そう言えばないよねって話から。そうか、じゃあ今回のお客さん(リスナー)ってそれだよねって話をしましたね。テレビやラジオで音楽を聴いている“お茶の間”の方はもちろんですけど、特にこういう女性の皆さんをお客さんとして想像しながら言葉を選び直そうみたいなことはありました。

丘みどり:私と同年代みたいな。

コモリタミノル:そうですね。今回、やっぱり良い曲にしなければいけないという責任もありましたから、以前Da-iCEの「FAKESHOW」という楽曲でもご一緒した大柴広己さんにお願いをしたんです。作詞家の方によっては、物語としては素敵なのですが、生活の中にない言葉を使われたりすることもあるんですね。でも大柴さんからいただく言葉は、全部生活の中の言葉なんです。彼はシンガーソングライターでもありますから、自分で歌って言葉を乗せていくという感覚で、すごく生きた言葉がメロディーに乗ってくるんですよね。言葉の力みたいなものがすごく際立っている。いつも思うんですが、曲が大ヒットする時ってメロディーじゃないんですよ(笑)。自分で言ってますけど(笑)。

丘みどり:(笑)。

コモリタミノル:やっぱり言葉なんです。言葉のパワーには、足元にも及ばない。ただし言葉がパワーを持つには、そこにちゃんとその人が納得してくれるメロディーが乗っていないといけない。そこは相互作用ですけど。

丘みどり:私、最初はびっくりしました。「奈落の底で」なんて、これまでの歌では見たことがない言葉というか歌詞だったので。「未曽有の街で」とか。

コモリタミノル:なるほど(笑)。

丘みどり:でも大柴先生は、最初はもっと深いところまで潜っていてすごく深いところまで行っていたけど、それを削ぎ落としていって、ちょっと地上に戻ってきたみたいなことをおっしゃっていたんです。最初はどんなことになっていたんだろうと思ってちょっと見せていただいたんですが、もうすごかったです(笑)。思わず「こ、これはすごいですね!!」って言っちゃいました(笑)。

コモリタミノル:すごかったですね(笑)。

丘みどり:今のこの歌詞でさえ、私は充分驚かせていただいたんですけど(笑)。貴重な、完成までの過程を聞かせていただきました。


――先ほど時代の空気の中で作っているというお話もありましたが、コロナ禍というこの時代にこの曲が生まれた必然性や、もっというと今この時代の音楽の役割みたいなことについてはどうお考えですか?

コモリタミノル:やっぱり情報が多いですよね。接する音楽にしてもあまりにも多すぎて、もうこれしか聴かないみたいなことになってると思うんです。

丘みどり:逆に。

コモリタミノル:そう。耳は、そんなに幅広く聴いてはくれないですから。だからそれ以外の曲、知らない曲はもう他人事ですよね。その中で、そういう風説というかマイナスの力の中でもその人の耳に入っていくパワーって、どうしたらいいんだろうといつも思います。でも逆にそれって、「ちゃんと聴け!」みたいな話ではないだろうなと。真摯に、よく聴くといいねっていう、変なギミックも使わずにやり切るということがまずベースにあるのかなと思います。そういう意味では、この「明日へのメロディ」にはすごい言葉も入っていますけど、割とオーソドックスなポップスではあると思うんですよね。


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――「サラバイ ララバイ サラバイ」や「ルルリララ」のように子供でも覚えやすいフレーズがあって、意味もわからず歌謡曲を口ずさんでいた頃のことを思い出したりもしました。

丘みどり:大人になって、その歌の意味がわかったりしますよね。

コモリタミノル:全ての音符に意味を詰め込んでしまうと、情報が多いんですよね。耳に残る部分をさらっと挟み込みながら、だけど言いたいことはちゃんと伝わるっていうのが大事だなと思います。今回のその「サラバイ」の部分ですが、丘さんって「サ」の音がきれいなんですよ。そこをサビに当ててくるってすごいなと思いました。もうひとつは、出だしのメロディー。「わたしがいなくとも」は(音符の数としては)9なんですが、「わた」の部分はアウフタクトなので実質7になり、次のフレーズも同じように7。つまり基本は都々逸(どどいつ)なんです。

丘みどり:都々逸!

