【インタビュー】ヒトリエ、「この3人で初めてRECした曲と、一番新しい曲」が映し出した新体制の現在地

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新体制となってから初めてリリースされたアルバム『REAMP』を経て、ヒトリエはますます力強く前へと進み続けている。6月2日にリリースされる最新CDシングルの表題曲「3分29秒」は、TVアニメ『86-エイティシックス-』のオープニングテーマ。彼らが奏でるサウンドの圧倒的なエネルギーを、幅広い層のリスナーが体感しているに違いない。そして、『86-エイティシックス-』の世界観が反映されていると同時に、ヒトリエの現在の姿が刻まれているように感じられるのも、この曲のとても気になる点だ。「3分29秒」込められている想いとは何なのだろうか?

◆ヒトリエ 画像 / 動画

圧倒的なスリルと躍動感に溢れたバンドアンサンブルは、最少編成の3ピースならではのものだ。もともとプレイヤー個々の技量の高さに定評のあるヒトリエだが、それが一層威力を増した印象。収録された各曲の“instrumental”を聴けば、その凄まじさを味わうことができるだろう。ちなみにイガラシ(B)は自身のSNS上で今回はピック弾きであることを名言しているが、レガートを多用したフレーズが目白押しという意味では、いわゆるピック弾きから連想するシンプルでストレートなフレーズ構築とは一線を画す仕上がり。だからこそルート弾き部分が効果的に浮かび上がると言い換えることもできる。もちろんシノダ(Vo, G)、ゆーまお(Dr)についてもこだわりが随所に散りばめられていて、プレイ&サウンド共、今の3人に死角はない。

カップリングの「Milk Tablet」、ライブ、近況についての話も含めて、シノダ、イガラシ、ゆーまおにじっくりと語ってもらった1万字越えのロングインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■大事な人間を失った僕たちが
■3人で作り出した波形が「3分29秒」

──「3分29秒」を初めて聴いた時は『86-エイティシックス-』の劇中に登場する“エイティシックス”の“ハンドラー”に対する気持ちを描いている曲として解釈したんですけど、繰り返し聴く内に、今のヒトリエの姿が刻まれているということも強く感じるようになったんです。

シノダ:なるほど。最初は『86-エイティシックス-』のオープニングテーマをやらせていただくことが決まったところから制作が始まったんです。3人体制になってから1本ツアーをやったんですけど、“そこからどうしようか?”というタイミングでいただいたお話だったので、3人それぞれで曲を作り始めるいいきっかけにもなったんですよね。

▲シノダ(Vo, G)

──かなり早い段階からこの曲はあったということですね。

シノダ:はい。『REAMP』(2021年2月発表)というアルバムを作ったんですけど、それよりはるか前です。去年頭くらいにはできていたので。この3人で初めてレコーディングした曲がこれです。いざ形にしてみると、“ヒトリエだなあ”みたいな感覚があったというか。ヒトリエがこれまで作ってきた音楽にずっとあるムードと言いますか、そういうものが不思議と損なわれていない、引き継がれているという感じは、すごくしましたね。

イガラシ:録ってみたらそう思ったよね?

ゆーまお:うん。

イガラシ:同じ人たちが出しているサウンドっていうのがあるので、そう感じたのかもしれないです。でも、『86-エイティシックス-』のお話をいただいたことによって“曲を書く”っていうことに対して背中を押してもらった感じもあったので、“何か確信があって始めた”っていうよりも、“これを機にやってみよう”みたいな感覚だったんですよね。

──『REAMP』を聴いた時も感じたんですけど、“これ、やっぱりヒトリエの音だよな”みたいなトーン、ムード、風味みたいなものって、何かありますよね?

