【ライブレポート】植田真梨恵、ツアー<HEARTBREAKER>ファイナルで「思い切り生きているみなさんと私の濃密な時間」

ツイート

3rdアルバム『ハートブレイカー』を携え、全国4ヵ所6公演のツアー<植田真梨恵 LIVE TOUR 2021 [HEARTBREAKER]>が、4月25日にEX THEATER ROPPONGI公演でファイナルを迎えた。元々は2020年秋に開催を予定していたこのツアーだったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響があり延期。開催規模を縮小することにはなってしまったものの、今回のツアーでは最終日夜公演にライブ生配信も行なわれて、たくさんの人とファイナルを分かち合うことになった。

◆植田真梨恵 画像

1曲目は「まぜるなきけん」ではじまった。異色のアルバム『ハートブレイカー』のなかでもストレンジな打ち込み曲だ。ステージに登場した植田真梨恵は、ラジカセにカセットテープをセットする──が、なかなかうまく再生できず、あえなくCD-Rでトラックを再生。インダストリアルなノイズとブレイクビーツににのせて、奔放なヴォーカルを響かせた。ちょっとしたハプニングはあったが、今回のツアーは“ライヴ”という、今この瞬間に起きていることや、ここで生まれるケミストリーを存分に楽しむ、そんな心地よい余白が全体にわたって感じられた。



配信のアフタートークで、「ラジカセを持ってツアーを回るうちに、ラジカセ自体が歪んでしまったよう」と語った植田。「だんだんと伸びてしまうカセットテープから音が出て、自然に音が伸びていくようなところもこのツアーの醍醐味ですが、本当にダメになりました(笑)」と笑顔を見せた。もともと、今回のツアー名には“わくわく実験さん(仮)”という仮のタイトルがつけられていた。それはアルバム『ハートブレイカー』という作品が、わくわく感や新たなインスピレーションを求め作曲家陣とコラボレーションを楽しんだものであり、同時に彼女自身の哲学の根源、歌を生み出す深層を掘り起こすクリエイティヴの横軸も縦軸も広げていくアルバムになったから。怒涛の感情を航海する、そんな制作を経験した後のライヴはもう“わくわく”する音を楽しむだけ。そんなムードが、植田自身からもお馴染みのバンドメンバー(車谷啓介[Dr], 麻井寛史[B], 渡邊剣太[G], 西村広文[Key&Manipulator])からも伝わってくる。

前半はアルバム中でもパンキッシュで実験的な曲で、『ハートブレイカー』の世界へと引っ張り込んでいく。ヘヴィなベースとノイジーなギターに、低音のボーカルで早口でまくし立てる「バニラフェイク」、ダークファンタジーを思わせるエレクトロサウンドとエフェクティヴなボーカルによる「Black Cherry In The Dirty Forest」と続き、自在な音像と映像との組み合わせでマジカルな濃度を増す。そこに「ザクロの実」などメジャーデビュー初期のピアノ曲が、爽やかなアクセントを添えて、さらりとした風を吹かせる感覚だ。



「久しぶり!」と声を上げて、「今回のアルバムは“愛と血”がテーマ。思い切り生きている一枚ですから。思い切り生きているみなさんと、思い切り生きている私の、ものすごい濃密な時間になることを誓いましょう」という挨拶をすると、アルバムの曲からは「IN TO」「Stranger」「REVOLVER」へと続いていく。アコースティックギターをかき鳴らしながら、空気がすっと柔らかくなるようなボーカルを響かせる「IN TO」は、北欧ポップスの香りが漂う。一方で、ハンドマイクでパワフルに歌い上げる「REVOLVER」は、1970sロックサウンドのきらびやかさと、シアトリカルなステージングでフロアを盛り上げる。1曲1曲の表情がダイナミックだ。

そして中盤、「アルバムのなかから3つの物語をお届けします」と語って演奏されたのが、「スルー」「鍵穴」「heartbreaker」。MCで植田は「“愛と血”がテーマなのは、アルバムに込めたかった思いを一言でまとめられなかったから」と語り、「私はずっと“愛”や“永遠”というものを、ちゃんと言葉で説明できる気がしなくて。本当にあるものなのかなと思っていました。でもうまく言えないんですけど、きっとあるんだろうなと思う。どちらかといえば、あると信じたい気持ちが強いです」と告げた。大事で、しかし形なきパーツを求めるような3曲が並ぶ。なかでもライヴで聴く「鍵穴」は圧巻だった。ミュージカル、音楽劇のカタルシスを5分間のポップスに凝縮したこの曲。封じ込めた感情がステージで解き放たれる感覚で、続く「heartbreaker」とともに、シンガー植田真梨恵の豊かな情緒や表現を味わう。そこに続いた「眠れぬ夜に」や「小さな恋の誓い」もまた、物語的でアンニュイな美しさが光る。



