【インタビュー】FIVE NEW OLD、アルバム『WARDROBE』に「服を選ぶような感覚」と「新たなサウンド構築法」

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■ギターじゃないと思う音が実はギター
■スネアの音は蝉の鳴き声です(笑)

──レコーディングを楽しんだようですね。

HAYATO:今回の制作は面白いことがたくさんあったよね(笑)。ドラマー観点でいうと、特に印象が強いのは「Chemical Heart (feat.Masato from coldrain)」。曲調を踏まえて、ドラムは打ち込みでいくことにしたんです。でも、WATARUと話している中で、「この曲はHAYATOのビートがほしいねん。HAYATOが叩かないと意味ないねん、HAYATOやったら、なんでもいいから」と言われたんです。

WATARU:「なんでもいい」ということはない(笑)。

HAYATO:そうか(笑)。それで、ローランドのサンプリングパッドSPD-SXにドラムの音を取り込んで、僕がパッドを叩いたんです。だから、ドラムの音は無機質だけど、ビートには人間ならではの揺れがある。打ち込みでは再現できないものになったかなと思います。あと「Moment」はFIVE NEW OLDの10年の中で、初のバラードなんですよ。ずっとバラードをやりたかったから、今回アルバムに入れることができてすごく嬉しい。こういうドラムはあまり叩いたことがなかったけど、いいアプローチができたんじゃないかなと思います。


──「Moment」はFIVE NEW OLD 初のバラードということに加えて、UKっぽい世界観ということも注目です。

HIROSHI:いろんなことが重なって生まれた曲なんですよね。まずは「バラードを作りたいね」という話になったんですけど、“どういうバラードにするのか”ということが悩みどころだった。チャーチっぽい曲も作ったりしたんですけど、“今、リリースすべきものじゃないな”と思ったり。今回僕は、制作にあたって新しいことを始めるべく、ピアノを家に置いたんです。それまでは打ち込みで曲を作っていたんですが、「Moment」を作ったときは、ピアノを弾いて、いいメロディーが出てきたらボイスレコーダーに録って、それをみんなに聴かせたんです。デモをPCで制作せずに、昔ながらのやり方で作ったのは初めてで。それに“UKっぽさ”に関しては、僕自身は全く意識していなかったけど、エンジニアさんから「Coldplayの「Yellow」を感じる」と言われて、“たしかに”と思ったんです。作ったプロセスがいつもと全然違っていたから、新しい響き方をしたのかなという気がしていますね。

──「Moment」も完全に新しいFIVE NEW OLDといえますね。今までとは一味異なるエモーションが魅力的ですし、シンプルなのに泣けるアウトロのギターなども絶妙です。

WATARU:僕は“シンプルなものほど難しい”と思っているので、「Moment」はニュアンスにこだわって弾きました。ただ、この曲は王道というか、ギターらしいギターですけど、今回のアルバムのギターはいろんな形でアウトプットしているんです。“これはギターじゃないな”と思うような音が、実はギターだったりするんですよ。

──わかります。キーボードなのかギターなのかわからないリフやフレーズがたくさんありますね。

WATARU:ああ、気づいてもらえて嬉しいです。きっかけになったのは去年の緊急事態宣言で、みんなとしばらく会えなくなったんですよね。その後、久々にバンドでスタジオに入ってデカい音を鳴らしたときに、すごく楽しかったんです。そこで、“やっぱり音楽をするときは楽しくないといけない。作り方ももっと面白いほうがいいな”と思ったんです。結果、いつもは、録ったギターをそのまま音源に生かすんですけど、今回はデモの段階で録ったギターをサンプリングして、全く違う形に変えたりしました。ギターというよりはシンセサイザーのパッドの音みたいに加工したり、すごくパーカッシヴなプラックシンセ的な感じにしているんです。それも新しさを感じてもらえる要因のひとつになっていると思います。


──ギターをコラージュされたんですね。

WATARU:前作はわりと渋いソロとかフレーズを入れてましたけど、今回は違う形でギターのよさを出したかったんです。そういうアプローチでいうと、「Breathin’」のギターリフも、録音したものをサンプリングシンセに取り込んで加工して、シンセの鍵盤を弾くとリフが鳴るようにしたんですね。音をリバースさせたり、サンプリングレートがすごく低くてジリジリ鳴る音だったり、6個くらいの音をシンセの中で混ぜました。ひと手間加えたくて、こねまくったのが「Breathin’」です。リフは基本的に単音で鳴っているけど、途中で一瞬和音になったりするじゃないですか。それは鍵盤に置き換えたから出てきた偶然の産物なんです。

