【連載】Vol.117「Mike's Boogie Station=音楽にいつも感謝!=」

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マリア・マルダー特別インタビュー 新作『Let's Get Happy Together』を語る!


Mike:マリア、お元気ですか。貴女にBillboard Live TOKYOでお会いしインタビュー、そして素晴らしいユアliveを味わって早いもので2年が経ちました。その間、世界中大変なことになってしまいましたが、少しづつですが以前のように普通に音楽を楽しめる日が近づきつつあるように感じます。つい先ごろ貴女がThe Garcia Project に参加したニュースを読みました。前回のジャパン・ツアーは『Don't You Feel My Leg: The Naughty Bawdy Blues Of Blue Lu Barker』をフィーチャーのステージ。そしてドクター・ジョン、アラン・トゥーサンへのトリビュートも印象的でした。1990年の『Fanning The Flames』日本盤は僕がライナーノーツ書かせて貰ったんですが、ここで僕は“ニューオリンズはマリアの心の故郷”と記しました。 改めてニューオリンズの音楽の魅力をじっくり語ってください。

Maria:私が初めてニューオリンズ音楽に心を奪われたのは、ファッツ・ドミノ、クラレンス・フロッグマン・ヘンリー、アーニー・ケイ・ドウ、リー・ドーシー、ディキシー・カップス、リトル・リチャードやその他多くの1950年代の素晴らしい初期のニューオリンズR&Bのアーティストを聞いた時でした。そして私は1970年ごろに初めてワイルド・チャパトゥーラスとドクター・ジョンのレコーディングを聞いてから初期のジャグ・バンドの時代から1920年代や30年代のジャズの名演奏家やバンドをたくさん聞いて研究したの。ニューオリンズは常に多種多様な文化のるつぼで、このことはこれまでの長い年月に渡り音楽に多種多様な影響を及ぼしたの。例えば、ガンボ(アメリカ南部の煮込みスープ)がいろいろな食材をゆっくり加えていってそれを長時間煮込むと最高に風味豊かなものに仕上がるように、ニューオリンズ音楽がとっても魅力的である理由は、多種多様な文化の要素とリズムが詰まっていて、これらが長年に渡って混ざり合って人間の精神の最も活力に満ちてソウルフルな表現に発展したからなのヨ。これが、世界中の人々がすごくニューオリンズ音楽を愛してそれに多大な反応を示す理由なのね!

Mike:どうしてこの質問から入ったかというと、2021年5月リリース42枚目になるでしょうか、アルバム『Let's Get Happy Together』がこの10数年着実に活動しているニューオリンズのストリート・ジャズ・バンド、チューバ・スキニーとのコラボレーションだからです。そこでチューバ・スキニーとはいつ頃どういった経緯で知り合ったんですか、教えてくださいませ。


Maria:2年ほど前に、ウッドストックという洋服屋さんで買い物をしていたら、すごくステキでごきげんなビンテージ・ジャズがお店で流れていたのを耳にしたの。お店のオーナーが教えてくれたのだけど、その時かかっていたのはニューオリンズ在住のチューバ・スキニーという若いミュージシャンで構成されたバンドで、ニューオリンズで路上やいろいろなクラブやフェスティバルで演奏しているということだったの。まさか1920年代や30年代の古い78回転のレコード盤を聞いているのでなくて若いストリート・ミュージシャンの音楽を聞いているなんてとっても信じられなかったわ!オーナーがCDのジャケットを見せてくれるまで信じられなかった!今時の若いミュージシャンが私たちの芳醇な昔の音楽の宝の山を再発見するべく熱心に努力して守っていこうとしていることを知って嬉しかったわ。まるで私とジャグ・バンド仲間やその他大勢が1960年代のフォーク・リバイバルでやってたようにね!私はすぐに彼らのCDを何枚か注文して、それ以来私の生活ではこれらのCDがヘビー・ローテーションで掛ってるのよ。

Mike:彼らとはいつ頃から共演したんですか。また何度くらい一緒にライヴしたことありますか。やはりニューオリンズのスポットでしたか。

2年前にニューオリンズでブルー・ルー・バーカーの『Don't You Feel My Leg』のトリビュートのレコーディングのときに、彼らのコンサートにできる限り足を運んだの、で、結局会って数回一緒にステージに上がったの。


