【インタビュー】京都の宅録エレクトロガール・湧 -waku-の音楽

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作詞から作曲、レコーディングまで自宅スタジオで行う京都発の“新世代ワンルームシンガーソングライター”、湧 -waku-(以下、湧)。アナログシンセサイザーやギターを通して紡ぎ出されるローファイサウンドは、聴いた人を空想の世界に連れて行く。

◆湧 -waku- 画像

TikTokをはじめSNSを駆使して自宅スタジオから楽曲を発信してきた湧が、5月19日に1stミニアルバム『Train Pop』を全国流通でリリースする。星野源の楽曲などを手掛けるレコーディング・エンジニア渡辺省二郎を迎えた配信シングル「スプートニク6号」「サマータイトル618」も含む全7曲を収録。本作を「これは貴方の物語です。」と表現した彼女に、楽曲に込められた思いや制作過程などをじっくり語ってもらった。

   ◆   ◆   ◆

──初の全国流通ミニアルバム『Train Pop』の完成おめでとうございます。現実世界と空想世界を行き来するような、夢心地な作品だと感じました。このミニアルバムに収録されている曲たちは、どんな心境のもとに生まれたのですか。

湧:ときどき空想世界に入り込むときがあって、簡単に言えば“妄想”なんですけど、その物語に登場する人になって歌っています。登場人物は、湧自身ではないんですけど、マンガや映画の主人公に感情移入するように、自分自身が曲のなかの登場人物に乗り移っているような感覚ですね。

──ミニアルバム全体を通して、世界観の強さを感じていたので“感情移入”という言葉にすごく納得しました。

湧:曲を聴いてくれる方も湧と同じように曲の物語を自分のことのように感じてくれたら嬉しいです。


──『Train Pop』の発売発表とあわせて公開されたコメントに「現実を見ろ、大人になれという某アニメが流行っていますが私は音楽を聴いている時くらい、本を読んでる時くらい現実から離れたところに行きたいと思っています。」という言葉がありましたが、湧さん自身アニメからの影響を感じますか。

湧:このコメントは、ちょっと『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を意識してみました。アニメからは、かなり影響を受けていますね。特に『涼宮ハルヒの憂鬱』『涼宮ハルヒの消失』や『〈物語〉シリーズ』から影響を受けていると思います。どちらの作品も音楽を神前暁さんが担当されていることをあとから知って、やっぱりこの人の音楽が好きなんだと気づきました。現実世界と空想世界がパラレルになっていて、妖怪や宇宙人が日常に潜んでいる感覚は夢のようで素敵だと思います。

──ミニアルバムのタイトル『Train Pop』には、どのような思いが込められていますか。

湧:“Train”と“Pop”、2つの言葉をつなぎ合わせた造語なんですが、“Train”は現実世界と妄想や夢の世界の架け橋となる電車をイメージしていて、“Pop”は耳馴染みの良いポップな曲を集めたので、この言葉を使いました。そのままといえば、そのままですね(笑)。


──「サマータイトル618」までの前半3曲と「ラブソング」からの後半4曲でA面とB面に分かれるような印象を受けたのですが、曲順はどのように決められたのですか。

湧:全体の流れを意識して決めました。ドライブに行ってカーステレオで聴くことを考えたときに激しい曲と落ち着いた曲が交互になっていると、情緒不安定みたいでノリづらいですよね。「スプートニク6号」であがったら、そのままのテンションで「サマータイトル618」につながって、一旦そこで一区切り。場面が切り替わり「ラブソング」で弾き語りになって、落ち着いた雰囲気のまま「光が溶けたら」「exodus」が入ってくる感じ。「光が溶けたら」と「exodus」は、わりと同じ物語なので、曲順を前後にしたかったんです。最後の曲は「alley」にしたいと制作当初から決めていて、この曲は物語のような曲なので、寝る前に子供に読み聞かせる絵本をイメージしているんです。アルバムのエンディングにちょうどいいなと思いました。

──湧さんの楽曲は、イマジネーションが広がる歌詞が多い印象がありますが、どのように歌詞を書かれているんですか。

湧:歌詞を書く場所や時間は特に決まっていないです。「サマータイトル618」は、コンビニへ行く途中の道で書いたりしました。思いついたときにメモに言葉を残したりしているんですが、書き溜めた言葉をつなぎ合わせるより、2〜3時間で一気に書き上げることが多いです。“曲ができる!”みたいなスイッチが入ると一瞬ですね。メロディーと歌詞を一緒に作るタイプなので、歌詞もほぼ同時に作ります。アレンジは色々と悩んだりして、結構時間かかりますけどね。


──『Train Pop』に収録されている曲の歌詞を見渡すと、“宇宙”というワードとそれに対を成すように“部屋”というワードが散りばめられていますよね。

湧:確かに、確かに(笑)。出てきますね。よく気づいてくれました。「スプートニク6号」と「exodus」については、家の部屋にいながら妄想しているときにできたんです。部屋が宇宙船のように思えてきて、宇宙っぽい音とかを出しているうちに、宇宙を漂っているような感覚になってきて……。そんな気持ちのまま曲にしました。音楽を使って宇宙空間を広げていくイメージです。“部屋”というワードについては、基本的に部屋にいることが多いのと、6畳1間の狭い部屋で音楽を作っているので自然と歌詞にも影響しているのかもしれないですね。音を鳴らしながら、部屋の輪郭をどんどん広げていくイメージで制作をしています。あらためて自分には、すごく宅録が向いているなぁと思います。

