【インタビュー】SEAMO、コロナ禍をサヴァイブするラッパーの愛すべきリアル

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デビュー15周年の振替ツアー<仕切り直しでもう一度! 15th Anniversary Again『PERFECT SEAMO TOUR』>敢行中のSEAMOから届いた、通算11枚目のオリジナルアルバム、その名は『NORA』。毎日をたくましく生きる野良猫スピリットを胸に、コロナ禍をサヴァイブする生き方、レペゼン名古屋のヒップホップ愛、ジェネレーションギャップの悲哀、別の生き方を選んだかつての仲間への応援歌など、ポップ・フィールドで戦い続ける孤高のラッパーのリアルを鮮やかに切り取った全11曲。困難な時代だからこそ、心に太陽を、言葉にユーモアを、唇に歌を。今こそ、SEAMOの言葉に耳を傾けよう。

  ◆  ◆  ◆

■あえて言うなら「コロナ禍で作ったアルバム」

──前作『Wave My Flag』が、賑やかな15周年の振り返りモードだったのに対して、今回はしっかり前向きと言いますか。「現在」と「未来」に思考が向いていて、すごくフレッシュなアルバムだと思います。

SEAMO:ありがとうございます。今回のアルバムは、イレギュラーとまでは言えなくても…最近は早いペースでアルバムを出していましたし、10枚目のオリジナルアルバム『Wave My Flag』は自分の中での金字塔で、「よく10枚も出したな」という達成感があったので、「しばらく制作はいいかな」というモードになって、15周年のツアーをしっかりやろうという方向に向いていたんですね。ところがコロナ禍に入って、ライブが延期になってしまった。急に時間ができて、YouTubeや配信をやってもよかったんですけど、そこで僕が「歌ってみた」とか言って「うっせえわ」をカバーしてみてもしょうがないわけで。

──あはは。ちょっと聴いてみたい気もしますけど。

SEAMO:僕がやるなら意味があるものじゃないと駄目だし、そう考えると、やっぱり新しい曲を作ることが、応援してくれるお客さんに対しての恩返しになるのかな?と思ったので、作ったのが今回のアルバムです。

▲『NORA』初回生産限定盤

──つまり、本来2020年にアルバムを作る予定はなかった?

SEAMO:全然なかったんですよ。何なら15周年のツアーが終わって、1ヶ月ぐらいバカンスに行きたいと思ってたぐらいで。映画を作って、ベストアルバムを出して、10枚目のオリジナルアルバムを作って、ツアーファイナルをZepp Nagoyaでバシッと締めるという完璧な流れのはずが、ブレーキがかかってしまった。そういう意味で、先が見えない中でもがきながら作った1枚でもありますね。でも僕はもう10枚出しているので、今の時代やコロナ禍のSEAMOのことをちゃんと表現できた1枚になったのかなと思います。

──コンセプトを立てて作った作品ではないと思うんですけど、背景が同じというか、まとまりを感じます。

SEAMO:あえて言うなら「コロナ禍で作ったアルバム」です。ただ、一回目の緊急事態宣言の頃に作ったとしたら悲壮感の中から立ち上がって「頑張ろうよ」とかそういうものになったと思うんですけど、1年というタームで見ると去年の秋には「このまま終息するかな?」という時期があったり、その後また突き落とされたり、いろんな時期があった。商売をやっている方の中でも明暗が分かれてコロナバブルみたいな人もいた。そういう世間のいろんなものを見ながら作り上げた1枚なんですね。たとえば「35年後の君へ」という曲は、「フラット35」(住宅ローン)がテーマで、僕は実際買ってないですけど、買おうと思っていろいろ調べたことがあって、その時に知ったのが、35年ローンは80歳まで組むことができるんですね。僕は45歳なので、今が最後のチャンスなんですよ。そんなこともリアルに思って書いたので、今の自分の心境もすごく出ていると思います。

──はい。なるほど。

SEAMO:それと、今は「プロモーションをしっかりやってアルバムを売る」という時代でもないので、本当に好きにやらせてもらったんですね。たとえば東京に行ってミュージシャンとセッションとか、そういう時期でもなかったので、名古屋で、自宅で、やりたいようにやらせてもらった。売ることをあんまり考えてないとか言ったら失礼な話ですけど、ラジオライクとかそういうことはあんまり考えてないです。こんな状況だからこそやりたいように、どうせ作るなら楽しんで作りたいということで思うままにやらせてもらったアルバムですね。気持ち的には15周年で10枚アルバムを出して、もう一回『Get Back On Stage』(1stアルバム/2005年)に戻った感じがします。2枚目からは背負うものが大きくなって、狙うところもあったんですけど、今回は「攻めた1枚」になったのかなと思います。

──それがフレッシュに感じる理由かもしれない。

SEAMO:ざっくりとストリート感のあるものになったと思います。同業者の評判がすごく良くて、たとえばHOME MADE 家族のKUROは「今回のアルバムはめちゃめちゃいいですね」と言ってくれたり、やりたいことをやった結果が評価されたのかな?と思います。

──その、KUROさんも入った「みなさんのおかげです SEAMO×Crystal Boy×KURO×SOCKS」は最高ですね。トラックメイクはDJ RYOWとGrowth。オール名古屋のポッセカット(複数マイク曲)。

SEAMO:ありがとうございます。これもコロナ禍が生んだ曲と言っていいと思うんですけど、東京ではなく名古屋のアーティストで、まずDJ RYOWというヒップホップ・プロデューサーがいて。ハードコア・フィールドで戦ってきた彼と、ポップ・フィールドで戦ってきた僕と、知ってはいたけどあまり接点がなかったんですけど、同じスタジオを使っているという共通点もありましたし。SOCKSがDJ RYOWとの関係が深くて、僕の曲をずっと作ってくれているGrowthという男もDJ RYOWと共作をしていて、そういう縁もあって頼んでみたら、二つ返事で作ってくれた。で、そういうふうにフィールドの違う男が作ってくれるなら全部乗っかろうよという話になって、僕が仕切るとフックを派手にするとかそういうことを意識するんですけど、彼にゆだねたら「今回はヴァース・ミュージックにしましょう」ということで、それぞれのヴァースをリレーしていくタイプの曲になった。3月の終わりにミュージックビデオも撮って、それも名古屋の監督で、ツアーが終わるまでには完成するので楽しみにしています。

──リリックにTOKONA-Xの名前が出てきたり。まさにレペゼンの名古屋の王道ヒップホップ。

SEAMO:僕らよりTOKONAに近しい人はたくさんいますけど、僕にも彼との思い出はたくさんあるので。DJ RYOWを媒介にしてそれをうまく入れていければ面白いなと思ったし、あくまで僕たちらしく、こわもて風ではなく。ずっとヒップホップをやってきた連中が「みなさんのおかげです」なんて、ちょっと痛快じゃないですか。あのフックはSOCKSが出したんですけど、彼もハードコア方向でやりつつとんねるず世代だったりして、ミュージックビデオにもそういうネタを入れたりして。コロナ禍で東京に行けないことが逆にオール名古屋の結束を生んだというか、偶然が偶然を呼んでこういうものになりましたね。


──タイトルチューン「NORA」には、どんな思いがありますか。

SEAMO:去年の12月に、野良猫を保護したんですよ。その年の春にマンションの敷地に野良猫が現れて、その時はまだ子猫で、近所の人たちに可愛がられていたんですね。で、最初は2,3匹が一緒に来ていたのが、夏を過ぎて秋になって、だんだん数が減っていって、冬になる前に保護したほうがいいんじゃないか?と。タヌキをつかまえる檻を用意して、つかまえようとしたんですけど、警戒してなかなか入らない。そしたら12月の頭に雪が降って、さすがにヤバイと思って様子を見に行ったら、マンションの下にその子猫がいて、「ちゅ~る」を置いてみたら一瞬で檻に入った(笑)。今までのカリカリやウェット(フード)では全然入らなかったのに、「ちゅ~る」すげぇなと。

──あはは。「ちゅ~る」最強。

SEAMO:それで獣医さんに連れて行って、処置をしてもらって、保護施設で預かってもらった。ちょうど15周年の振替ツアーの真っただ中だったので、ツアーが無事終わってから、僕の実家に来ることになったんですよ。先住猫との相性が心配だったんですけど、結果的に仲良くなって、人にはまだ慣れないけど、今もなんとかやってます。すみません、話が長くなってますけど。

──いいですいいです。

SEAMO:その猫を去年の春先に初めて見た時に、ちょうど一回目の緊急事態宣言が出て、「この先どうなっちゃうんだろう?」って、みんなが不安になっている時だったんですね。で、野良猫って「その日至上主義」じゃないですか。今日のごはんのために、今日の寝床のために、その日を生き延びれば最高、という積み重ねでしかないわけで。まさにあの時、僕たちもそういうふうで、野良猫みたいにその日のベストを尽くしていくしかない。先のことはわからないし、計画もできないけれど、毎日を充実させて生きて行けばいいという、そういう中で作ったアルバムなので、まさに野良猫精神で作ったということで、『NORA』というのがアルバムタイトルとしてぴったりなんじゃないか?と。

──なるほど。

SEAMO:「NORA」という曲ができて、それがアルバムタイトルになった瞬間に、イレギュラーで作ったアルバムではあったけど、そこでコンセプトやジャケットのイメージが一気にまとまった。すべての点が線につながった、そのきっかけになったのが「NORA」という曲ですね。野良猫はタフでハードボイルドで、ストリートで生き抜く力強さがあるので、それが楽曲になって、さらにアルバムタイトルにまでなったということです。

──SEAMOらしいと思います。野良猫イズム。

SEAMO:僕は昔から雑草魂というか、音楽的なバックボーンもないですし、手探りでやってきたので。世の中の偉人と呼ばれる人も、底辺から這い上がってきた人たちが好きですし。だから「NORA」という曲はすごく気に入っていますね。

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