コモリタミノル:いしだあゆみさんの「ブルーライトヨコハマ」もそうなんですが、昭和歌謡の極意と言いますか。だから、口ずさんだ時に調子がいいんですよね。歌謡曲のいちばんのポイントは、やはり語呂の良さ。今って、逆にダラダラと切っても切れないものもありますけど、そういうものって音楽に長けている人なら理解できると思いますが、多くの人はスパンと入ってくるリズムに反応するんですよね。メロディーよりもリズムに。

――なるほど、先生の曲がどうしていつも耳に残るのか、少しだけ秘密が分かった気がします。

丘みどり:曲って、どういう時に降ってくるんですか?

コモリタミノル:それが降ってこないんですよ(笑)。

丘みどり:そうなんですか(笑)!?ボーッとしてたら降ってきて、なんてよく聞きますよね。

コモリタミノル:そういうこともあるんですが、それはそもそもの問題意識があってこそなんですよね。これ作らなきゃとか、あと何日しかないぞって頭のどこかでモヤモヤ考えているから、ご飯食べている時なんかにフッと出てきたりするんです。曲ばかり作っていると頭がガチガチに固くなって湯気が出てくるんですが(笑)、違うことをやることで、たぶん脳が活性化するんですよね。

丘みどり:自分だったらこういう曲を歌いたいなと思って作ることもあるんですか?

コモリタミノル:例えばSMAPに書いたものとかは、自分が歌いたいと思って作って渡しましたね。

丘みどり:そうなんですか!

コモリタミノル:ちょっとまた遡った話になるんですが、昭和の時代はどの家にもステレオがあったわけじゃないのに、みんな口ずさめる歌がたくさんありましたよね。

丘みどり:みんなどうやって知っていったんですか?

コモリタミノル:やっぱりテレビやラジオだと思うんですが、レコードを買うという行為ではなく、消費されていたんですよね。音楽として、みんなの頭の中で。レコード会社の方の前でこんなことを言うのもなんですが(笑)、「残る」って、1週目の売り上げを必死で伸ばすことだけじゃないと思うんです。ある瞬間「買ってもいいかな」ってなるわけですから消費行動としては遅いんですが、その遅い消費行動をちゃんとものに出来るといいなと思うんですよね。そういう意味で言うと、演歌や歌謡曲って長きに渡って変われるものも多いなと思います。

丘みどり:そうですね。


――みんなが口ずさむと言う意味では、この時代カラオケも大きな役割を担っているんじゃないかなと思います。今回のシングルの楽曲も、OLの方が熱唱したり、爽やかにデュエットが出来たりと、いろんな方向から楽しめそうですね。

丘みどり:そうですね。今回は盛り沢山な内容になりました(笑)。カップリングは「雨のなごり坂」、そしてもう1曲の「あなたと、君と」という曲は俳優の三田村邦彦さんとデュエットをさせていただいたんですが、これも新しいチャレンジでしたね。

コモリタミノル:三田村さんの歌、昔聴いたことがあったんですが全然変わっていなくてびっくりしました。

丘みどり:100曲以上、出してらっしゃるそうです。大先輩なんですが、今回は三田村さんが「ぜひ」と言ってくださったのでやらせていただきました。先生はデュエットの曲もお書きになるんですか?

コモリタミノル:まだないですね。…あ!ありました。兵藤ゆきさんと高田純次さんですね(笑)。『元気が出るテレビ』だったと思うんですが、まだ駆け出しの頃だったと思います。懐かしい(笑)。

丘みどり:聞けば聞くほどいろんな曲が(笑)。私、この「明日へのメロディ」をきっかけとして、これからも先生にたくさん曲を書いていただきたいなと思っています!