▲Pic.by Steve Ramm

Mike:8人編成のチューバ・スキニーの魅力、素晴らしさを語ってください。

Maria:私はこの種の音楽を60年以上も夢中になって聞いてるけど、チューバ・スキニーの音楽には私をとても特別な形で虜にする何かがあったのです。彼らはビンテージ・ジャズ&ブルースを多大なる敬意を払いながら本物の素晴らしさと喜びをもって演奏しています。彼らの音楽を聞くと私はいつも抑えきれないほどの幸せのエネルギーで一杯になるの。自分がどうして彼らの音楽にこんなにほれ込んでいるのかをじっくり考えてみたんだけど、結論はね、彼らは単に1920年代や30年代の粋な曲を集めたレパートリーの曲を優れたテクニックで正真正銘のヴィンテージとして演奏しているだけじゃなくて、過ぎ去った時代のまさにその雰囲気とバイブを何となく私たちへ導いてくれているのね。あの時代の雰囲気って、つまり、ゆったりしていて自然で有機的なグルーヴで、すべて、それも私たちの音楽でさえ、あの頃の音楽よりずっと硬くて機械化されている今のポストモダンの脱工業化の脱デジタル時代には殆ど存在しないものなのヨ!

Mike:両者がジョインしてニュー・アルバムを制作しようということになった経緯をお教えください。プロデューサーは勿論マリア・マルダー。

Maria:2020年1月に、私はニューオリンズのインターナショナル・フォーク・アライアンスでショーケース(プロモ用発表会)をやらないかとお誘いを受け、チューバ・スキニーに私と一緒に短いセットを演奏してくれないかと依頼を受けたのです。一緒にさっと一リハをやったら、彼らと一緒に歌うのがすごく自然に感じられたのです!勿論私たちはショーケースを楽しく行えましたし、観客からとても熱烈な反応がありました。多くの方々は、私の歌と彼らの演奏は「相性抜群の音楽的融合」とまで言ってくれました。私の古い友人のホルガー・ピーターソン(ストーニー・プレイン・レコードの元オーナーで現在コンサルタント)は私たちのステージをすごく気に入ってくれて、私に彼らと一緒にレコーディングしないかって。だから私は彼に熱烈な「イエス!」の返事をしたの。そういうわけでこのアルバムが実現したのです!私たちはインターネットでレコーディングするのに良い曲を閲覧し始めました。それで、一番最初に見つけたのが、『Let's Get Happy Together』というルイ・アームストロングの奥様のリル・ハーディン・アームストロングのとてもイケてて威勢の良い歌詞だったのです。「これよ!」って私は叫びました。それがこのアルバムのタイトルだったのヨ。何にもその頃は考えなかったのね。1か月後にパンデミックが私たちの生活に暗影を落とすとき、世界にはこの音楽がとても必要だったの。自分の過去の20枚ほどのアルバムは私自身がプロデュースしてきて、なんとかグラミー賞に4回ノミネートされたしその他にブルースの賞も獲得したので、このアルバムも「よし私がプロデュースしよう」ということに決めたのです。

Mik:素晴らしい出来栄えのアルバム『Let's Get Happy Together』、実はこの日本版CDは僕がライナーノーツ書かせていただきました。1920-40年代のヴィンテージ楽曲が次々に登場です。選曲はどのようにして決定したのですか。

Maria:古い音楽を徹底的に調べて、私の歌とチューバ・スキニーの演奏のコンビネーションにぴったりであろう曲を12曲探し当てるのは楽しかったわ。嬉しいことに、私の検索が功を奏して、皆さんに改めて聞いてもらう本当に価値のある殆ど知られていなかった貴重な曲がたくさん見つかったのヨ!チューバ・スキニーと私は新しい息吹を吹き込み、原曲を大切にしかつ自分たちのものにするという作業を楽しく行いました。本当に彼らとのレコーディングはうまく行きました。このバンドの好きなところは、誰一人として目立っていないし目立とうともしないことです。彼ら全員がそうした自我にとらわれない直感的で旋律豊かで協調的な方法でプレイしていて、その場で自然発生的にメロディーを織り交ぜ、心から楽しめて調和に満ちたエネルギーを作り出しているのです。こうした要素は今日の世界では全くもってすごく珍しいことです。彼らの音楽は単に心地よい音楽エンタテイメントなのでなく、特にこんな暗くて問題多き時代には、まさしく「魂の音楽的治療薬」なのです!


