【インタビュー】イージー・ライフ「嫌なこともあるけど、きっとうまくいく」

ツイート

2017年に英レスターで結成されたイージー・ライフは、2020年にはその年に期待される新人のリスト「BBC Sound of 2020」の2位に選出され、NMEアワード2020では「Best New British Act」を受賞するという、輝かしいスタートを切った5人組バンドだ。

新人バンドだが、2021年5月28日にデビュー・アルバム『ライフ・イズ・ア・ビーチ』(7月16日日本盤CD発売)をリリースするや、全英アルバム・チャート初登場2位に輝き、その後6月末に実施された「フォートナイト」とのコラボも、世界中で大きな話題となったばかりだ。

そんな今、最も注目しておきたいイージー・ライフのフロントマンであるマレー・マトレーヴァ―ズを直撃、7月16日の日本盤発売に先駆け、デビュー・アルバム『ライフ・イズ・ア・ビーチ』の魅力を紐解いてみた。


──ついに『ライフ・イズ・ア・ビーチ』が日本でもリリースされますが、どのようなアルバムになりましたか?

マレー・マトレーヴァ―ズ:コロナのせいで時間がたくさんあったのは大きかった。あれがなかったら、全く違う内容になっていたと思う。時間が充分にあったから、曲作りを始めた時に自分が何をしたいのかじっくり考えることができたんだ。

──というのは?

マレー・マトレーヴァ―ズ:もともと音楽をリリースすることが何よりも一番やりたいことだから、たくさんの音楽を作って出していたわけ。バンドで曲ができると直ぐにミックス・テープを出していたから、デビュー・アルバムを作ろうとしても、「アルバムに入れる曲がないじゃん。もっと曲を書かないと」ってなる。で、ツアーの合間に2ヶ月くらいの時間を使って曲を書いたんだけど、書いたら書いたで「せっかくできたから出しちゃえ」って(笑)。ただ、今回はいきなり1年の時間ができたから「これならアルバムが作れる」と思った。

──いい環境が手に入ったんですね。


マレー・マトレーヴァ―ズ:だからと言って、これまでやってきたのと違うアプローチをとったわけじゃない。期待値とそこからくるプレッシャーは凄かったけど、それに振り回されることなく、うまく自分が作りたいアルバム作りに集中することができた。正直、やってて楽しいからだよね。全部楽しい。楽しくてしょうがない。だから、そのままできるだけ楽しんで作ろうと思ったんだ。みんなが自分たちの音楽の何に惹かれるかというと、嘘がなく、やりたい放題なところだとも思うから。楽しんでいるのが伝わるし、特にライヴではみんなで盛り上がれる。曲を作る時もそこをできるだけ反映しようとしたよ。


──『Life's A Beach』というタイトルにはすごくポジティブなものを感じますが、このタイトルに込めた意味は?

マレー・マトレーヴァ―ズ:タイトルは、「have a great day」という曲の「Life's s beach and life's a bitch」という歌詞からとったんだけど、アルバムは「表裏一体」がテーマでね、生きているとネガティブなことを目の当たりにして悲観的になることもあるけど、逆に「嫌なこともあるけど、きっとうまくいく。いいことだってこれだけあるじゃないか」と思えるか?ってこと。アルバムは問題を前向きに捉えている。それが『Life's A Beach』に繋がっているんだよ。現代社会には、不平等をはじめとして問題が本当にたくさんあるけど、それと向き合う一番いい方法というのは、笑顔で「じゃあ、この状況をどうしたら好転できるだろうか」って考えることだと思うんだ。物事をあるがままに受け止めて、今ある現実をできるだけ楽しむこと。それが可能ならね。

──1曲目「a message to myself」では「君が今すべきことは自分の心の中を見つめることだ」と歌っていますが、これほど真摯なメッセージはこれまでなかったポイントですよね?

マレー・マトレーヴァ―ズ:あの曲のインスト部分は、Bekonというケンドリック・ラマーのアルバム『DAMN.』にも深く関わっている友人から送られてきたんだ。彼とはレーベルを通して知り合って、LAにいる彼と自分とでアイディアをいろいろ交換して作り上げた。これは結構古い曲なんだけど、仕上げるのにはかなり時間がかかったよ。ミュージック・ビデオも曲と並行して制作した。ビデオはアニメーションで、Andy Bakerという友達がアニメーションを担当してくれたんだけど、全部手描きだから1週間で5秒分しか作れなくて、1曲仕上げるのに永遠の時間がかかったよ。自分の歌のパートは20分でできたんだけどね。

──エピソードが満載ですね。

マレー・マトレーヴァ―ズ:インスト部分を受け取ったとき「こんなの聴いたことがない」と思った。ミュージカル風というのか、クラシック、バロックとヒップホップを融合させた感じで、聴いた瞬間「なんて独創的なんだ」と感じた。ちょうどスタジオにひとりでいた時だったから、これを聴いて録音を押したら、フリースタイルのように自然とあれが口から出てきた。それくらいすんなりと自然に書けたんだ。で、いろんな人に「こんな変わった歌ができた」って送ったら、みんな「凄くいいね」と言ってくれた。変な曲だから「マジ?」って聞き返したら、「本当に最高だよ」と言ってもらえた。それで、ビデオも作ることになったんだ。

──マジックが起こったようですね。


マレー・マトレーヴァ―ズ:今にして思うと、そういう言葉を自分が欲していたんじゃないかな。歌詞を書いている時というのは、自分が何を言おうとしているのか明確にわかっているわけじゃないことが多い。実は、歌詞にすることで自分の気持ちと向き合おうとしている。何か抱えているものがあって、音楽を通してそれを言葉にすることで答えを出そうとしているんだと思う。日記を綴るように、ある状況に対して抱えている思いを独り言のように語るんだ。曲が出来上がると、何千回もそれを耳にする中から最初に抱えていた葛藤が解けていたりする。音楽を作ることは、そんな浄化作用や癒しを自分にもたらしてくれると思っているよ。

──曲作りは、自分へのセラピーのようなもの?