シノダ:それは本当に、ありがとうございます!という感じです。作っている側からすると、“どうなんだろうな?”っていうのもあるんですけど。

ゆーまお:なんて言うんでしょうね? 打ち込みのデモの時点だと“別のもの”みたいな感じがしますし、“大丈夫かな?”なんて思っていたんですけど。例えば僕の曲だったら、自分が家でエレキドラムで叩いた状態のデモを出すじゃないですか。そこから2人にベースとギターをアレンジして弾いてもらうと、宅録の状態でも“どんどんヒトリエになっていくんだな”っていう実感を得ることが、僕はできました。“ヒトリエに似合わない曲を俺は書くんだろうな”って思っていたんですけど、作業をするにつれて、だんだんそういう感覚は薄れていきましたね。

イガラシ:ヒトリエがアクの強いサウンドを探求してきたバンドである結果、アクは残っていたっていうことなのかもしれないです。

シノダ:あと、心のどこかで“これ、ヒトリエだったらどうするかな?”っていうのをずっと考えながら作っていた部分がありますからね。

▲イガラシ(B)

──これは僕の主観によるヒトリエの一貫したトーンみたいなことですけど、“心地よい緊張感”みたいなものが、今でもすごくあるんだと思います。

シノダ:ああ、なるほど。

──僕、4人編成だった時のヒトリエのライブを観た時、wowakaさんの左右で、激しくプレイするシノダさんとイガラシさんの姿を“テニスの激しいラリーみたい”って表現したことがありましたけど、あれもそういうことの一例だった気がします。

シノダ:そのくらいの緊張感がないと、例えば「3分29秒」も演奏できないというか(笑)。演奏内容も難しいですからね。

──ヒトリエで簡単そうな曲ってありましたっけ?

ゆーまお:あんまりないです(笑)。

──『REAMP』の「curved edge」も、ドラムが大変そうだなと思いました。

ゆーまお:あれは自分の中に取り込むのに、ちょっと時間がかかりましたね。初めはよくわからなかったから(笑)。手こずりました。

シノダ:そうだろうね(笑)。

──「3分29秒」も、そういうヒトリエならではの色合いがあるし、僕が冒頭で申し上げたように、アニメの世界観とみなさんの実像が両方刻まれている曲として受け止めました。歌詞に関しても、その点は意図しました?

シノダ:すごく意図しました。『86-エイティシックス-』の世界の深刻さにすごくシンクロできる部分があったので、二面性を持った歌詞を書けそうだなと思っていました。これは今の僕たちにしか、今のこの状況でしか書けない曲だなと。だから、わりとすらすら言葉は出てきました。

──歌詞の二面性に気づいてから、僕の気持ち悪い深読み解釈が暴走し始めたんですけど、聞いていただいていいですか?

シノダ:なんでしょう?

──「3分29秒」の数字をピックアップして掛け合わせると3×29=87だから、87=86+1。“つまり、これは『86-エイティシックス-』の歌であり、ヒトリエの歌でもあるという意味ではないだろうか⁉”と。

ゆーまお:はあ、なるほど。すごいですね(笑)。

シノダ:でも、その解釈は違いますね(笑)。

イガラシ:ありがたいですけど……(笑)。

シノダ:“どういう意味なんだろう?”って考えてくださる人はいますけど、こうやって面と向かって言われるとびっくりします(笑)。

──ははは。実際のところ、このタイトルはどういう意味なんですか?

シノダ:意味も何も、単純に3人で初めて作った曲の尺が“3分29秒”だったので、記念にというか。wowakaという大事な人間を失った僕たちが3人で作り出した音の波形の長さは「3分29秒」だったよ……という感じです。そのまんまですね。


──アニメで流れる部分のオープニングテーマは90秒、厳密には頭と終わりに0.5秒の余白を入れて89秒で作らなければいけなかったり、先方から提示されるキーワードとかもあったりしますけど、この曲に関してはいかがでした?

シノダ:歌詞に関しては1ヵ所だけ修正点があったくらいで、特に細かなことはなかった気がします。タイトルに関しても、先方からの要望とかはなかったですね。

ゆーまお:「『86-エイティシックス-』も「3分29秒」も数字なのでOK」っていうお話を僕は聞きました。

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