【インタビュー】DEZERT、『RAINBOW』に滾る7つの衝動「シンプルにいい曲を、もっと遠くへ」

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DEZERTが7月21日、アルバム『RAINBOW』をリリースする。先行公開された「ミザリィレインボウ」や、昨年配信リリースされた「Your Song」を含む7曲入りの同作は、初回限定盤“レイ盤”と通常盤“ンボウ盤”の2形態が用意されており、初回限定盤には3曲のステム音源(各パート単独の音源)が収録されるほか、通常盤は7パターンのカラーフィルムのうち1枚がランダムに封入。さらにジャケットデザインをSacchan(B)が務めるなど話題性も満載だ。しかし、注目はもちろんサウンドとヴィジョンにある。

◆DEZERT 画像 / 動画

新レーベルMAVERICKからリリースされたアルバム『TODAY』(2018年発表)以降も貪欲に変化を求め続け、前へ進んできた。ホールライヴやフェス出演などの実績を重ねつつ、2019年発表の前作『black hole』は音楽的にも大きく幅を広げ、歌にも音にも試行錯誤が表出。そんな『black hole』を引っ提げて、いざライヴに臨もうとした矢先、世界はコロナ禍に突入した。配信ライブなどのいわゆる“コロナ禍ならでは”の活動を行わず、マイペースを貫いた彼らは、一見その歩みを止めていたように見えたかもしれない。しかし、変わり続けるというバンドの意志はまったく衰えていない。それどころか、千秋(Vo)は時勢に左右されることなく、ハッキリと自分の目で次なる行き先を捉えていた。それが“虹”を意味する『RAINBOW』だ。

はるか彼方の空に浮かび上がる光の奇跡。この美しくシンプルなタイトルを冠するとおり、強い意志と主張が込められた7曲には、怒りも、衝動も、希望も、今の彼らが抱いている感情すべてが熱く滾っている。過去最高に生々しいリアルを封じ込めた『RAINBOW』はいかにして作り上げられたのか? すべての作詞作曲を手掛ける千秋と、リーダーのSacchanにじっくり話を訊いた。

   ◆   ◆   ◆

■自由を突き詰めた結果
■自由じゃないものができてた

──前作『black hole』の7daysライヴの途中でコロナ禍が本格化して、それ以降のツアーも中止になってしまったわけですが、この1年のモチベーションとしてはいかがでしたか?

千秋:モチベーションは別にあまり変わってないですね。結局、みんな同じ条件なので。もしかしたら、5〜6年前だったら結構焦ってたかもしれないんですけど。この期間をプラスに捉えるしかないってことで、メンバーも塞ぎ込まず、新たなことにチャレンジしていたと思います。ドラムのSORAは映像関係とかピアノを勉強したり。


▲千秋(Vo)

──結果的に『black hole』のツアーができなかったという点では?

千秋:ああ、それはすごく大きかったです。コロナ禍が始まった頃だったので、ライヴやツアーを中止にするバンドが多い中、僕らは1年以上ギリギリまで引っ張って、結局できなかったんですね。そこはすごく申し訳ないって気持ちでした。無理なものは無理だったんでどうしようもなかったんですけど、信頼関係っていう意味で、どうしようかなって思ってる最中ですね。

──Sacchanはいかがですか?

Sacchan:モチベーションっていう意味では僕も、ガシガシ活動してた時期とそんなに変わらず。それこそ焦る必要もないですし、予定が1年間ズレたなっていう感覚でしかなかったです。ただ、今、千秋くんも言ってた信頼関係っていう部分でいうと、人ってどうしても、たくさんのいいことより、少しの悲観的な部分のほうが印象強かったりするので。でも、結果として中止になっちゃったことに対して、どう信頼関係を回復させていくかっていう感じの方向だから、わりと前向きっちゃ前向きですね。

──それは、SORAさんもMiyako(G)さんも同じでしょうか?

千秋:もう10年もやってると、わざわざ話すこともないですけどね。自然と。他にもやることはあるしって考えだと思います、うちのバンドは。

──コロナ禍で、エンターテイメントが不要不急と言われたり、ライヴが思うようにできなくなって、“なんのためにバンドやってるんだろう?”って悩んでいるアーティストも多いと思うんです。でも、DEZERTはここ数年、“DEZERTとは何か?”っていう部分に向き合いながら活動を続けてきたので、あんまり影響を受けなかったのでしょうか?

千秋:ええ。逆に訊きたいですね。“なんでバンドやってるんだろう?”ってなる人の意図のほうが興味ありますよ。本当にそんな人、いたんですか? 僕的には、そういう人はあんまり好きじゃないっていうか、不要不急って言葉に対しては思うことがありますけど、“今頃気づいたのか?”みたいな感じですよね。バンドって生きるには直結しないもので、役に立つってレベルだと思いますから。たとえば、バンドに命懸けてる人がいたとして、じゃあ解散したら死ぬのかって話で。だから、そういう部分はいいんです。だけど、バンドの状況的にもメンタル的にも調子いい時期だったから、僕とか事務所スタッフのなかに2年先くらいまでのヴィジョンがあったんです。それが全部無くなったっていうのは、かなりダメージが大きかった。でも、まわりのスタッフが僕らのスタンスに理解があったことは、ありがたかったですね、“配信ライヴはやらない”とか。“この期間、どうやって利益を出そう”っていうことに対して、僕らはなんの提案もしなかったし。去年はほぼ働いてないですよ。

──せっかく『black hole』という作品ができて、ライヴで演りたかったっていう想いもあったと思うのですが?