▲Pic.by Josef Crosby

Mike:新作の聴きどころをお願いします。

Maria:そうね、私が特に気に入っているのは、「I Like You Best of All」、「Let's Get Happy Together」、「Delta Bound」それと「Swing You Sinners」だけど、正直言うと全部大好きなのよ。リスナーに注意して聞いてもらいたいのは、美しくハーモニー豊かなインスト演奏の掛け合いです!これこそチューバ・スキニーの音楽の魅力ですヨ!

Mike:そういえば普通のヴォーカル曲と違い、このアルバム収録されている殆どの曲で長めのイントロをチューバ・スキニーの演奏をたっぷり味合わせてくれるのです。勿論貴女のアイディアですよね。

Maria:たいていの場合、私たちは原曲を大切にするために基本的には原曲を忠実に演奏しました。つまりバンド演奏のアンサンブルをたくさんフィーチャーしたのです。それは自然なやり方だと思われたから。つまりは、彼らが私のバックを務めているのではなく、両者の協力関係だということね、だから演奏だって歌と同じくらい重要だということなのです!

Mike:『Let's Get Happy Together』をフィーチャーしてのMaria Muldaur with Tuba Skinny Tourを僕たちは期待しますぜひ実現してください。

Maria:まあ、マイク、何ていうことを!それ一番やりたいことよ!ツアーやコンサートのブッキングが丁度入り始めているの。私がカリフォルニアに住んでいて彼らがニューオリンズに住んでいるからお互いにスケジュールがあり調整の難しさもあるのですが、この音楽を世界中の人々、特にヨーロッパと日本の方々になんとかライヴでお届けできないかと考えています。ヨーロッパと日本ではこうしたビンテージ・ジャズやブルースの良さを本当にわかってくれますから!

Mike:最後にもしお時間があれば収録各曲、一言コメントくださいませ。聴きどころとかレコーディング・エピソードとか……。1.I Like You Best of All。1925年楽曲、グーファス・ファイヴ、リー・モース&ハー・ブルー・グラス・ボーイズ、ブーツ&ヒズ・バディーズ、フォー・クラフス他多くのアーティストが取り上げている。どのヴァージョンにインスパイアされました。

Maria:グーファス・ファイヴのヴァージョンが一番好きです!それを聞いたとたんに、チューバ・スキニーにピッタリの演奏曲だってわかったの!~

Mike;2.Let's Get Happy Togetherはサッチモの二番目の妻だったリル・ハーディン・アームストロング1937年の曲。

Maria:この曲は、かっこよくて威勢がよくてハッピーな歌詞が即すごく気に入ったのヨ!

Mike:3.Be Your Natural Selfはフランキー“ハーフ=パイント”ジャクスンは自らのバンド、ハーフ=パイントが1940年にレコーディング。

Maria:もともとはフランキー“ハーフ=パイント”ジャクスンというヴォーカリストが歌った曲です。彼は時には男性として、時には女性としてステージに立っていて、彼は当時の最初のジェンダーベンダー(異性の服装をする人)でした!この曲はきっと彼にとって特別な意味があったことでしょう!でも本当にいつの時代でも誰にでも当てはまる優れたメッセージなのです!

Mike:4.Delta Bound...アレックス・ヒルの作品。シド・ペルティン・オーケストラやデューク・エリントンで知られる。

Maria:もともとはアイビー・アンダーソンとデューク・エリントン・オーケストラがレコーディングした曲で、常に私のお気に入りの曲の一つだったので、ようやくこの曲を理想のバンドとレコーディングする機会を得ることができてとても嬉しいワ!アルバムの中でも自分の気に入っているボーカル・パフォーマンスかも。それにディープ・サウスの雰囲気を醸し出すスローでむしむし感のあるバンドの演奏がとにかく大好きなのです。

Mike:5.Swing You Sinners、1930年のアニメーション映画の主題歌、ハイ・ハッターズ、スミス・バリュー楽団で人気を呼ぶ。その後トニー・ベネットやローズマリー・クルーニー等多くのアーティストがレパートリーに加えていた。

Maria:これは私の研究で一番嬉しい発見の一人が1935年にレコーディングした曲。驚くべき才能をもったヴァライダ・スノーという女性で、国際的に有名なタレントになったアメリカ人ジャズ・ミュージシャンでエンタテイナーの巨匠です。彼女は「リトル・ルイ」とか「トランペットの女王」として知られており、ルイ・アームストロングは彼女のことを「世界で2番目にすごいトランペット奏者」と呼んでいました。こういう音楽を長年研究していたのになぜ彼女の演奏を聞いたことがなかったのかしらね。それこそ私たちの豊かな音楽的遺産の素晴らしさです。深く追求していけばいくほどさらなる発見と喜びがあるの!

