【インタビュー】塩見きら(神宿)、“なにもなかった私”から“止まってはいられない私”に

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3月31日、グループとしては半年ぶりとなる新作「FANTASTIC GIRL」をデジタルリリースした神宿。今作は音楽部分においては神宿初の海外作家による作品で、スウェーデンストックホルム在住のトラックメーカー・Henrik Nordenbackが作曲に参加。クリエイティブな部分ではファッション誌『NYLON JAPAN』のプロデュースでアートワークとミュージックビデオを制作した。

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柔らかい質感のどこか懐かしいスウェディシュポップサウンドに包まれながら、ファッショナブルに進化してみせた神宿。いったいこのグループは、なぜこんなにも急激な進化を繰り返すのか。このグループに最後に加入しなが、自身の葛藤を等身大の言葉で綴った歌詞で女性ファンを増やし、今作でも作詞を担当している塩見きらに自身の進化について、さらにメンバー、神宿の進化に対する考え、その裏側にある葛藤を語ってもらった。こうして進化し続ける神宿の姿は、現在開催中のグループ史上最大規模となる全国ツアー<KAMIYADO THIS IS THE DREAM TOUR>で見ることができる。

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■何かに向かってがむしゃらに頑張って走り続けたら絶対に人は変われる

──まずは神宿初のZeppツアー<KAMIYADO Zepp Tour2020-2021 Bloom of Life>について。このツアーは音楽的に攻めた最新アルバム『LIFE OF IDOL』を軸にメンバーのソロもフィーチャーし、ショートフィルムをはさんでブロックごとに異なるテイストの神宿を見せていくという構成のライブでした。やってみて新しいものをやってるなという感覚は?

塩見:ありましたね。ソロをやってるときに残りの4人で待機してる感じとか、構成も含めて。初日をやってみたら本編が2時間ぐらいあったんで、発表会みたいにならないように全体の流れの抑揚をどう作るかというのをみんなで話し合いながらやっていきました。

──抑揚という意味では「ボクハプラチナ」からの中盤のセクションはレーザーの演出も含め、カッコいいクールな神宿のアクトを浴びる感じで。ライブにおけるお客さんの楽しみ方、ノリも確実に変わりましたよね?

塩見:神宿のライブは歌ってコールして一緒に動いて楽しむというスタイルがあったけど、最新アルバムの曲はあまりそういう感じではなくて。最後にやった「Orange Blossom」もみんな体でノリながら聴くんですよ。「明日、また君に会える」も叫んだりする曲ではないけど楽しんでくれる。そういうスタイルがこのZeppツアーで確立されたなと思います。みんなで一緒に汗かいて騒いで“ウチら最高!”って終わるんじゃなくて、ステージの上って異次元の空間、非現実的な異世界を届けられる場所だと私は思っていて。“いま夢の中にいた? でもこれは現実だよね”みたいな。ライブをそういう時間にしたい。特典会で日常会話を交わす場面ももちろんありますけど、ライブではめちゃくちゃバキバキに踊って、しっかり歌って、みんなの心に音楽と想いを届けるのが私たちの使命だと思ってるので、ステージでは“すごい! 手が届かない”って思われるような存在でいなきゃいけないと考えるようになりました。

──今回のツアーを終えて、そう思ったと。

塩見:そうです。自分は将来どうなりたいかって、すごく私は考えるんだけど。

──ああー。そうやって塩見さんが自問自答する姿は歌詞から想像がつきます。

塩見:あははっ。私は、幸せになりたい。で、幸せってなんだろうって考えたら、自分がやりたいことをやっていることに対して付いてきてくれる人がいて、その付いてきてくれる人のために成長し続ける。そうしたら幸せな空間があり続ける訳だから、それが私にとっての幸せだなと思ったんです。自分が成長するために頑張るのが楽しいんですよ、私は。それはアイドルになって気づいたことなんですけど。

──アイドルになるまではなにが幸せだったの?

塩見:なにもなかった。とにかく現実が嫌で。現実から逃げてた。

──なにが嫌だったの?

塩見:朝起きて大学に行くのが辛い、行っても友達もいなくて。そもそも大学に行ったのも地元が嫌だったからなのに。

──え、そんな理由で?

塩見:そうなんですよ。家から出たかったんです。田舎からだと東京がキラキラしてるように見えたんですよ。行けば自分もはっちゃけて楽しめるんじゃないかと本気で思ってた。でも、いざ上京してみたら全然そんなことなくて。周りの人たちはおしゃれで、カフェにランチしに行ったり夜はみんなで飲み会とかしてて。最初は私も頑張ってみたけど、半年もしないうちに全然無理って。まったく楽しくない。なにやってんだろうってすごく思ってしまって……。


──大学デビュー完全失敗あるある。

塩見:ですね(笑)。そのうち大学にも行けなくなって。自分は数学が好きだから数学科に通ってるけど、そこを出てどうなりたいとかなかったんですよ。親は安定した職を望んでいて、学部の先輩には教師とか金融系に就職する人がいたから私もそういう感じなのかと考えたけど、そんなの全然やりたくない。だから、勉強への意欲もわかなくなって。

──それまで勉強するのは?

塩見:楽しかったです。テストでいい点とったり偏差値が高かったら「頑張ったね。偉いね」って親が褒めてくれる。それが私は嬉しくて。親に喜んでもらうために私はずっと頑張ってて。勉強は頑張れば結果がでるし、それで親も喜んでくれるから楽しかったんです。それで勉強頑張っていざ大学に入ってみたら “なにやってんだろう”ってなって。そこからは大学にも行けなくなって、ずっとベッドの中でゲームしてたんですよ。

──廃人だったの?

塩見:ベッドの中でYouTube見ながらお菓子食べて1日が終わって“また太っちゃった”みたいな生活をしてました(笑)。YouTubeでアイドルを見るのが好きだったから、アイドル見ながら“可愛いな、楽しそうだな”って思いながら“なにやってんだろう私”って思って。そんな現実から逃げたくてオーディションを受けたんです。

──塩見さんの歌詞から、自問自答しながら自分のアイデンティティを探して暗黒期を過ごした人の匂いはぷんぷん感じてましたよ。

塩見:だから、同じように感じて、似た者同士だと思ってファンになってくれる人がいるのも分かってます。それはすごく嬉しいけど、でも、いつまでもそこにいちゃいけないんだよと伝えたい気持ちもある。私、女の子のファンがめちゃくちゃ多いんですけど、私がみんなよりも一歩先に行ってキラキラした存在でいることで、みんなのこともキラキラさせていく。それが私の使命。女の子のファンたちが、泣きながら「すごくツラい」「どうしたらいいか分かんない」って言うんです。

──それはまさに、塩見さんがベッドの中でYouTube見てた時期と同じような感覚。

塩見:そう。そんな日々のなかで「しおみぃが私の生きがい」って言ってくれるから、「大丈夫。一緒に頑張ろう」って声をかけてあげると「ありがとう。頑張るね」っていって帰っていくんです。


──いまの塩見さんは、そういう人たちの気持ちを受け止めて“大丈夫”といってあげられるぐらい自分に余裕がでてきたということだ。

塩見:そうですね。いままでは自分が変わりたくてここ(神宿)にパッと駆け込んだから、とにかく自分が成長することに必死だった。でも、いまはそういう人を見ると、かつての自分を見てるじゃないけど、つまづいて苦しんでる人、悩んでいる人を見ると“大丈夫だよ”って思う。自分もそうだったから分かるんだけど、自分は学校に行ってない、勉強してない、やりたいこともないってなると、どんどん自分に後ろめたくなっちゃうんですよ。自分に対して“ダメだ”って思っちゃうんだけど“そんなことないんだよ”っていってあげたい。あなたがそうやってどんなに自分を否定してても全部受け入れてあげるからという意味で“大丈夫だよ”って伝えてあげるんです。そうすると、すごく元気になって帰って行って。そこから会うたびにどんどんみんな垢抜けて可愛くなっていくんですよ。「可愛くなったね」っていうと「ありがとう。しおみぃのために可愛くなろうと思って」って!

──塩見さんをきっかけに、ダメな自分から抜け出そうと頑張りはじめる訳だ。

塩見:なかには、ずっと過去にすがったまま成長できない子たちもいて。その気持ちも分かる。私も昔、ずっと乃木坂46さんをYouTubeで見てた頃は、好きだけどあまりにもキラキラしすぎてて、途中から“こんなの絶対私はなれないし”、“無理”ってなっちゃったんで。だけど、自分のプライドとか全部捨てて、何かに向かってがむしゃらに頑張って走り続けたら絶対に人は変われる。いまの私はそう思ってます。

──成長しましたね。

塩見:だから、いまは「在ルモノシラズ」を歌ってると複雑な感情に支配される時があります。「Erasor」とかも歌えないときがあるんですよ。

──どちらも自己と葛藤しながら、感情が混乱してるときの痛々しい歌詞ですもんね。

塩見:そうなんです! でも、自分で歌詞書いてないとこんなことも思わないんだろうなって思うと、いい経験をさせてもらってるなって思いますね。

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