【ライブレポート】中田裕二、ソロ10周年記念ワンマンで椿屋四重奏が一夜限りの復活

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中田裕二が4月17日、東京・LINE CUBE SHIBUYAでソロ活動10周年を記念したワンマンライブ<YUJI NAKADA 10TH ANNIVERSARY SPECIAL LIVE “ALL THE TWILIGHT WANDERERS”>を開催した。

◆ライブ写真

エリック・クラプトン、クリス・アイザック等、男性シンガーソングライターの名曲群がSEとして流れる中、ふらりとステージに現れたこの日の主役は、おもむろにアコースティックギターを手に取り、東日本大震災を契機に書き下ろし、ソロとしての出発点となった「ひかりのまち」からライブをスタート。

艶やかな歌声が広いホールいっぱいに豊潤に響きわたるさまに沸き上がる大きな拍手に、「ありがとう、うれしい。日本一の黄昏野郎、中田裕二でございます(笑)。本日めでたく40歳を迎えました。今日は誕生日ということもありますし、ソロ10周年記念のライブでもあります。今日は素晴らしいミュージシャンの方々と、同窓会みたいな感じでセッションを楽しもうと思います!」と挨拶し、早速、朝倉真司(Per/ヨシンバ)と8年ぶりの共演となるYANCY(Key)を呼び込む。ソロの初期に行われていたツアー<SONG COMPOSITE>の編成で、その再会を喜びながら「リバースのカード」「ベール」と1stアルバム『ecole de romantisme』からの楽曲をアップデートし魅せていく。


そして、ミュージシャンとして多くのことを学び影響を受けたと認める奥野真哉(Key/ソウル・フラワー・ユニオン)が「久しぶりだな中田裕二! 待ってたぜ~40歳おめでとう!」と現れるや、全編ラップ調の「ランナー」、情熱的なギターのカッティングが印象的な「幻を突き止めて」と一転、ソロ後期の7thアルバム『Sanctuary』からの楽曲を演奏するなど、3月にリリースされたキャリア初のベストアルバム『TWILIGHT WANDERERS -BEST OF YUJI NAKADA 2011-2020-』の収録曲より、めくるめく中田裕二の世界を展開するセットリストだ。

「楽屋がすごいですよ、仮面ライダーの最終回とかに全員出てくる状態よ(笑)」と早くも奥野がMCを乗っ取れば、「10年ちゃんと一筆書きでやってくれたから、こういうことがある」と朝倉。奥野がアレンジを手掛けた中田裕二の代表曲の1曲と言える「薄紅」では、美しいピアノの音色と和と哀愁に満ちたメロディに、会場中のオーディエンスがグッと息を呑む。


「ロン毛です。素敵な歌声、横で聴かせていただきました。久しぶりに“薄紅”を聴いたんですが、良い曲ですね」と、ここでカトウタロウ(G,Cho)が登場するなり総合司会ばりの立ち振る舞いで場を沸かせ(実際はこの10倍しゃべってます)、トリオ編成から千ヶ崎学(B)、小松シゲル(Dr/NONA REEVES)、平泉光司(G,Cho/COUCH、benzo)、sugarbeans(Key)によるバンドセットへと移行。腰にくるグルーヴが心地いい「正体」を皮切りに、「en nui」「Deeper」とメロウなミドルナンバーを連発。ファンク、ソウル、R&B…etcと、この10年の中田裕二の音楽的変遷とそこから抽出されたオリジナリティに聴き惚れるような珠玉の楽曲が続く。

そして、平泉、カトウ、小松が残り、八橋義幸(G/The Uranus、Yoshiyuki & Megumi)、隅倉弘至(B/初恋の嵐)、トオミ ヨウ(Key)を迎えた布陣で、トオミのアレンジによる浮遊感漂うエレクトロポップ「ロータス」、中田流ダンディズムにシビれる「DOUBLE STANDARD」と立て続けに披露していく。


「演奏しててすごく楽しいです。没入できるというか。ソロで10年間、いろんなアプローチでやってきましたけど悩むことも多くて、自分だけの居場所を、自分にしかやれない音楽を求め続けて、時流とか自分の精神状態の複雑な絡み合いでいろんな曲ができていくんですけど、これを作ったことで自分が救われたというか、僕はこういう表現がやりたかったんだという……黄昏感のある、大人が味わえるようなどっしりした音楽をやりたいと思い続けて、ある日突然開眼した……そういう曲を聴いてください」

近年の中田裕二のスタンスと音楽性を確立した「海猫」をじっくりと聴かせたところで、前半戦は終了。15分の換気休憩を経た後半戦は、新たに張替智広(Dr/キンモクセイ、HALIFANIE)、そしてsugarbeansが再び参加。コロナ禍に書かれた「君が為に」では八橋泣きのギターが冴えわたり、「IT’S SO EASY」では中田がスタンドマイクでソウルフルに歌い上げる。


そのまま中田がエレキギターを手にし、八橋、平泉とのトリプルギター編成で掛け合った「ゼロ」と、凄腕のミュージシャンたちとせめぎ合いそのうまみを最大限に発揮していく、中田裕二のこの10年の楽曲群の層の厚さには感心させられる。

「スタンドアップ渋谷!」と、ベストアルバムに収録された新曲「DIVERS」では総立ちの絶景に見守られながらハンドマイクで熱唱し、「いろんなフォーメーションで中田裕二の音楽を楽しんでいただいてますけど、次のチームがかなり濃い目で、ちょっと胸焼けするかもしれない(笑)。ここから飛ばして参りますんで準備はいいですか!?」と、白根賢一(Dr/GREAT3)、真船勝博(B/FLOWER FLOWER)に、奥野、朝倉、平泉、カトウの6人をバックに、「灰の夢」「STONEFLOWER」「UNDO」「ユートピア」と、ライブでも人気の高いアーバンでアグレッシブなナンバーで、一気に会場の熱量を引き上げる!