Mike:6.He Ain't Got Rhythmyはアーヴィン・バーリンが1937年に映画「On The Avenue」のために作詞作曲。ベニー・グッドマン楽団でヒット(ヴォーカルはジミー・ラッシング)。ビリー・ホリデイでも知られる。

Maria:とにかくアーヴィング・バーリンのひょうきんで気の利いた歌詞が大好きなの! 1930年代に多くのアーティストがレコーディングしたのだけど、ビリー・ホリデイがテディ・ウィルソン、レスター・ヤング、ベニー・グッドマンその他とレコーディングしたのが、私たちのバージョンの参考になったものです。

Mike:7.Got the South in My Soul、レオ・ライズメン楽団の32年作品、作者クレジットされているジャズ歌手リー・ワイリーのヴォーカルがフィーチャーされた。

Maria:ニューオリンズ出身のボズウェル・シスターズがレコーディングしたヴァージョンですよ。当時の最高のビッグ・バンドすべてと歌ってスウィングした、とてつもない音楽の才能を備えた素晴らしいシンガーたちでした。コニー・ボズウェルはすごくソウルフルにリードを歌うのですが、彼女は私の好きなシンガーのひとりです。

Mike:8.I Go For That
フランク・レッサー&マティ・マルネックが共作。映画『St.Louis Blues』の挿入歌として人気を呼んだ。この映画に主張したミス・ニューオリンズのドロシー・ラムーアほかエディ・デューチン楽団、レッド・ノーヴォ楽団featミルドレッド・ベイリー で人気を呼ぶ。

Maria:ドロシー・ラムーアというもう一人ニューオリンズ出身の女性がいて、ビッグ・バンドのリーダーと結婚していて彼のバンドで歌っていたのですが、その後、誰もが覚えている魅惑的で色気ムンムンのハリウッド女優になりました。彼女がとってもイカしたシンガーだったことと、この滑稽でウィットに富んだ曲を発見してうれしかったわ。「You play the uke, you're from Dubuque(あなたはウーク(ウクレレ)弾き、あなたはダビューク出身)」なんてすごく愉快な歌詞ね!

Mike:9.Patience And Fortitude、アンドリューズ・シスターズ1946年のヒット。キャロル・カーのヴォーカルをフィーチャーしたジェラルド楽団でも知られる。

Maria:私がこの曲を選んだのは、役に立つ前向きなメッセージのある元気の出るちょっとしたお説教を含んだ曲だからです。これも唯一無二のヴァライダ・スノーが最初にやった曲です。

Mike:10.Some Sweet Day、フランキー“ハーフ=パイント”ジャクスンの1938年レコーディング・ナンバー。

Maria:心地よくて憂いのある曲。これもフランキー“ハーフ=パイント”ジャクスンが最初にやった曲です。

Mike:11.Big City Blues h1929年にコン・コンラッド、アーチー・ゴットル、シドニー・ミッチェルが共作。アネット・ハンショーでヒット。

Maria:まさにその通りのどこにでもある孤独感のストーリーで、私がすごく称賛する素晴らしいシンガー、アネット・ハンショウが最初にレコーディングした曲です。彼女は、250面以上ものレコーディングをしていて、1930年代の最も人気のあったラジオ・スターのひとりでした。

Mike;12.Road of Stone、ヴィクトリア・スペヴィが妹たちとスペヴィ・シスターズを組んだのは1929~37年。その時代の妹のアディ・スウィート・ピース・スペヴィがリード担当の作品。

Maria:この粋でソウルフルで哀愁あるブルースは、1920年代にスウィート・ピー・スパイヴィがレコーディングした曲です。有名なクラシック・ブルースの女王ヴィクトリア・スパイヴィの妹です。ヴィクトリアは私が若いころに私を実際に「発掘」してくれて指導してくれました。これらの曲の起源を皆さんに紹介することで、皆さんがYouTubeでこうした素晴らしいアーティストを自ら調べて、彼女たちが私たちに残してくれた底なしに豊富な素晴らしい音楽を探索して楽しみ始めてくれるといいなあと思っています!

