【インタビュー】昭和が香るハードボイルド感…港町ぎんぢろうって何者?

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昭和が香るハードボイルド感を体現するバンドとして注目を集めている港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズ。6月2日にリリースされる彼らの2ndアルバム『ウォンチュー!』はブラック・ミュージック・テイストを活かしたスタイリッシュな楽曲群や曲調とはミスマッチなコミカルな歌詞、実力派揃いのメンバーが織りなす上質なプレイなどが折り重なって生まれる独自の魅力を堪能できる一作に仕上がっている。

圧倒的な“病みつき感”を放つ彼らの本質に迫るべくバンドの中枢を担う港町ぎんぢろう(Vo)をキャッチして、じっくりと話を聞いた。


──『ウォンチュー!』を作るにあたって、テーマやコンセプトなどはありましたか?

港町:港町ぎんぢろうというキャラクターの世界観を表すようなアルバムにするということがテーマとしてありました。音楽性どうこうということではなくて、ぎんぢろうの世界観を表現して、それを楽しんでもらいたいなと。なので、ぎんぢろうをイメージさせる楽曲ということに特化しましたね。僕らはライブで寸劇みたいなことを結構やっているんですよ。ライブの半分くらいがそういうことで、それが楽しくなってしまった(笑)。寸劇のストーリーを考えたり、脚本を書いたりするのがすごく楽しいんです。バンドでリハに入ったときもそういう練習ばかりしていて、音楽の練習はあまりやらないという(笑)。そこからぎんぢろうのキャラクターが固まっていって、それに準じた曲を作ろうということになったんです。

──たしかに、ぎんぢろうが生きている世界がリアルにイメージできるアルバムになっています。「ぎんぢろう物語」「お爺さんとキャバ嬢」という2つの朗読劇が入っているのも、ライブの寸劇から生まれたアイディアでしょうか?

港町:そう。今の時代にこんなことをやっているアーティストは、いないですよね(笑)。昔YMOの『スネークマンショー』って、あったじゃないですか。ああいうことを自分もやりたくて、ふざけた部分も入れることにしました。くだらないなと思いつつ(笑)。

──いえ、どちらも昭和の匂いがあって、すごく楽しめました。それに、コミカルな側面もありつつ『ウォンチュー!』は良質な楽曲が揃っています。

港町:本当ですか?自分では全然納得していないんです。

──ええっ、そうなんですか?

港町:はい。まだまだだなと思いますね。

──音楽面で高いところを目指していることがわかります。音楽性に関しては港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズの楽曲は、ブラック・ミュージックに通じるテイストが核になっていますね。


港町:こういう音楽をやろうということは特に決めていないんですけど、僕は白人がやっているブラック・ミュージックが好きなんです。ジャミロクワイとかスタイルカウンシル、HIGH RED、マルーンファイヴなど。特にジャミロクワイの音楽はビートが効いていて、タテノリでちょっとロックっぽいんですよね。トラディショナルなファンクとかソウルももちろん大好きだけど、ジャミロクワイみたいな音楽をやりたいなという気持ちが昔からあったんですよ。だから、このバンドを組んだときも、そういう匂いがあるものをやりたいなと思っていました。

──とはいえ、ひたすらジャミロクワイのような曲をやっているわけではなく、幅広さを見せていますが、その辺りは意識されたのでしょうか?

港町:意識はしていないです。曲を作っていったら自然とこうなりました。僕の中にはこんな曲もやりたい、あんな曲もやりたいというのが山ほどあるんです。アルバムを作ったばかりだけど、今でもそれは変わらない。日々アイディアが溢れ出てきて止まらないんです。だから、『ウォンチュー!』もバリエーションを出さないといけない…みたいなことで悩むということは一切なかったです。

──それこそ全曲テイストが違っていることに圧倒されました。アルバムに向けてキーになった曲などはありましたか?

