【ライブレポート】defspiral、4人でのラストライヴ「それぞれの未来がとても輝かしいものになるように」

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2021年5月26日。奇しくもその日の夜は24年に一度の奇跡ともいわれる、スーパームーンの皆既月食が見られた。実際、東京では雲に遮られ見られなかったものの、そんな神秘的な天体ショーが起ころうとしてる頃、MASAKI(Dr)がdefspiralとして最後のステージとなる<defspiral CARNAVAL to 10th Anniversary ONEMAN TOUR 2021“DEAR FREAKS”>のツアーファイナルが、東京・TSUTAYA O-WESTで行われていた。コロナの感染拡大予防対策も踏まえて人数制限はあったが、YouTubeで無料ライヴ配信もされ世界中の人たちが、このライヴを見守った。

◆ライブ画像

会場に足を踏み入れると、シングル「千の花束」リリース時のアーティスト写真を彷彿とさせる深紅のカーテンが吊されたステージが目に飛び込んでくる。ドレープのヒダのひとつひとつが、彼らが刻んできたdefspiralの歴史のようにすら思えてくる。今夜が4人のdefspiralのラストライヴ。そこに集まったFREAKS(=defspiralファンの呼称)の胸の内は、とうとうこの日が来てしまったか……という脱力感と、コロナ禍をすり抜けてツアーファイナルまで辿り着いてよかったという安堵感とがない交ぜになっている、といったところだろうか。


そんなFREAKSが固唾を呑んで見守る中、オーケストラアレンジの荘厳な「千の花束」のSEと共に4人は静かに定位置へ。このツアーで見慣れたドレッシーなスーツスタイルの衣装の胸元には、深紅の大ぶりな花のコサージュが付けられている。そのあらたまった出で立ちが、今夜のステージはdefspiralの儀式であることを示しているかのよう。見ている我々の背筋も伸びる。

荘厳な雰囲気が漂う中、SEからスムーズな流れで「PROGRESS」が静かに始まる。淡々と刻まれる8ビートのリズムにのって、語りかけるように唄うTAKA(Vo)。初っ端の歌詞に“もう二度とあの日に戻れないと知っても 歩きだそう”という歌詞が力強い唄、サビのMASATO(G)とRYO(B)のコーラスが、前へ向いて進むことを後押ししているかのよう。きっと、複雑な心境のFREAKSも、この曲で、今この瞬間を存分に楽しもう、という気持ちに振り切れたことだろう。

「ようこそ! 10th Anniversary Live、 楽しんでいこうぜ! いくぜ! FREAKS!」

客席にTAKAが檄を飛ばし、疾走感溢れる「SILVER ARROW」で一気にアクセルを踏み込めば、FREAKSの拳が天に向かって突き上げられ、脳内で歓声が再生される。

「会いたかったぜFREAKS! ビショビショになって行こうぜ!」という掛け声から始まったのは、セクシーなナンバー「PULSE」。“破裂しそう、お前に”の歌詞で悩ましげに腰をくねらすTAKA。その視覚効果も相まって、MASATOのチョーキングギターが、まるで女性の喘ぎ声に聞こえてくるから不思議だ。ビートに突き動かされ、どんどんFREAKSの脈拍も上がっていく。その一方で、正確なリズムを刻むMASAKIのドラムと、同じフレーズを淡々と繰り返すRYOのベース。2人の呼吸はピッタリ。


続いて、4人が再び一緒にdefspiralを始めるきっかけになった曲、「DIVE INTO THE MIRROR」へと繋ぐ。11年前、この曲と共に4人が一緒にバンドを始めると知った時の驚きと感動が、前身バンドから応援してるFREAKSの心中に蘇ったのではないだろうか。

「ようこそ! こんな状況下ですが、ツアーファイナルを無事に迎えられて本当に最高の気分です。今夜も奇跡の瞬間を楽しんでいきましょう、感じ合っていきましょう、愛し合っていきましょう。カメラの向こうのみんなも、同じ時を最高の時間を、共に分かち合っていきましょう!」

ショートMCを挟み、ダンサブルナンバー「MASQUERADE」の演奏へ。美しいメロディー、情感溢れる唄、緻密に構築されたアレンジ、プログレッシヴロックを彷彿させるギターソロ。どこをとっても非の打ち所のない人気ナンバーに酔いしれる。

「おい、東京、一緒に心の中で叫んでくれ!」とRYOが客席を煽ってから、シャッフルの「THANATOS」。いつもなら、イントロで“Hey! Hey!”とお客さんも一緒に声を上げるのだが、コロナ禍ではグッと我慢。唄の途中でTAKAは上着をはだけて肩を出したり、かと思えば羽織ってみたりと、まるでオーディエンスをじらしプレイで弄んでいるよう。時にダミ声で悪魔な一面を見せたり、マイクスタンドを斜めに倒したりと、本能、感情を剥き出しの激しいパフォーマンスに観客も翻弄されっぱなし。


ところが次の「STARDUST」では、切なさいっぱいの唄とメロディーが感情を揺さぶる。曲の世界観のまま宇宙に浮遊してるようなSEを挟み、MASATOのアコギをフィーチャーしリアレンジされた「MOBIUS」「HYSTERIA」へ。MASAKIはドラムセットに組み込んだボンゴを手の平で打ち、RYOは白玉のベースで曲を支える。音数少ないシンプルなアレンジに変貌を遂げたことで、より際立つのがTAKAの伸びやかな唄声と歌詞。音源とはまるで別の曲かというくらい大胆に音の引き算ができるのは、メロディーそのものが良質だからに他ならない。また、しばしばツアーごとにアレンジを変えて曲の新たな側面を魅せてくれるのは、defspiralの音楽の探究心が成せる技だろう。

「ファイナルへようこそ! 配信でご覧の皆様も、ありがとうございます。みんな付いて来ているか? このような状況下、勝手が違う状況でツアーを駆け抜けてまいりました。みんなも制限のある中でのライヴで、戸惑う場面も多かったかと思いますが、そんなこと関係ないくらいに楽しいライヴを繰り広げてココまで来ました。まずは、その喜びを分かち合いたいと思います。これまで何十、何千、何万回とステージに立って、みんなのたくさんの声をステージで浴びて、耳で聞いて、心で感じてきているから、みんなの拳と、その表情と、高まった想いがそこにあれば(頭の中に)聞こえてくるから。脳内再生余裕なんで。最高の夜にしようじゃないか! 今夜はいつもより少し高いところに座っています、MASAKI!」

その呼びかけでMASAKIにスポットライトが当たり、MASAKIが生み出すドラムがふた回し、そこへMASATOのギターが乗り、RYOのベースが加わって「Arcoromancer」へ。トリッキーな変拍子や転調がところどころに散りばめられた中で盛り込まれつつも、スムーズに聴かせるのが彼らの技でもある。MASATO、RYO、MASATOとソロが繋げられる中間部では、いつものようにギターを弾くMASATOにTAKAがちょっかいを出したりと見せ場も満載だ。


印象的なイントロから「DREAM OF YOU」「PHANTOM」「ESTRELLA」とドラマティックな3曲が繋げられる。1曲の中にドラマのある曲を3つ並べることで見えてくる新たなストーリー。繋げられることで、それぞれの曲がまた違った意味を持つようになったり、解釈が深まる。そんな魅せ方もdefspiralが得意とするところだ。音圧とか物理的なことではない音の深みや厚み、円熟した演奏、真綿で優しく包まれるような包容力のある唄。それがあるからこそ、我々は安心してを全身を委ねられるし、音楽に陶酔できる。

「去年、本当は10周年のライヴを開催する予定でした。本当は今日、5月26日は11周年の日になるんですけど、去年、10周年全国ツアーを開催することができなかったので、その想いを1年間持ち越しまして、今日は10周年ライヴになりました。そんな会えなかった時間も含めてツアーを回れたことを本当に嬉しく思ってます。でね、ステージが赤いのは俺たち、たぶん初めてなんだよね。視覚効果ってあるじゃないですか。足元が赤いとスッゲー血が沸いてくる。もう、どうにかなっちゃうんじゃないか?っていう。ということで、血が沸きまくってるので後半戦もっともっとぶっ飛ばしていきたいと思います。声を出せなくても、この静寂を、みんなでぶち破って行こうじゃないか!」

そうTAKAが煽って、後半戦は「BREAK THE SILENCE」からスタート。「VOYAGE」「AURORA」と力漲る雄々しい曲が立て続けに演奏され、客席の温度もヒートアップ。そして“出会えた喜びに”と歌詞を引用した一言を挟んで「IRIS」へ。ディスコビート、オクターブ奏法のベースが体を揺らす。“踊ろう”の歌詞に続けてFREAKSが“Hey!”と声を上げたいところをグッと我慢しつつ、その場で小さくジャンプ、ステージと客席が一体となり、またとない素晴らしきこの瞬間、喜びを分かち合う。ライヴは最高潮──そう思った時、無情にも鐘の音が悲しく鳴り響く。


「すべての出会いという奇跡に感謝を込めて、俺たちからこの曲を送ります。最後の曲です、「千の花束」」

静かにそう言って始まった「千の花束」。defspiralでは珍しい明るいトーンのサウンドとマーチのリズムだが、相反して込み上げてくるのは悲しさと寂しさ……。2020年4月にリリースされた現体勢でのラストナンバー「千の花束」は、これまでのバンド活動を総括するような内容の歌詞だけに、これまで応援してきたすべての人の脳裏には、彼らと共有したいろいろな場面が走馬灯のように駆け巡ったことだろう。

“大さびのコーラスはみんなで唄いたい”──そんな彼らの想いはコロナ禍で叶わなかったものの、FREAKSが心の中で高らかに唄っていたその声はメンバーに届いたに違いない。ライヴの本編においては誰も涙することなく、いつもどおりのライヴを魅せることに徹していた彼ら。そうさせたのはテンターテイナーとしてに意識の高さに他ならない。


4人がステージを去った後、アンコールを求める拍手は、いつもよりも大きく、少しも途切れることなく続く。しばらくして、ツアーTシャツに着替えたメンバーが登場。

「アンコールありがとうございます。今回、アンコールの声が聞こえないツアーをやってきましたが、みんなの想いはしっかり届いてます。それも新鮮で不思議な感覚でした。いろんなことがたくさんあって、その数だけ想い出に残るツアーになりました。こんな感じで、4人でステージに横一列に並ぶのも不思議な景色だと思うんですけど」(TAKA)

「ちょっとコロナは憎いですけど、この1年いろんなことができたかったことはよかったよね」(MASATO)

「なんとかファイナルまでできました。皆さんのおかげで実現することができました」(RYO)

「コロナでね、ツアーで密になるのはダメですよ、という中で、僕らは1年間、4人が密になれたのはよかったかな、と」(MASAKI)

「考えて、それ(笑)?」(RYO)

こんなボケとツッコミも、いつものdefspiralの4人らしさだ。


「ホントコロナは憎いですけど、その1年間を俺たちは無駄にはしなかったので。その間、配信で繋がって来れたと思います」とTAKAが言うように、今回のツアーを全か所で同時配信できたのも、2020年に様々な企画を盛り込んだ配信ライヴを自力でやってきたからこそ。限りある4人の時間を大切にし、メンバー愛を育むだけでなく、それぞれの想いを昇華することが有意義な時間だったと聞く。だからこそ、今夜、このステージに晴れ晴れとした表情で立てていたのだろうし、感情だけが先走ったりせず、音楽をしっかり届けることができたんだろうとも思う。

1人1人にマイクを向けられたMCの後は「HALO」「Reason」をアコースティックヴァージョンで披露。「HALO」の優しい唄と温かい音が会場をふんわりと突く込み、「REASON」を通して、これからもそれぞれが音楽の旅を続けるんだ、という意志を伝えられたように感じた。

一旦、ステージが暗転した間も演奏の余韻に浸り拍手が止むことはなく、再び定位置に付いたメンバーに照明が当たり、力強い「METEOR」の演奏へ。蒼天を突き抜きそうなくらい伸びやかで力強いTAKAのロントーン、“傷ついて倒れても何度でも行こう 選んだ未来へ 君が描いた世界へ”という歌詞が、今の彼らの心情を描いているかのようで涙腺は崩壊寸前になったものの、別角度から今この瞬間を綴ったかのような「GALAXY」の穏やかな唄に慰められたり。音楽が人の心にどれだけ作用するか思い知らされた。

「それぞれの未来があります、俺たちにも、みんなにも。それぞれの未来がとても輝かしいものになるようにと心から願っております」感極まりながら、それでも冷静を装い、クールにそう言ったTAKA。


キラキラとまばゆいくらいの明るいサウンドに、切なさのエッセンスが加わった「BRILLIANT」、スリリングな「RESISTANCE」では中間部でRYO、MASATO、MASAKIと繋げられるソロで、MASAKIのドラミングがいつもより長めにフィーチャーされ、渾身の力を振り絞ったプレーを魅せる。そして、ライヴではテッパンの「LOTUS」を披露。ハンドクラップで一体感を大いに楽しんだ。

「今回の10周年ツアーは嬉しい想いとか、寂しい想いとか、不安とか、いろんな想いが交差する、なんとも切ないツアーでもありました。それでもこうやってここに集まれたことは奇跡だと思ってます。こんな状況下で、こんな楽しいことやってて俺らは本当に幸せ者だと思うよ。いいライヴできたよな? みんなも知ってのとおり、今夜のこのステージが終わったらMASAKIとは別々の道を歩んでいくことになりますけれども、俺たちはやりきったと思ってます。清々しい気持ちで、最高の気分でMASAKIを送り出せると思ってます。みんなにもそう思ってもらえたら嬉しいです。今夜、渋谷から世界中のみんなにこの曲を送りたいと思います。This is a last song,「CARNAVAL」! 」

黄金のテープが会場へと解き放たれる。辛気くさくならず、華やかに、MASAKIを送り出す……それがdefspiralの美学なのだろう。エンディングで、メンバーコールを求めるTAKA、曲のエンディングはいつもより長めのドラムロールで締められた。


今夜、用意されていたすべての楽曲の演奏を終えた後、“ツアーファイナルなんでね、少ししゃべってもらおうかな”とTAKAがメンバー1人1人にマイクを向ける。

「MASAKIがいなくなるのはさみしいけど、お疲れ様でした!」(MASATO)

「ツアーファイナル、11年間でいちばん素敵な夜になりました。ま、あの……別の道を明日から行きますけど、どうぞ、みなさん、これまで以上に、TAKAとMASATOとRYOを支えて上げてください。本当に長い間、たくさんの愛をいただきましてありがとうございました。またいつか会える日まで。ありがとう」(MASAKI)

「ホントに、君とバンドができてよかったです。出逢ってくれてありがとうございました(号泣)」(RYO)

これまで押し殺していたRYOの感情が一気に吹き出す。それも無理はない、RYOとMASAKIは地元の高校生時代から、バンドが変わっても20数年、ずっと一緒に音を出してきた、いわば相棒。また、このリズム隊があってTRANSTIC NERVE、the UNDERNEATH、defspiralのサウンドがあったといっても過言ではない。重ねてきた時間、想い出の数は計り知れない。けれど、湿っぽくなりすぎず、いつものライヴを心がけステージに立ち最後まで素晴らしいライヴを魅せてくれたことに敬意を表したい。


いいメンバーと巡り会いバンドを組むことも、同じメンバーでバンド活動を長年続けることも、数々のチャンスに恵まれることも、奇跡なのかもしれない。冒頭に記した24年に一度の天体ショーよりも稀なことだと筆者は感じている。それだけに4人のdefspiralがなくなるのは惜しまれる気持ちも拭いきれない。けれど、TAKAがしばしば歌詞に“願いや想いは永遠である”と書き記しているように、今日のライヴを、11年間、defspiralの4人が駆け抜けた日々を、未来永劫忘れることはないだろう。

文◎増渕 公子[333music]】

◆defspiral オフィシャルサイト
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