千秋:いや、『black hole』に関しては別にないですね。“ブラックホールに落ちていったな”みたいな(笑)、そういうアルバムだったのかなって思います。このアルバムが好きな人には申し訳ないですけど……。

──え、そうなんですか?

千秋:個人的には気に入ってるけど、今、客観的にみると、こうしなきゃいけないっていう先入観に駆られた作品だなっていう印象。“今までこういう音楽を作ってきたから、こう変わらないと”っていうことを模索してる中で、その着地点を自分で示してる答案用紙みたいな感じなんですよ。“初期にいろいろやってきたことも踏まえた上で、こういうサウンドでいきたいんやけど、みんなどう?”っていう。アレンジも含めて、僕のエゴが出すぎたんです。で、ほぼほぼ僕の頭の中のままで作ったから、いざバンドで音を合わせてみると、僕のイメージと全然違ったんですよね。で、「どうしようか?」って言ってた時にツアーが中止になったんで。だから、あのアルバムのライヴができなくて悔しいというよりも、ライヴをしなかったアルバムってことで、音源のまま聴いてほしいな、みたいな部分もちょっとあるんですよ。


▲Sacchan(B)

──では、『black hole』の続きではなくて、新しいアルバムを作ろうっていうモードに切り替わった感じですか?

千秋:毎回、アルバムというかたちを意識してないので、今回も“7曲入りのやつ”みたいなテンションですね。

──と言いますと?

千秋:これまで“音楽は自由だ”と思って自由を突き詰めた結果、自由じゃないものができてたんですよ。『TODAY』(2018年発表アルバム)も結局、そのはじまりなんですけど、2017年頃から2019年までの2年間くらいは、“俺らに合うのはなんだ?”とか“俺らはどういう方向性でいくんだ?”っていうジレンマだったり、いろんなものが混沌としてる中で作品を作っていたので。それが、今回はもう“シンプルに出てくるものを作ってみよう”と思ったんです。“このリフは昔の曲にありそうやからちょっとテンポ変えよう”って過去のものに引っ張られたり、“ライヴのここでこういう曲を入れたいからこういうテンポの曲を作ってみよう”みたいなことは考えずに、なんとなく感覚でできたものを作ろう、ただシンプルにいい曲を作ろうって。誰かと比べたり、流行りとかも考えずに作った音源です。

──『TODAY』と『black hole』で迷いとかも含めて楽曲になっていたところが削ぎ落とされて、今やりたい曲を作ってまとめて出すみたいなテンションが、まさに伝わってきました。

千秋:ずっと昔から存在してた曲もあったりするので、この作品のために作ったという感じでもないですし。2020年から2021年の“千秋ベスト7ソング”みたいな感じで、フルアルバムにこだわらずにこの7曲みたいな。そうしたら、偶然“虹って7色じゃね?”って。そういうのあんまり好きじゃないけど(笑)、そうなった感じです。

──コロナ禍で時間ができたから曲を作ったというわけでもなかったと?

千秋:全然作ってない(笑)。なんにもしてなかったですから。

Sacchan:それこそ去年の渋谷公会堂ライヴの前に、新曲が1曲あったり。そういう流れの中で、「7曲くらいの盤にしよう」みたいな話になっていった気がしますね。

千秋:結構前から、狂ったようにずっと僕が“RAINBOW”って言ってたんですよ。みんな、「RAINBOWって、どうしたん?」と冗談だと思ってたみたいですけど(笑)。

Sacchan:「RAINBOWっぽいバンド、事務所の先輩にいるけど大丈夫?」って。


▲アルバム『RAINBOW』 初回限定盤 <レイ盤>

──たしかに(笑)。

千秋:なんかわからないんですけど、僕的にはもう完全に“RAINBOW”っだったんですよ。コロナ禍よりも前の『black hole』の制作途中くらいから、ちょっとイヤになってたところがあったんですよね。ブラックホールっていう下向きの感じじゃなくて、もっと上のほうを目指したかった。遠くに向けて作品を作りたくて、歌う時も、マイクじゃなくて、もっと遠くに向けたいという気持ちがあって。遠くっていえば空じゃないですか。でも、空は朝も夜も夕焼けもあるし、もっときれいな表現はないかなって思った時に、「虹やん!」みたいな。それがずっと漠然とあって、タイトルもそうしちゃえば、っていう流れです。

──Sacchan的にも『RAINBOW』っていうタイトルがしっくりと?

Sacchan:いや、まだしっくりきてないです。たぶんずっとしっくりとはこないんじゃないかな。どのアルバムでも、千秋の考えを理解しようという気持ちはあるんですけど、メンバーでは解決できないんですよ。たまにライヴのリハとかで軽く曲について話し合う時に、SORAくんが「“RAINBOW”だからこういうことじゃん」って言ったりするんですけど、華麗に否定されてるんで(笑)、難しいんだなあって。まあ、今の話で一個解決したのが、“RAINBOW”って、“七色”っていう意味合いなのか、それとも“虹”っていう物理的なものの意味合いなのか、どっちなんだろうなってずっと思ってたんですよ。それが今、“空”っていう背景が出てきたので、そっち寄りになりました。

千秋:いやいや、それは全然違うよ。まあ、捉え方は自由ですけど。

Sacchan:……またもとに戻りました(笑)。

◆インタビュー【2】へ
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