【インタビュー】フィルフリーク、“違和感”との対峙で登った大きな一歩

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「あなたの日常を少しドラマチックに。」というコンセプトを掲げ、2014年から活動を始めたフィルフリーク。日々の景色や情感に寄り添う歌詞、男女のツインボーカル、ポップにもシリアスにも振り切れるバンドのアンサンブルを武器に、下北沢を中心とするライブシーンからその名を広めてきたロックバンドだ。

今年4月には、Brian the Sunの森良太(Vo.&G.)がプロデュースなどを手掛けた2ndミニアルバム『Humanning』をリリース。「これまでで一番大変だったが、すごくいい作品になった」と胸を張る4人に、完成までのエピソードや制作に対する意識の変化などを聞いた。

   ◆   ◆   ◆

■私は広瀬の作る曲が世界一だと思ってるんです。(ゆっこ)

──まず、バンド名の「フィルフリーク」にはどんな思いが込められているんですか?

広瀬とうき:もともとカタカナの名前にしたいなというところから決めた言葉なので、意味は後付けなんです。「フィル」は隙間とか心の間みたいな意味があるらしく、「フリーク」はおかしくなるみたいな意味。心の隙間に入り込んでおかしくなれるくらい僕らの音楽が染み渡っていけばいいなって、そんな感じで捉えています。

──フィルフリークとしての活動はいつからですか?

広瀬:大学1年生からなので、2014年ぐらいですね。

──BARKSでは2019年のイベント<ROAD TO EX>の記事で少しご紹介させていただいていますが、あの大会では見事優勝。バンドにとってもひとつの転機になったのでは?

広瀬:そうですね。僕は、この大会で勝てなかったらバンドを辞めますってメンバーに伝えていたんです。それまでいろいろなオーディションに応募しても全然ダメだったんですが、やっぱり趣味としてじゃなくしっかり音楽をやっていきたかったし、何よりもこのバンドでずっとやっていきたいと思ったから。それで改めて、メンバーみんなで力を合わせて優勝を目指しました。立てた目標が達成できたのは、その時が初めてでしたね。

──だけどその後すぐコロナ禍になって、思うように活動できないもどかしさもあったんじゃないですか?

広瀬:ライブが中止になったりすることは悲しかったけど、あの頃は、こんなに長引くとは思っていなかったんです。もっと軽く考えていたというか。だから(優勝したけど思うような活動ができない)今の状況も、すぐに取り返せると思ってました。

三上大鳳:自分たちでできることをやっていこうって、それしかなかったというか。

ツカダユウキ:優勝して、初の全国流通のミニアルバム『Reverse Youth』をリリースしたばかりでもありましたから、もちろん悔しい気持ちもあったし、(その後は)まだ続くのかっていう不安もありました。でも<ROAD TO EX>に向けて培ってきた底力みたいなものがちゃんとあるから、この先もきっと耐えられるだろうし、次のステップに行けるはずだという気持ちはありましたね。この4人なら大丈夫だって。

広瀬:コロナ禍を耐えることより、あの<ROAD TO EX>の方が全然キツかったからね(笑)。

ゆっこ:キツかった(笑)。

──優勝を手にしただけでなく、バンドとしての自信にもつながったんですね。そんなフィルフリークの強みというと、どういう部分になりますか?

広瀬:僕らは「あなたの日常を少しドラマチックに。」というコンセプトでやっているんですが、その「少し」というところが僕らの強みだと思っています。そんなに大きなことを言いたいわけでもないし、世界を変えようぜって感じでもないんですよ。「少し」を変えることがどれだけ大変かっていうことをわかっているから。だから人の弱いところ──自分たちを含めて、人の弱さを認められる音楽をやっているんじゃないかなと思っています。

──それは、ご自身の体験から生まれたものだったりするのでしょうか。

広瀬:このバンドをどういう風にやっていったらいいかまだわからなかった頃に、あるお客さんに「明日から頑張れます」みたいなことを言われたんです。その人の人生からするとほんの少しのことかもしれないけど、その「少し」を変えられる音楽をやっているんだと思えた時に、こういう人を少しずつ(増やしていって)、いろんな人を救えるような音楽ができたらいいなって思ったんですよね。それがきっかけで、フィルフリークというバンドが今の形にどんどん近づいてきました。その言葉は、僕の糧になりましたね。

──聴いてくれる人の存在が背中を押してくれた、と。ちなみに、三上さんはその当時どんな気持ちで活動していたか覚えてます?

三上:あの頃は自分自身の演奏力も未熟だったから、まだまだやれるはずだっていう悔しさが原動力になってましたね。それは今も変わらないです。だからこそ、今も続けられていると思うので。

──なるほど。ツカダさんはどうですか?