マレー・マトレーヴァ―ズ:これまで数えきれないくらい多くの場面で自分を救ってくれた。この「a message to myself」もそのひとつだよ。意識して何かについて書こうと思ったわけじゃない。後になって振り返ると、「大丈夫だ」「自分の直感を信じて、自分の欠点も受け入れ、自分らしさを大事にしろ」という言葉を、自分が言ってもらいたかったんだと思う。自分も日々そういう励ましが必要だけど、特に若い人たちは同じように聞きたがっているんじゃないかな。世間が何と言おうと、自分が人と違うからって不安な気持ちになろうと、むしろ人と違うことは讃えるべきものなんだ。この歌は、どんなに不完全だろうと、自分らしく堂々と生きるべきだってことを歌っている。ありのままの自分で幸せを感じるべきで、もし幸せじゃないなら、ありのままの自分で幸せになれるよう努めること。そうしないとにっちもさっちもいかなくなるから。

──なるほど。

マレー・マトレーヴァ―ズ:切羽詰まった中から出てくるものだから、もし「よし、こういう歌を書くぞ」と意識しても、こういう歌にはならなかったと思うな。秩序立てて曲を書くのは苦手だし「自分らしさを讃える歌を書くぞ」って決めて書くなんて、そんなダサいことできないよ(笑)。だから頼むから、人を勇気づける歌を意識して作るような思い上がった人間だと思わないで欲しいな。この曲も、自然と自分の中から出てきたものを後から振り返ると、きっとこういうことを言おうとしたんだろうと思う。ただ、「ありのままの自分を受け入れること」というのが、自分が書く音楽に共通するテーマのように思えるな。真夜中に誰もいない部屋でひたすらこういう曲を書いているって、結構ヤバいけどね(笑)。

──自分だけの世界にどっぷり浸かるわけですね。

マレー・マトレーヴァ―ズ:そうそう。だからかなり内省的だよ。でも、こうやって自分と真摯に向き合うっていうのは、精神的にはいいことだと思う。心穏やかでいるためには、まず自分自身を理解することが大事でしょ?自分も少しずつそこに近づいているんだと思うけど。


──一方で「daydreams」のような曲には現実逃避の感覚が宿っていますよね。この曲はロックダウン中の心境を反映したものなのでしょうか。

マレー・マトレーヴァ―ズ:これはそう。「daydreams」はアルバムの他のどの曲よりも、ロックダウンとその経験の歌だよ。自分も他のみんなと同じ思いをした。職業、年齢、社会的立場に関係なく、1年もの間、みんな同じ生活を強いられた。みんなが家にいて、Zoomを使って仕事をして、同じ不安や悩みを抱えていた。そんなことは滅多にない。みんなが同じ苦難や不安を抱える状況というのは、この先二度とないかもしれない。「daydreams」はすんなり書けた曲だった。「自分が退屈していて、他の全ての人も同じように退屈している」という状況から歌が生まれないわけがない。曲調は爽やかで高揚感のある曲だけど、孤独と退屈からくるパラノイアから生まれた曲だ。今なら、みんなが共感できるんじゃないかな。アルバムで唯一、ロックダウンについて書いた曲だからね。というのも、ロックダウンについての曲をあえて書きたくなかったんだ。そういう曲は今後山のように出てくるだろうから、そんな過剰供給に加勢したくなかった。残念ながら1曲貢献してしまったわけだけど、許してもらえることを願うよ。


──では日本のファンにメッセージを。

マレー・マトレーヴァ―ズ:日本のファンへのメッセージ?日本にファンがいるってことが信じられない。それだけで嬉しいよ。応援してくれてありがとう。日本に行くのを本当に本当に楽しみにしている。なんとかして行こうとしている。みんなに会えるのを心待ちにしているし、行った暁には日本を満喫したいと思っている。だから、「ここは行ったほうがいい」というおすすめの場所とかあったら、ぜひ教えて欲しいな。

文・編集◎烏丸哲也(JMN統括編集長)


イージー・ライフ『ライフ・イズ・ア・ビーチ』

2021年7月16日(金)発売
UICI-1158 ¥2,500(税別)
※歌詞・対訳・解説付
1.a message to myself / ア・メッセージ・トゥ・マイセルフ
2.have a great day / ハヴ・ア・グレイト・デイ
3.ocean view / オーシャン・ビュー
4.skeletons / スケルトンズ
5.daydreams / デイドリームス
6.life's a beach(interlude)/ ライフ・イズ・ア・ビーチ(インタールード)
7.living strange / リヴィング・ストレンジ
8.compliments / コンプリメンツ
9.lifeboat / ライフボート
10.nightmares / ナイトメアズ
11.homesickness / ホームシックネス
12.music to walk home to / ミュージック・トゥ・ウォーク・ホーム・トゥ


◆イージー・ライフ・レーベルサイト
この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス