【コラム】新作『Terminal』にみる、純度100%のYUKI

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《心の中は誰にも言えない 哀しみ隠して笑う》…YUKIが作詞作曲を手掛けた「灯」にあるこの歌詞こそ、アーティストとしての彼女の美学であると思う。

我々の目の前に現れる彼女はいつも完璧で隙がなく、なによりもタフだ。強い精神力から生まれるその圧倒的な眩しさには、心を奪われると同時に目がくらみそうになる。オリジナルフルアルバムとしては約2年2ヶ月ぶりとなる『Terminal』は、そんなYUKIの堂々とした姿が純度100%で存在していると言っていい。

前作の9thフルアルバム『forme』はYUKIが敬愛するミュージシャンたちに作曲をオファー。ゆえに彼女の初期衝動やピュアリティの抽出に成功した作品となった。つまり新しい挑戦でありながらも彼女自身の原点を露わにする、言い換えるならば土台を整えることで英気を養った作品でもあるとも言い換えられるだろう。ともなれば新しい場所へ行ってみたいという“好奇心”が湧き上がってくることは必然。『Terminal』ではYUKIの大胆な挑戦を十二分に感じることができる。


元来彼女は、自身のポップネスを守りながらも、トレンドのサウンドを取り入れてきた。今作の楽曲の系統を大きく分けると、洗練されたダンス/クラブミュージックと、強かなグルーヴを編み上げるバンドサウンドの2種類。そのどちらにも70~90年代初頭の海外ポップス、ソウルやブラックミュージック、AORといった要素が含まれている。

特にアルバムの前半は象徴的で、主に打ち込みで構成された楽曲が集中。3月にリリースされた両A面シングルの2曲である、シンセが煌びやかな洗練されたシティポップに譜割りが小気味よく響く「My lovely ghost」とレイドバック感と大陸的な逞しさが同居する「Baby, it's you」を頭の2曲に配置するという攻めの姿勢が、あくまでスマートに存在しているのは余裕のなせる業だ。


だが彼女はそういった経験と貫禄を感じさせつつも、1993年にバンドでデビューをしてから変わらない鮮度を保っている。「My lovely ghost」の《あなたは永遠の女の子でいい》や「NEW!!!」の《いつだって尖って 大人にはなれない》、「灯」の《まだ恥をかいていたい ただ熱く燃えている》という歌詞からも、その姿勢を感じることはできるだろう。だがその炎や瑞々しさを守ることは、途轍もない労力が必要だ。そのエネルギーの源流こそが、まさしく好奇心。まさに「Sunday Service」にある《幸せになるなら派手にトライ》の精神である。


つまり彼女はつねに好奇心を持って勇み立ち、変わり続けているからこそ、この長い時間のなかで変わらない鮮度を保てているのだ。どこか反骨精神を持っているように見えること、彼女のもとに多くの人が集まる理由もこの文脈にあると言える。ダークでディープなヒップホップトラック「ご・く・ら・く terminal」は、彼女の巧みなボーカルが鮮やかさで、新しい自分に出会えたことへの高揚が漲っている。着たことがない洋服に袖を通したときの興奮にも似たその感覚は、全人類共通なのではないだろうか。

ここまで書くと隅々までポジティブで強靭な作品として見えるかもしれないが、冒頭にも書いたように彼女の心の中にあるのは“誰にも言えない哀しみ”だ。それを抱えたうえでの笑顔やポジティブな言葉とタフなアティテュードと、それがない状態のものとでは、重みや説得力もまったくもって変わってくる。

「雪が消してく」では低音から高音までを使い、陰を感じさせる言葉たちを逞しく歌唱。「泣かない女はいない」では揺れ動く感情を綴った歌詞をあたたかい笑顔のような歌声で届け、それをバックバンドの紡ぐジャズのグルーヴが美しく、かつ静かに激しく彩る。ゲーム用語を多々用いた「ラスボス」の歌詞もキャッチーながらにどこか不穏さも漂い、「ベイビーベイビー」の冒頭にある《賽は投げられた ひとりには戻れない》というラインもちくりと胸を刺す。

彼女のタフネスは強靭な精神が生んだものではなく、傷ついた心が生み出したもの。そしてその痛みを吐き出してしまうことは彼女の美学が許さない…そんなギリギリの瀬戸際とも言える気高さで成り立つのがYUKIの表現なのかもしれない。それが成せるのは「Baby, it's you」の《私らしくいられるのは そう 君があるがままだからさ》からもわかるとおり、周りからの愛をまっすぐ全身で受け止められているからだ。


「灯」で燃える魂を歌に込めるクライマックスを迎えたあと、ラスト「はらはらと」では、夜の遊園地のような慎ましやかで可愛らしくも切ない空気感のサウンドのなか《それぞれの場所で胸張り 咲き誇れ 歌いながら》といった力強いメッセージや《消えないで 笑い声》と切なる願いを伸びやかに綴る。それは信頼する人に宛てる“おやすみ”にも似た、ともに明るい未来を迎えるための約束のようだ。会えない日々が、YUKIの“会いたい”という気持ちに火をつけたからこそ、このアルバムは生まれたのだろう。

大切な人たちからの愛情をもらうことで、彼女は飽くなき好奇心とはみだす勇気をもって《153cmのリアルファンタジー》を体現できるし、《良い子でいられない》good girlでいられる。それが彼女の愛のかたちでもあり、YUKIというアーティスト自身が様々な人が往来するターミナルだからこそ、瑞々しさや活気を損なわずに発展し続けているのだ。我々を日々の生活へと健やかに送り出してくれるYUKIの音楽。それは闇を赤く染めてゆく夜明けの太陽のように、力強くて眩しい。

文◎沖さやこ


YUKI 10th Original Album『Terminal』

2021年4月28日発売
初回生産限定盤 / ESCL 5528-9 \3,800+税(CD+DVD / 紙ジャケット仕様)
DVD(初回生産限定盤付属):「Baby, it’s you」ミュージックビデオ
通常盤 / ESCL 5530 \3,000+税(CD only)
1.My lovely ghost
2.Baby, it’s you
3.good girl
4.NEW!!!
5.ご・く・ら・く terminal
6.ラスボス
7.ベイビーベイビー
8.雪が消してく
9.泣かない女はいない
10.Sunday Service
11.チューインガム
12.灯
13.はらはらと

◆『Terminal』視聴&購入
◆YUKIオフィシャルサイト
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