「音楽的にも人間的にも素晴らしい人たちと、しかも追及して音楽をやれるというのは幸せなことだと痛感します。今日は大変な状況の中、こんなに集まってくれてうれしいです、本当にありがとう! 最後は僕の代表曲というか……やっぱり渋谷の夜はこの曲でシメたいなと思います」

最後は中田裕二が傾倒し磨き上げた歌謡AORの極みとも言える「誘惑」。冒頭の中田、平泉、カトウの三声のコーラスも絶品で、先ほどのMCに大いに頷いてしまうような贅沢な時間が名残惜しく終わっていく……。


が、しかし、鳴り止まない拍手に呼び戻されたアンコールでは、思いもよらない衝撃の展開が! 作務衣を身にまとった3人がブルーの照明に照らされる中、聴こえてきたのは椿屋四重奏の「群青」!? そして、それを演奏しているのは中田裕二と、永田貴樹(B)、小寺良太(Dr)という紛れもない椿屋四重奏のメンバー! これまでに中田がバンド時代の楽曲をライブで演奏することはあれど、メンバーがステージに揃うことはこの10年一度もなかっただけに、オーディエンスも今、目の前で起きていることが信じられないという様相に。

「演者紹介、低音部・永田貴樹、続きましては太鼓侍・小寺良太。そして私が歌唱部・中田裕二でございます(笑)」という何とも懐かしい自己紹介に、ステージ上で思わず笑みがこぼれるメンバー。「椿屋四重奏ここに見参! というわけで同窓会を。10年ぶりです。このふたりが40歳のお祝いに駆けつけてくれました。かたじけない(笑)」と中田が切り出せば、他愛のないやりとりに「この感じ、久しぶりねー(笑)」と笑う小寺。そして、「どうですか10年経ちましたけど、調子はどうですか?」と中田が促せば、「元気モリモリー!」と返す永田と、当時を彷彿とさせるノリに会場も大興奮。


中田が「思ったより全然変わんないな。イイ感じで四十という感じで、四重奏だけに(笑)。まぁまた再解散という感じで(笑)。次は10年後かな? それが僕らの成れの果てです」とぶち上げ、エッジィで疾走感溢れるバンドサウンドで聴かせた「成れの果て」でも、当時のトレードマークであったギターやベースを手に楽しそうに演奏する姿に、あの日の青春を垣間見る。

音楽性は変われど地続きと言い続けてきた中田裕二のキャリアだけに、10年という節目に再び3人が引き寄せ合ったのもまた必然なのか。会場のどよめきがいまだに止まらない中、奥野、白根、八橋、朝倉、平泉、隅倉、カトウ、真船、sugarbeansが再登場し、そこに着替えを終えた永田、小寺、そして中田裕二が帰還。イントロの合間にサプライズで「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」が差し込まれた粋な流れには、中田も「リハでやってなかったじゃんこれ! 最高です」と思わず照れ笑い。

「今日はそうそうたるスーパー黄昏ミュージシャンと演奏できたことがうれしいし、ものすごく思い出に残りました。本当に10年間いろいろお世話になりました、ありがとうございます! そしてみんなも、ずっとついてきてくれて感謝します! 最高のTWILIGHT WANDERERS、それでは皆さんでこの渋谷の夜に飛んでいきましょう。アー・ユー・レディ!?」

中田裕二のライブでは欠かせない鉄板の「MIDNIGHT FLYER」では、総勢12名という大所帯によるド迫力のサウンドにクラップ&ウェーブが巻き起こる大盛り上がり! この多幸感しかない光景は、決して一朝一夕で生まれたものではなく、中田裕二が出会ってきた人々と縁が導いた宝物と言えるだろう。


「目標を勝ち取るとか、数字的な結果を出すとか、そういう気持ちで20代はいました。今思うのは、こうやって最高のミュージシャンと演奏ができて、最高の皆さんの前で歌えて、これが続けられること、自分のやりたい音楽を追求してこれたこと、これこそが正解かなと思います。人生、目に見える結果が全てじゃないと思います。今をどう納得して人生を楽しんでいるか、苦しみさえも面白がれてるか、それを繰り返せば、いつか何かつかめるものがあるのかなと。大変な日々が続きますけど、いつでも僕の音楽は皆さんのそばにあります。今夜はどうもありがとうございました。親愛なる我が、黄昏のさまよい人たちに捧げます」

最後の最後はアコースティックギター1本で、ベストアルバムに冠されたタイトルであり、この10年の感謝を込めた新曲「TWILIGHT WANDERERS」を切々と届け、ステージの端から端までを巡り、深く頭を下げる。満場の拍手に見送られ、自らのたどった人生を音楽にした全25曲を歌い切った中田裕二が、「ここからもやりたいようにやります、よろしく!」と、次の10年へと向かいステージを後にした。


取材・文:奥“ボウイ”昌史
撮影:笹原清明
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