またこの日は、後半で2組のゲストが登場した。ひとりは「てとてとめとめ」で姉妹共演となった植田真衣。YouTubeチャンネルでは姉妹による振付動画が上がっているが、その振付をしながら会場を盛り上げる。パーカッションやシェイカーのプリミティヴな音だけで、幼い子どもと一緒に歌うようなメロディを歌う。気持ちのいいユニゾン感やハーモニーは姉妹ならでは。

そしてもうひとりは、「my little bunny」を作曲した川島だりあ(FEEL SO BAD)。こちらはスピード感あふれるアッパーなロックチューンで、ふたりで力強いボーカルをスリリングに掛け合う。ショーのホストとしてそれぞれのアーティストを迎え入れて、自由にめいっぱい楽しんでもらうもてなしも、バッチリだ。



さらに終盤で披露したのは、ファンにとってはおなじみだろう企画から生まれた2曲。25時間で作詞作曲からミュージック制作までを実施し、その過程を生配信する“まりえの魔の25時間”で制作した「I JUST WANNA BE A STAR」(2019年発表)と「いいこのバースデーソング」(2020年発表)だ。このバンドメンバーは、無謀とも言える25時間をともに乗り越えてきたメンバーであり、盟友だ。そしてアルバム『ハートブレイカー』という作品を立体化していく、よき理解者たちでもある。植田真梨恵の一筋縄でない内的世界、そして多彩な作曲家陣が自由に発想した新たな植田真梨恵像をステージ上でリアルタイムで組み上げて、作品をパノラマティックに見せていく感覚もより強まっていて、見応えあるものになっていた。

アンコールでは「ERROR」をピアノで弾き語りし、いっときはツアー自体が延期になるなど、どうなることかと思ったが、こうして無事にファイナルを迎えた喜びを語った植田真梨恵。実際に会場に駆けつけた人のなかにも開催の有無を心配した人も多かったと思う。「今日を目に焼き付けておこうと思って」と、フロアのひとりひとりを胸に刻むようにしてじっくりと会場を見渡すと、「強烈なツアーでした」と表現した。その言葉は、このツアー、この日のライヴを体験した人もまた同じ気持ちだったに違いない。


取材・文◎吉羽さおり
撮影◎山口渚

■<植田真梨恵 LIVE TOUR 2021 [HEARTBREAKER]>2021.4.25@EX THEATER ROPPONGI -NIGHT- セットリスト

01. まぜるなきけん
02. バニラフェイク
03. Black Cherry In The Dirty Forest
04. ザクロの実
05. Bloomin'
06. IN TO
07. Stranger
08. REVOLVER
09. スルー
10. 鍵穴
11. heartbreaker
12. コンセントカー
13. 眠れぬ夜に
14. 小さな恋の誓い
15. WHATʼs
16. きえるみたい
17. FAR
18. てとてとめとめ
19. my little bunny
20. センチメンタリズム
21. いいこのバースデーソング
22. I JUST WANNA BE A STAR
23. 憂うべき
EN. ERROR

■<植田真梨恵 LIVE TOUR 2021 [HEARTBREAKER]>2021.4.25@EX THEATER ROPPONGI -DAY- セットリスト

01. まぜるなきけん
02. バニラフェイク
03. Black Cherry In The Dirty Forest
04. ハルシネーション
05. Bloomin'
06. IN TO
07. Stranger
08. REVOLVER
09. スルー
10. 鍵穴
11. heartbreaker
12. 愛おしい今日 13 小さな恋の誓い
14. 眠れぬ夜に
15. WHATʼs
16. 心と体
17. わかんないのはいやだ
18. my little bunny
19. てとてとめとめ
20. いいこのバースデーソング
21. I JUST WANNA BE A STAR
22. 憂うべき
EN. ERROR

この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス