【インタビュー】JIMSAKUを超えるアルバム完成「昔を懐かしむよりも今の僕らができることを聴かせたい」

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■楽しんでくれる人が多ければ多いほど、幸せの輪が大きくなっていく

──せっかくなので、参加ミュージシャンとその楽曲について、コメントをもらえますか。まず「INSPIRATION」で素晴らしいスキャット聴かせてくれているShiho(ex.Fried Pride)さんは?

櫻井:レコード会社からのリクエストで「歌ものを1曲ずつお願いします」と言われた時に、Shihoさんがいいと思ったんですね。彼女はジャズのフィールがすごくあるので、それを生かしたメロディを作って、ファンキーなリズムに仕上げました。ここ5年ぐらい彼女とデュオでライブをやっているので、彼女のいいところも知っているし、パンチを出したいなと思って作った曲です。本当はもう1曲、ちゃんとした歌詞をつけられるような歌ものの曲も作ったんですけど、「それだとShihoさんの良いところが生きないんじゃないか」と神保くんに言われてボツにしました。おかげでこれができた、という感じです。

神保:結果的に、良かったですね。

──そして「TE AMO」に参加しているのが、オルケスタ・デ・ラ・ルスのNORAさんと鈴木ヨシローさん。

神保:オルケスタ・デ・ラ・ルスがキングレコードからアルバムを出していることもあって、プロデューサーに「NORAさんはどうですか?」というサジェスチョンをいただいたんですけど、もともとNORAさんはよく知っていますし、楽曲もNORAさんに歌ってもらうことを前提に作りました。ただ、昔やっていたJIMSAKUのラテンというのは、アフロ・キューバン的なアプローチだったんですけれども、ここ10年くらいはレゲトンが大流行りですよね。だからレゲトンの曲にすることは最初から決めていて、ジャズ/フュージョンというよりはダンスフロアでかかってもおかしくないような曲、というイメージで作りました。

──櫻井さんの新曲3曲「INSPIRATION」「THE ROAD OF THE WIND」「ASIAN ISLAND」には、小野塚晃(ex.DIMENSION)さんと、DEWA BUDJANAさんが参加しています。

櫻井: DEWAくんはインドネシアのジャズフェスティバルによく出ていて、現地のディレクターが「哲夫とやらせたいギターがいる」と言って紹介してくれたのが10年ちょっと前です。彼はカシオペアの大ファンで、JIMSAKUも聴いてくれていて、「いつか一緒にやりましょう」ということでFACEBOOKとかで繋がっていたんですけど、今回こういう企画が持ち上がった時に、「DEWAを呼んだら面白い」と思って連絡したら、すごく喜んで快諾してくれました。彼も10年前はそんなにブレイクしているプレイヤーではなかったんですけど、ジョン・マクラフリンのインドネシア公演にゲストで参加したり、今は国民的スターになっていますね。参加してくれて良かったなと思います。

──「アイノヒカリ」で美しいバイオリンを響かせている、高松あいさんは?

神保:曲ができた時にバイオリンを入れたいなと思いまして、プロデューサーに「誰かいい人いませんか」とたずねたところ、真っ先に挙がってきた名前です。彼女はイチナナライバーとしてフォロワーも多い、まさに今どきの活動をしている人なんですけども、今年の4月に芸大を卒業したばかりの若い才能で、そういう方とコラボするのはすごく面白いなと思ったのと、何よりプレーを見て「すごいな」と思ったんです。超絶技巧なんですよね。レコーディングで初めてお会いしたんですけど、とても曲にマッチした演奏をしてくれたなと思います。



──そして「未知の先へ」で歌っている韓国のシンガーソングライターLENさんは、今回のコラボ動画で初めて知ったんですね。

神保:そうです。

櫻井:いろんな楽器の方がいらっしゃったんですけど、ボーカルでコラボしてくれたのは彼だけだったんです。新しくメロディを作って、詞も書いて、歌ってくれたので、すごいインパクトがありましたね。声もすごく伸びやかで、印象が良かったんです。

