【インタビュー】特撮・大槻ケンヂ「時代を象徴するんじゃなく今を象徴しないとね」

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■「ネタバレの世界で生きてくための方法」がアルバムのオチというか解答編
■最後を締め括るにふさわしい曲なので曲順に聴いてもらえたら嬉しい


──そういえば以前、次回作つまり今回のアルバムについて「心で熱く燃えるような「大人の特撮」になりそうだ」とおっしゃっていましたね。

大槻ケンヂ:ライブでお客さんが声を出しちゃいけない状況なので、ラウドロックをやってもお客さんとのコール&レスポンスによるフィードバックがないわけで。それならばいっそ、お客さんが座って声を出さなくても楽しめるソフトロックにしてしまおうと思ったんですよ。逆算で考えて、そうしたらどうかということを提案したんですけどね。

──メンバーの反応は芳しくなかったと(笑)。今回、その部分が表れている曲もありますか?

大槻ケンヂ:「喫茶店トーク」なんかはそうですね。この曲の歌詞に「底が丸見えの底なし沼を人は生きる」とあるんだけど、昔、週刊ファイトっていうプロレス新聞に「I編集長の喫茶店トーク」っていうコーナーがあったんですよ。もう亡くなられましたけど、その井上義啓編集長が「プロレスとは、底が丸見えの底なし沼」って言ったんです。これ、プロレスファンには結構有名な話なんですけどね。

──サウンド的には、『歌劇「空飛ぶゾルバ」より「夢」』もすごい存在感でしたね。

大槻ケンヂ:ナッキー(NARASAKI)が最初に作ってきたデモテープは、1分半くらいの、ストレートなパンクロックだったんですね。こういう曲が1曲あったら楽しいんじゃないかってことで話をして、翌日ナッキーが仕上げてきたものを聴いたらプログレ・ミュージカルだったんですよ(笑)。「ストレートな、ワーッと乗って終わる曲じゃないの!?」と言ったら「違います」と(笑)。僕はプログレとか好きだからこういう展開はわかるけれども、まさかそれを特撮でやるとは夢に思わなかったので、どうしたもんかなと思いましたけどね(笑)。だけどちょうどその頃に割とSFを読んでいたので、SF的な、時空を行き交う展開、違う世界線的な方向に行けばいけるかなと。何か架空の劇団の、架空のロックミュージカルのサントラということにしたらどうだろうかと思って書いていきました。


──なるほど!

大槻ケンヂ:寺山修司の「書を捨てよ町へ出よう」っていう映画のサントラが好きで、そこに長尺のこういう曲があって。途中で「人力 人力!」と言っているのも、「人力 人力」で始まる長台詞があって、そのオマージュでもあります。

──「フィギュア化したいぜ」や「ウクライナー」も、聴いた人それぞれが脳内で映像化出来そうな曲だなと思いました。

大槻ケンヂ:僕はフィギュアよりソフビの方が好きなので、最初は「ソフビ化したいぜ」だったんだけど、ソフビは立ち上がる姿は作らないから、立ち上がる姿だったらフィギュアだなと思って「フィギュア化したいぜ」にしたんです。「ウクライナー」は後半のコサックダンス的なところで、割とこう、ダンスのお囃子だから、逆に意味のあることを歌わない方がいいと思って、こういうよくわからない感じにしました。実はこれ、最初は小説のネタだったんですよね。

──小説といえば、「果しなき流れの果へ」は先ほどもお名前が上がった小松左京さんの「果しなき流れの果に」というSF小説がありますね。

そうです。まさにその頃、読んでいました。でもこれは、曲の方が先だったと思います。かっこいいタイトルだなと思ってずっと覚えていて、いつかこういうタイトルで書いてみたいと思っていたんです。でも、タイトルに使うんだったら読まなきゃなと思って(笑)。でもあれはかなり難解でした(笑)。


──ちなみに全11曲のうち9曲がNARASAKIさんで、「果しなき流れの果へ」は三柴理さんが、「ネタバレの世界で生きてくための方法」はARIMATSUさんが作曲されていますね。

大槻ケンヂ:はい。「ネタバレの世界で生きてくための方法」はレゲエなんだけど、夏に向けてレゲエが歌えて嬉しかったです。この曲がアルバムの最後なんだけど、一応オチというか解答編みたいになっていて最後を締め括るにふさわしい曲なので、よろしければCDで、曲順に聴いてもらえたら嬉しいですね。でも今は、曲順で聴くってこともあまりないんでしょうね。CDを買ったことないっていう若い子とかいくらでもいるし。

──だけど曲順で聴くからこそ、見えてくるストーリーもありますからね。今回、リード曲になっている「ヘイ!バディー」についてはいかがですか?

