【インタビュー】藤田恵美、前例のないコンサートの戸惑い・ハプニング・喜び・発見、そして感動

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7月11日~7月24日(土)18:00、この期間に、かつて見たことも聞いたこともないような高品質音楽コンテンツが配信となる。<藤田恵美 Acoustic Concert 2021>という、2021年2月18日・19日に横浜市サンハートホールで開催されたコンサートの模様だ。

このコンサートは、あらゆる点で初と言える先鋭的な取り組みとなっていた。スタジオレコーディング・クオリティでライブを捉え、その品質のままオーディエンスに届けるという、ありそうでなかった…できそうでできなかった音楽表現だったのだ。

この世界は「お客さんが楽しむことを一意に置いたライブ」でもなく、「ミュージシャンが自らに問いかけるだけの内なるストイックさに徹する」ものでもない。音楽という瞬間芸術を最高品質でパッケージするという「至極まっとうな取り組み」を行うだけのものだ。しかしながら、それを実現するために準備された環境は、レコーディングでもライブでもない、これまでに誰も経験したことのないような極めて異例な異空間を生み出すこととなった。

結果、ライブが持つパッションをスタジオ・クオリティーで録音するというチャレンジは、スポーツが持つ一発勝負のエンターテイメント…まるでアスリートのような瞬間美学を追求する究極の音楽エンターテイメント作品の誕生を意味することとなったようだ。



──2021年2月に開催された<藤田恵美 Acoustic Concert 2021>が、7月11日(日)よりそのままのクオリティで配信されるとのことですが、アーカイブ配信も当初から視野にあったのですか?

阿部哲也(プロデューサー/エンジニア):一応映像も撮っていましたけど、このような配信ができるとは想定していなかったです。

──レコーディングのような品質を一発勝負のライブでパッケージ化するというのは、アート/エンターテイメントというよりも、むしろスポーツのようですね。オリンピックで結果を出すアスリートのような取り組みに思えましたが、どんな作品になったと思いますか?


藤田恵美:…よく、勘違いされるんです。良いヘッドホンを用意して聴くもの(イベント)って。これからCD(2021年7月14日発売)も発売されるんですけれど、私たちは「ヘッドホンを通して聴くとこんなに良いんですよ」ってことを推奨するためのコンサートをしたわけではないんです。きちんとしたレコーディングをするため、PAから音を出せなかったので、必然的にコンサート会場のお客さんもヘッドホンで聴くしかなかったんです。それゆえに、ダイレクトに良い音が耳に入ってきたっていう副産物みたいなところがあります。

──結果的には「サウンドクオリティが非常に高い、ライブ作品」なのですか?


藤田恵美:そこも…すごく曖昧というか、ライブ版と思う方もすごく多いと思うんです。ライブはライブだったわけですから。でも普通の感覚でとらえるライブとかコンサートとも違うんです。普通のライブでしたら、照明が凄かったり演出があったり、クレーンでなめるような映像だったり、そういうのを想像しちゃうと思うんですけれど、<藤田恵美 Acoustic Concert 2021>はあくまで「音」「演奏」が中心にあったんですね。いわゆるクレーンがあったり演出が華美だったりすると、ノイズなど音にも影響するので演出も何もないんです。

──エンターテイメント・ショーとは一線を画しているんですね。

藤田恵美:そうです。そういう意味でのエンターテイメントとしてとらえるとズレると思うんです。今回は、ただ「ステージがそのままレコーディングスタジオに」「レコーディングスタジオがそのままステージになった」っていう映像なわけです。普段だと、各楽器を隔てるようにそれぞれ部屋に入って、お互いの音を遮断したところで演るのがレコーディングスタジオなんですけど、今回はみんなが同じステージにいてパーテーションもない状態。そこでみんなヘッドホンをして、私も真ん中にレコーディング用のマイクがあって、そこに立ったままそこから動けないわけですよね。鎖に繋がれた犬みたいな感じですよ(笑)。ステージの真ん中にずっといる映像ですから、映像としてだけ捉えたら、コンサート版とかライブ版というおもしろさはないと思うんですよね。

──むしろレコーディングの記録ですね。


藤田恵美:ただ、映像をみると、ピアノやベースやギターがどのへんにいるのか、ステージにいる人たちの位置が目で分かる。それで後からCDを聴いていただくと、今度は耳で(定位が)見えるというか、そういうおもしろさとか楽しさのあるエンターテイメントというのはあるんじゃないかなと思います。

──なるほど、今までありそうでなかったものですね。

藤田恵美:そうなんです。これは阿部さんが発起人というか最初に発案した人なので、どこまで想定していたのかわかりませんが、私たちミュージシャンはよくわからないまま本番に挑んでやってみているなかで、「あ、こういうことだったんだ」とか「こんな感じなんだな」というのを、その場で発見しながら気付いていくという、そういうライブ感があるものだったんです。