──日本でも活発に活動されているんですよね。

櫻井:彼は、さだまさしさんが好きなんです。

神保:日本にいるLENくんファンからすると、(JIMSAKUと組むのは)かなり予想外だったみたい。「LENくんのハードな一面を初めて見た」というコメントもありました。普段は弾き語りで静かな印象なんですけど、これはかなりアグレッシブですよね。

──全曲が、ゲストのみなさんの才能と熱意、JIMSAKUへの愛がたっぷり感じられるパフォーマンスでした。

神保:とてもバラエティに富んでいて、ジャズ/フュージョンを好きな人も、あまり聴いたことのない人も、楽しめるアルバムになったんじゃないかなと思います。ジャズ/フュージョンというと、それだけでアウトオブ眼中みたいな人も多いと思うし(苦笑)。すごく難しくてとっつきにくい音楽という印象があるかもしれないですけど、そういう人たちにもすっと入って来てもらえる内容になったんじゃないかな?と思います。そうなってくれるとうれしいなと思いながら、ずっとやってきているんですけどね。

櫻井:僕は、ジャズ/フュージョンがどうのこうのという意識はなくて作ったので、僕の曲はいわゆるジャズ/フュージョンに近いと思います。そういうものを作ろうと思って作っているわけではなくて、ずっとやってきたことを、そのままの自然な流れで「今だったら何を作ろうかな?」ということですね。それが逆に、今までのファンの方には「久しぶりにジャズ/フュージョンの空気を感じる新曲が聴けた」というふうに喜んでもらえると思いますし、神保くんがジャズ/フュージョンの中には入らないような曲を積極的に作ってくれているので、おかげで幅が広くなったと思うんですね。デュオ曲の2曲はちょっとマニアックですけど、僕の新曲2曲(「THE ROAD OF THE WIND」「ASIAN ISLAND」)はすごく聴きやすいインストの仕上がりになっていると思います。そういった点では本当に幅広いグルーヴミュージックになっていると思いますし、メロディが楽しめて、グルーヴがちゃんとある音楽ができたんじゃないかな?と思います。

▲『JIMSAKU BEYOND』通常盤 ジャケット

──あと、そうそう、「FARAWAY」のことも聞かなければいけないですね。なんと、神保さんが初めてボーカルを取っています。

櫻井:センセーショナルですよね(笑)。

神保:曲はなんとなくできたんですが、ちょっと民謡的なメロディラインを持った曲なんですね。最初はボーカル曲にしようという気はなかったんですけども、僕の毎日の散歩コースがありまして。そこの遊歩道に「百人一首」の歌が彫られていて、歩いていくと下の句が次々に出てくる。ある日それを見ていて、「そういえば、今作っている曲は七音節だから、全部ハマるな」ということに気が付きまして、家にある百人一首を引っ張り出してきて、好きな句を並べていったんですね。それを「キングレコードの民謡アーティストに歌っていただきたい」とお願いして、アレンジを終えた段階でスケジュールが合わなくなってしまった。たまたま僕が仮歌を歌っていたものですから、それをプロデューサーが気に入ってくれていたこともあって、「だったら自分で歌ってしまおうか」という流れになったんです。

──そのほうが良かったと思います(笑)。

神保:僕は民謡のアーティストに歌っていただきたかったんですが(笑)。この曲は、歌とベースがコール&レスポンスになるような作りなんですね。そこを聴かせたかったので、ドラムは非常にシンプルで、櫻井さんに「このドラムでいいの?」って何回も念押しされた記憶があります(笑)。

櫻井:すごくシンプルな、主張しないドラムなので、「いいんですか?」と聞いたんですけど、楽器の演奏を聴かせようと思って作っていない曲は、それでいいんだよということですね。ドラマーだからとかは関係なくて、「コンポーザーとしてはそれでいいと思います」という答えが返ってきたので、そうなんだと思いました。