Mike:最後に、日本のファンへメッセージお願いします。

Maria:素晴らしいニューオリンズのバンド、チューバ・スキニーと私のコラボについての情報を日本の音楽ファンの皆さんと共有できる機会をありがたく思っています!私はいつも日本でのツアーが大好きですが、それは日本の方々が明らかにあらゆる形のアメリカン・ルーツ・ミュージックに対して鋭い美的感覚をもっているからです!ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの50周年記念で日本をツアーした時、日本に少なくとも100の活動中のジャグ・バンドがあるということを知ってうれしく思いましたし、日本のジャグバンド・フェスティバルに出演してすごく楽しかったです!アメリカのビンテージ・ミュージックへのそうした認識があることを知って、日本の音楽ファンがこのチューバ・スキニーという素晴らしいバンドのことをもっと知ってくれて、近い将来に私たちをツアーに招いてくれるといいなと思っています!

*協力:CK

【ライヴ・リポート】
☆PYRAMID feat 福原みほ“Tribute to 和泉宏隆”


僕は生のステージが大好きだ。だからローリング・ストーンズLIVEをUS/UK/EUで100数十回も追っかけて味わってきた。勿論エルヴィス・プレスリーも1972年にハワイで3回堪能した(その時が僕の初海外旅行で湯川れい子さんに面倒みて頂いた)。ハワイといえばストーンズをハワイで1973年&1998年、計5回観た。1998年にはキース・リチャーズにじっくり向き合って1時間インタビューしたんだ。
僕は半世紀以上に亘って週1~2回はLIVEを楽しんでいる。その昔“ミュージック・リサーチ”という音楽業界誌があったんだけどそこで毎週ライヴ・リポートを担当していた程だった。昨年から今年にかけてのコロナ禍で来日アーティストが軒並み延期か中止。また僕自身メンフィスやシカゴやニューオリンズに足を向けことは全く不可能になった。当然だが国内アーティストのライヴも激減した。2021年も半年が過ぎたが、僕がMCしたヴァージョンも含めても今年のマイ・ライヴはたった10である。

ただそのうち3回は福原みほLIVE。僕はソウルフルでグルーヴ感あふれるシャウトぶりのみほにぞっこん。2019年秋に名古屋まで追いかけたこともある@NAGOYA Blue Note、その夜は2回連続してステージを味わった。その時みほのキーボードを担当していたのがYANCY(彼がみほを紹介してくれた@Blue Note TOKYO)。因みにみほの名曲「Joy」は、みほ&YANCY共作である。彼のニューオリンズ愛に溢れるピアノは素晴らしい。これまた仲良しKOTEZとYANCYのステージは今年になって1回楽しんだ(去年は2回)。そうそう、YANCYは僕の朋友・近藤房之助の紹介だった。

またまた前フリが長くなったが、ここから本題に入ろう。PYRAMID feat 福原みほ“Tribute to 和泉宏隆”ライヴ・リポート…。
Blue Note TOKYOから6月3日、4日の“PYRAMID feat 福原みほ”のライヴが発表された。初日が“Cross Over Night”二日目は“R&B Night”、僕はR&B dayを選択した。その少し後だった、PYRAMIDのキーボーディスト、和泉宏隆が逝去の報が飛び込んできた。享年62。彼はT-SQUAREのメンバーとしても知られた。心よりご冥福をお祈りする。そしてPYRAMID feat 福原みほLIVEは“Tribute to 和泉宏隆”として行われると再発表された。



6月4日ファースト・ステージ、先ずは鳥山雄司(GTR)と神保彰(DS)のPYRAMIDの演奏からスタート。BSの須長和広とマニピュレーターの加藤裕一がサポート。2005年のPYRAMIDファースト・アルバム『PYRAMID』から「We Got Ready」。ファンキー・タッチのミディアム・アップな軽快なナンバーだ。作曲は鳥山雄司である。
そして鳥山のコールで福原みほの登場。みほは以前に和泉とツアーで一緒になったことがある。ここから6曲目まではキーボードにGakushi。みほはまず「Wasabi Green」をしっとりと歌い上げる。2015年のみほのアルバム『Something New』収録。ストレートなラヴ・ソングだ。


