【インタビュー】和楽器バンドにしかできない音楽と表現

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和楽器バンドは箏、尺八、津軽三味線、和太鼓の和楽器を含む、今の音楽シーンでは珍しい編成のバンドだ。しかし和楽器バンドは、自らのことを特別なバンドだとは思っていない。自己表現のツールとしての楽器がたまたま和楽器であり、洋楽器であり、歌であった。そんな8人が集まっただけのバンドだという。

◆撮り下ろし画像(10枚)

とはいっても、彼らのことをまだあまり知らない人は、「和楽器バンド=ちょっと変わった和風のバンド」としか見ていないかもしれない。そう思っている人は、今回6月9日にリリースされた「Starlight」E.P.を聴いてみてほしい。きっと和楽器バンドに対するイメージが変わるはずだ。また、これはもともと和楽器バンドを知っている人にとっても、新境地だと感じられる楽曲でもある。

今回BARKSでは、和楽器バンドのボーカル鈴華ゆう子(Vo)、作詞・作曲、ディレクションを行なった町屋(Gt,Vo)にこの楽曲に寄せてインタビューを実施。2人の言葉から、今一度「和楽器バンドとはどういうバンドなのか」を見直してみて欲しい。

   ◆   ◆   ◆

■和楽器バンドにいる意義、8人でこのバンドサウンドを作っている意義

──数年前から取材させていただいていますが、「Starlight」は過去一番その曲調に驚きました。最初の印象は正直、“和楽器バンドっぽくない”でした。

鈴華ゆう子:あはは(笑)。予想通りの反応ありがとうございます。

町屋:試行錯誤の結果こういう曲が生まれたんですが、聞いてわかるとおり、デジタルよりの新しいサウンドを全面に打ち出してますね。

──フジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』の主題歌というビッグタイアップであることを含め、和楽器バンドにとって新境地の一曲だと思います。まずは、どのような経緯でできた曲なのか教えてください。

町屋:ドラマの制作チームと何度も話し合いを重ねながら、10ヶ月かけて作りました。仕上がったのは放送のひと月前かな。タイアップものは作品ありきだと思っているので、作品をより盛り上げられるような、華を添えられる曲を作ろうという思いで書き下ろしました。



──10ヶ月!

町屋:ドラマの制作チームと我々が、同じベクトルを向いて一つの作品を作っていく。その擦り合わせにかかった時間ですね。お互いのイメージに近づくよう、僕だけで50曲書きましたし、他のメンバーが書いた曲も合わせると、今回だけで60曲は作ったかな。

──ドラマ側からはそもそもどんなオーダーが?

町屋:もうほんとに、たくさん。例えばリズムは“タントン タカ トン”なのか“タントン タカ タン”なのか……こういうのを何度も何度も話しては作り直し、ブラッシュアップして、という作業を繰り返して色々ミックスしてこういう曲に仕上がりました。

鈴華:仮歌だけでも10曲くらいあったし、それ以外にも色々試して作って。劇中で流れたときに台詞と被らないように英語にしたバージョンもあったし、和楽器バンドっぽい曲もあったし、本当にいろんなことを試しました。

──大変だったんですね。

町屋:それだけ関わっている全員がチームになって、一つのより良い作品を作っていこうという姿勢がそこにはあるので。全然無駄なことではなく、すごく創造的な時間でしたね。

鈴華:そうして仕上がった楽曲は確かに一般の方が思う和楽器バンドらしさとはかけ離れているから、若干不安はあったんですよ。でも、これまでも私たちはアルバムの表題曲には和楽器バンドらしいものを持ってきていたけど、例えば8曲目とかには全く違うジャンルの曲も入れていて。今回はその8曲目を表題曲に持ってきただけっていう感覚なんですよ。なので今回の曲が特別なことをやっているという感覚はあまりなくて。


──それでも「和楽器バンドっぽくない」と思った理由のひとつが、和楽器の音色が前面に出ていないという点でした。

町屋:逆にこれまでの曲の和楽器に、魔法をかけていたってことなんですよ。ポップスはピッチを440Hzにあわせることが多いんですが、これまでの曲は和楽器だけピッチを442Hzにあげて音色を目立たせていたんです。今回は和楽器も440Hzにあわせて、全員統一した。普通に全員がチューニングを統一したら、和楽器バンドの楽曲は本来こういう感じのサウンドなんです。

──なるほど。和楽器がいつもより少なめなのかなと思いつつインストバージョンを聴いたら、実はすごく和楽器パートがあることに気付いて。それが非常に面白かったです。

町屋:そうなんです。和楽器バンドのインストバージョンって、聴くの楽しいと思いますよ。7つの楽器がそれぞれ結構違うことやってるんで、聴き応えがあると思います。右チャンネルに注目するか左チャンネルに注目するかだけでも、全然聞こえ方が違うと思いますし。

──そして、「和楽器がこんなフレーズを弾いていたんだ」という新たな発見もあって。アレンジは和楽器隊に任せているんですか?

町屋:ざっくり、ここはアルペジオ、ここはコード白玉、とかは決めるんですけど、あとはそれぞれの自由に任せてます。三味線を好きに弾いてもらって僕がいらないところを切る、次に箏を録るときには三味線のフレーズを考えた上で弾いてもらう、という風に。で、最後に尺八が全部おいしいところを持っていきがちなんですけど、「すいません、そこお休みで大丈夫です」っていう風にお願いしたりして(笑)。

──この曲に関していうと、和太鼓が一番難しそうな気がしました。

町屋:一番難しかったです。黒流さんもどうしようかなって言っていました。「Aメロ〜サビに行くまで何もせず構えておくだけにしようかな」とか思ってたみたいです。和太鼓をチューニングするには締めなきゃいけないんですごく大変で。山ほど太鼓並べて、その中から「この辺、重心低くなりすぎるから高めの太鼓でパーカッション的な役割をやってもらおう」という風に太鼓自体を変えていったりするんですね。結果、黒流さんが作ってきてくれたフレーズと真逆のものができたり。難しいけど、面白いです。ちなみにドラムも音を加工しているのではなく、スネアの素材とかで、デジタルっぽく聞こえる音を作っています。

──もう、その音作りの方法が面白いです。

鈴華:奏者本人の自由度を生かしていることにより、楽器自体の良さとか面白さが消えずに残っていると思うんですよね。

町屋:そう。僕は一応全部の楽器を買って力学くらいまでは学んだけど、プロフェッショナルではないので。僕がガチガチにフレーズ作ってしまうと、美味しくなくなっちゃう可能性の方が高いんですよ。

鈴華:綺麗にハーモニーが成り立ちすぎて、ね。

町屋:そうそう。きっと僕が作るとそうなるんですよ。だから各々自由にやってもらって、整合性が取れない部分が出てきたら、その時に最後にギターを入れてうまくまとめるんですよね。これで最初にギター入れちゃうと、多分収拾つかなくなっちゃう。……まぁだから自分が好きなギターは全く弾けないんだけど(笑)。


──では、こういう和楽器バンドっぽくない曲調でも、和楽器隊は特に心配しないということですか。

鈴華:そうですね、デモができた時も「今回こんな感じか」くらいの反応だったかな。みんなそういった意味では柔軟ですね。どんな曲がきても「えっ」って言ったこともなくて、「この曲で自分の役割はなんだろう」という答えを出してきてくれます。

──そこが和楽器バンドらしさだと思います。和楽器の捉え方が、和楽器バンドにしかできないことですよね。

鈴華:今回の曲でも、和楽器があえて洋楽器っぽいフレーズを演奏しているのも、単純に表現力のひとつだと思うんですよね。私が曲によって歌い方を変えるように。

町屋:バンドが和楽器を使うときって、ここぞの美味しいタイミングでしか使わないことが多いですよね。三味線で「ベベン!」とか、箏で「シャラララ〜」とか。でも我々は常にそこに和楽器があるから、和楽器然とした扱い方だけに止まらない。

鈴華:とある和楽器奏者から聞いたんですけど、「それだったら和楽器は打ち込みでいいじゃん」って思う瞬間があるんですって。究極、音の素材をまっちー(町屋)にあげてそれで曲を作ることもできる。でも、この楽器を持って自分が和楽器バンドにいる意義、8人でこのバンドサウンドを作っている意義を、それぞれみんなが楽曲の中で見つけているのが私たちの強みです。

町屋:そもそもポップスって様々な音楽のジャンルが入り乱れているので、メンバー8人の考え方が柔軟だということは、すごくポップス的だと思うんですよ。だからね、我々がポップスシーンで活動するというのはすごく無理のないことというか、いいこと、やりやすいことだと思いますよ。

鈴華:歌い方も、和楽器を録るときと同じで指定されることはあんまりなくて。楽曲をもらって、「私ならこう表現するな」という答えをいくつか出して、そこから相談して決めていきます。

──この曲は、どう歌おうと思いました?

鈴華:これまでは和楽器バンドのインパクトを持たせるためにあえて節調(※詩吟の節回し)を入れて歌うことが多かったんですが、もう和楽器バンドも8年目ですし、シンプルに「いい楽曲を一番いい方法で表現する」ことだけを考えました。私が音楽家として解釈するなら、今回の曲に節調なんて全くいらないし。いきなり和楽器バンドっぽく「そ〜ば〜〜に〜〜(と、節調でAメロを歌ってくれる)」なんて歌ったら、ドラマ側も「何してくれてんだ!」ってなりますよね(笑)。

町屋:爆笑。それちょっと面白い! そのバージョンもやりたいわ、和を全面に押し出した「Starlight」(笑)。

──いますごくレアなものを聴かせてもらっちゃいました(笑)。この曲ではゆう子さんがキーボードを弾いているのも新鮮かつかっこよくて。

鈴華:これはもろにギターフレーズですよ。まっちーの早弾きって、キーボードで弾くようなことをギターでやるから超絶技巧なんですけど、今回はその逆でギターで弾きやすいものをピアノに落とし込んで超絶技巧にした感じです。いい指練習になったし、ミュージックビデオ撮影の前の晩も、すっごい練習しました(笑)。


──この楽曲が初めてドラマ主題歌としてオンエアされたとき、クレジットが「和楽器バンド」ではなく「WGB」として正体を明かしていませんでした。

町屋:和楽器バンドって名前のインパクトが強いので、食わず嫌いな人が絶対にいるんですよ。ビジュアルもそうかな。いい作品ができた時こそ純粋に楽曲を聴いて欲しいから、名前もビジュアルもどっちも伏せちゃて、先入観持たずに楽曲聴いてもらった方が良いと思ったんです。これね、僕らのためじゃなくて聴く人のためだと思うんですよ。僕は先入観持って音楽を聴くと損しちゃうって思っていて、それを減らすための施策としては面白かったかなと思います。

鈴華:WGBという表記にはしましたが、この表記も昔からグッズなどで使っていたりして、元々のファンの方には「WGB=和楽器バンド」ということは伝わっていたかと思います。これってある意味、ファンへのメッセージでもあるんです。新しい打ち出し方でいろんな人に聴いて欲しかったけど、元々のファンの方も置いてけぼりにしないように「一緒にこういうことしたいんだよ」と伝えたかったというか。

──「和楽器バンド」というバンド名についてはどう考えていますか。

町屋:クセがすごい(笑)。デビューの時にバンド名どうする?って会議もありましたからね。でも和楽器バンド(仮)みたいな感じで活動していたのが定着しちゃってたし、そのままいこうってなったんですよね。かつ、海外で演奏したときに、和楽器というワードを、例えばSushiだったりFujiyamaだったりのように、Japanese Traditional Instrumentals=Wagakkiと定着させたいという思いもあって。そして最初のうちは我々のキャラクタリスティクを定着させるために、意図してそれぞれの個性や、和楽器や詩吟を聴かせることを全面に打ち出してきた。でももうそういう時期を抜けて、純粋にいい作品を作っていきましょうってなった今は、バンド名が強すぎると感じることもある。和楽器バンドはいろんなジャンルの楽曲をやるのに、固定概念や先入観を持たれてしまうんですよね。

──これから、「和楽器バンド」「WGB」の二つの名前を使い分けていくというわけではない?

町屋:そういうことではないですね。デジタル感の強い音楽をやるときはWGB、とかそういう使い分けをするというわけではなく、あくまでこういう側面もありますよ、今回は打ち出し方として試しにこういうのやってみたけどどうでしょうか、っていうところです。

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