港町:「キャバレー」ですね。曲調にしても、歌詞にしても、ぎんぢろうの世界観をよく表していると思って『ウォンチュー!』の実質的な1曲目に持ってきました。これは20年前くらいに作った曲なんですけど、ピアノを弾いていたらメロディーとコード、言葉が全部一緒にできたんです。僕はもう何100曲も作ってきているけど、そういうことは初めてだった。サビのメロディーと歌詞が同時に出てきて、すぐに歌えて10分くらいでできたんです。そういう面でも自分の中で印象の強い1曲です。

──こういう曲がツルッと生まれる…しかも20年前とは、こういう世界観が本当に好きなんですね。

港町:好きです。僕らが子供だった1970年代のドラマとかは魅力的な作品が多かったんですよね。『探偵物語』とか『俺達は天使だ』とか。そういうのを子供ながらにチラチラ観ていてすごく惹かれたんです。1970年代にはアース・ウィンド・アンド・ファイヤーとかが流行っていて、親が聴いていたりしてブラック・ミュージックにも触れていたし。それが自分の原点になっているんです。ここに至るまでにパンクとかロックとかいろいろやってきたけど、根底にあるのは1970年代のカルチャーで、港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズを結成したときに、自然と昭和感のあるものが出てきたんです。

──原点回帰ですね。「キャバレー」はホーン・セクションやピアノ、オルガンなどを配したゴージャス&アッパーなサウンドが魅力的です。

港町:音数が多いのでアレンジは大変でした。僕が作ったデモ音源をバンマスのジミー(岩崎/key)に投げて、本アレンジをしてもらうんです。いい形に仕上がっているので、ぜひ聴いてほしいです。

──アップ・テンポの4ビートを活かした「地図読めない」もすごくカッコいいですね。

港町:これはジャズの曲を作りたいなと思ったんです。うちのベースの鳴海(克泰)君は元々ジャズ畑の人なんです。このバンドを結成するにあたって僕はジャコ・パストリアスみたいなベーシストを探していて、彼を3年前に見つけて、すごく気に入ったんですね。鳴海君はロックとかポップスとかは“フンッ”という感じだったけど、それじゃ食えないって分かったみたいな(笑)。そういう人なので、鳴海君に「俺はジャズの曲は書けないから書いてくれないか」とお願いしたら、この曲を書いてくれました。彼とやり取りして、メロディー・ラインとかは僕が替えたりしましたけどね。それを僕らのバンドでやるとドラムは元々ロック・ドラマーなので、こういう感じになるんです。

──こんなにカッコいい曲なのに、歌詞はコミカルというのも最高です。


港町:僕は歌詞には、あまり重きを置いていないんです。曲を作ることはすごく一生懸命やるけど、歌詞は適当なんですよね。大体10分で書ける(笑)。どういうテーマにしようかなと考えて、テーマが決まったら10分(笑)。僕は歌詞を書くのは苦手で、書くことが結構ストレスなんですよ。だから早く終わらせたいんです。そういうスタンスなので、聴いてくれた人にこういうメッセージを伝えたい…みたいなことは全然ない(笑)。そんなふうにすごくいい加減に作っているのに、うちのメンバーも含めて歌詞の評価が高いんですよね。

──それはよくわかります。曲調に捉われないテーマの選び方が絶妙ですし、歌詞にリアリティーがありますので。

港町:僕は普段からいろんなことを考えたり、妄想したりしているんです。いろんなジャンルの友達や知り合いがいて、いろんな話を聞くんですよね。僕が書く歌詞の登場人物みたいな人が僕の周りには実際にいっぱいいるんです、ちょっとヤバい人も含めて(笑)。元々は、うちの母方のお爺ちゃんは北海道の人で、北海道で2番目くらいにデカい建材の問屋をやっていたんです。そこの親族の方達が豪快な人達で、まぁすごいんですよ(笑)。僕はそういう人達に囲まれて育って、いろんな話を聞いてきた。そういうのが蓄積されているから、テーマが決まると言葉が一気に出てくるんだと思いますね。

──なるほど。自然体なんですね。

港町:狙ってはいないです。好きなように書いて、それをメンバーがいいと言ってくれて良かった…みたいな(笑)。

──一方、ボサノバっぽいデュエット曲の「ドッグラン」やゴスペル・テイストを活かした「HOT SPRINGS」などからも幅広さがうかがえます。


港町:「ドッグラン」は、ボサノバというよりは“昭和ムード歌謡”という感じですね。これはバンマスが作った曲なんですけど、僕はソウルシンガーのIKURAさんと昔から仲がよくて、IKURAさんとデュエットする曲を作ろうということになったんです。レコーディング中に急きょそういうことになったから、時間がない中でデュエットの曲を作るのは大変だなと思って、バンマスにお願いしたんです。それで曲があがってきたんですけど、どれだけキーを変えても男2人で歌えるキーにならなくて、ダメだった。でも、もったいないから、だったら女性シンガーに歌ってもらおうということになりました。いい加減ですよね(笑)。ちなみに後に分かったのですが、ジミーは最初から男女デュエットの曲を作る物だと勘違いしていたらしいです。

──いえ、転んでもタダでは起きないことを感じます(笑)。

港町:アハハ(笑)。この曲は時間がなかったからベースだけ生で、あとは全部打ち込みなんですよね。

──えっ、ホーンやパーカッションも打ち込みですか?