──どのような環境で宅録されていますか。

湧:機材は良いものを使ったほうがいいとは思っているんですが、あまり高すぎる機材だと、管理しきれなかったり、使いこなせなかったりすると思うんですよね。頭のなかのイメージをかたちにするまで時間がかかるというか。ハイエンドな機材を使いたいときはスタジオに入ればいいかなと思っているので、宅録では使いやすさを重視しています。ほかは服とかメイク、持ち物にも気をつけてレコーディングしています。


──服とかメイクにこだわって楽曲制作するアーティストはめずらしいですね。

湧:曲のキャラクターになりきるために、服とかメイクだけじゃなくて話し方とかも気にして録音しています。こういう色の曲だから、その色に合わせた服を着たりとか……。制作中はひとりですけど、話し方や動きとかの仕草も曲に合わせて普段とは違うものになっていると思います。

──ハードウェアの機材(SP404やMC-707など)も使って制作をされているかと思いますが、DAWソフトで完結するアーティストも多いなか、ハードウェアの機材も取り入れる理由やこだわりはなんですか?

湧:SP-404とかMC-707はボタンがピカピカ光るのがかわいくて見てると元気がでるんです。ずっとパソコンの画面を見てるよりも楽しいなって思います。こういう機材を使うと縦が揃って無機質なサウンドになるので「メロディーとリズムが勝負!」みたいな曲が作りたいと思った時に使います。ギターで作るものとは雰囲気が変わるのでおもしろいです。


──今作ではレコーディング・エンジニアとして渡辺省二郎さんを招かれている楽曲もありますよね。大御所エンジニアとのレコーディングは、いかがでしたか。

湧:エンジニアの方って裏方というイメージがあったんですが、省二郎さんはアーティストだなぁと感じました。最初にミックスを聴いたときに本当にかっこいいと感じて、何がすごいのか言葉で表現は難しいんですけど、ミックスで尖ってると思ったのは初めてでした。ミックスをするときに省二郎さんからイメージを色で言ってくれた方がわかりやすいって言われて、湧も色でアレンジを作っていったりするタイプだから共通言語で会話がしやすかったです。アーティストが納得するようにとか、だいたいこんなもんでしょ、といった感じが全くなかったです。

──本作は、コロナ禍での制作になったかと思いますが、楽曲への影響はありましたか。

湧:「光が溶けたら」は、特にコロナ禍で聴いてほしい楽曲です。会えないからどんどん妄想しちゃうね、って曲なので今の状況にちょうどあっている気がします。皆さんもコロナが終わったらということを考えながら、ぜひ聴いてほしいなと思います。


──“京都の宅録エレクトロガール”と表現されることもある湧さんですが、“宅録”と並んでフィーチャーされがちな“京都”は、湧さんにとってどういう場所ですか。

湧:小学校1年生から今までずっと京都に住んでいるんですが、すごく住みやすい街だと思います。自転車があればだいたいどこにでも行けて便利なところも好きなポイントです。東京とくらべて建物が低いので、空が広くて星や月が近く感じるんですよね。京都の誇りみたいなのって面倒くさく思われがちですけど、住んでみると暮らしやすい街です。

──Marie Louiseにギターボーカルとして参加されている湧さんですが、ソロ活動とバンド活動の棲み分けはありますか。

湧:ソロは好き放題にできるので自分の中の想像やストーリーを掘り下げてそのまま音楽にできるんです。バンドはメンバーの色も混ぜ合わせて自分だけでは出てこない音楽が作れるのでソロとは違う良さが出せてると思います。



──初の全国流通となる『Train Pop』の中で、はじめて湧さんの音楽にふれるリスナーに最初に聴いて欲しい名刺代わりの1曲があれば教えて下さい。

湧:やっぱり「都心の窓から」かなぁ。最初に聴いて欲しいからミニアルバムの1曲目にしたりしています。令和のシティポップを意識しているんですが、実はこの曲すごく昔に作った曲なんですよね。高校3年生くらいに。今回、楽曲の土台やアレンジはそのままで、よっちさん(河村吉宏)がドラムをたたいてくれたり、ベースは山口寛雄さんが弾いてくれたり、宮野弦士さんと一緒に打ち込みを考えたり、それこそ省二郎さんにミックスしてもらったりとか。他のミュージシャンと一緒に作り直したことで、より多くの人に聴いてもらえるような楽曲になったかなと思います。サブスクや配信は形がないものなので、実際に触れられるCDとして音源を全国に出せるというのは本当に嬉しいです。できれば歌詞カードを片手に聴いて欲しいです。

取材・文◎Z11
写真◎作永裕範


ミニアルバム『TRAIN POP』

2021年5月19日(水)発売
2,200 円(税込)SMTL - 101

収録曲
1. 都心の窓から
2. スプートニク6号
3. サマータイトル618
4. ラブソング
5. 光が溶けたら
6. exodus
7. alley

◆湧 -waku- オフィシャルTwitter
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