【ライヴレポート】HYDE、オーケストラツアー<ROENTGEN 2021>、「このタイミングのために、20年前につくったかのような」

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20年前に世に送り出した1stソロアルバム『ROENTGEN』を、オーケストラを携えた壮大なスケール感で再現するツアー<20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021>が6月25日(金)、中野サンプラザホールにてスタートした。先ごろ公開したオフィシャルレポートに続いて、BARKSオリジナル詳細レポートをお届けしたい。

◆HYDE 画像 / 動画

原曲にもオーケストラが参加し、ロンドンでレコーディングされたアルバムだが、リリース当時にツアーは開催されなかった『ROENTGEN』。その世界観の全貌を今回のツアーで初めて生で体感できること、『ROENTGEN 2』を制作する構想のもと、いくつかの新曲を披露する予定であることは事前に把握していたが、初日に会場で味わった驚きと感動は想像を遥かに上回るものだった。以下、ツアーは始まったばかりなので具体的な曲名や演出を明かすのは控えながら、特筆点をお伝えしていきたい。MCの時系列もあえて流れ通りではなくズラした箇所もあり、再構築している。


弦楽および管楽によるオーケストラ、バンド、コーラスの総勢22名がひしめくステージ。HYDEが姿を現しただけで会場の空気が変わり、観客が息を呑み目を奪われているのを肌で実感。高揚しつつ緊迫した空気が会場に満ちていった。『ROENTGEN』再現ツアーと銘打っているが同作収録曲のみならず、L'Arc-en-Ciel楽曲のリアレンジ、とある曲のカバー、自身が他アーティストに提供した楽曲のセルフカバー、そして上述したように新曲群も披露する贅沢な内容。巧みな音楽家たちが奏でる芳醇な音色に身を委ね、時には心地良さそうにリズムを取りながら、HYDEは歌うことに深く集中しているように見えた。

「『ROENTGEN』の世界へ、ようこそいらっしゃいました」──HYDE

と挨拶すると、客席からは気持ちのこもった大きな拍手が起きる。「よく来たね、みんな。大変だった? 逢いたかった? もうね……早速僕がウルウル来てしまいまして。(『ROENTGEN』リリース)20年目にしてやっと、ツアーが始まったっていうね」と感慨深そうなHYDE。東京都の緊急事態宣言は解除されたとはいえ、コロナ禍の影響から逃れることのできない日々を誰しも送る中、足を運んでくれたファンへの感謝と労い。そして、そのような時世でも活動を止めることなく感染防止対策を徹底してライヴ活動を再開し、ファンの協力を得て成功例を積み上げてきた暁にこの初日を迎えていることへ喜びが、言葉と表情からひしひしと伝わってきた。シンプルな舞台セットと照明と豊かな音楽があって、それ以上何も付け加える必要のない充実したステージ。しばしばスクリーンに大写しになるHYDEの表情豊かな眼差しは多くを物語り、観る者の心に尽きることのないイマジネーションをもたらしていく。

『ROENTGEN』は静謐で神秘的なサウンドスケープを描き出した至高のアルバムだったが、2ndアルバム以降のHYDEはラウドなロックに注力していくことになり、楽曲単体としては存在しても、こういった世界観を一つのパッケージとしてまとめ上げることからは以後、遠ざかっていた20年だった。フロアとステージの垣根無く熱く激しく盛り上がるライヴは<HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL>で一つの到達点を見たが、その後、更にギアを上げていこうとしたところでコロナ禍に直面。L'Arc-en-Cielとしての30周年、ソロ始動20周年のアニバーサリーイヤーを、想定とは違った形で迎えざるを得なくはなったものの、そこでHYDEが閃いたのが、<ANTI FINAL>とは対照的な静の極みである『ROENTGEN』の存在である。ライヴハウスではなくホール会場で、観客が着席して鑑賞するにふさわしいコンテンツであり、HYDEのキャリア史上異色の、ある種の“開かずの間”のような、謎めいた特別な密室。その扉が、意図せぬ苦境をきっかけに、HYDEの手によって開けられることとなった。それがこのツアーであり、「いい曲が着々と仕上がってきてる」とMCで期待を煽ったアルバム『ROENTGEN 2』である。