港町:そう、全部打ち込み。でもベースだけ入れておけば生感は出るだろうという(笑)。“この曲、生でやったらカッコいいだろうな。でも、またみんなを集めるのはめんどクサいし”と思って、ベース以外は打ち込みにしました(笑)。

──「ドッグラン」は曲調にマッチしたセクシーな歌詞ですが、主人公がメスのトイプードルと雄の柴犬で、そっちですか…と思いました。

港町:レコーディング・エンジニアの蒲田くんが犬を飼っていて、よく犬の話をするんですよ。それで、この曲は犬の歌でいいや…みたいな(笑)。で、Aメロはキーが低いことを活かして、石原裕次郎を思い浮かべながら歌うという(笑)。この曲は男性パートも、女性パートもすごく音域が広いんですよ。Aメロとかはすごく低いのに、すごく高いところもある。簡単かなと思ったけど歌うと難しくて、それも印象に残っていますね。

──「HOT SPRINGS」についても話していただけますか?


港町:「HOT SPRINGS」は、ゴスペル感のあるものを作りたいという気持ちがあったんです。曲自体はわりと簡単に作れたけど、アレンジを考えるのが若干大変でした。デモができた後に、ドラムは何回もアレンジし直しましたね。ストンプ・ビートっぽい感じをドラムで出したくて、いろんなパターンを試したんです。そうやって、いいところには落とし込めたかなと思います。ただ、本当に黒人が教会で歌っているような感じにはならなかったですね。日本人のゴスペル専門の方に歌ってもらったんですけど、やっぱり日本人のゴスペルになった。もうちょっと黒人感とか人数感を出したかったんですけど、今回は5人に来てもらってダブルにしただけだったから、自分がイメージしているゴスペル・コーラスを形にするためには20~30人くらい必要なことがわかりました。なので、次にこういう曲を作る機会があったら、ぜひ実現させたいですね。100人くらい呼んで録りたいです

──今後も楽しみです。『ウォンチュー!』は生々しいサウンドやグルーブをフィーチュアした楽曲に加えて、打ち込みの無機質さを活かした「SMILE 2」や「カナコとヒロシ」「GET LUCK」といったナンバーも収録されています。

港町:そういう曲も好きなので、やってみたかったという、それだけです。特に深い意味はない(笑)。この辺りの曲は僕が最初に打ち込んだデモを作って、それを元にしてジミーがベース・トラックを作ってくれた。ベース・ラインは鳴海が自分で考えたものですね。だから、打ち込みを活かした曲ではあるけど僕が1人で作り込んだわけではなくて、みんなで形にしたんです。

──「SMILE 2」は「SMILE 1」の別バージョンなんですよね。

港町:そう。最初に“1”を作ったんですけど、ちょっと普通な感じだなと思って。他のアレンジができないかなということで、打ち込みを活かしてザ・ウィークエンドみたいな感じにしてみたいなと思ったんです。それで、ベースになるトラックを作って、それぞれに好きなように弾いてといって投げて、それに合わせて歌い方も変えて…という感じで仕上げました。その結果、同じ曲だけど全く別物になりましたね。

──“1”と“2”それぞれの良さがあってさすがだなと思うんですけど、普通は同じ曲を2つは収録しないですよね(笑)。


港町:新しいですよね(笑)。形にしたらどっちも気に入って、もったいないから両方入れることにしたんです(笑)。このバンドは行き当たりばったりで決めることが多いんですよ。「SMILE 1」も最初は普通のエレキベースだったのを、レコーディングのときにウッドベースに変えてもらったんです。「これ、ウッドベースで弾いたらどうなるの?」「いいじゃん、これで!」という(笑)。そういうところも含めて、「smile」は両方聴いてほしいなと思ったんですよね。

──歌という面では、少し変わった歌詞をセクシーだったりアンニュイに歌っていることもポイントですよね。

港町:変なことをマジメに歌うという(笑)。よくこういうふうに歌えるねと言われることが多いけど、たとえば「地図読めない」とかは主人公の気持ちになって歌うと自分の中で違和感がない…というか、むしろ気持ちよく歌えるんです。なぜか感情移入できるんですよ、迷子になってしまった主人公に(笑)。他の曲も主人公の気持ちになって、自然と歌えましたね。ホストが主人公の「僕なんかSOさ MOONLIGHT」もそうだし、温泉の曲の「HOT SPRINGS」は僕は本当に温泉が好きだし、「UFO」もUFOが見たいと本気で思っているんですよ。UFOが見たくてしょっちゅう念じたりしているんです。みんなやっていると思うけど。