大槻ケンヂ:これは、今回いちばんポップなんじゃないかなということで。明るくていい曲だなと思いますね。

──今回、ゲスト参加された方についても聞かせてください。

大槻ケンヂ:「I wanna be your Muse」「ミステリーナイト」「ゾルバ」にキスエク(XOXO EXTREME)の3人(一色萌さん、小嶋りんさん、真城奈央子さん)がコーラスで参加してくれています。あと後藤沙緒里さんが「喫茶店トーク」と『歌劇「空飛ぶゾルバ」より「夢」』に参加してくれました。「ミステリーナイト」では、月蝕會議という音楽クリエイターギルドバンドのBillyがサックスを吹いてくれています。ギタリストなのに。「ミステリーナイト」は、曲先だからすごいですよね。曲が先に上がってあの歌詞を書いた僕は天才だと思いますよ、自分で(笑)。ああいうデスメタルみたいな曲は、絶対ああいう歌詞になるんですよ。僕の場合、恐怖とかサタニズムとか、突き詰めるとなんかちょっとギャグになる。逆に、本格的にデスメタルやブラックメタルをやっている方はどんなことを歌っているんだろうって、興味があります(笑)。

──「電気くらげ」はThe Doors色の強い楽曲ですが、このサウンドからなぜ「電気クラゲ」になり、「エレクトリック ジェリーフィッシュ」というアルバムタイトルになっていったんでしょうか。

大槻ケンヂ:淡々としたオルガンの曲で、サイケデリックな曲で。これをどう解釈しようと考えた時に、自分の引き出しを開けるとどうしてもThe Doorsだったんですよね。で、タイトルみたいなところは後付けというか直感なんですけど、コロナ禍においてライブというものが失われて、そこで一番失われたものが何かというと僕は「振動」だと思ったんです。それだけは生じゃないと伝わらないでしょう?今は密になって振動を体感することはできないけど、いつかみんなでそのバイブレーションを共有しようという意味で、ビリビリくるものということから「電気くらげ」にしたんです。ライブって、とにかく行くとすごい振動じゃないですか。「それだ!」と。振動の共有っていうのが今失われていると思って、それを忘れないうちに思い出そうという気持ちですかね。あと、くらげはジャケットの水色からも来ているんですよ。

──ジャケットが先だったんですか?

大槻ケンヂ:アルバムを作るにあたってまず何かテーマをと言われた時に──出来たものがテーマだと僕は思っているんですけど、テーマがあった方がミュージシャンも周りの人たちも動きやすいし発想がしやすいと思うから、じゃあまず水色でって言ったんです。当時読んでいた本の装丁によく水色が使われていて、すごくきれいだったから。色のイメージを決めて、そこからタイトルも連想される言葉で最終的に決めていきました。出来上がってアルバムの歌詞的なテーマとしては、我々はネタバレの世界で生きていると。最終的にはみんなこの世からいなくなる、というネタはバレているストーリー。しかし、ネタはバレているのに、先の、終わりの見えない日々を送っている。特に今はね。じゃあその中でどうやって生きていけばいいか、みたいなことになっていったんですよね。終わりが見えている世界で、終わりの見えない日々を送る。そういう日々を送ることの解決法であるとか、不思議であるとか、問題であるとか、時に喜びであるとか。そういうことがテーマですね。

──結果的に、すごく今を象徴するアルバムになったのではないかなと思うのですが。

大槻ケンヂ:そうですね。そうなんですけど、面白いのが、発売は5月じゃないですか。5月に「今」の状況がどうなっているかはまだわからない。そこが面白いなと思うんですよね。

──たしかにそうですね。

大槻ケンヂ:よく時代を象徴するアルバムなんて言うけど、今って時代を象徴するような時代じゃないんだよね。今を象徴しないと。だから、速報性が重要なのかもしれない。昔特撮の「ルーズ・ザ・ウェイ」っていう曲で「いい方へころがれ」という歌詞を書いたことがあるんですが、まさに今そのような心境です。「電気くらげ」で言った「さぁ また始めよう」っていうのが、建設的な、前向きな方向で「また始めよう」って言えるような状況になることを願っています。

取材・文:山田邦子
撮影協力:珈琲専門館伯爵 巣鴨店


New Album『エレクトリック ジェリーフィッシュ』

2021年5月12日(水)On Sale
【初回限定盤(2CD Blu-ray)】
品番:KICS 93993~4
定価:¥ 6,800 tax in
DISC1【エレクトリック ジェリーフィッシュ】
M1:電気くらげ
M2:ヘイ!バディー
M3:オーバー・ザ・レインボ~僕らは日常を取り戻す
M4:I wanna be your Muse
M5:ミステリーナイト
M6:ウクライナー
M7:喫茶店トーク
M8:フィギュア化したいぜ
M9:果しなき流れの果へ
M10:歌劇「空飛ぶゾルバ」より「夢」
M11:ネタバレの世界で生きてくための方法
DISC2:【DEEP Tracks】(アルバム未収録集)Blu-ray:【特撮History Film】
【通常盤(CD) 】
品番:KICS 3993
定価:¥2,800 tax in
収録内容: 初回盤DISC1と同様

<特撮ライブ 「エレクトリック ジェリーフィッシュ」>

2021年
5月15日(土)埼玉・HEAVEN'SROCKさいたま新都心VJ-3
5月16日(日)東京・新宿BLAZE
5月26日(水)東京・LIQUIDROOM


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