──そもそも、MCもやるかやらないか悩んだそうですね。


藤田恵美:そうなんです。普通のレコーディングだったら、1曲を何テイクか歌ってその中の良いものを選ぶという感じですけれど、コンサートはリハを入れたら30曲にもなるので喉を守っていられない。これはレコーディングではありえない状況なわけです。なのでなるべく声を枯れさせない、疲れさせないということに気を配って、声を痛めるMCはしないつもりだったんです。けど、本番10分前くらいにスタッフが「会場のお客さんが緊張してますよ、なにかしゃべった方が良いですよ」って。私は喉を守るためにしゃべらないで淡々とやるつもりだったんですけど、ステージに上ったら「皆さんこんにちは~」から始まって「今日の趣旨、分かってますか?みなさん」みたいな。バラエティ番組の前説みたいな「拍手の仕方を指南する」ようなことをやるところから始まっちゃった。これはもう、自分の想像していたものとは出発点から違うってことがわかり始めたんですね。ステージ上で気付くことがいっぱいあって、なるほどこういうことか、みたいな。

──ほう。

藤田恵美:そこにお客さんがいるかぎり、聴いてくださる方へも気持ちを向けていかなきゃいけないんだなっていうのも当日初めて気付いた。だから、実際は自分のイメージを超えていたんですね。何かのカテゴリにはめて、このコンサートをとらえないで観て聴いて欲しいなと思うし、そういう感じで私たちも演ってましたよって伝わったら面白いなと思います。すべてにおいてすごく実験的でした。良い悪いというジャッジよりも、「よくここまでおもしろいことやったね」みたいな、そういう感じでとらえてもらえるといいかなと思います。

──今回の取り組みは、今後の自身のレコーディングやライブにどんな影響を与えると思いますか?


藤田恵美:そもそも阿部さんがこれをやりたいと思ったのは、スタジオレコーディングの時の歌よりも、また違った良さがライブにある、それを何とか良い音でとらえたいというのが出発点だったんです。良い意味の雑味みたいなものから出てくるグルーヴ感やエモーショナルなものがライブの中にはあって、それがきっとスタジオレコーディングの中には無いものだったりするんです。普段のライブ録音のような音ではなくて、スタジオレコーディングのようなクオリティの音でそれを捉えたいってところが出発点。

──わかります。

藤田恵美:ライブって一瞬で消えてしまうもので、それを記録に残すとなると構えたりするし、感覚としてはどう捉えていいかわからなかったんですけど、できあがったものを聴くと、やっぱり普段のスタジオレコーディングでお行儀よく歌っているのとは違う、すごくエモーショナルなところが出ていて、なるほどやっぱりそういう部分も大事なんだな、そういうことができるんだな、っていうのがわかりました。ライブ中は必死ですからよくわからなかったんですけど、時間が経つにしたがって、こういう分野もありえるんだと思いました。その発見がすごく大きいかな。私のなかでの心得…自分への影響でしたね。

──経験することで初めてわかることがたくさんあったわけですね。

藤田恵美:この歳になると、大体のことはある程度想像がついたり、新しいことに出会うこともないんですけど、今回は本当に新しいことに出会ったなと思います。少ないお客さまでしたけど、「これは、初めて」「わけわからないものだけど、今まで食べたことのないものだぞ」みたいな、うまくは説明できないけど、お客さんも興奮してる…そう思います。

──阿部さんにとって、このチャレンジは成功ですね。

阿部哲也:そうですね。失敗できないアスリートと同じで「絶対に金(メダル)を獲る」というところからのスタートだったので、結構しんどかったですけどね。



──またやりますか(笑)?

阿部哲也:もちろんやりたいです。あまりに大変だったので、もうやらなくていいかな…と思ったところもあるんですけどね(笑)。紀元前からある音楽の歴史の中で、録音の歴史は100年ちょっとぐらいの話なんですよね。けれど欠けてきてしまったことも多い。やっぱり一発撮りじゃないとダメ。せーのでやる偶然とかエモーショナルなものを録りたいと提案したんですけれど、それもなかなか難しくて、アーティストには「レコーディングとライブではモードが違う、どっちなんだ?」と言われました。ジャズの人たちは「いいな、やってみたい」と答はすぐ出てくるんだけれど、いざやるかというとなかなか難しいところもあって、曲にもよりますけど、ドラムとかパーカッションの大きな音だと会場で音が回ってしまってレコーディングは難しい。今回もできる限り生音でアンサンブルが録れる人という制約と編成で臨んだんです。その制約の中で、作品になったときに金メダルを獲らないといけない。

──アーティストの真髄が問われますね。

藤田恵美:ある意味、本当に感謝するような出来事ですね。

阿部哲也:最初は色々あったんだけど、終わった後「ものすごく楽しかった」と言われたとき、すごく迷いながらも本当にやってよかったなって思いました。恵美さんから「感謝する」なんて言われると、熱くなってしまいます。






──「いい音」に関して、聴きたい音だけを聴いてしまうパーティーカクテル効果の影響はどう考えますか?例えばベーシストはベースの音ばかりを聴いてしまうことがよくありますが、それはミックスした人のバランスを、聴く人の脳がぶっ壊していることになるわけですよね。

阿部哲也:それは真逆で、ミックスって割と誘導してるんですよね。「これをよくするために、これ(別のもの)を混ぜて、これを綺麗に見えるようにする」という。で、これを見たいがために色んな配置をしていって、最終的な形として、皆の聴こえ方は同じなんじゃないかなと思います。ですので、最終的な形になればなるほど「ここがよくない」ってみんな同じことを言い始めるんですよ。誘導して、音が綺麗になればなるほど、良くないところが露呈されてくる。作品が仕上がっていくにつれ、同じ注文がみんなから出てきて、それを直すとOKになるんですね。

──その意見は、ミュージシャンズ・ミュージシャンだけじゃなくて?