神保:そもそも、歌ったのは初めてですからね。60過ぎてボーカルデビューしてしまいました(笑)。

櫻井:途中に語りがあるんですけど、あれが味わい深いんですよ。

──まさに百人一首の読み上げ方ですよね。語尾を長く伸ばして。

神保:もっと本格的にやろうと思って、語尾をひっくり返すように歌うことも考えたんですけど、それはちょっとやりすぎだろうと思ってやめました(笑)。

──隅から隅まで、楽しめるアルバムです。これで30周年プロジェクトは、一つの区切りになりますか。

櫻井:次に何かやるとしたらライブですよね。今は状況をうかがっている段階ですけど、とりあえずアルバムが完成して、発表して、ライブのチャンスを探るという感じです。

神保:JIMSAKUとは別なんですけども、僕のワンマンオーケストラのコンサートに向谷実さんと櫻井さんをお招きする企画があるんです。かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホールというところで毎年コンサートをやらせていただいて、かれこれ7年目になるのかな? そこには向谷さんも、櫻井さんもお招きしたことがあって、今年の10月16日には二人一緒にお招きしようということで、「かつしかトリオ」という名前になりまして(笑)。しかも東京だけの予定が、大阪、名古屋、横浜でもやることになって、4本ツアーになったんです。それはアーティスト活動というものとはまたちょっと違って、昔の仲間が同窓会的に集まって楽しくやるのを、みんなで楽しんでもらおうというスタイルなんですけども。

──そのお三方が一緒に笑顔でライブができるというのは、感慨深いものがあります。カシオペアがあり、JIMSAKUがあり、ソロがあり、こうしてまたJIMSAKUが復活して。時代やスタイルが変わっても、変わらないものがそこにはあると思います。

櫻井:デビューしてからずっと、やりたいことをやれているんですね。カシオペアの時には、ワールドツアーができるような世の中の流れに乗っていましたけど、そのあとJIMSAKUをやった時も、JIMSAKUをやめて一人でやっている時も、全部自分がやりたいことをやっているので、世の中がどうなっていても健康で生きていけているので、こういう機会にまたみんなで会えるのはすごくうれしいですね。そしてお客さんが喜んでくれるのが自分の幸せにもなりますし、楽しんでくれる人が多ければ多いほど、幸せの輪が大きくなっていくので、今回のJIMSAKU30周年プロジェクトもそういうものなのかなという気がしています。世の中がどうなっているかは別として、基本はブレていなくて、そうやって過ごしている音楽活動はとても充実していると思います。

取材・文◎宮本英夫

New Album『JIMSAKU BEYOND』

2021年7月28日(水)発売
■初回限定盤【CD+Blu-ray】
¥5,500(税抜価格:¥5,000)/商品番号:KICJ-90847
■通常盤【CD】
¥3,300(税抜価格¥3,000)/商品番号:KICJ-847

収録内容
CD(※初回限定盤/通常盤共通)
全10曲収録
1. INSPIRATION feat. Shiho [作曲:櫻井哲夫] *
2. JIMSAKU BEYOND [作曲:神保彰]
3. TE AMO feat. NORA (from ORQUESTA DE LA LUZ) [作詞:NORA/作曲:神保彰] *
4. THE ROAD OF THE WIND [作曲:櫻井哲夫]
5. FARAWAY [作詞:神保彰/作曲:神保彰] *
6. FUNKY PUNCH [作曲:櫻井哲夫]
7. FIREWATER [作曲:櫻井哲夫]
8. 未知の先へ feat. LEN [作詞:LEN/作曲:神保彰&LEN] *
9. ASIAN ISLAND [作曲:櫻井哲夫]
10. アイノヒカリ feat. 高松あい [作曲:神保彰]
*:ヴォーカル入り

Blu-ray
JIMSAKU IN THE STUDIO on July 24, 2020
1. FUNKY PUNCH
2. FIREWATER
3. JIMSAKU IN THE HOUSE
At the Cutting room
JIMSAKU 30th anniversary Special Interview

アーティスト:
JIMSAKU/神保彰[Ds&Prog]、櫻井哲夫[B&Prog]

フィーチャリング:
Shiho(ex. fried pride)[Vo](M-1)、NORA(from ORQUESTA DE LA LUZ)[Vo](M-3)、
LEN[Vo&P](M-8)、高松あい[Vn](M-10)

ゲスト:
小野塚晃[P&Key](M-1,4,9) 、DEWA BUDJANA[G](M-1,4,9)
鈴木ヨシロー(from ORQUESTA DE LA LUZ)[Perc](M-3)

メーカー特典内容:https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t12618/

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