基本的に、コンサートで披露された『ROENTGEN』収録曲アレンジの骨格は原曲に忠実だが、さり気ない変化が加わっているのが楽しく、新鮮に響いた。例えば、1stソロシングル「evergreen 」には軽やかに弾むようなジャジーなフィーリングを、「A DROP OF COLOUR」のトランペットソロには郷愁だけでなく哀訴するような感情の迸りを感じた。インダストリアルゴシックとでも形容したら良いのか、鋭利な金属音で幕開ける「NEW DAYS DAWN」はライヴ初披露だったはずで、「20年間、CDでしか聴いてこなかった曲とか、“あ、今、演奏してる!”って感じたの、僕だけですか(笑)?」と当事者のHYDEすら不思議な感覚に包まれていた様子。この曲では声量、声色共にコントロールされた抑制的な歌唱でひんやりとした世界に引き込んだ。「THE CAPE OF STORMS」では、ロックなスピリットが暴発したような力強さが垣間見えたし、「OASIS」は管弦楽が加わることで影が濃くなり、スツールにもたれかかるように身体を倒して気怠げに歌う姿もまた魅惑的だった。すべての曲について言えるのは、HYDEの声色が以前にも増して多彩になり、一音一音に宿った情感が濃密で、一瞬たりとも聴き逃すことができない、ということ。想起する心象風景の解像度が上がり、輪郭が一層クッキリとしていく印象を受けたのだった。新旧いずれも「ほとんどが暗い曲(笑)」とHYDEはこの日のセットリストを評したが、暗さにも濃淡があり、何も見えないような漆黒から、光の存在を感じさせる仄暗さまで、2021年のHYDEはそのグラデーションを歌唱によってつぶさに描き出すことに成功していた。

「僕はハッピーです。このツアーができることがうれしい」──HYDE

この日、HYDEが繰り返し口にした言葉は「うれしい」である。コロナ禍による制約でキャパシティーの50%を上限とする公演が続いてきたが、本公演は着席指定でのオーケストラコンサートであるため100%でのチケット販売を実施。「みんなに来てもらって、やっぱり100%入ってるのが分かるから。“少しずつ状況が回復してるんだな”っていうところが、いろんな意味でね……うれしくてしょうがない!」と最後は語気強く叫ぶように語り、「かわいいみんなに会えて本当に今日はうれしいし、このツアーが最後まで無事に続くことを楽しみにしております」と願いも口にした。

また、こういったオーケストラ編成のコンサートに対する意識の変化を語ったことも興味深い。「最初は慣れなくてね」と振り返ったHYDEは、静けさの中で自身の息継ぎの音が入るのが怖かったこと、そのせいで息が少ししか吸えず辛かったことなどを明かしたが、今は「息継ぎでリズムを取れるようになって、楽しくなった。“30年やらないと分かんないのか?”って言われるかもしれないけど(笑)。今は歌に気持ちを込めて、楽しんで歌が歌えるようになって、うれしい」と微笑んだ。

『ROENTGEN』リリース当時にツアーを開催しなかったことについて、「ライヴをしようと思って作ってなかった」と回想し、CDをリリースしただけで満足であったことを改めて語った。ロンドンでのレコーディングと日本での曲づくりを交互に繰り返しながら生み出したことを振り返り、「こんなアルバムはもう、つくれないかな?と。やるとしても10年後かな?って当時のインタビューでは言ってたんですけど、20年経ちましたね」と笑った。「すごくない? やっと逢えたんだよね。『ROENTGEN』に逢えた。アルバムを20年聴いてきて、“やっとライヴで観られる”と思ってる人、いっぱいいると思うんだよね。僕もこうやって歌ってて感慨深いというか……うれしい」とやはり喜びを抑えきれない様子。また、この豪華メンバーによる再現ツアーを行えることに対し、「すごいなぁと。タイムマシーンに乗ったみたいな気分でやっております!」と語ると、大きな拍手が沸き起こった。