3曲目は「Fell Like Making Love」、ロバータ・フラック1974年のヒットとしてよく知られる名作。10数年前にBNTで体験したロバータのステージにみほは触れる、彼女のMCでこのナンバーを歌っていたロバータのステージを僕も想い出した。この日みほはディアンジェロのヴァージョンで纏め上げた。僕の大好きだったディアンジェロが2000年にアルバム『Voodoo』で取り上げていた。PYRAMIDもファースト・アルバムにこの曲を収録している。
「Ribbon In the Sky」はスティーヴィ・ワンダーの1982年ヒット・ナンバーとして知られる。実にしっかりとしたみほヴォーカル、PYRAMID“実力”の演奏ぶりでスケール感の大きな作品として披露された。いろいろ思い出す、スティーヴィーに最後に会ったのは14~5年前のさいたまスーパーアリーナでのバックステージだった。勿論1968年の初来日時には観客として二度ほどコンサートに足を運んだ。
続いてはみほオリジナル2曲。まず2015年作「Something New」、彼女が母親になろうとしていた時期に作った曲と紹介される。前述したアルバムのタイトルにもなり、そこにも収録された。新しい世界をじっくりと歌い、聴き応えあるバラード。鳥山&新保のプレイがドラマティックに雰囲気をより盛り上げる。
続いては「Sun On My Wings」、みほの今年第一弾シングルで“いま”を歌っている。以前のライヴ・リポートでも記したけどこの瞬間に伝えたいメッセージが込められた作品。この日もダンサブル&パワフルなダイナミック・サウンド展開の中でエモーショナルに歌う。

再びR&Bカヴァーの登場。7曲目は実にマニアックにニーナ・シモンの作品から「Ain't Got No, I Got Life」。僕は彼女のライナーを1970年に書いたことあるけどこのナンバーはその2年前にシングル・カットされた。Billboard誌HOT100で1969年1月25日付94位が最高位。アルバム『Nuff Said』に収録。ロック・ミュージカル“Hair”からの「Ain't Got No」と「I Got Life」をメドレーにしたものである。1968年のライヴ・アルバム『オン・ステージ』収録である、みほのぐっと新しい側面を感じさせる実にブルージーなR&B楽曲。これからもこの二―ナやエッタ・ジェームス、カーラ・トーマスそしてビリー・ホリデイあたりもカヴァーして欲しい♪I Got My Soul♪。この日の最高作品である。曲後、鳥山雄司は思わず“ディープ”と叫んだ。


続いての「I'll Be Good To You」。PYAMIDが大学時代にブラザース・ジョンソンで人気を呼んだ楽曲と鳥山&新保が紹介してくれる。BB誌HOT100で1976年7月10日付17日付24日付の3週3位に輝いた。懐かしいダンサブル・チューン、和泉宏隆もデータ参加だ。僕は1970年代末のブラジョンの初来日公演を想い出す。ブラジョンといえばチョッパーだけど、日本のチョッパー第一人者はナルチョこと鳴瀬喜博(彼とはウン10年の付き合い)、神保は現在CASIOPEA 3RDでナルチョと一緒に活動していることは周知の通り。
続いては「Sun Goddess」“太陽の女神”で知られる名曲だ。「The In Crowd」でお馴染みラムゼイ・ルイスがアース・ウィンド&ファイアーと共演したヒット・チューン。ソフィストケイトされたメロディー展開の作品。BB誌HOT100で1975年4月19日付&26日付の2週44位を記録した。モーリス・ホワイト&ボブ・リンド共作。PYRAMIDファースト・アルバム収録。曲後、福原みほがステージを降りる。


そしてラスト・チューンは「Tornade」“Tribute To 和泉宏隆”、彼の作品である。2006年のセカンド・アルバム『Pyramid 以心伝心』収録。フュージョンの魅力を余すことなく伝えてくれる。実力派PYRAMIDのプレイを堪能する。曲前に鳥山&神保からPYRAMIDはこれからも“直行”するという発表があった、ファンには嬉しいニュース…。

そしてアンコールだ、福原みほが勿論ステージへ再登場!1曲目は彼女のレパートリーで「Ashes」。昨年10月リリース・ナンバーだ。みほ&シンガポールのシンガー=ソングライター/チャーリー・リムのコラボレーションのバラード。曲前みほは和泉宏隆に捧げると語りかける、ラヴ・メッセージ・ソングである。
ファイナル「Street Life」はPYRAMIDのセカンド・アルバムから、同アルバムでは彼らがダニー・ハサウェイの妹ケニヤ・ハサウェイとコラボしていた。ジョー・サンプル&ウィル・ジェニングス共作、ザ・クルセーダーズで知られる。彼らの1979年のアルバム・タイトル・チューン。ミディアム・アップ&フローウィング・タッチな曲展開の中で“PYRAMID feat みほ”の素晴らしいステージング。見事だ!こうして“Tribute to 和泉宏隆”は幕を閉じた。天国で和泉宏隆も大きな大きな拍手を送っていることだろう…。改めてR.I.P.。


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