──いえ、みんなやってはいないけど(笑)。

港町:そうなの?僕はしょっちゅう念じています(笑)。自分には超能力があるかもしれないと思って1週間に1回くらいスプーン曲げに挑戦しているし。全く曲がらなくて、いつもガッカリするんですけど。「UFO」をライブで演奏して、お客さんと一緒にみんなで合唱したら本気でUFOが現れるんじゃないかなと思っているんですよ。

──このサウンドとイケメンな歌声ですから、シリアスに歌えば超絶男前になりますが、そうしたいとは思わないんですね。


港町:思わないですね。というかシリアスな歌詞が思い浮かばない(笑)。歌詞がいいとみんなが言ってくれるし、こういうスタイルが自分の個性になっているから、今のままでいいんじゃないかなと思います。

──たしかに、メロディーのリズムに対する言葉のチョイスと、歌でリズムを出すスキルに長けていることは感じました。

港町:そうですか?それは自分ではわからない。ただ、リズムということに関しては、歌詞の言葉を意味ではなくて、響きで捉えているというのはある気がしますね。意味に捉われずにハマりのいい言葉をポンポン入れていくから、歌いやすいんですよ。「シャバは最高!!」とかは“シャバダバ~”というスキャットから“シャバ”という言葉が出てきて、そのまま使うことにしたし。それに、歌詞を完成させても歌いにくさを感じるところがあったら、どんどん言葉を変えます。

──歌詞を重視する人は言葉を変えると意味が通じなくなってしまうというところで悩んだりするようですが…。

港町:ないですね(キッパリ)。歌いやすいほうがいいから。僕はレコーディングの現場で歌詞を変えることもあります。

──独自のスタイルの強みが活かされていますね。非常に上質かつ充実感のある『ウォンチュー!』が、本当に音楽が好きなメンバーが丁寧に作った作品だということがわかりました。

港町:そうですね。時間を掛けて作ったので。1年くらいレコーディングしていたんです。今どきこんなに長い間レコーディングしている人はいないとスタジオの人に言われました(笑)。まだやってんの?みたいな(笑)。アーティストの皆さんはリリースの期限とかがあるし、予算のこととかもあって、それに合わせて作品を作るじゃないですか。僕らはそういうことが全然ないので、自分達のペースで、もう好きなようにやらせてもらいました。今は宅録する人も多くて、スタジオの時間は最小限に抑えることが多いみたいだけど、僕はその場の空気感で生まれたものとか、その場の閃きとかを活かしたいんですよ。僕らはスタジオが大好きで、ずーとスタジオにいたいんです(笑)。だから、基本的にレコーディング・スタジオにみんなで集まって録るようにしています。

──今後より多くのリスナーを虜にする予感がします。

港町:そうなるといいんですけどね。僕らは作りたいものを作っているだけで、それが沢山の人にいいねと言ってもらえると嬉しいんです。売れるためにとか、成り上がるために…みたいなことは全く考えていない。それは今後も変わらないと思います。

──『ウォンチュー!』を完成させて、2021年はどんな1年にしたいと思っていますか?


港町:近場の活動予定は全くないんですよね。ライブをやりたいけど、コロナの影響でライブがやりづらい状況じゃないですか。だから、コロナが落ち着いたらぼちぼちやろうかなと思っています。ツアーもやりたいと思っているし。うちのライブは楽しんでもらえる自信があるんです。半分くらい劇をやっているし、いろいろ仕込みもしているから(笑)。ライブが再開できるようになったらぜひライブに来てほしいですね。曲を知っているとよりライブを楽しんでもらえるので、アルバムも聴いていただければと思います。

撮影◎大橋祐希
取材・文◎村上孝之

港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズ『ウォンチュー!』

2021年6月2日発売
SRYM-001 3,300円
1.ぎんぢろう物語
2.キャバレー
3.僕なんかSOさMOONLIGHT
4.シャバは最高!!
5.SMILE 2
6.カナコとヒロシ
7.地図読めない
8.SMILE 1
9.URA!CASINO
10.HOT SPRINGS
11.ドッグラン
12.お爺さんとキャバ嬢
13.GET LUCK
14.月焼け
15.UFO

◆港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズ・オフィシャルサイト
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