ツカダ:僕はもともと、フィルフリークのお客さんだったんです。2年ぐらいお客さんとしてライブに行ったりしていたので、僕が加入した後にお客さんが増えていく様子を見ていても、自分のバンドのこととは思えない感じがあったんですよね。今でも他人事のように嬉しく思うことがあるし、もっと言うと、どんなにお客さんが増えても1番のファンは僕だと思っているので。

広瀬:気持ち悪いよ(笑)!

ツカダ:あ、じゃあここはカットでお願いします(笑)。

──(一同爆笑)。話を戻しますが、ゆっこさんはこのバンドの強みについてどんな風に捉えていますか?

ゆっこ:私も気持ち悪いって言われそうですけど(笑)、私は広瀬の作る曲が世界一だと思ってるんです。

広瀬:それバカにしてるだろ(笑)。

ゆっこ:いや本当に!広瀬が作る曲の全てが一番素敵だと思っているので、1枚目の『Reverse Youth』を作っている時も今回の『Humanning』も、常に広瀬が作った楽曲を世に出す時に、いかに聴きやすくて、綺麗で、人の心に響くものにするか。その曲の良さをどうやって活かすかを考えながら、制作に臨んでいます。

▲『Humanning』

──今ゆっこさんのお話にもありましたが、フィルフリークの楽曲はほぼ広瀬さんによるものですね。曲作りには、やはり世の中の状況みたいなものも反映しますか?

広瀬:そうですね。今回の『Humanning』で言うと、「朝日を待つ」はコロナと向き合っている自分に対して書いた曲です。コロナ禍で外出をしなくなって、曲は作っているけどなかなか上手くいってなくて、自分は何やってんだろうなって思ったりしていた時、窓から入る光に埃が映っていることに気が付いたんです。これを吸ったり吐いたりしながら、自分はなんとなく朝起きて、なんとなく夜が来るのを待っているんだなって思ったら、そういう「なんとなく生きている自分」も肯定してあげたいなと思ったんですよ。なんとなく生きている人だっているわけだし、むしろその方がフィルフリークのボーカルらしいなと思うし、そもそもなんとなくで過ごしていなかったらこの曲は生まれていなかったわけで。自分を励まそうとかではなく、ただその状況を歌にしたっていう曲ですね。

──フィクションで書くこともあるんですか?

広瀬:「道端日和」という曲は、『私の頭の中の消しゴム』という映画に感化されて作りました。主人公の女の子が徐々に記憶をなくしていくというストーリーなんですが、僕は悲しい物語を見るとすごく自分自身にも周りの人にも感謝できる気がしているんです。改めて気付かされることも多かったりするので、音楽を聴いてくれた人にも、何かそういう感覚が生まれるといいなと思って作りました。

ゆっこ:ちなみにこの曲は、フィルフリークの曲の中で初めての8分の6拍子なんです。サビもこの曲だけマイナーコードで始まるから、曲調とか雰囲気もこれまでの楽曲とは全然違う。新たな挑戦の1曲でもありましたね。

──「ワンルームヒストリー」は広瀬さんとゆっこさんの共作ですが、これは何かきっかけがあったんですか?

ゆっこ:いつも広瀬が曲を作ると、まずピアノの部分を一緒に考えてそこからアレンジを広げていくんですね。この曲はその延長線みたいな感じで歌詞も一緒に考えていたので、共作という形になりました。でも今回の作品に関しては、ピアノから作ったのはこの曲だけで。

広瀬:そうだね。

ゆっこ:今回はほとんどの曲をギターから作って、その上にピアノが乗っかるという作り方だったんです。「1970」や「朝日を待つ」はまさにギターロックな感じ。作り方が今までと全く違ったから最初は戸惑いもあったし、正直ピアノがなくても成立しちゃってるから、ここにピアノを入れるにはどうしたらいいんだろうってすごく悩みました。でもギターサウンドの中にピアノがポッと入ることで逆に「らしさ」が出せたり、ピアノの音色で一筋の光みたいなイメージを作り出せたりして、それはすごく勉強になりましたね。あとは時々出てくるからこその良さというか、ちょっといい思いさせてもらったなみたいなところもありました(笑)。

──(笑)。

ツカダ:今回ディレクターとして森さん(Brian the SunのVo.&G.森良太)が入ってくれたのも大きかったと思いますね。僕は今タイトルが挙がった「朝日を待つ」という曲のレコーディングの時に、どういう音でどういうフレーズにするかを相談してたんですけど、イントロのベースはかなり挑戦でした。最初はオルタネイトピッキングで弾いてたんですが、「そこ、全部ダウン(ピッキング)でいける?」って森さんに言われて「やります!」と(笑)。結果としてすごく気合いの入った一発が録れたので、音源でもライブでも、そこはぜひしっかり聴いてもらいたいなと思います(笑)。

三上:レコーディングで言うと、「キャンディー」は一番大変だったかも。ギリギリまでみんなで試行錯誤してたし、レコーディングやりながら変わったところもあったんですよ。でも個人的には、この「キャンディー」の歌詞がめっちゃ好きなんです。自分自身、辛い時なんかはこの歌詞に励まされたりしています。

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