阿部哲也:そうです。それを言葉にできるかできないかは別にしても、感じている「良くない」っていうのは誰しもが同じように感じるみたいです。それは「聴こえ方として整理されてないからこそ、いけない」のだと思うんです。ちゃんと誘導できていないんですね。ちゃんと誘導できていれば、きちんと聴こえてくる。それは実は僕が作るものではなくて、各ミュージシャンが演奏してるときに感じたことなんだと思うんです。それを感じ取って「あー、そんなことやったんだ、いいな」というものをきちんと拾い上げる。「いいな」と思ったときに後ろに回ったプレイヤーの演奏だったりを立体的に組んであげることによって、歌だったり、歌の合間でこのフレーズとかが移り変わって、全体的なサウンド感が出来上がってくる。それを僕が作為的に作ってしまう…盛り上がりを無理やり押し出したりしても、やっぱり感動という次元にはいかないんですよね。バランス良くは聴こえるんだけど、そもそもプレイヤーのその時のエネルギーがないとよくならないんです。今回のライブっていうのは、それがあちこちに落ちてるんです。「なにかしなきゃ」っていうモードに入ってるか入ってないかは、音を作っているとよくわかるんです。「あ、今何か感じたな」とか。

──この<藤田恵美 Acoustic Concert 2021>、ミュージシャンや音楽好きを自認している人には、絶対触れてみたほうがいいですね。そこで何も感じなかったら自分を省みたほうがいい(笑)。

阿部哲也:それは問いかけたいところではありますね。作ってるなかで「やっぱり音楽っていいな」とつくづく思ったので。僕はこれを「いいな」と思ってもらえるところに持っていかないと、この発見はしてもらえないわけで、「所詮そんなもんだよね」というところに落ち着かせるわけにはいかないので、やっぱり「そうなんだ、こういうことができるんだ」っていうのを皆に感じてもらえれば。


──スタジオに比べ会場は電源も脆弱でしょうから、大変だったでしょうね。

阿部哲也:電源もそうですし、床の緩さも厄介でした。どうしても20~30Hzくらいの低音が回るんですよ。そのコントロールがミックスで結構大変で。

──さらなるチャレンジを期待しています。

阿部哲也:結構削れましたけどね(笑)。計画してここまでくるのに1年くらいかかりましたから。でも今回は、192kHz/24bitで配信されますので、自分でつくった音源が映像もついて、あの時と同じ環境で戻ってくるっていう楽しみはすごくあります。このクオリティなら、オーディオファンの人たちも楽しめるんじゃないかな。ライブ版の場合、そこまで音が良いものってなかなかないですしね。是非楽しんでください。

藤田恵美:前例のないコンサートということで、私も時に戸惑い、予想外のハプニングを受け止めながら、それでも音を奏でる楽しさを同時に感じていました。そんな空気感をまるっと、ひとつのドキュメント映像のような感覚で観て、聴いて、何かを感じていただけたら嬉しいです。


撮影◎山本昇
取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)

藤田恵美<Headphone Concert 2021>配信

配信開始:2021年7月11日(日)20:00
アーカイブ(見逃し)配信期間:2021年7月11日(日)23:00~2021年7月24日(土)18:00
料金:4,300円(税込)→2,200円(税込)※Live Extremeプラットフォーム・サービス提供開始記念 特別価格視聴チケット
◆<Headphone Concert 2021>配信詳細(Thumva)
◆<Headphone Concert 2021>視聴チケット(チケットデリ)

藤田恵美『Headphone Concert 2021』

2021年6月11日
e-onkyo 先行発売
https://www.e-onkyo.com/music/album/hdi50027/
HDI-50027S wav/FLAC 96kHz24Bit(3,300円税込)
HDI-50027SS wav/FLAC 192kHz24Bit(3,800円税込)
HDI-50027D DSF 5.6MHz1Bit(3,800円税込)

2021年7月14日
HDI-70003 UHQCD ¥3,000(3,300円税込)
1.パレード
2.ケンとメリー ~愛と風のように~
3.Let it Be
4.愛の景色
5.セクシィ
6.縁は異なもの
7.卒業写真
8.From a Distance
9.The Water Is Wide
10.Tokyo
11.酒と泪と男と女
12.What a Wonderful World
13.ひだまりの詩
※藤田恵美(Vocal)、宇戸トシヒデ(Pf/Accordion/Whistle/Cho)、西海孝(Ag/Cho)、武川雅寛(Vln Tp)、河合徹三(Bass)、朝倉真司(Perc)

◆藤田恵美オフィシャルサイト
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