『ROENTGEN』のリリース当時はダンスミュージックなどが主流だったと振り返り、「こんなアコースティックアルバムは誰も求めてなかった」とHYDE。「ロックって“うるさい音”だけじゃなくて、反抗するとか、時代を変えていこうとする力だったり……そういう意味もあると思うんですよ。あの時に『ROENTGEN』を出すということは僕にとってはロックだった」とも。20年にわたり聴き続けてくれたファンを「僕の良き理解者です」と感謝の言葉を捧げた。『ROENTGEN 2』も、「世の中の主流に乗るんじゃなくて、自分なりのロックな作品をまたつくって送り出したいなと思います」との宣言も力強く響いた。

「20年生きてて……良かったよね? (コンサートを観られたことで)夢を見られたと思うんですよ。僕も夢を見られたし、“あぁ、生きてて良かった”っていうのを届けられたらいいなと思います」──HYDE

と語ると、この日配信リリースされたばかりの新曲「NOSTALGIC」へ。『ROENTGEN』の静謐な世界観を踏襲しながら、よりドラマティックでエモーショナルに編み上げられた美しいミディアムナンバー。日本語と英語とが交錯する歌詞は詩的で、列車という言葉に『銀河鉄道の夜』を連想するからか、宮沢賢治の幻想世界を彷彿とさせた。愛と孤独、信念に基づいた旅立ち──抽象的だが、そんなキーワードが浮かぶ。HYDEの姿と共にスクリーンに映し出される歌詞すら、説明的では全くなく演出の一部となっており、まるで実写化された美しい寓話の世界を観ているかのようだった。どこまでも真っ直ぐに伸びていく線路のように凛としたストリングス、決然とした覚悟を表すような力強い打楽器、郷愁を誘う管楽器、主旋律に寄り添う心の声のようなピアノ。持って生まれた才能とセンスに加え、30年を超える音楽家としての活動によって手にした技術と知識、更には信頼のおける演奏家、アレンジャーたちとの出会い。それらを総動員して編み上げられた奥深い楽曲であり、何より“HYDEの歌声の魅力、ここに極まれり”という1曲でもある。それ以外に披露された新曲についてここで詳しく明かせないことがもどかしいが、いずれも秀麗な名曲であることだけはお伝えしておきたい。

『ROENTGEN』ツアーをソロ20周年のアニバーサリーイヤーに行うという運命的な邂逅について、「このタイミングのために、20年前につくったかのような……」とHYDEがしみじみと語ると、ファンは温かい拍手を送った。コンサートの最後、立ち上がるのを躊躇う観客たちを優しく促すように、笑顔で大きく煽るように手を動かすHYDE。スタンディングオベーションに見送られて、HYDEは何度も投げキッスを放ちながらステージを去った。

「いろんな意見があったけど、“自分だけの宇宙”をつくりたくて仕方なかった」と、『ROENTGEN』制作の動機をMCで語ったHYDE。フィクション仕立ての楽曲の中に描き込まれた自由への渇望と死の匂いは、2021年の今を生きるHYDEが表現することによって、全てを受容した上で“生の祝福”へと昇華されている。開かずの間であり、遠い地に眠るタイムカプセルでもあった『ROENTGEN』の世界は、HYDEが手に入れた自由という名の翼によって、往来が可能な場所となったのかもしれない。ソロとして20年、L'Arc-en-Cielとしては30年。長い道程を一歩一歩踏みしめるように歩んできた、その先にしか見ることのできない美しい情景を、HYDEがファンという名の理解者と分かち合う。このツアーは、そんな特別な意義を帯びている。

取材・文◎大前多恵

■<20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021>

6月25日(金) 東京・中野サンプラザホール
6月26日(土) 東京・中野サンプラザホール
6月30日(水) 大阪・オリックス劇場
7月01日(木) 大阪・オリックス劇場
7月21日(水) 北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
7月25日(日) 静岡・静岡市民文化会館 大ホール
8月07日(土) 千葉・千葉県文化会館
8月09日(月・祝) 宮城・仙台サンプラザホール
8月11日(水) 埼玉・川口総合文化センター リリア メインホール
8月14日(土) 神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール
8月15日(日) 神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール
9月12日(日) 福岡・福岡サンパレス
9月24日(金) 愛知・名古屋国際会議場 センチュリーホール
9月26日(日) 広島・上野学園ホール

■<20th Orchestra Concert 2021 HYDE HEIANJINGU>

7月31日(土) 京都・平安神宮 特設ステージ
8月01日(日) 京都・平安神宮 特設ステージ

■<20th Orchestra Concert 2021 HYDE HEIANJINGU ライブ・ビューイング&ライヴ配信>

【映画館ライブ・ビューイング】
7月31日(土) 19:00開演
8月01日(日) 19:00開演
会場:全国各地の映画館
https://liveviewing.jp/2021hyde-heianjingu/
※映画館の開場時間中には公演前の演出など、現地の様子を上映予定
※開場時間は映画館によって異なります。
※大阪府では条例により、16歳未満の方は終了時間が19:00を過ぎる上映には、保護者同伴でないと入場できません。
▼チケット
(1) HYDE Official Fan Club「HYDEIST」限定 Premium Ticket
¥6,000 (税込/映画館全席指定)
※Premium Ticketは映画館ライブ・ビューイングとアーカイブ配信のセットとなります。
アーカイブ配信期間
・7月31日(土)公演:8月1日(日)21:00〜8月4日(水)20:59
・8月01日(日)公演:8月2日(月)21:00〜8月5日(木)20:59
※3歳以上有料/3歳未満で座席を使用の場合は有料
(2) 映画館ライブ・ビューイング
¥4,500(税込/全席指定)
※3歳以上有料/3歳未満で座席を使用の場合は有料
▼申込み
(1) HYDE Official Fan Club「HYDEIST」限定 Premium Ticket:「HYDEIST」先行(抽選)
受付期間:6月26日(土)12:00〜6月28日(月)23:59
https://www.hyde.com/hydeist
※Premium Ticketの申込みはHYDE Official Fan Club「HYDEIST」会員限定。
※アーカイブ配信は、GLOBE CODINGでの配信となり、アーカイブ配信期間中は何度でも視聴が可能となりますが、リアルタイムでのライヴ配信は視聴できません。
※申込みは1人2枚まで。詳細はHYDE Official Fan Club「HYDEIST」にてご確認ください。
(2) 映画館ライブ・ビューイング:プレリザーブ(抽選)
受付期間:6月26日(土)12:00〜6月28日(月)23:59
https://w.pia.jp/t/hyde-heianjingu-lv/
※プレリザーブ申込みは1人2枚まで。
(2) 映画館ライブ・ビューイング:一般発売(先着)
受付期間:7月21日(水)18:00〜7月30日(金)12:00
https://w.pia.jp/t/hyde-heianjingu-lv/
※一般発売申込みは1人2枚まで。
※一般発売は先着順。予定枚数に達し次第受付終了となります。

【ライヴ配信】
7月31日(土) open18:30 / start19:00
アーカイブ配信期間:8月1日(日)21:00〜8月4日(水)20:59
8月01日(日) open18:30 / start19:00
アーカイブ配信期間:8月2日(月)21:00〜8月5日(木)20:59
※開場時間中には公演前の演出など現地の様子を配信予定
配信メディア:※ライヴ配信のチケットをお持ちの方は、アーカイブ配信期間中は何度でも視聴が可能です。
※アーカイブ配信期間終了時点までに視聴を開始された方は最後まで視聴可能。但し、アーカイブ配信期間終了以降にページリロードを行うと視聴不可となります。
▼配信チケット
¥4,500 (税込)
販売期間:
・7月31日(土)公演:7月21日(水)18:00〜8月4日(水)18:00
・8月01日(日)公演:7月21日(水)18:00〜8月5日(木)18:00
https://w.pia.jp/t/hyde-heianjingu/
対応デバイス:PCブラウザ、スマホブラウザ、モバイル型タブレット
各OSの対応ブラウザ環境: https://play.globecoding.jp/static/gc_support.html
(問)視聴:GLOBE CODING https://globecoding.jp/support/
(問)プレイガイドチケット:チケットぴあインフォメーション 0570-02-9111
※チケット購入、来場前に必ずHP記載の注意事項をご確認ください。
https://liveviewing.jp/2021hyde-heianjingu/
主催:VAMPROSE
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン

Digital Single「NOSTALGIC」

2021年6月25日(金)配信開始
https://hyde.lnk.to/nostalgicPR


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