HIROSHI:マニアックやなぁ(笑)。

──たしかに工程はマニアックですが、マニアックに感じさせない仕上がりになっているあたりはさすがです。耳触りがいいんですよね。

WATARU:まさに、そういうものにしたかったんです。「Summertime」も凝ってます(笑)。制作場のガレージの外に木が立ってて、夏場はその木に蝉がとまって“ジャーッ”と鳴いていたんですね。それをiPhoneのボイスレコーダーで録っておいんですけど、そのまま使っても面白くないので、蝉の鳴き声を加工してスネアの音に替えました。「Summertime」のAメロの打ち込みのスネアの音は蝉の鳴き声です(笑)。

HAYATO:僕はライブで蝉の鳴き声を鳴らすという(一同笑)。


──HAYATOさんはループと生ドラムの同居を嫌がらずに受け入れるあたり、ドラマーとして柔軟なことがわかります。

HAYATO:このバンドで考え方が柔軟になりました(笑)。僕はトラヴィス・バーカー(Blink 182のドラマー)みたいなスタイルで乗り切っていきたかったんですけどね。でも、そういう音楽だけをやりたかったわけじゃないから、メンバーに感謝しています。柔軟といえば、今回は“その場で”というのが多かった。ドラム録りをしているときに8ビートの曲なのに、いきなり「16ビートを叩いて」と言われたり。“えっ?”と思いつつ16ビートを叩いたら、「いや、ちょっと16分音符を出しすぎやな」みたいな話になり。「ゴーストノートのゴーストノートで」みたいなリクエストに沿って、叩いてないのにゴーストを感じさせないといけないという(笑)。そういうことが結構あったんですよ。

──厳しい(笑)。リズムに関しては、ドラムがハネているのかハネていないのか微妙なラインの曲も多くないですか?

HAYATO:多いですね。ドラムはあまりハネてないけど、弦楽器とか上ものがハネていることが多いんですよ。今まではビートからハネてたけど、「ドラムはハネないほうがカッコいい」という話になって。このアルバムのレコーディングを通して本当にいろんなことを勉強できたし、挑戦もできてよかったなと思います。

HIROSHI:柔軟ということでは、SHUN君もベーシストとしてすごく柔軟だよね。

SHUN:僕は楽曲アレンジの仕事をしたり作家でもあるので、どちらかというと、そういう目線のベースになるんです。ベースが前に出るのはあまり好きじゃないんですけど、弾くべきところはちゃんと弾くべきだとも思っていて。ハネに関しては、“ドラムのビートがこうならベースはこうしたほうがいい”と考える。要するに、楽曲を俯瞰で見るということですよね。「Breathin’」は、もともとサビのベースは全然ウネッていなくて“ドーン ドーン”というキックに合わせて弾いていたんです。だけど、“誰がグルーヴを作るべきかな”と考えたときに“それはベースだろう”と。さっきも言ったように、僕は弾き倒したくないタイプなんですが、「Breathin’」は楽曲のことを考えて思い切り弾く方向に変えました。


──本当に皆さん柔軟ですし、楽曲重視のスタンスで、FIVE NEW OLDは替えが効かないメンバーが揃っていることを感じます。HIROSHIさんも印象強い曲を教えていただけますか?

HIROSHI:どれも本当に印象的で1曲挙げるのは難しいですけど、「Sleep in Till The Afternoon」が大好きですね。この曲は僕らのザ・キュアーに対する愛が溢れていて、リスペクトを込めたオマージュなんですよね。最初にWATARUがこの曲のオケを持ってきてくれたときに、すでにイントロのリードフレーズが入っていて、その時点で「フライデー・アイム・イン・ラブ」だと思ったんです。そういうイメージでメロディーをつけて、家でアコギを弾いてコーラスをかけて、“ザ・キュアーだ!”みたいな(笑)。

──いいですね(笑)。とはいえ、ザ・キュアーのコピーではないですし、疾走感と透明感を併せ持った仕上がりもさすがです。

HIROSHI:それも「Breathin’」と似たところがあって、今までのFIVE NEW OLDはロック感と1980年代のポップミュージックテイストが分離していたけど、この曲では調和したんですよね。ビート感は僕達がバンドを始めた当時の音楽性が土台になっていて、一歩間違えるとダサいビートというか。今どき“ドンタン・ドドタッ・ドーント・タン”って、どうなの?みたいな(笑)。

HAYATO:でもね、僕はそれがめちゃくちゃ気持ちいいと思ったんです。僕なら“ドンターン・ッドタン・ドト・タン”っていうパターンでいくんだけど、デモのビートを再現してみたら曲が気持ちよく転がったんです。だから、変える気はなかったですね。

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