コモリタミノル:頑張ります(笑)。

丘みどり:これから、どういったことにチャレンジしていったらいいですか?進路相談みたいになっちゃいますけど(笑)。

コモリタミノル:そんな、こっちがお聞きしたいですよ(笑)。これからどんな曲書いたらいいですかって(笑)。

丘みどり:すみません(笑)。

コモリタミノル:でもただ歌うだけじゃなくて、自分を出すっていうことだと思います。曲を作る時もそうですよね。その時の何かに合わせただけのものは時が過ぎたら終わっちゃいますけど、自分が出せたものは残りますよね。

丘みどり:自分を出す…。私、今回思ったことがあるんです。先生とお会いできたことで、そしてこの「明日へのメロディ」を歌わせていただけたことによって、演歌歌手というひとつの枠にとどまらない“アーティスト”になれたなって。

コモリタミノル:それは嬉しいですね。

丘みどり:アーティストというスタート地点に立たせてもらったなって、すごく感じています。

コモリタミノル:新しいですよね。演歌の方で、アーティストって。ひとつの様式美に頼るのではなく、自分の解釈でやれるっていうことですからね。

丘みどり:はい。歌うということに対する楽しみが、今もどんどん増しています。

コモリタミノル:まだ具体的なお約束ではないですが、すでに頭の中では色々と考え始めてはいますので(笑)。

丘みどり:そうなんですか!?嬉しいです!

コモリタミノル:実は私事なんですが、学生の頃に福岡の中洲の路上で占いをしていた人に、大器晩成、62~63歳くらいだねって言われたんですが、それがまさに今年から来年なんです。またそれとは別に、元首相なんかもご覧になっている上海の方に見てもらった時、仕事のことは何も伝えていなかったんですが、2年くらい前にいいことがありましたねと。ちょうど「らいおんハート」の頃なんですよね。

丘みどり:当たっていたんですね。

コモリタミノル:その方にも、63歳は比べものにならないくらいいいですよと言われたんです。だから密かに期待をしているんですよ。

丘みどり:この先に。

コモリタミノル:ここ3年くらい、ちょっと自分がイヤで。これまでやってきたことの再生を延々とやっているような感じがしてイヤだったんです。もっと先に、もっと違うところに到達したい。もっといいものが作りたいなって思えば思うほど出来なくなって。のたうち回るようにして作ってきたこの2~3年でしたが、なんとなく、先ほどお話しした人の心に入っていくというか、そういうものができないかなって考え始めたタイミングで今回のお話をいただいたりもしていたので、なるほどそこをもう少し、考え方として突き進めるといいのかなと思っているんです。そうすることで、丘さんにまた違う形のものが出せたらなと。

丘みどり:嬉しいです。私は2021年という年を、この「明日へのメロディ」で自信を持ってスタートさせることが出来ました。枠に囚われず、今までは出来なかったけどこの曲と一緒なら出来るなと思えることもたくさんある気がしていますので、これからもそういう幅を広げていきたいと思っています。

コモリタミノル:今日はいろいろとお話ができてよかったです。ありがとうございました。

丘みどり:私も、今日はこれまで知らなかったこともたくさん聞くことができたので、すごく嬉しかったです。ありがとうございました。

取材・文:山田邦子

リリース情報

「明日へのメロディ」
発売日:2021年3月17日(水)(全3形態)
◆プレミアム盤<CD+DVD>
KIZM-677~8 (\1,545+税)
<CD>
・明日へのメロディ
作詩:大柴広己 / 作曲:コモリタミノル/ 編曲:京田誠一
・雨のなごり坂
作詩:森田いづみ / 作曲:羽佐間健二 / 編曲:川村栄二
<DVD>
・明日へのメロディミュージックビデオ・特典映像
◆Type-A<CD>
KICM-31014 (\1,273+税)
・明日へのメロディ
作詩:大柴広己 / 作曲:コモリタミノル/ 編曲:京田誠一
・雨のなごり坂
作詩:森田いづみ / 作曲:羽佐間健二 / 編曲:川村栄二
◆Type-B<CD>
KICM-31015 (\1,273+税)
・明日へのメロディ
作詩:大柴広己 / 作曲:コモリタミノル/ 編曲:京田誠一
・あなたと、君と
作詩・作曲:向井浩二 / 編曲:矢野立美
※三田村邦彦・丘みどりデュエット

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