【インタビュー】パット・メセニー「本当に作りたい音楽は、作り手の表情や存在が消えるもの」

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グラミー賞では全12部門計20もの最優秀賞を獲得し、日本でもTVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』エジプト編エンディング・テーマに起用された「ラスト・トレイン・ホーム」のヒットなどで知られるパット・メセニーだが、最新アルバム『Road To the Sun』は、こちらもグラミー獲得者である実力派ギタリストのジェイソン・ヴィーオと、ロサンゼルス・ギター・カルテットを演奏に迎えた2つの作品で構成された内容を誇っている。50年におよぶキャリアの中で培われたダイナミックで旅情感のあるサウンドが、異なる才能との共演により、新たなランドスケープをもたらしたようだ。


──アルバム『Road To the Sun』は、ジェイソン・ヴィーオとロサンゼルス・ギター・カルテットという実力派ギタリストが参加して完成したアルバムですね。

パット・メセニー:曲を書くというのは演奏することと少なくとも同じくらい重要なことだったんだ。カンザスシティでバンド活動を始めて、ただみんなで曲を弾いていただけの時期もあったけど、間もなく本能的に何ページもの曲を書くようになっていった。即興演奏者として生きるための世界を作るためにね。今回の場合は自分に作曲者としての試練を与えるだけでなく、ここに登場するプレイヤーたちにも試練を与えるという構想だったんだよ。

──今回のアルバムの特徴は?

パット・メセニー:このアルバムはすべてあらかじめ書かれたものなんだ。ジェイソンやLAギター・カルテットの世界のやり方だね。ひとつ残らず音を書いておかないといけない。コードだけじゃなくて、その要素の順番もあらかじめ伝えないといけないんだ。そういうのは長年の間にあらゆる方法でやってきたけど、面白いことに、ギター向けにやったのは稀だったんだ。大抵は僕自身がギターを弾くからね。ギターのパートについて簡単に書いておけばそれが何を意味するか自分で何となくわかるから。だが、今回は本当に具体的に、自分が何を彼らに与えることを望んでいるのか、そして自分の頭の中で鳴っているものと同じものをどうやって譜面に再現するのかを見いださないといけなかったんだ。

──彼らとのセッションはいかがでしたか?

パット・メセニー:僕はかなり細かいことにうるさいことで知られているから、ジェイソンとLAギター・カルテットは僕と仕事をするにあたって、多分色々噂を聞いていただろうね。いつも時間をかけて参加ミュージシャン全員と話して、これはできるか、あれはできるか、こういうプレイはできるか、ああいうプレイはできるか、なんて訊いている。というのも、そのグループのあるべき音が、僕の中ではとても具体的に聴こえているからなんだよ。こう弾いてもいい、ああ弾いてもいいよ、という訳ではないんだ。僕の思う、その曲のあるべき姿を話し合うことが多い。そうやって相手が自分を「頼る」というと語弊があるけど、「ああ、あなたの言っていることは分かります」と言ってくれると最高だね。さらに、僕が話していたことを、想像したよりもずっといい形でやってくれると、文句のつけようがない。これまでのキャリアの中で、そういうミュージシャンに恵まれていたというのは、とてもラッキーだった。今回も同様だったね。

──アルバムにおけるギターの響かせ方はどうでしたか?

パット・メセニー:今回の場合は前もって書かれた音楽が収録されるということもあって、指示すべきところがたくさんあったね。話し合わなければならないこともたくさんあった。特に音のダイナミクスについてはね。それは僕にとって非常に重要なことなんだ。ギターの分野ではそこに一番の試練を置きたい。僕自身の演奏で言えば、長年かけてギターのダイナミック・レンジを実際よりも広く感じさせるような弾き方に取り組んできた。それはタッチもそうだし、色々細かいことが重要になってくる。この音とこの音はどう表現するかとかね。だから、今回の作品はどちらも何時間もかけて参加ギタリストたちと話し合った。レコーディングプロセスの間も、その前もね。

──長年のキャリアを通じて見えたギターという楽器の魅力とはどういうものですか?

パット・メセニー:きっと今回共演してくれた彼らも頷いてくれると思うけど、ギターというのは変わった楽器で、この楽器のプラス面とマイナス面の折り合いを付けるのに、人生のかなりの時間をかけたよ。クラシック・ギターの世界はジャズに似ているんだ。ピアノやヴァイオリン、サックス、ドラム・セットに比べて、ダイナミック・レンジがある意味限られているという現実にぶつかるからね。こんなことを言ったらピアニストは嫌がると思うけど、ピアノはギターなんかより弾くのが無限に楽なんだ。音は1ヶ所に集まっているし、あまり自分で工夫する必要がない。チューニングがちゃんとしていてヴォイシングのコードが良ければ、「天才だ!」なんて言ってもらえるんだ。同じことをギターでやろうと思うとものすごく大変。僕は、ギターよりピアノの方がよほど説得力のあるプレイができるものが多い気がする。特にキャリア初めの頃はそうだった。すぐそこに音があるし、ギターの1本と違って1つの音を3本の弦で鳴らすからね。だがギターは他にできることが色々ある。僕の分野ではエレクトリック・ギターで様々な音色を出すことができるし、僕が今まで研究してきたところによると、他の楽器とは違った表現をすることができる。僕にとってたまらなく魅力的なんだ。

──今回のアルバムを通じてリスナーに伝えたいこと。感じてほしい景色はどういうものでしょうか。

パット・メセニー:僕は自分にとって意味のあるものを表現したいと思っている。自分の中で共鳴するものだね。それを聴くためにリスナーのみなさんが割いてもらった人生の大切な時間を、価値のあるものにしたい。今回参加したミュージシャンは、みなそれぞれにファンがいて、彼ら(ファン)は自分が信じたり愛したりしているものにのみ、本領(愛情)を発揮できると思う。オーディエンスの心を掴むことはとても大変だけど、ものすごく大切なことでもある。レコーディングのときや部屋で独りタスクや白紙を前にじっとしているときは、なおさらそう思うけど、オーディエンスの引力は本当に興味深いものがある。

──パット・メセニーが今後作りたい、追求したい音楽とは?

パット・メセニー:本当に作りたい音楽は、作り手の表情や存在が消えて、リスナーそれぞれが自分のストーリーとして楽曲を語ることができるくらいになること。今回は、それを実現でできるポテンシャルを持った音楽ばかりが揃ったと思うよ。なぜなら、参加してくれたミュージシャンそれぞれが、彼らだけの道をここに刻んでくれたから。彼らにしか作ることができない道をね。僕にとっては本当に素晴らしいことなんだ。

文◎Takahisa Matsunaga
編集◎BARKS編集部


パット・メセニー『Road To The Sun』

https://silentrade.lnk.to/roadtothesun
※輸入盤のみ
1.FOUR PATHS OF LIGHT Part 1
2.FOUR PATHS OF LIGHT Part 2
3.FOUR PATHS OF LIGHT Part 3
4.FOUR PATHS OF LIGHT Part 4:Performed by Jason Vieaux - Guitar
5.ROAD TO THE SUN Part 1
6.ROAD TO THE SUN Part 2
7.ROAD TO THE SUN Part 3
8.ROAD TO THE SUN Part 4
9.ROAD TO THE SUN Part 5
10.ROAD TO THE SUN Part 6:Performed by the Los Ange-les Guitar Quartet
11.FUR ALINA:Arranged and Performed by Pat Metheny - 42 string guitar
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